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第一部 三章
第二十八話 心臓を貫く言葉
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「こいつどうしてくれよう」
「う……うむ。そうだな……」
「もういい。先に話進めちゃおう」
ミーミルは放置する事にした。
「そ、そうだな……注意すべき武力を持つ貴族はシグルドとイゾルデだ。特に西部のシグルドはアルコン王国との睨み合いが続いているせいで、軍備をかなり強化している。工作を専門とする特殊部隊も編制されているらしい。イゾルデは最も経済力のある貴族だ。ティター山脈から採掘できる豊富な鉱山資源を地力とした経済力は目を見張るものがある。王位継承の争いにも相当に金をばら撒いていたはずだ」
「マキシウスとノアトピアは?」
「マキシウスの南部は農業が盛んだが、蛮族の地がある為に上手く農地を開発できないようだな。森を開拓したいが、できないらしい。ノアトピアの東部は、今が最も苦境に立たされている。青の皇国ミネラポリスと交易で栄えていたが、そこに裏切られ戦争中だ。かなり厳しい状況だろう」
「なるほどねぇ」
西部と北部は余裕があって、東部と南部は自領の問題で手いっぱい、という感じなのだろう。
そう考えると危険度が最も高いのはシグルドとイゾルデなのかもしれない。
「シグルドとイゾルデさえ何とかすれば、他を何とかするのも簡単だったりする?」
「そう簡単ならば良いのだが」
「どういう事?」
「余裕がないからこそ、必死になる事もある。劣勢を巻き返す為に、どんな手でも使ってくる可能性がある、という事だ。マキシウスとノアトピアも、それをするだけの権力は十分に維持している」
オルデミアの言葉にアヤメは唸る。
追い詰められているからこそ、より危険な存在になり得る。
結局はオルデミアの言う通り全員ヤバイという答えだ。
「どうしたらいいのかな……」
アヤメはため息をつくと、天井を仰いだ。
本当にこの国がヤバすぎて、ため息しか出ない。
どうせ異世界に飛ばされるなら、もう少しマシな異世界に飛ばされたかった。
オルデミアも深いため息をついて頭を抱える。
本来ならば一致団結して、国の危機に立ち向かわねばならない状況だというのに。
「どうすればいいかは簡単だぞ」
寝ていたはずのミーミルが、いきなり口を挟んで来た。
「どうすればいいの?」
「二つに一つだ」
そう言ってミーミルは人差し指と中指を立てる。
「皆殺しか。仲間にするか」
そう言って、ミーミルは指を順番に折った。
「極端すぎるよ」
「そうか? 歴史の授業でもそうだったろ。相手を完膚なきまでに叩きのめすか、仲直りするかで戦いは終わるんだ」
ミーミルの言葉にアヤメは何も言い返せなかった。
まだしっかりと検証してはいないが、恐らくミーミルとアヤメの能力は常軌を逸している。
ミーミルの攻撃スキルも、ちゃんとした装備で放てば更なる威力を発揮するだろう。
アヤメの歌も、まだ本領を発揮していない。
ミーミルの言うような強硬手段も可能なのだろう。
「皆殺しは――無し」
だが、それだけは言えた。
この世界の人々はゲームのNPCではない。
ちゃんと日々を生きているのだから。
自分の作った料理を『おいしい』と言われた事で、アヤメはその事をより実感していた。
「じゃあ仲間にするしかないかねぇ」
「貴族を味方につけるのか」
「皆殺しが無しなら、それだな」
「どうやって味方につける」
「分からん」
「皆殺しは無し!」
「分かったって! 無しな!」
「とりあえず味方につけるつもりなら――追い込まれている者からの方がいい。立場が弱いほどつけ込みやすい。まず弱いものから倒すのは、戦いの基本だ」
だとすればノアトピアか、マキシウスの二択となる。
アヤメは昨日の会食を思い返す。
ノアトピアはアヤメに色々と優しく気を使ってくれた。
四人の中では一番、与しやすいような気がする。
「ノアトピアさんが一番じゃない? 他国に攻められてるし、収入源もなくなってるし、四貴族の中で一番、優しそう――」
「いやー、あの人は後にしよう」
アヤメが提案したが、ミーミルが却下する。
「何で?」
「やばい気配がする。かなり、やばい感じだ」
ミーミルは会食の時に聞こえた、ノアトピアの呟きを思い出しながら言った。
彼女に絡むと、かなりややこしい事になる。
そんな確信にも似た予感がしていた。
「マキシウスを仲間につけるのはいいが、慎重にしなければ。さっきも言ったように貴族同士の仲は良くない。敵対している貴族にバレれば、確実に妨害工作を受けるだろう」
「仲良くするにしてもこっそりと、かぁ……うう、そういうの苦手だなぁ」
アヤメは嫌そうな顔をしながら頭を掻いた。
「だがアヤメにしか出来ない事だ」
そう言ってオルデミアはアヤメを正面から見詰める。
「わたしだけ?」
「マキシウスは亜人種に煮え湯を飲まされているからな。表には出していなかっただろうが、亜人種であるミーミルに対しての嫌悪感は相当なものだろう。ミーミルが交渉にいけば確実に悪い方向にしか行かない」
「ええ……そういう交渉はミーミルの方が得意そうなのに」
「得意じゃないぞ。社会人だからって交渉が上手くなったりしない。むしろ職場の雰囲気が悪いせいで、無駄に喧嘩腰になってしまうのだ。いつの間にか語尾に『カス』とか『ボケ』をつける癖がつくぞ」
「……やはりアヤメに任せた方が良さそうだな」
「むぐぅー」
アヤメは唸るとソファーに、ころんっと転がった。
「大丈夫だ。私も出来る限りフォローする」
「おねがいしますー」
アヤメは倒れたままオルデミアに向かって手を合わせた。
「じゃあ俺の出番はしばらく無しだな」
そう言うとミーミルは急に立ち上がる。
「ちょっと昼飯まで出かけてくる」
「えっ! どこ行くつもり?」
「……壁の壊れ具合が気になって仕方ないんだ」
ミーミルは不安げな表情で呟くように言った。
「まだ気にしてたの……行っても直らないし、仕方ないでしょ」
「何か出来るかもしれないだろ! 瓦礫を運んだりとか!」
「ミーミルは亜人種だから、あまりウロウロしない方がいいんじゃない?」
「世の中にはいい亜人種もいるんだよ! 俺がそれを証明する!」
「その自覚は壁を壊す前に欲しかったな」
オルデミアの言葉がミーミルの心臓を貫いた。
「う……うむ。そうだな……」
「もういい。先に話進めちゃおう」
ミーミルは放置する事にした。
「そ、そうだな……注意すべき武力を持つ貴族はシグルドとイゾルデだ。特に西部のシグルドはアルコン王国との睨み合いが続いているせいで、軍備をかなり強化している。工作を専門とする特殊部隊も編制されているらしい。イゾルデは最も経済力のある貴族だ。ティター山脈から採掘できる豊富な鉱山資源を地力とした経済力は目を見張るものがある。王位継承の争いにも相当に金をばら撒いていたはずだ」
「マキシウスとノアトピアは?」
「マキシウスの南部は農業が盛んだが、蛮族の地がある為に上手く農地を開発できないようだな。森を開拓したいが、できないらしい。ノアトピアの東部は、今が最も苦境に立たされている。青の皇国ミネラポリスと交易で栄えていたが、そこに裏切られ戦争中だ。かなり厳しい状況だろう」
「なるほどねぇ」
西部と北部は余裕があって、東部と南部は自領の問題で手いっぱい、という感じなのだろう。
そう考えると危険度が最も高いのはシグルドとイゾルデなのかもしれない。
「シグルドとイゾルデさえ何とかすれば、他を何とかするのも簡単だったりする?」
「そう簡単ならば良いのだが」
「どういう事?」
「余裕がないからこそ、必死になる事もある。劣勢を巻き返す為に、どんな手でも使ってくる可能性がある、という事だ。マキシウスとノアトピアも、それをするだけの権力は十分に維持している」
オルデミアの言葉にアヤメは唸る。
追い詰められているからこそ、より危険な存在になり得る。
結局はオルデミアの言う通り全員ヤバイという答えだ。
「どうしたらいいのかな……」
アヤメはため息をつくと、天井を仰いだ。
本当にこの国がヤバすぎて、ため息しか出ない。
どうせ異世界に飛ばされるなら、もう少しマシな異世界に飛ばされたかった。
オルデミアも深いため息をついて頭を抱える。
本来ならば一致団結して、国の危機に立ち向かわねばならない状況だというのに。
「どうすればいいかは簡単だぞ」
寝ていたはずのミーミルが、いきなり口を挟んで来た。
「どうすればいいの?」
「二つに一つだ」
そう言ってミーミルは人差し指と中指を立てる。
「皆殺しか。仲間にするか」
そう言って、ミーミルは指を順番に折った。
「極端すぎるよ」
「そうか? 歴史の授業でもそうだったろ。相手を完膚なきまでに叩きのめすか、仲直りするかで戦いは終わるんだ」
ミーミルの言葉にアヤメは何も言い返せなかった。
まだしっかりと検証してはいないが、恐らくミーミルとアヤメの能力は常軌を逸している。
ミーミルの攻撃スキルも、ちゃんとした装備で放てば更なる威力を発揮するだろう。
アヤメの歌も、まだ本領を発揮していない。
ミーミルの言うような強硬手段も可能なのだろう。
「皆殺しは――無し」
だが、それだけは言えた。
この世界の人々はゲームのNPCではない。
ちゃんと日々を生きているのだから。
自分の作った料理を『おいしい』と言われた事で、アヤメはその事をより実感していた。
「じゃあ仲間にするしかないかねぇ」
「貴族を味方につけるのか」
「皆殺しが無しなら、それだな」
「どうやって味方につける」
「分からん」
「皆殺しは無し!」
「分かったって! 無しな!」
「とりあえず味方につけるつもりなら――追い込まれている者からの方がいい。立場が弱いほどつけ込みやすい。まず弱いものから倒すのは、戦いの基本だ」
だとすればノアトピアか、マキシウスの二択となる。
アヤメは昨日の会食を思い返す。
ノアトピアはアヤメに色々と優しく気を使ってくれた。
四人の中では一番、与しやすいような気がする。
「ノアトピアさんが一番じゃない? 他国に攻められてるし、収入源もなくなってるし、四貴族の中で一番、優しそう――」
「いやー、あの人は後にしよう」
アヤメが提案したが、ミーミルが却下する。
「何で?」
「やばい気配がする。かなり、やばい感じだ」
ミーミルは会食の時に聞こえた、ノアトピアの呟きを思い出しながら言った。
彼女に絡むと、かなりややこしい事になる。
そんな確信にも似た予感がしていた。
「マキシウスを仲間につけるのはいいが、慎重にしなければ。さっきも言ったように貴族同士の仲は良くない。敵対している貴族にバレれば、確実に妨害工作を受けるだろう」
「仲良くするにしてもこっそりと、かぁ……うう、そういうの苦手だなぁ」
アヤメは嫌そうな顔をしながら頭を掻いた。
「だがアヤメにしか出来ない事だ」
そう言ってオルデミアはアヤメを正面から見詰める。
「わたしだけ?」
「マキシウスは亜人種に煮え湯を飲まされているからな。表には出していなかっただろうが、亜人種であるミーミルに対しての嫌悪感は相当なものだろう。ミーミルが交渉にいけば確実に悪い方向にしか行かない」
「ええ……そういう交渉はミーミルの方が得意そうなのに」
「得意じゃないぞ。社会人だからって交渉が上手くなったりしない。むしろ職場の雰囲気が悪いせいで、無駄に喧嘩腰になってしまうのだ。いつの間にか語尾に『カス』とか『ボケ』をつける癖がつくぞ」
「……やはりアヤメに任せた方が良さそうだな」
「むぐぅー」
アヤメは唸るとソファーに、ころんっと転がった。
「大丈夫だ。私も出来る限りフォローする」
「おねがいしますー」
アヤメは倒れたままオルデミアに向かって手を合わせた。
「じゃあ俺の出番はしばらく無しだな」
そう言うとミーミルは急に立ち上がる。
「ちょっと昼飯まで出かけてくる」
「えっ! どこ行くつもり?」
「……壁の壊れ具合が気になって仕方ないんだ」
ミーミルは不安げな表情で呟くように言った。
「まだ気にしてたの……行っても直らないし、仕方ないでしょ」
「何か出来るかもしれないだろ! 瓦礫を運んだりとか!」
「ミーミルは亜人種だから、あまりウロウロしない方がいいんじゃない?」
「世の中にはいい亜人種もいるんだよ! 俺がそれを証明する!」
「その自覚は壁を壊す前に欲しかったな」
オルデミアの言葉がミーミルの心臓を貫いた。
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