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第二部 二章
第十話 安息日
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今日は安息日である。
アイリス帝国には週に一日、仕事を休むべきと定められている日があった。
その一日は安息日と呼ばれ、多くの人間が仕事を休む。
要は日本でいう日曜日である。
ただ業種によって安息日は違うようだ。
一週間の間に、どのタイミングでも良いので安息日を取れば問題ないらしい。
これに違反すれば、罰金まで取られるのだそうだ。
「週に一度は必ず休みがあるなんて、素晴らしい国です」
ミーミルが言うと中々に重みがある。
今月は二十一連勤だー、と発狂していたミーミルを思い出した。
「休み、って言ってもやる事もないけど」
「外に遊びに行くか」
「大人しくしてろ、ってさっき言われたばかりなのに」
「それはまぁ、別の話って事で」
確かにこのまま部屋の中でじっとしていても意味がない、とは思う。
しかしオルデミア無しで外をウロウロするのも不安だ。
「本でも読む?」
「駄目だ駄目だ。この世界の書物は俺には難しすぎる」
「活字嫌いだもんねぇ」
ミーミルには活字適性が無かった。
小説を読んでしばらくすると文字が躍り出し、絵にしか見えなくなってくるらしい。
頭が文字を拒絶するのだそうだ。
漫画しかまともに読めない可哀想な奴である。
そして残念ながら、この世界には漫画文化は、まだ存在していなかった。
コンコン。
二人が部屋で悶々としていると、ドアが静かにノックされた。
「はい?」
「アベルです」
声の主はアベルだった。
「開いてますー」
「失礼します」
部屋を開いて入って来たのはアベル――とパークスであった。
この組み合わせは何だか珍しい気がする。
「どうしたの?」
「何か御用が無いかと思いまして。オルデミア団長から、剣皇様と閃皇様のお世話をするように言われております」
そう言ってアベルは頭を下げる。
「私もその……父にお世話をするように言われておりまして」
パークスも一緒に頭を下げた。
「どうする、ミーミル?」
「ん……ああ、どうしようか……」
まだパークスに対して妙なしこりがあるようだった。
パークスもそれを察してか、申し訳ないような微妙な表情をしている。
パークスに友達になって欲しい、と言った以上ここは手助けをすべきだ。
「じゃあ二人で外に遊びに行きたいので、護衛を頼みます」
そう思ったアヤメはミーミルの意見を聞く前に、予定を決めてしまう。
「外に、ですか? でしたら昨日と同じく護衛部隊を編成して――」
「う」
アベルの言葉にアヤメは声を詰まらせる。
昨日は大人数だったために十分に街を回れなかったのだ。
通りから少し奥に入った所に気になった店があっても、行けば路地がパンクする。
路地を兵士でみっしり詰める訳にはいかなかった。
「護衛なし、って駄目?」
「それは問題かと存じます」
「アベルとパークスだけで」
「二人だけで……ですか。何かあった時に護りきれない可能性があります」
「大丈夫。私とミーミル強いから」
確かに現神蝕を倒した二人ならば、そもそも護衛など必要ないかもしれない。
あり得ない事ではあるが、仮にアカ隊全員でかかったとしても勝てる気はしなかった。
「分かりました。では二人で護衛させて頂きます」
「……」
「パークス様、どうでしょうか」
「えっ、ああ、それで問題ないです」
「よーし、じゃあ今日も街に繰り出そうー」
アヤメは嬉しそうに手を振り上げる。
アベルはそれにノッていいのか分からず、とりあえず頭を下げる。
ミーミルとパークスはやや微妙な表情のままだった。
「うーむ……カッコイイな」
ミーミルは武器屋で、陳列された商品を眺めながら呟く。
表通りから少し奥に入った武器屋。
パークスに案内されて来た店だった。
