国を建て直す前に自分を建て直したいんだが! ~何かが足りない異世界転生~

猫村慎之介

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第一部 三章

第三十三話 練習する猫

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 そうこうしている間に、挨拶が一通り終わった。
 だがアベルはミーミルに背を向けたままである。

「アベル?」
「いや、何というか、大変な問題が起きておりまして」
「何か問題が?」

 アベルはどう指摘したものか、弁明したものか悩んでいた。
 他の人間がいる以上、記憶喪失について語る訳にはいかない。
 こんな格好で、皇帝が飛び出してきた理由を考えればならないのだ。

「?」

 ミーミルはエーギル達に背を向け、顔を背けたアベルの顔を覗き込む。
 エーギル達にミーミルの背中が晒される。

 アンダーウェアはミーミルのお尻のラインどころか、お尻の割れ目までくっきりと浮かび上がらせていた。
 ゆらゆらと揺れる尻尾が、まるでエーギル達を誘っているかのように見える。

(尻だ)
(くびれ!)
(フトモモきた)
(髪の毛サラサラ)
(猫しっぽかわいい)

 各々に多種多様な感想を抱きながら、ミーミルの背を眺めるエーギル達。
 そんな視線にも気付かず、ミーミルはアベルの様子を伺う。

「アベル、どうした?」
「剣皇様、剣術の訓練を行う前に、とりあえず服を」
「アベル隊長お許しください!」

 チューノラがアベルに突然、飛びかかった。

「何だ!? モガァッ」
「いいぞチューノラ! その真面目野郎の口を塞いでおけ!」
「な、何事?」
「アベルの奴がどうも不敬な事を言いそうだったので、口を塞いだのです」

 状況が理解できないミーミルに説明するエーギル。

「何を考えているエーギル!」

 アベルはチューノラを地面に叩き伏せていた。
 エーギルの部下はエーギルより優秀だが、アベルはその部下より遥かに優秀だ。

「おのれ、チューノラだけでは止められんか! お前ら、未来の為に今ここでアベルを食い止めろ! これは隊長命令だ!」
「分かりました!」
「了解です! アベル隊長お覚悟を!」

 エーギルの部下、四人が一斉にアベルに襲い掛かる。

「!? !? !?」

 アベルは困惑しながらも四人と相対する。

「え? 何これ?」
「大丈夫です。アベルは放っておいて、練習場に行きましょう。剣術の訓練をするんですよね?」
「うん。まあそうだけど」

 突然のアベル襲撃に下剋上の気配を感じるが、大丈夫なのだろうか。
 もしかしたらこの世界は、こういうのが普通だったりするのかもしれないが――。

「お前ら何がどうした!?」
「我々の至福の時の為!」「アベル隊長には大人しくして頂く!」「幸せは長く共有!」「邪魔する奴は全て排除する!」
「まるで意味がわからんのだが!」

 アベルの狼狽っぷりから、とてもそうは思えない。

「本当に大丈夫? アベル殺されたりしないか?」
「しませんよ。逆に部下が殺されるかもしれませんが」
「ええ」
「冗談です。ただのじゃれ合いだと思ってください。では練習場にいきましょう」
「う、ううむ」

 ミーミルは何かがおかしい、と思いながらもエーギルの後についていく。

「練習は男女別と聞いたんだけど、私が練習場を使ってもいいのか? 奥に個人練習所があると聞いたんだが」
「はっはっはっ。個人練習場でやるなんてとんでもない。密室で二人きりというのも魅力的ですが、何より剣皇様は兵達の憧れなのです。多くの者がおとぎ話に出て来る剣皇様を夢見て、剣士になります。そのお方が練習場を使うと言うのです。むしろ使って頂けて光栄なくらいですよ。兵達は剣皇様や私にとても感謝するはずです。間違いなく」
「な、なるほど」

 早口でまくし立てるエーギルの勢いに乗せられ頷くミーミル。
 剣皇への羨望は、やはり途轍もない事を改めて実感するミーミル。
 実際は偽物なのが、とても申し訳ない。

「ここの柵が開くようになっています」

 練習場についたエーギルは取っ手がついた柵に手をかける。
 取っ手を回すと、人が二人通れる分くらいの柵がドアのように開いた。

「どうぞ」

 柵を開いてくれたエーギルの横を抜け、ミーミルは練習場に足を踏み入れた。
 すると回りにいた兵士達が何事かとミーミルを見る。

「なっ!?」
「えっ!」

 兵士達が剣を止め、ミーミルの方を凝視する。
 皇帝が練習場に来たのだ、驚かれて当然である。

 とミーミルは思ったが、別の理由もある事にミーミルは全く気付いていない。

「気にするな。そのまま練習を続けるんだ。剣皇様が、練習場を使いたいらしい」

 兵士にそう声をかけるが、練習に戻る気配はない。
 茫然とミーミルに――ミーミルの身体に釘付けになっている。

(ちょっと刺激が強すぎるか。だがここで引き返す訳にはいかんのだ)

