74 / 271
第一巻『この幻想が 薔薇色の誇りに なると信じて。』(RoGD Ch.2)
Verse 4-17
しおりを挟む
皇太子の馬車の後に馬を走らせていたバスカヴィルは、演説台が見えると一行とともに馬を止めた。皇帝の前で、レイがランスロットの手をとって降りていく姿を見て、彼は一度目を伏せる。
「閣下。」
ロベルトの声に誘われて、バスカヴィルは馬から降りた。大衆がレイの歩く先にリコリス・オーレアの花を投げ込んでいく。黄金色のその花をまたぎながら、レイは民衆が差し出す手を握っていた。立ち止まってその姿を見ていたバスカヴィルを、ロベルトはただただ遠巻きに、ニコライについて見守っている。観衆はだれもがレイに注視していた。かつての皇太子の見事に育ったその姿を一目見ようと躍起である。
「閣下。」
そろそろ、とロベルトが足を一歩踏み出した時。彼の視界の端にアメジスト色の小さな影がよぎった。ロベルトは硬直する。ゆっくりと影が映ったほうを見れば、もうその軽やかな走りはそこにはなかった。
「死ねぇ! バスカヴィル!!」
元帥の体がくの字に折れて崩れ落ちる。怒声を聞いて、観衆もレイも、皇帝も、その視線を元帥に送っていた。
「ヴィル!」
補佐官が駆け出す前にニコライが駆け出した。思春期近くの女子の、ナイフを持つ腕を掴み上げ、彼はその体を地面に組み敷く。ロベルトは確かに瞠目していた。紫色のフードの中が見えてから、彼はその場から一歩たりとも動いていない。
「早く中将を呼べ! 早く!」
指示を飛ばすと、ガウェインはすぐにバスカヴィルを部下が持ってきた担架に乗せた。大衆の叫び声で我に返ったロベルトは、すぐに駆けてきたレイを止める。
「殿下、ここから先は危険です。」
背後を追ってきたランスロットに声を張り上げるレイを預けて、ロベルトは踵を返した。ニコライはアルフレッドを呼びに行って、既にその場にはいない。
「さっきの女子は?」
「はっ、逮捕しました。」
そうか、とロベルトは呟いた。レッドカーペットの上の血溜まりを見て、彼は瞳を閉じた。
騒乱の下に終わった戴冠式は、夕刊の一面を飾っている。アーサーは、本部内の売店で売っていたその新聞を読みながら、バーで一服していた。
「はい。」
置かれたワイングラスを一瞥して、アーサーは向かいの席を見る。エドワードはまた別の新聞の一面を読んでいた。
「犯人は分家か?」
まぁね、とエドワードは肩を竦める。と言っても、近頃分家について調べまくっていたエドワードの心境は複雑であった。ジェームズに話を聞きに行ったところ、彼女は外来分家ではないらしい。新聞を放り投げながら、ため息をつく。
「なぁ、エド。あのよ。」
歯切れ悪く言葉を紡いだアーサーに視線をやると、アーサーは新聞から瞳だけを出して続けた。
「来週くらいに、ちょっと禁書庫に集まろうぜ。」
そのアーサーの声は至極真面目である。定例会みたいなもんだ、とアーサーは呟く。肘をついていくらか考えた後、エドワードは頷いた。
「いいよ。」
* * *
冷たく暗い禁書室に、いくらかの光が灯った。まるで彼らを歓迎するかのように、真実を明かす事を受け入れるように、禁書室はゆっくりと彼らの手元を照らし出す。アーサーが柏手を打った。
「さて、大事件の後には解決話ってのが付き物だ。」
彼の言葉を聞くのは、私服姿のレイ、ジークフリート、エドワードの三人である。アーサーは各々の顔をじっと見て、そして続けた。
「俺達が今回取り組んだのは……ってもジャンが調べてたのは予想外だったが……バスカヴィルの前世と分家の成立についてだ。」
エドワードが一瞬顔をしかめたのには見向きもせずに、アーサーは自らの目の前にあるファイルや分厚い書物に手のひらを向けた。
「まず最初に、俺らの問題から。つまりバスカヴィルの前世についてだ。あの人はおおよそ十九世紀の人間だという事が予想されてる。これはジークフリートが聞いた優生学って言葉から想像出来る。それで、その予想を確証付けたのがこれだ。」
アーサーは二冊の本を示す。分厚く、酷く古い大判の古書と、革のファイルだ。
「こっちの古書は、ヴァチカンの奇跡調査文書だ。奇跡に認知された事象を、起こった日付、認められた日付、どのような事象か全て主観を交えずに事細かに書いてある。それで、こっちが……バスカヴィルが前世に書いたと思われる、奇跡調査文書の写しだ。」