「マニアックな武器が色々並んでいるので、楽しめるはず」との事だった。
実際に変な武器が沢山、並んでいる。
「これ何?」
アヤメは剣の峰にギザギザがついた剣を指差しながらアベルに訪ねる。
「これはソードブレイカーですね。この背で敵の剣を受け止め、てこの原理でへし折るのです。ただへし折るより引っかけて相手の武器を奪う、という使い方の方が一般的ですね。武器がへし折れるまで武器を持ち続けている人間はなかなかいないので」
「へー」
アヤメは峰のギザギザを指でつつく。
店長らしき男が、ギロッとアヤメを睨んだ。
アヤメは慌てて手をひっこめる。
どうやらお触りは禁止らしい。
「細身の剣ならば折りやすいですが、戦場で細身の剣を使っている兵はほぼいません。何より耐久性が重視されますので。どちらかというと冒険者向けの剣でしょう」
「変に波打ってる剣があるが」
ミーミルもパークスに質問する。
「フランベルジェと言います。波打っている刃先で、治療し辛い怪我を負わせられる武器ですね。形が炎のように見えるので、火属性の法術が得意な者が好んで使う傾向にあります。実際に火属性の法術が強化される効果はありませんが」
「ほー……」
ミーミルは店長を盗み見てみる。
ひげ面で丸坊主の店長であった。
太い二の腕には入れ墨が入っており、筋骨隆々である。
店員でなければできる限り話したくないタイプの相手であった。
「持ってみていいです?」
恐る恐る聞いてみるミーミル。
「気をつけてくれ」
ミーミルは店長の了解を得てからフランベルジェを手に取る。
「わー軽い」
「軽くは無いはずですが……頑丈な代わりに重いダイス鋼材製なので」
「あ、そう」
ミーミルは片目を閉じて、刃先を見る。
鋭いように思えるが、ミーミルには刀剣の良し悪しはさっぱりだった。
「これは、うん、いい剣っぽい」
ミーミルは小学生並みの感想を残して、剣を棚に戻す。
アヤメとミーミルは「すごい」とか「ほー」とか言いながら店内を物色する。
その後ろで、アベルはパークスに小声で囁いていた。
「ここで良かったのでしょうか」
「わ、わからん。私がいつも良く行く店に案内しただけだ」
「お二人は女性ですし、もっと女性が好むような店に連れていくべきだったのでは……」
「どんな店が女性向けなのだ」
パークスに言われ、アベルは答えに詰まる。
女性向けの店が思いつかない。
「それは……花屋……とかでしょうか?」
そして最初に思い浮かんだのは花屋であった。
「花屋がいいのか?」
「……申し訳ありません。何分、自分も女性のエスコートには慣れておりません」
「そうなのか。アベル殿は貴族の産まれと聞いていた。そういうのは得意なものかと」
「……貴族と言っても家柄と血筋だけです。私は武にその身を捧げております。ですので色恋沙汰には疎く」
「この時世では、どこも似たようなものかもしれんな」
パークスは深いため息をつく。
長く続いた戦争は裕福層の懐すらも疲弊させていた。
東のミネラポリスが反旗を翻した影響により、貴族の商業収入は大幅に減少してしまっている。
そうなると商業ではなく、武勲により国から資金を得る事に重点が置かれるのは、仕方のない事なのだろう。
「アベル殿も婚約相手は決まっているのか?」
「話はありますが――」
親に紹介された貴族の女性はいる。
だがどうにも上手く会話ができなかった。
自分が得意なのは剣術だけだ。
服や装飾品の話ばかりする貴族の女性とは致命的に話が合わない。
「この剣がどう」とか「この技がこう」とか言っても理解してもらえない。
よって、お見合いは何度も失敗していた。
「自分も話はあるのだが……どうもな」
パークスは自分が結婚するビジョンが見えなかった。
お金はある。
だが人に打ち込みすら出来ない男が、一人の女性を守り暮らしていけるのか?
子供を作り父がしたように、ジェイド家に相応しい男子を育てていけるのか?
