国を建て直す前に自分を建て直したいんだが! ~何かが足りない異世界転生~

猫村慎之介

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第一部 一章

第九話 威力がおかしい

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「んにゃあ!」
 
 その瞬間、地面に倒れていたミーミルが、がばっと体を起こした。
 アヤメは上がりかけた舞台から転げ落ちる。

「はー。びっくりした」

 ミーミルはそう言って耳の裏を掻きながら立ち上がる。
 兵士達がミーミルの様子を見て、完全に硬直する。
 兵士だけでなく、アベル隊長も、文官も、目の前で起きた事実を受け入れられずに、等しく硬直していた。

 誰がどう見ても致命傷のはずであった。

 アベル隊長が使った光王刃は、剣に光の魔力を乗せ、触れたものに光の魔力を炸裂させる強力な自己強化魔法だ。
 耐久度の低い金属製の鎧程度なら、簡単に吹き飛ばして中の人間にダメージを与えられる。
 直撃を生身の人間が受ければ、ただでは済まない。

「そっか、斬られるとあんな感じになるんだ」

 ミーミルはそう言って地面に転がっていた木剣を拾う。

「ミー……みーたところ剣帝は無事っぽいかな!?」

 立ち上がったミーミルに、アヤメが声をかける。
 ミーミルは狼狽しているアヤメに笑顔で、
「ちょっと痛かったなぁ」と返した。

 その言葉を聞いた文官は顔を引きつらせる。
 少なくとも笑顔でちょっと痛かった、で済むような攻撃ではない。
 光王刃を抜きにしても、石をも切り裂くレフナイト製の剣で斬られたのだ。
 アベル隊長の技量ならば、人ならば簡単に両断できるであろう。

「け、剣帝様? 無事なのですか」

 斬られた現場を見ていなかったオルデミアが、最も早く硬直から脱していた。

「無事よ?」
「それならば……良かったのですが」
「うん。ちょっと目が覚めたかもねぇ」

 ミーミルはぺろり、と舌なめずりすると木剣を構えなおした。

「じゃあちょっと試してみますか」

 ミーミルはアベル隊長を見据えると『リ・バース』のスキルを発動させた。
 アヤメが出来るなら自分も出来るはずだ。

 ミーミルの職業はドゥームスレイヤーと言う。
 流浪のソードマンが、王や民を護るナイトに転職したものの、魔の力により道を踏み外し、誰かを護るための盾を捨てた、堕ちた騎士。
 魔の力を体に宿し、人という枠を超越した魔人。
 ひとたび戦場に立てば悪夢をもたらす恐怖の存在――という設定だ。

 そうしてミーミルは木剣を担ぐように構えると、体に力をこめた。
 木剣が濃い紫色の紫電をまとう。
 と同時に、ギリギリと空気が軋むような異音がし始めた。
 突如、暴風が吹き荒れ始める。
 その闘技場限定で巻き起こった風は、ミーミルから吹いていた。
 そのモーションとエフェクトには見覚えがあった。

 魔人閃空断まじんせんくうだん
 膨大な魔力を圧縮、扇状の範囲に黒の衝撃を放ち、範囲内全ての敵にダメージを与える。
 消費MP129。
 威力2876。
 射程700。
 
 そう。
『射程700』だ。
 
「ミッ……マグッ……馬鹿!?」

 アヤメの歌が射程1000。
 その効果範囲は、この広大な城の全域をカバーする程だった。
 じゃあ射程700の効果範囲は?
 そして威力2876がこの世界でどれくらいの威力を持つのか?

 それは分からない。
 分からないが――。
 
「ウワアアアアア!!」
「ヒィイイイイイ!」

 あちこちで悲鳴が上がる。
 闘技場の近くにい兵士達が、吹き荒れる暴風でしりもちをついたり、地面に倒れた。

 観客だった兵士より近くにいた、例の文官は真っ先に地面を転がっていったらしく、どこにも姿が見えない。
 もう少し状況が悪くなければ『ざまぁ』くらい思えたかもしれないが、残念ながらそれどころではなかった。

 アベル隊長は強化魔法のおかげか、誰より最も近くにいるはずなのに、飛ばされないように耐えている。
 だが飛ばされていないだけで、膝をつき、まともに動けるような状態ではなかった。
 
 しかしまだスキルは発動すらしていない。
 準備段階でこれだ。
 発動したらどうなるのか。


 間違いなく『ちょっと痛い』では済まない。


 アヤメは足元に転がっていた盾を拾う。
 そして同時に唄を発動させた。

「yuu kyuu towa muni ima ami ima hirogariiiiiii!!」

 アヤメを中心に、金色の光が迸る。
 その光は周囲の人々の体に金色の膜を生成した。
 ほぼ、それと同時にミーミルのスキルが発動する。

魔人閃空断まじんせんくうだん

 黒い何かがミーミルの木剣から発射される。
 発射された瞬間に、木剣は衝撃に耐えきれず粉々に粉砕された。

 だが黒い奔流は止まらない。
 闘技場の床を飲み込み、射程内のすべての人間を残らず飲み込み、さらには城壁までも飲み込む。

 音は後から来た。

 爆音と共に、地面が抉れ、広場にあったあらゆるものが吹き飛ばされる。
 近くにあった木人はバラバラに砕かれ、矢を受けていた盾は残らず宙に舞う。
 人の悲鳴すらかき消された。
 土煙で視界はゼロ。
 上空に巻き上げられた瓦礫が、地面にバラバラと落下する。
 一抱えもありそうな石が地面にぶつかり、真っ二つに割れた。

「……」

 スキルを放ったミーミルは、完全に硬直していた。


 威力がおかしい。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


魔人閃空断まじんせんくうだん

スキル分類 魔人刀スキル
消費MP 129
効果範囲 700
威力 2876
クールタイム 16
効果 膨大な魔力を圧縮、扇状の範囲に黒の衝撃を放ち、範囲内全ての敵にダメージを与える。
備考 黒い波動が扇状に広がる

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