ファイルを開き、ジークフリートはそれを手元に引き寄せた。
「十九世紀の途中で事象の写しが止まってる。」
向かい側から渡され、レイとエドワードはそのファイルを覗き込む。二人には既に見慣れた、バスカヴィルの筆跡であった。
「個人までは特定してないが、その時代の人間である事は確かだ。」
アーサーとジークフリートの結論とその理由を聞いて、レイとエドワードは思わず目を合わせる。脳裏に蘇ったレイモンドの言葉が、特にそれを直接聞いたレイの頭の中では、バラバラであった推論や想像がかみ合っていくのが分かった。満を持して、レイはゆっくりと話し始める。
「実は、ついこの間俺が分家について調べていた時に、レイモンドが来た。」
じっと見つめる三人の視線を感じながら、レイは唾を飲み込んだ。
「この世の中にある奇跡は、超自然的な事象というのは、決して神から賜った御業によるものだけではなく、人間によって作り出されたものがあるって。そして、そういう人達が、分家の発端であると。」
目配せを受けて、エドワードが話し始める。
「分家の発祥は、現在の最新の歴史学から見ると、中世の人間がこの世界に大量に来た時らしい。ていうか、俺とフィリップはこっちに来るのが遅いからかなりイレギュラーな部類なんだ。……そういう意味では、十九世紀の人であるバスカヴィル元帥が今ここにいるのもおかしくないし、むしろ辻褄が合う。」
レイとエドワードの話が終わると、禁書室に静寂が訪れた。核心的な答えには辿り着けなかったな、とアーサーは肩を竦める。そうしてジークフリートに視線をやると、彼はゆっくりとショルダーバッグの中から一冊の本を取り出した。
「なんだそれ。」
比較的綺麗だが、明らかに使われた形跡のある本にアーサーは目を細める。少々居心地悪そうに本を机の上に置いて、ジークフリートは一度息を吸った。
「正直、今になってこんな物に触れるとは思わなかったが……。」
金の箔押しがされた黒の革表紙には、いかにも秘密結社のような紋章が描かれて居る。
「かつての僕の、オカルトにどっぷり浸かってた上司に寄贈された本だ。」
硬い表紙を開けば、見返しの部分にはジークフリートには馴染み深い名前が書かれていた。本を回されて、レイはその筆跡をじっくりと観察する。しかし、それはどう見てもバスカヴィルのものではない。
「ヒムラーは一九〇〇年に生まれた。だから、会ってる可能性は低いし、一度だれかの手に渡った物が渡されたんだろう。でも——」
一枚ページを捲れば、そこにはその場にいるだれもが見知った名前があった。"Baskerville"と。
* * *
王宮で仕入れた真っ赤なバラの花束を置いて、レイは鎮魂の為にその墓石にじっと視線を注いだ。墓石には、彼が士官学校を卒業した年の数が彫られている。
「レイ。」
少し風の強い日であった。まだ寒気の名残りのある空気を受けて、ジークフリートはレイの手に指を絡めた。ただただ立ち尽くすレイに対して、ジークフリートは続ける。
「もう、母さんは報われたさ。」
諭すような言葉に、レイは暫くして一度頷いた。
* * *
ランスロットとロビンに礼を言って、皇帝への礼の品と手紙を預け、レイとジークフリートはともに王宮を出た。
「よっ。まぁそんな急がなくても時間はあるぜ。」
王宮から暫く歩くと、アーサーが運転席から顔を出して手を挙げている。持っていたトランクを助手席に詰め込んで、二人は後部座席に落ち着いた。
「すまないな。」
「いいってこった。結局何処に行く事にしたんだ?」
皇族であったうちにバスカヴィルに休暇願を叩きつけ、レイとジークフリートは二週間の休暇を取ったのである。
「イタリア地域だ。本当は、前世の時にきちんと観光したかったけどな。」
あの時は亡命で立ち寄っただけだ、とジークフリートは苦笑する。車を帝國の中央駅へ発進させ、アーサーはケラケラと笑った。
「イタリアはいいぜ。ヴェネツィアには立ち寄るのか? ってもまぁ、二週間もありゃどっかで立ち寄るんだろうさ。」
渋滞のない道を、車は流れるように走る。やがて中央駅に着くと、待ちくたびれたようにアルフレッドがベンチから立ち上がる姿が見えた。助手席のトランクを持ち出して、アーサーは二人を伴いアルフレッドの元に行く。
「まぁ、病気とか怪我しないように。しないと思うけど。身体的になんかあったら執務室に電話してね。」
ジークフリートに電話番号を渡して、アルフレッドは疲れたようなため息をついた。