お金で買えるのは自分の外にある物だけだ。
自分の中にある心――自信を手に入れるのに、お金は何の意味も持たなかった。
「ふー」「ふー」
パークスとアベルは同時にため息をつく。
それに気づき、二人は顔を見合わせると、自嘲気味に笑みを浮かべた。
「お客さん」
店長がいきなりアベルに話しかけてくる。
その目は店に陳列されている刀身のように鋭かった。
「な、何か?」
「何かじゃねぇよ。子供から目を離すな。アブねぇモンが沢山あるんだ。もし怪我でもしたら大事だろうが。子供の指くらいなら簡単に飛ぶんだぞ」
「も、申し訳ない」
「全く、最近の親ってやつは……ブツブツ」
娘どころか伝説の英雄なのだが、それを言った所で信じないだろう。
実際、目を離していたのは確かなのでアベルは素直に反省し、アヤメに声をかける。
「どうですか、アヤメ様」
「私が持つにはちょっと大きすぎるのばっかりかな……」
両手剣はおろか、普通の剣でも腰に差すと鞘が地面を擦る。
子供用の武器など、あろうはずもなかった。
アヤメにとっては無用の長物ばかりだ。
やはり店の選択を失敗したかもしれない。
その様子を見ていたパークスはミーミルに声をかける。
「あのう、ミーミル様。別の店の方が良かったのでは」
「ん? 何で?」
「こういう店は女性には退屈ではないかと……もっとこう、花屋のような」
「全然退屈じゃないよ。むしろすげー楽しい」
ミーミルは即答だった。
こういう武器はやはり男心をくすぐるものがある。
武器屋など初めての経験であり、空想の産物でしかなった。
それが現実に目の前にあるのだ。
しかも現実に買って、現実に使う事もできるのである。
楽しくない訳がない。
「てかコレ何だ? 手袋?」
「ええと、これはリベットグローブですね。剣を使う時に装備します。関節部分に鉄の鋲が仕込んであり、指を保護するのです。戦いでは指を負傷する可能性はとても高い上に、指を失う事で武器を持つことが出来なくなったりします。戦いで武器を失えば、敗北に直結しかねませんので」
「はー、なるほど。だからゲームでも基本小手って出て来るもんな。重要な防具って事だ」
「げーむ?」
「あー、こっちの話。それよりこっちの短剣は何だ? 真っ黒だが、毒でも塗ってあるのか?」
「ダガーナイフです。刀身の輝きを打ち消す事により、視認づらくしています。刃物というのは輝くものだという思い込みがあります。こうして刀身を黒く塗る事により、刃物であるという認識を遅くできるのです。主に隠し武器として使う者が多いですね」
「ふーむ、一本買っておいてもいいかもな。パークス、どう思う?」
「ナイフは慣れが必要です。剣とはまた違った技術が必要になりますが、剣皇様は短剣術の心得はありますか?」
「うーむ」
ドゥームスレイヤーにはダガーマスタリースキルは無い。
あれはアサシン職だけだ。
買っても恐らく使いこなせないだろう。
「必要でしたら、お教えしますよ」
「待て……考える」
ミーミルはうーんうーんと唸りながらナイフと睨めっこをしている。
その様子を見てアヤメは微笑んだ。
どうやらいつの間にか、パークスとのわだかまりは無くなっていたようだった。
この分ならば友達になるのも時間の問題だろう。
「アヤメ様は、退屈ではないですか?」
アベルもアヤメに聞いてくる。
「ううん、全然。楽しいよー」
アヤメも忘れかけつつあった男心をくすぐられていた。
日本では一生、目にかからないような物ばかりだ。
使えなくても、見ているだけで楽しい。
「花屋とかの方がよろしいのでは」
「んー、花もいいけど、それよりご飯食べたいかな。見終わったら何か食べに行こ?」
そう言ってアヤメは笑う。
――その答えはアベルが今まで出会った、どの貴族の女性とも違う答えだった。
「同じく腹減った。どっかいい店無いか? パークス」
「えっ……と……では……」
パークスが、アヤメに視線を走らせる。
