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第一部 三章
第三十話 追い込まれる猫
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「これってもう少し小さくした方がいい?」
「そ、そうですね。一六等分くらいすれば、後は人力で運べるはずですので」
「ふーむ」
この岩を一六等分した所で、とても人間に持てる大きさとは思えない。
何か魔法のようなもので動かすのだろう。
ミーミルは適当に納得すると、さらにクロスブレードを放つ。
不思議な事に、ゲームで単体にしか発動しないスキルは、本当に単体にしか発動しないようだった。
試しに二つの石塊を巻き込むようにクロスブレードを放ってみたが、一つの石塊しか割れない。
範囲スキルでこそ、周囲を巻き込めるようになるようだ。
それなら昨日の闘技場で使う技は魔人絶掌にすべきだった。
そうすれば影響はアベルだけになっていただろう。
魔人絶掌は射程10・消費MP72・威力4955の単体スキルだ。
これも魔人刀無しで使えるスキルで、魔人刀が買えない転職したての貧乏ドゥームスレイヤー御用達のスキルである。
ただ魔人絶掌は単体スキルの為、威力が高い。
もしかするとアベルを殺してしまうかも……と思って威力低めの範囲スキルを撃ったのが失敗だった。
威力最弱で魔人刀不要の魔人刀スキルですらこの有様である。
とにかく魔人刀スキルは迂闊に撃たないようにしないと、とミーミルは深く心に刻む。
「クロスブレード。クロスブレード」
ミーミルは合計四発クロスブレードを放ち、岩を十六分割した。
面白いように石が切断できる。
元の世界でも、これくらい簡単に石が切断できたなら、自分の会社が入るビルも簡単に真っ二つにできたのになぁ、と残念に思った。
「素晴らしいですね……岩をまるでジェリーのように簡単に斬り裂いてしまえるとは」
アベルはまるで魔法のような剣技に立ち竦むのみであった。
ミーミルは立ち竦むアベルを尻目に、十六分割した石の一つを掴む。
「よっ」
大して力を籠める事無く、石が持ち上がった。
見た目より遥かに軽い。
軽石で出来ているのか、それとも自分の筋力が大幅に増強されているのか。
いや、城壁に使っている石が軽石で出来ているはずがない。
やはりこの世界に来た事で、基本身体能力が大幅に強化されているのだ。
「この石も運んだ方がいい?」
「いえ! 大丈夫です! そこまでして頂かなくても!」
「そうか……」
気分的に少し楽になったミーミルは石を置くと、立ち上がる。
「他にどこか視察されますか?」
「うーん……城がどうなってるかよく分からないから、どこかと言われても」
「え? この城は剣皇様と閃皇様が――」
「時間が経って色々変わってるみたいだから、よく分からなくてね!」
「なるほど。確かに剣皇様が存命だった頃から、かなり経っていますしね……分かりました。順番に案内させて頂きます」
「うむ。よろしく頼む」
そう言うとミーミルはアベルの後に続くのだった。
「ここは屋内の練習場です。外が雨の場合、ここで練習をします」
「ほぉー!」
ミーミルは練習場を見下ろしながら感嘆の声を上げた。
数百人以上の兵士達が、練習場で斬り結んでいる。
高校の武道場で剣道部が活動しているのを見た事はあるが、人数は数十人ほどだ。
その十倍以上の人間が叫びながら木刀で斬り合っている姿は壮観であった。
「大人数で戦いますので、観戦しやすいように段差をつけております」
練習場は剣道場のように畳が敷かれている訳ではなく、すり鉢状になっていた。
剣道場よりスケートリンクっぽい形だ。
もちろんリンクには氷ではなく土が敷かれている。
「外にもいっぱい兵士がいたけど、中にも一杯いるんだ」
「外で撤去作業をしている兵士は基本的に新兵が多いですね。中で訓練をしているのはある程度のベテランです」
確かに素人のミーミルから見ても、動きが機敏で滑らかだ。
剣の振りに無駄が少ない。
「もう少し近くで見ますか?」
「ちょっと近くで見てみたい」
激しくぶつかる剣の動きや、雄々しい叫び声を聞いていると、何だか体が熱くなってくる気がした。
テレビで格闘技の試合を見ていた感じに近い。
ルールは分からなくても、人と人とのぶつかり合いは体を熱くさせるものだ。
ミーミルとアベルは段差を降りていく。
すると一部の兵士がミーミルの存在に気付き始めた。
同時に練習を中断する兵士も現れ始める。
「おっ……あっ……近づくのマズかった?」
「皇帝の視察である! こちらには気にせず、いつも通り訓練を続けるように!」
アベルが叫ぶと、手を止めていた兵士達は訓練に戻っていく。
それでも視線はチラチラとミーミルの方を盗み見ていたが。
「これで大丈夫です」
「そ、そっか」
ミーミルは一つため息をつくと、練習場を改めて見渡す。
「そういえば女性がいないね」
「女性は別の場所で練習しております。男性と混合ですと、怪我の元になりますので」