「ま、二週間楽しんでこいよ。あ、土産のワイン頼んだぜ。」
トランクを持ち上げて二人に渡すと、アーサーは間髪入れずにそう言う。
「お前には世話になったからな。何年ものがいい?」
「あー? ……じゃ一七八六で。」
よろしく、と片手を上げるアーサーを傍目に、アルフレッドはレイの肩を叩いた。
「君のお父さんはニッ……コライ元帥と補佐官がどうにかしてくれるから、心配しないで。」
その言葉に、レイはどこか悲しげな笑みを浮かべる。時間を忘れて言葉を交わしていると、やがて汽笛の音が四人を現実の世界へ引き戻した。
「お、そろそろだな。一等車両だろ?」
既にトランクは預けていたようで、アーサーの手に提がっていた二つのトランクは駅員によって運ばれて行っている。二人が急いで汽車に乗り込むと、程なくしてもう一度汽笛が鳴った。やがてスピードを上げ始めた汽車に、アーサーとアルフレッドは手を振る。
「Bon voyage !!」
加速する車輪の音を聞きながら、アーサーとアルフレッドは汽車の姿が遠くに消えていくを見守った。
「閣下。」
ロベルトの声に誘われて、バスカヴィルは馬から降りた。大衆がレイの歩く先にリコリス・オーレアの花を投げ込んでいく。黄金色のその花をまたぎながら、レイは民衆が差し出す手を握っていた。立ち止まってその姿を見ていたバスカヴィルを、ロベルトはただただ遠巻きに、ニコライについて見守っている。観衆はだれもがレイに注視していた。かつての皇太子の見事に育ったその姿を一目見ようと躍起である。
「閣下。」
そろそろ、とロベルトが足を一歩踏み出した時。彼の視界の端にアメジスト色の小さな影がよぎった。ロベルトは硬直する。ゆっくりと影が映ったほうを見れば、もうその軽やかな走りはそこにはなかった。
「死ねぇ! バスカヴィル!!」
元帥の体がくの字に折れて崩れ落ちる。怒声を聞いて、観衆もレイも、皇帝も、その視線を元帥に送っていた。
「ヴィル!」
補佐官が駆け出す前にニコライが駆け出した。思春期近くの女子の、ナイフを持つ腕を掴み上げ、彼はその体を地面に組み敷く。ロベルトは確かに瞠目していた。紫色のフードの中が見えてから、彼はその場から一歩たりとも動いていない。
「早く中将を呼べ! 早く!」
指示を飛ばすと、ガウェインはすぐにバスカヴィルを部下が持ってきた担架に乗せた。大衆の叫び声で我に返ったロベルトは、すぐに駆けてきたレイを止める。
「殿下、ここから先は危険です。」
背後を追ってきたランスロットに声を張り上げるレイを預けて、ロベルトは踵を返した。ニコライはアルフレッドを呼びに行って、既にその場にはいない。
「さっきの女子は?」
「はっ、逮捕しました。」
そうか、とロベルトは呟いた。レッドカーペットの上の血溜まりを見て、彼は瞳を閉じた。
騒乱の下に終わった戴冠式は、夕刊の一面を飾っている。アーサーは、本部内の売店で売っていたその新聞を読みながら、バーで一服していた。
「はい。」
置かれたワイングラスを一瞥して、アーサーは向かいの席を見る。エドワードはまた別の新聞の一面を読んでいた。
「犯人は分家か?」
まぁね、とエドワードは肩を竦める。と言っても、近頃分家について調べまくっていたエドワードの心境は複雑であった。ジェームズに話を聞きに行ったところ、彼女は外来分家ではないらしい。新聞を放り投げながら、ため息をつく。
「なぁ、エド。あのよ。」
歯切れ悪く言葉を紡いだアーサーに視線をやると、アーサーは新聞から瞳だけを出して続けた。
「来週くらいに、ちょっと禁書庫に集まろうぜ。」
そのアーサーの声は至極真面目である。定例会みたいなもんだ、とアーサーは呟く。肘をついていくらか考えた後、エドワードは頷いた。
「いいよ。」
* * *
冷たく暗い禁書室に、いくらかの光が灯った。まるで彼らを歓迎するかのように、真実を明かす事を受け入れるように、禁書室はゆっくりと彼らの手元を照らし出す。アーサーが柏手を打った。
「さて、大事件の後には解決話ってのが付き物だ。」
彼の言葉を聞くのは、私服姿のレイ、ジークフリート、エドワードの三人である。アーサーは各々の顔をじっと見て、そして続けた。
「俺達が今回取り組んだのは……ってもジャンが調べてたのは予想外だったが……バスカヴィルの前世と分家の成立についてだ。」