アヤメはそれに気づき、片目を閉じた。
「で、では、隠れ家的な酒場があります。そこはいかがでしょう。いいお酒を出しますよ」
「……!」
ミーミルは無言でパークスの肩を抱く。
パークスが瞬時に茹で上がった。
アイリス帝国には週に一日、仕事を休むべきと定められている日があった。
その一日は安息日と呼ばれ、多くの人間が仕事を休む。
要は日本でいう日曜日である。
ただ業種によって安息日は違うようだ。
一週間の間に、どのタイミングでも良いので安息日を取れば問題ないらしい。
これに違反すれば、罰金まで取られるのだそうだ。
「週に一度は必ず休みがあるなんて、素晴らしい国です」
ミーミルが言うと中々に重みがある。
今月は二十一連勤だー、と発狂していたミーミルを思い出した。
「休み、って言ってもやる事もないけど」
「外に遊びに行くか」
「大人しくしてろ、ってさっき言われたばかりなのに」
「それはまぁ、別の話って事で」
確かにこのまま部屋の中でじっとしていても意味がない、とは思う。
しかしオルデミア無しで外をウロウロするのも不安だ。
「本でも読む?」
「駄目だ駄目だ。この世界の書物は俺には難しすぎる」
「活字嫌いだもんねぇ」
ミーミルには活字適性が無かった。
小説を読んでしばらくすると文字が躍り出し、絵にしか見えなくなってくるらしい。
頭が文字を拒絶するのだそうだ。
漫画しかまともに読めない可哀想な奴である。
そして残念ながら、この世界には漫画文化は、まだ存在していなかった。
コンコン。
二人が部屋で悶々としていると、ドアが静かにノックされた。
「はい?」
「アベルです」
声の主はアベルだった。
「開いてますー」
「失礼します」
部屋を開いて入って来たのはアベル――とパークスであった。
この組み合わせは何だか珍しい気がする。
「どうしたの?」
「何か御用が無いかと思いまして。オルデミア団長から、剣皇様と閃皇様のお世話をするように言われております」
そう言ってアベルは頭を下げる。
「私もその……父にお世話をするように言われておりまして」
パークスも一緒に頭を下げた。
「どうする、ミーミル?」
「ん……ああ、どうしようか……」
まだパークスに対して妙なしこりがあるようだった。
パークスもそれを察してか、申し訳ないような微妙な表情をしている。
パークスに友達になって欲しい、と言った以上ここは手助けをすべきだ。
「じゃあ二人で外に遊びに行きたいので、護衛を頼みます」
そう思ったアヤメはミーミルの意見を聞く前に、予定を決めてしまう。
「外に、ですか? でしたら昨日と同じく護衛部隊を編成して――」
「う」
アベルの言葉にアヤメは声を詰まらせる。
昨日は大人数だったために十分に街を回れなかったのだ。
通りから少し奥に入った所に気になった店があっても、行けば路地がパンクする。
路地を兵士でみっしり詰める訳にはいかなかった。
「護衛なし、って駄目?」
「それは問題かと存じます」
「アベルとパークスだけで」
「二人だけで……ですか。何かあった時に護りきれない可能性があります」
「大丈夫。私とミーミル強いから」
確かに現神蝕を倒した二人ならば、そもそも護衛など必要ないかもしれない。
あり得ない事ではあるが、仮にアカ隊全員でかかったとしても勝てる気はしなかった。
「分かりました。では二人で護衛させて頂きます」
「……」
「パークス様、どうでしょうか」
「えっ、ああ、それで問題ないです」
「よーし、じゃあ今日も街に繰り出そうー」
アヤメは嬉しそうに手を振り上げる。
アベルはそれにノッていいのか分からず、とりあえず頭を下げる。
ミーミルとパークスはやや微妙な表情のままだった。
「うーむ……カッコイイな」
ミーミルは武器屋で、陳列された商品を眺めながら呟く。
表通りから少し奥に入った武器屋。
パークスに案内されて来た店だった。