 エーギルは空いている場所を探す。

「あちらが空いているようです」
「やっぱりもうちょっと人がいない時にやった方がいいか?」

 ミーミルに気づいた兵士達が練習の手を止めてしまう。
 さすがに邪魔になっているのではないか、とミーミルは思う。

「いえ、むしろ見せつけてあげて下さい。剣皇様の剣術を見るのを楽しみにしているのです」

 しかし剣術らしい剣術は使えないのだが……。

 とミーミルは内心焦り始める。
 記憶喪失が分かっているアベルなら、剣術の腕がイマイチでも何とかなるはずだった。
 だがエーギルはそんな事を知らないし、かといって伝える訳にもいかない。
 剣術練習自体も、こんな兵士が練習をしているド真ん中でやるはずではなかったのに。

「では軽く打ち合いから始めましょうか」

 そう言ってエーギルは木刀を構える。

「うむ……あの……アベルは?」
「アベルはもう少し後から来るはずですので、お気になさらず」
「む、むーん」

 ミーミルはとりあえず、剣道のように正眼に木刀を構えた。
 とりあえず強力なスキルは禁止だ。
 そもそもスキルを使わない方が良いかもしれない。

「では、行きますよ」

 エーギルは一歩、踏み込み木刀を振り下ろしてきた。
 ミーミルは慌てて木刀で剣を受ける。
 剣を弾かれたものの、さらにエーギルは横薙ぎの斬撃を放つ。
 ミーミルは木刀でエーギルの剣を受ける。

 練習場にカン、カンと小気味良い木のぶつかり合う音が響き渡る。

「……」

 エーギルはミーミルに剣を撃ち込みながら、違和感を感じていた。

 動きは完全な素人だった。
 剣術の事など全く知らない新兵を相手しているかのようだ。

 それなのに打ち込めない。
 ぎこちない剣術にも関わらず、エーギルの剣は全て受け止められていた。

「っ。おっ。ぐっ」

 ミーミルは一撃ごとに微かに悲鳴を上げる。
 様々な角度から飛んでくる剣を、ミーミルは必死で受け続けていた。
 まるで慣れないリズムゲームをやっているかのようである。
 速度が遅いので何とか反応できるが、これ以上早くなると対応できなくなりそうだ。

「フェイントも入れていきますよ」

 エーギルはそう言うと、剣を振るう。

 斜めに振るうと見せかけ、軌道を変化させて横薙ぎの一撃を繰り出す。
 切り上げと見せかけてからの突き。
 突きからの薙ぎ払い。

 その全てをミーミルは受ける。

 その様子に、エーギルはさらに違和感を大きくしていた。
 フェイントに引っかかっている。
 引っかかっているのに、後からの斬撃を受け止めるのだ。

 まるで後出しジャンケンをしているのに、さらなる後出しジャンケンで負け続けているような気分だった。
 こんな事が出来るとしたら、反応速度が人外のレベルに達している――としか考えられない。

「剣皇様、防御だけでは何ともなりませんよ」
「確かに」

 防戦一方だったミーミルは剣を振る。
 スキルは載せていない一撃だった。
 乾いた音が練習場に響き渡る。

「――」

 気が付くとエーギルの木刀は、真っ二つに斬り飛ばされていた。
 剣を振りかぶった動きは見えた。
 容易に予測できた剣の軌道に、木刀を構えてガードする。

 そこまでは良かったのだ。

 だが振り下ろした剣は全く見えなかった。
 そして見えるようになった頃には木刀の先がなくなっていた。

「えーと……決着?」
「そ、そうなりますね……」

 練習を止め、観戦者になっていた兵士達から拍手が巻き起こる。
 いつの間にか二人の周りには人だかりが出来ていた。

「凄いな! さすが剣皇様!」
「木刀で木刀を斬るなんて!」

 剣術は全く分からないが、身体能力だけで何とかなった。
 ミーミルは褒められ、照れ笑いを浮かべ、耳の付け根を掻く。

「木刀が斬り飛ばされてしまったし、次の相手は誰かに別の奴に頼むか」

 エーギルはやや引きつった笑いを浮かべながら、下がって地面に座り込む。

「ふぅ」

 エーギルに剣術の才能は余り無かった。
 同僚の部隊長に試合で勝った事は一度もない。
 部下にも完全に負け越している。
 周りの優秀さから、自分は剣を頑張る必要が無い、と思っていた。
 剣術より他の能力を伸ばすべきだ、と思っていたのだ。
 そしてさっきの試合で、それが間違っていなかった事が分かった。

 剣の世界の、究極を見た。

 それは自分では、絶対に到達できない領域であった。

「うむ、俺にはこうやって揺れる乳を眺めるのが合っている」

 戦闘の時にはじっくり見られなかったミーミルの身体を特等席で見ながら、エーギルは笑みを浮かべるのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


エーギル=クロ隊隊長。尻に目を奪われた。
カナビス=クロ隊副長。ふとももに目を奪われた。
トトラク=クロ隊兵士。猫しっぽに目を奪われた。
フィードゥ=クロ隊兵士。うなじ好き。
チューノラ=クロ隊新兵。股間とおっぱいと髪やその他多数に目を奪われた。

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