エドワードが一瞬顔をしかめたのには見向きもせずに、アーサーは自らの目の前にあるファイルや分厚い書物に手のひらを向けた。
「まず最初に、俺らの問題から。つまりバスカヴィルの前世についてだ。あの人はおおよそ十九世紀の人間だという事が予想されてる。これはジークフリートが聞いた優生学って言葉から想像出来る。それで、その予想を確証付けたのがこれだ。」
アーサーは二冊の本を示す。分厚く、酷く古い大判の古書と、革のファイルだ。
「こっちの古書は、ヴァチカンの奇跡調査文書だ。奇跡に認知された事象を、起こった日付、認められた日付、どのような事象か全て主観を交えずに事細かに書いてある。それで、こっちが……バスカヴィルが前世に書いたと思われる、奇跡調査文書の写しだ。」
ファイルを開き、ジークフリートはそれを手元に引き寄せた。
「十九世紀の途中で事象の写しが止まってる。」
向かい側から渡され、レイとエドワードはそのファイルを覗き込む。二人には既に見慣れた、バスカヴィルの筆跡であった。
「個人までは特定してないが、その時代の人間である事は確かだ。」
アーサーとジークフリートの結論とその理由を聞いて、レイとエドワードは思わず目を合わせる。脳裏に蘇ったレイモンドの言葉が、特にそれを直接聞いたレイの頭の中では、バラバラであった推論や想像がかみ合っていくのが分かった。満を持して、レイはゆっくりと話し始める。
「実は、ついこの間俺が分家について調べていた時に、レイモンドが来た。」
じっと見つめる三人の視線を感じながら、レイは唾を飲み込んだ。
「この世の中にある奇跡は、超自然的な事象というのは、決して神から賜った御業によるものだけではなく、人間によって作り出されたものがあるって。そして、そういう人達が、分家の発端であると。」
目配せを受けて、エドワードが話し始める。
「分家の発祥は、現在の最新の歴史学から見ると、中世の人間がこの世界に大量に来た時らしい。ていうか、俺とフィリップはこっちに来るのが遅いからかなりイレギュラーな部類なんだ。……そういう意味では、十九世紀の人であるバスカヴィル元帥が今ここにいるのもおかしくないし、むしろ辻褄が合う。」
レイとエドワードの話が終わると、禁書室に静寂が訪れた。核心的な答えには辿り着けなかったな、とアーサーは肩を竦める。そうしてジークフリートに視線をやると、彼はゆっくりとショルダーバッグの中から一冊の本を取り出した。
「なんだそれ。」
比較的綺麗だが、明らかに使われた形跡のある本にアーサーは目を細める。少々居心地悪そうに本を机の上に置いて、ジークフリートは一度息を吸った。
「正直、今になってこんな物に触れるとは思わなかったが……。」
金の箔押しがされた黒の革表紙には、いかにも秘密結社のような紋章が描かれて居る。
「かつての僕の、オカルトにどっぷり浸かってた上司に寄贈された本だ。」
硬い表紙を開けば、見返しの部分にはジークフリートには馴染み深い名前が書かれていた。本を回されて、レイはその筆跡をじっくりと観察する。しかし、それはどう見てもバスカヴィルのものではない。
「ヒムラーは一九〇〇年に生まれた。だから、会ってる可能性は低いし、一度だれかの手に渡った物が渡されたんだろう。でも——」
一枚ページを捲れば、そこにはその場にいるだれもが見知った名前があった。"Baskerville"と。
* * *
王宮で仕入れた真っ赤なバラの花束を置いて、レイは鎮魂の為にその墓石にじっと視線を注いだ。墓石には、彼が士官学校を卒業した年の数が彫られている。
「レイ。」
少し風の強い日であった。まだ寒気の名残りのある空気を受けて、ジークフリートはレイの手に指を絡めた。ただただ立ち尽くすレイに対して、ジークフリートは続ける。
「もう、母さんは報われたさ。」
諭すような言葉に、レイは暫くして一度頷いた。
* * *
ランスロットとロビンに礼を言って、皇帝への礼の品と手紙を預け、レイとジークフリートはともに王宮を出た。
「よっ。まぁそんな急がなくても時間はあるぜ。」
王宮から暫く歩くと、アーサーが運転席から顔を出して手を挙げている。持っていたトランクを助手席に詰め込んで、二人は後部座席に落ち着いた。
「すまないな。」
「いいってこった。結局何処に行く事にしたんだ?」
皇族であったうちにバスカヴィルに休暇願を叩きつけ、レイとジークフリートは二週間の休暇を取ったのである。