「マニアックな武器が色々並んでいるので、楽しめるはず」との事だった。
実際に変な武器が沢山、並んでいる。
「これ何?」
アヤメは剣の峰にギザギザがついた剣を指差しながらアベルに訪ねる。
「これはソードブレイカーですね。この背で敵の剣を受け止め、てこの原理でへし折るのです。ただへし折るより引っかけて相手の武器を奪う、という使い方の方が一般的ですね。武器がへし折れるまで武器を持ち続けている人間はなかなかいないので」
「へー」
アヤメは峰のギザギザを指でつつく。
店長らしき男が、ギロッとアヤメを睨んだ。
アヤメは慌てて手をひっこめる。
どうやらお触りは禁止らしい。
「細身の剣ならば折りやすいですが、戦場で細身の剣を使っている兵はほぼいません。何より耐久性が重視されますので。どちらかというと冒険者向けの剣でしょう」
「変に波打ってる剣があるが」
ミーミルもパークスに質問する。
「フランベルジェと言います。波打っている刃先で、治療し辛い怪我を負わせられる武器ですね。形が炎のように見えるので、火属性の法術が得意な者が好んで使う傾向にあります。実際に火属性の法術が強化される効果はありませんが」
「ほー……」
ミーミルは店長を盗み見てみる。
ひげ面で丸坊主の店長であった。
太い二の腕には入れ墨が入っており、筋骨隆々である。
店員でなければできる限り話したくないタイプの相手であった。
「持ってみていいです?」
恐る恐る聞いてみるミーミル。
「気をつけてくれ」
ミーミルは店長の了解を得てからフランベルジェを手に取る。
「わー軽い」
「軽くは無いはずですが……頑丈な代わりに重いダイス鋼材製なので」
「あ、そう」
ミーミルは片目を閉じて、刃先を見る。
鋭いように思えるが、ミーミルには刀剣の良し悪しはさっぱりだった。
「これは、うん、いい剣っぽい」
ミーミルは小学生並みの感想を残して、剣を棚に戻す。
アヤメとミーミルは「すごい」とか「ほー」とか言いながら店内を物色する。
その後ろで、アベルはパークスに小声で囁いていた。
「ここで良かったのでしょうか」
「わ、わからん。私がいつも良く行く店に案内しただけだ」
「お二人は女性ですし、もっと女性が好むような店に連れていくべきだったのでは……」
「どんな店が女性向けなのだ」
パークスに言われ、アベルは答えに詰まる。
女性向けの店が思いつかない。
「それは……花屋……とかでしょうか?」
そして最初に思い浮かんだのは花屋であった。
「花屋がいいのか?」
「……申し訳ありません。何分、自分も女性のエスコートには慣れておりません」
「そうなのか。アベル殿は貴族の産まれと聞いていた。そういうのは得意なものかと」
「……貴族と言っても家柄と血筋だけです。私は武にその身を捧げております。ですので色恋沙汰には疎く」
「この時世では、どこも似たようなものかもしれんな」
パークスは深いため息をつく。
長く続いた戦争は裕福層の懐すらも疲弊させていた。
東のミネラポリスが反旗を翻した影響により、貴族の商業収入は大幅に減少してしまっている。
そうなると商業ではなく、武勲により国から資金を得る事に重点が置かれるのは、仕方のない事なのだろう。
「アベル殿も婚約相手は決まっているのか?」
「話はありますが――」
親に紹介された貴族の女性はいる。
だがどうにも上手く会話ができなかった。
自分が得意なのは剣術だけだ。
服や装飾品の話ばかりする貴族の女性とは致命的に話が合わない。
「この剣がどう」とか「この技がこう」とか言っても理解してもらえない。
よって、お見合いは何度も失敗していた。
「自分も話はあるのだが……どうもな」
パークスは自分が結婚するビジョンが見えなかった。
お金はある。
だが人に打ち込みすら出来ない男が、一人の女性を守り暮らしていけるのか?
子供を作り父がしたように、ジェイド家に相応しい男子を育てていけるのか?
お金で買えるのは自分の外にある物だけだ。
自分の中にある心――自信を手に入れるのに、お金は何の意味も持たなかった。
「ふー」「ふー」
パークスとアベルは同時にため息をつく。
それに気づき、二人は顔を見合わせると、自嘲気味に笑みを浮かべた。
「お客さん」
店長がいきなりアベルに話しかけてくる。
その目は店に陳列されている刀身のように鋭かった。
「な、何か?」
「何かじゃねぇよ。子供から目を離すな。アブねぇモンが沢山あるんだ。もし怪我でもしたら大事だろうが。子供の指くらいなら簡単に飛ぶんだぞ」
「も、申し訳ない」
「全く、最近の親ってやつは……ブツブツ」
娘どころか伝説の英雄なのだが、それを言った所で信じないだろう。
実際、目を離していたのは確かなのでアベルは素直に反省し、アヤメに声をかける。
「どうですか、アヤメ様」
「私が持つにはちょっと大きすぎるのばっかりかな……」
両手剣はおろか、普通の剣でも腰に差すと鞘が地面を擦る。
子供用の武器など、あろうはずもなかった。
アヤメにとっては無用の長物ばかりだ。
やはり店の選択を失敗したかもしれない。
その様子を見ていたパークスはミーミルに声をかける。
「あのう、ミーミル様。別の店の方が良かったのでは」
「ん? 何で?」
「こういう店は女性には退屈ではないかと……もっとこう、花屋のような」
「全然退屈じゃないよ。むしろすげー楽しい」
ミーミルは即答だった。
こういう武器はやはり男心をくすぐるものがある。
武器屋など初めての経験であり、空想の産物でしかなった。
それが現実に目の前にあるのだ。
しかも現実に買って、現実に使う事もできるのである。
楽しくない訳がない。
「てかコレ何だ? 手袋?」
「ええと、これはリベットグローブですね。剣を使う時に装備します。関節部分に鉄の鋲が仕込んであり、指を保護するのです。戦いでは指を負傷する可能性はとても高い上に、指を失う事で武器を持つことが出来なくなったりします。戦いで武器を失えば、敗北に直結しかねませんので」
「はー、なるほど。だからゲームでも基本小手って出て来るもんな。重要な防具って事だ」
「げーむ?」
「あー、こっちの話。それよりこっちの短剣は何だ? 真っ黒だが、毒でも塗ってあるのか?」
「ダガーナイフです。刀身の輝きを打ち消す事により、視認づらくしています。刃物というのは輝くものだという思い込みがあります。こうして刀身を黒く塗る事により、刃物であるという認識を遅くできるのです。主に隠し武器として使う者が多いですね」
「ふーむ、一本買っておいてもいいかもな。パークス、どう思う?」
「ナイフは慣れが必要です。剣とはまた違った技術が必要になりますが、剣皇様は短剣術の心得はありますか?」
「うーむ」
ドゥームスレイヤーにはダガーマスタリースキルは無い。
あれはアサシン職だけだ。
買っても恐らく使いこなせないだろう。
「必要でしたら、お教えしますよ」
「待て……考える」
ミーミルはうーんうーんと唸りながらナイフと睨めっこをしている。
その様子を見てアヤメは微笑んだ。
どうやらいつの間にか、パークスとのわだかまりは無くなっていたようだった。
この分ならば友達になるのも時間の問題だろう。
「アヤメ様は、退屈ではないですか?」
アベルもアヤメに聞いてくる。
「ううん、全然。楽しいよー」
アヤメも忘れかけつつあった男心をくすぐられていた。
日本では一生、目にかからないような物ばかりだ。
使えなくても、見ているだけで楽しい。
「花屋とかの方がよろしいのでは」
「んー、花もいいけど、それよりご飯食べたいかな。見終わったら何か食べに行こ?」
そう言ってアヤメは笑う。
――その答えはアベルが今まで出会った、どの貴族の女性とも違う答えだった。
「同じく腹減った。どっかいい店無いか? パークス」
「えっ……と……では……」
パークスが、アヤメに視線を走らせる。
アヤメはそれに気づき、片目を閉じた。
「で、では、隠れ家的な酒場があります。そこはいかがでしょう。いいお酒を出しますよ」
「……!」
ミーミルは無言でパークスの肩を抱く。
パークスが瞬時に茹で上がった。
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