「こういう本格的な修練だとやっぱ混合でやるのは難しいか……。そういえば女性はやっぱり身体能力は低いけど魔力が高いとかある?」
リ・バースでは男性と女性でパラメーターに差があった。
男性の方が身体能力は高めだが、魔法能力は低めである。
女性は身体能力は低めだが、魔法能力が男性より高めだった。
そう大きな数値では無かったが、確かに差はある。
ただリ・バースでは戦士職でも魔法能力が必要な職もあったので、戦士職は男性でないと意味がない、という程でもない。
ほぼ個人の好みや趣味レベルの差である。
「そうですね。個人差はありますが、平均で見ればやはり女性の方が精霊との繋がりは強いようです」
「おー、精霊ってのはやっぱいるんだ。どんなの?」
「……ええ!?」
声を上げたアベルが目を見開く。
あっ、この反応はいかん。
とミーミルは思った、が遅かった。
「け……剣皇様。精霊がどんなのとは、一体どういう意味なのですか?」
「あ、えーと。うん……なんていうか……」
恐らく特大級の地雷だ。
この世界では精霊というのは、知っていて当たり前レベルなのだ。
それを知らないのは、かなりヤバい。
「まさか精霊の事を知らない――訳ではありませんよね」
「……」
ミーミルはアベルから目をそらし俯く。
背中に冷たい汗が、ぶわっと噴き出すのを感じた。
何か打開策を考えなければ。
突然の即死トラップにミーミルは頭をフル回転させる。
だが何も思いつかない。
驚くほど何も思いつかない。
身体能力をあんなに強化してくれているのだから、思考能力も一緒に強化してくれれば良かったのに。
悲しくなるくらいに思考能力だけは転生前と同じであった。
「知らないのですか?」
「ええと、知らないというか、分からないというか」
ミーミルは俯いたまま小声で答える。
「どういう事でしょうか?」
アベルが聞いてくる。
誤魔化せるような状況ではない。
「……分からない。実はさっぱり分からないんだ」
ミーミルは素直に答えた。
素直というか、ほぼ思考放棄である。
どうにでもなれという気分であった。
「剣皇様、もしかして――」
「はい……」
「記憶喪失なのですか?」
「はい……は!?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『魔人絶掌』
スキル分類 魔人刀スキル
消費MP 72
効果範囲 10
威力 4955
クールタイム 10
効果 黒いオーラを手に纏って殴り、単体の敵にダメージを与える。
備考 スキルコンボ可能
「そ、そうですね。一六等分くらいすれば、後は人力で運べるはずですので」
「ふーむ」
この岩を一六等分した所で、とても人間に持てる大きさとは思えない。
何か魔法のようなもので動かすのだろう。
ミーミルは適当に納得すると、さらにクロスブレードを放つ。
不思議な事に、ゲームで単体にしか発動しないスキルは、本当に単体にしか発動しないようだった。
試しに二つの石塊を巻き込むようにクロスブレードを放ってみたが、一つの石塊しか割れない。
範囲スキルでこそ、周囲を巻き込めるようになるようだ。
それなら昨日の闘技場で使う技は魔人絶掌にすべきだった。
そうすれば影響はアベルだけになっていただろう。
魔人絶掌は射程10・消費MP72・威力4955の単体スキルだ。
これも魔人刀無しで使えるスキルで、魔人刀が買えない転職したての貧乏ドゥームスレイヤー御用達のスキルである。
ただ魔人絶掌は単体スキルの為、威力が高い。
もしかするとアベルを殺してしまうかも……と思って威力低めの範囲スキルを撃ったのが失敗だった。
威力最弱で魔人刀不要の魔人刀スキルですらこの有様である。
とにかく魔人刀スキルは迂闊に撃たないようにしないと、とミーミルは深く心に刻む。
「クロスブレード。クロスブレード」
ミーミルは合計四発クロスブレードを放ち、岩を十六分割した。
面白いように石が切断できる。
元の世界でも、これくらい簡単に石が切断できたなら、自分の会社が入るビルも簡単に真っ二つにできたのになぁ、と残念に思った。
「素晴らしいですね……岩をまるでジェリーのように簡単に斬り裂いてしまえるとは」
アベルはまるで魔法のような剣技に立ち竦むのみであった。
ミーミルは立ち竦むアベルを尻目に、十六分割した石の一つを掴む。
「よっ」
大して力を籠める事無く、石が持ち上がった。
見た目より遥かに軽い。
軽石で出来ているのか、それとも自分の筋力が大幅に増強されているのか。
いや、城壁に使っている石が軽石で出来ているはずがない。
やはりこの世界に来た事で、基本身体能力が大幅に強化されているのだ。
「この石も運んだ方がいい?」
「いえ! 大丈夫です! そこまでして頂かなくても!」
「そうか……」
気分的に少し楽になったミーミルは石を置くと、立ち上がる。
「他にどこか視察されますか?」
「うーん……城がどうなってるかよく分からないから、どこかと言われても」
「え? この城は剣皇様と閃皇様が――」
「時間が経って色々変わってるみたいだから、よく分からなくてね!」
「なるほど。確かに剣皇様が存命だった頃から、かなり経っていますしね……分かりました。順番に案内させて頂きます」
「うむ。よろしく頼む」
そう言うとミーミルはアベルの後に続くのだった。
「ここは屋内の練習場です。外が雨の場合、ここで練習をします」
「ほぉー!」
ミーミルは練習場を見下ろしながら感嘆の声を上げた。
数百人以上の兵士達が、練習場で斬り結んでいる。
高校の武道場で剣道部が活動しているのを見た事はあるが、人数は数十人ほどだ。
その十倍以上の人間が叫びながら木刀で斬り合っている姿は壮観であった。
「大人数で戦いますので、観戦しやすいように段差をつけております」
練習場は剣道場のように畳が敷かれている訳ではなく、すり鉢状になっていた。
剣道場よりスケートリンクっぽい形だ。
もちろんリンクには氷ではなく土が敷かれている。
「外にもいっぱい兵士がいたけど、中にも一杯いるんだ」
「外で撤去作業をしている兵士は基本的に新兵が多いですね。中で訓練をしているのはある程度のベテランです」
確かに素人のミーミルから見ても、動きが機敏で滑らかだ。
剣の振りに無駄が少ない。
「もう少し近くで見ますか?」
「ちょっと近くで見てみたい」
激しくぶつかる剣の動きや、雄々しい叫び声を聞いていると、何だか体が熱くなってくる気がした。
テレビで格闘技の試合を見ていた感じに近い。
ルールは分からなくても、人と人とのぶつかり合いは体を熱くさせるものだ。
ミーミルとアベルは段差を降りていく。
すると一部の兵士がミーミルの存在に気付き始めた。
同時に練習を中断する兵士も現れ始める。
「おっ……あっ……近づくのマズかった?」
「皇帝の視察である! こちらには気にせず、いつも通り訓練を続けるように!」
アベルが叫ぶと、手を止めていた兵士達は訓練に戻っていく。
それでも視線はチラチラとミーミルの方を盗み見ていたが。
「これで大丈夫です」
「そ、そっか」
ミーミルは一つため息をつくと、練習場を改めて見渡す。
「そういえば女性がいないね」
「女性は別の場所で練習しております。男性と混合ですと、怪我の元になりますので」
「こういう本格的な修練だとやっぱ混合でやるのは難しいか……。そういえば女性はやっぱり身体能力は低いけど魔力が高いとかある?」
リ・バースでは男性と女性でパラメーターに差があった。
男性の方が身体能力は高めだが、魔法能力は低めである。
女性は身体能力は低めだが、魔法能力が男性より高めだった。
そう大きな数値では無かったが、確かに差はある。
ただリ・バースでは戦士職でも魔法能力が必要な職もあったので、戦士職は男性でないと意味がない、という程でもない。
ほぼ個人の好みや趣味レベルの差である。
「そうですね。個人差はありますが、平均で見ればやはり女性の方が精霊との繋がりは強いようです」
「おー、精霊ってのはやっぱいるんだ。どんなの?」
「……ええ!?」
声を上げたアベルが目を見開く。
あっ、この反応はいかん。
とミーミルは思った、が遅かった。
「け……剣皇様。精霊がどんなのとは、一体どういう意味なのですか?」
「あ、えーと。うん……なんていうか……」
恐らく特大級の地雷だ。
この世界では精霊というのは、知っていて当たり前レベルなのだ。
それを知らないのは、かなりヤバい。
「まさか精霊の事を知らない――訳ではありませんよね」
「……」
ミーミルはアベルから目をそらし俯く。
背中に冷たい汗が、ぶわっと噴き出すのを感じた。
何か打開策を考えなければ。
突然の即死トラップにミーミルは頭をフル回転させる。
だが何も思いつかない。
驚くほど何も思いつかない。
身体能力をあんなに強化してくれているのだから、思考能力も一緒に強化してくれれば良かったのに。
悲しくなるくらいに思考能力だけは転生前と同じであった。
「知らないのですか?」
「ええと、知らないというか、分からないというか」
ミーミルは俯いたまま小声で答える。
「どういう事でしょうか?」
アベルが聞いてくる。
誤魔化せるような状況ではない。
「……分からない。実はさっぱり分からないんだ」
ミーミルは素直に答えた。
素直というか、ほぼ思考放棄である。
どうにでもなれという気分であった。
「剣皇様、もしかして――」
「はい……」
「記憶喪失なのですか?」
「はい……は!?」
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『魔人絶掌』
スキル分類 魔人刀スキル
消費MP 72
効果範囲 10
威力 4955
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効果 黒いオーラを手に纏って殴り、単体の敵にダメージを与える。
備考 スキルコンボ可能
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