「イタリア地域だ。本当は、前世の時にきちんと観光したかったけどな。」
あの時は亡命で立ち寄っただけだ、とジークフリートは苦笑する。車を帝國の中央駅へ発進させ、アーサーはケラケラと笑った。
「イタリアはいいぜ。ヴェネツィアには立ち寄るのか? ってもまぁ、二週間もありゃどっかで立ち寄るんだろうさ。」
渋滞のない道を、車は流れるように走る。やがて中央駅に着くと、待ちくたびれたようにアルフレッドがベンチから立ち上がる姿が見えた。助手席のトランクを持ち出して、アーサーは二人を伴いアルフレッドの元に行く。
「まぁ、病気とか怪我しないように。しないと思うけど。身体的になんかあったら執務室に電話してね。」
ジークフリートに電話番号を渡して、アルフレッドは疲れたようなため息をついた。
「ま、二週間楽しんでこいよ。あ、土産のワイン頼んだぜ。」
トランクを持ち上げて二人に渡すと、アーサーは間髪入れずにそう言う。
「お前には世話になったからな。何年ものがいい?」
「あー? ……じゃ一七八六で。」
よろしく、と片手を上げるアーサーを傍目に、アルフレッドはレイの肩を叩いた。
「君のお父さんはニッ……コライ元帥と補佐官がどうにかしてくれるから、心配しないで。」
その言葉に、レイはどこか悲しげな笑みを浮かべる。時間を忘れて言葉を交わしていると、やがて汽笛の音が四人を現実の世界へ引き戻した。
「お、そろそろだな。一等車両だろ?」
既にトランクは預けていたようで、アーサーの手に提がっていた二つのトランクは駅員によって運ばれて行っている。二人が急いで汽車に乗り込むと、程なくしてもう一度汽笛が鳴った。やがてスピードを上げ始めた汽車に、アーサーとアルフレッドは手を振る。
「Bon voyage !!」
加速する車輪の音を聞きながら、アーサーとアルフレッドは汽車の姿が遠くに消えていくを見守った。
0
あなたにおすすめの小説
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります
はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。
「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」
そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。
これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕!
毎日二話更新できるよう頑張ります!
『召喚ニートの異世界草原記』
KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。
ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。
剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。
――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。
面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。
そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。
「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。
昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。
……だから、今度は俺が――。
現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。
少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。
引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。
※こんな物も召喚して欲しいなって
言うのがあればリクエストして下さい。
出せるか分かりませんがやってみます。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる