国を建て直す前に自分を建て直したいんだが! ~何かが足りない異世界転生~

猫村慎之介

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第二部 二章

第十八話 亜人種との交流

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 現神の森周辺に到着したのは一時間程、経過した頃だろうか。
 道中は平和なもので、誰の干渉も受けなかった。
 魔物も刺客も亜人種も現れない。

 ミーミルとアヤメは、前のように何かあるかもしれない……と警戒していたが、少し拍子抜けしたくらいである。

「ここからは馬から降りて行きます。魔物も出ますので注意していて下さい」

 パークスが先導しながら先へと進んでいく。
 その後にアヤメ達も続いた。

 夜に来るのと昼に来るのとでは、また違った雰囲気を感じる森だ。
 夜は深く沈んだような空気に包まれ、不気味な森だった。
 昼は清涼な空気が辺りを支配し、あちこちに生命の息遣いを感じる。
 爽やかな気分にすら感じられた。

「何か思ったより怖い場所じゃなさそう」
「そうでしょう。現神や亜人種のイメージで、非常に恐ろしい場所のように思われていますが、実際はそうでもないのですよ」

 パークスは何故か自慢げに言う。

「でもジェノサイドみたいなのがいるんだよな?」
「奥地に行けば、危険な魔物はいます。ですが、そういった魔物が出てこないように、神護者の方々がいらっしゃるのです」

「神護者?」

 聞いた事のない単語――だと思ったが、初めて現神の森に来た時に亜人種が言っていたような気がした。

「遥か昔から生きる亜人種の方々で、銀の毛並みを持ち、とても強力な力を持っているそうですね。他の亜人種を危険な魔物から護っています。私も数回しか会った事がないですが」
「方々って事は一杯いる?」
「全部で六人いるらしいですね。全員とお会いした事はないですけど」

「パークス様、そろそろ」

 部下の一人がパークスに耳打ちした。

「ああ、そうだな」

 パークスはポケットから笛を取り出す。

「ここが約束の場所です。ここで笛を吹けば、みんなが来てくれます」
「もう来てるぞ」

 ミーミルは森の奥を見ながら呟く。

「え」
「だいぶ警戒してるな。昨日見た時よりかなり奥の方から様子を伺ってる」
「そ、そうなのですか」

 パークスは当然ながら、アヤメもさっぱり分からない。
 完全にミーミルは人外の感覚を身につけたらしい。

「では吹きますね」

 全員が深く被っていたフードを脱ぐのを確認してから、パークスは笛を吹いた。

「……おお……おお。なんだアリャ」

 ミーミルが目を見開いていた。
 何かを捉えているのだろうが、アヤメには何が起きているのかさっぱり分からない。

 しばらくすると茂みの中から、亜人種達が出てきた。

「こんにちは、パークス様」

 出て来た亜人種に見覚えがあった。
 ミョルドと呼ばれていた女性と、ニニャと呼ばれた女性。

 もう一人は初めて見る女性だが、屈強そうだった。

 ニニャより背は低いが、それでもパークスよりデカい。
 手足の筋肉も女性とは思えない程に太い。
 よく見ると全身に細かく刻まれている傷は、相当な修羅場をくぐっているのを容易に想像する事ができた。

 そして何より目立つのは背中に羽が生えている事だ。
 ただ天使が生やしていそうな、ふんわりした純白の羽という感じではない。
 猛禽類を思わせるような茶色のゴツイ羽であった。

「こちらが、パークス様の上官様ですか?」

 ミョルドがアヤメをミーミルを見ながら言う。

「ミーミルと言います」
「アヤメです。よろしくお願いします」

 亜人種達には二人の事をパークスの上官とだけ伝えていた。
 いきなり皇帝が来たら問題だろう、という事で身分は隠してある。

「私はネーネ族族長の娘、ミョルドと言います。よろしくお願いします」

 そう言ってミョルドは二人に笑みを浮かべる。

「さ、二人も挨拶を」
「あの、ニニャです。ネーネ族です。普通の一般人です」

 ミョルドに促され熊っぽい女性がおどおどとしながら言う。

 次に初めて見る羽の女性が前に出て礼をする。

「イカルガと言う。ネーネ族の狩りを指揮している。よろしくお願いする」

 見た目通りに武人らしい喋り方だった。


 そして亜人種全員の目が、ミーミルに集中していた。


「亜人種――の方ですか?」

 ミョルドがミーミルに一歩近づく。

「そ、そうだ。多分、そんな感じ」

 集中する視線に思わず狼狽えるミーミル。

「では、失礼しますね」

 そう言うとミョルドはいきなり、ミーミルに顔を寄せた。

「おわ!?」

 ミーミルはミョルドから飛び退る。

「?」

 ミーミルの反応にミョルドは不思議そうな顔を浮かべていた。

「私も失礼します」

 ニニャもミーミルに近寄る。

「――失礼する」

 イカルガもミーミルと距離を詰める。

「え、何? 何事?」

 亜人種に取り囲まれたミーミルはパークスに助けの視線を求める。
 パークスなら何が起きているのか知っているのでは。

 
 パークスも首を傾げていた。


「おい、パークス大丈夫なのか」
「すー」

 後ろに回り込んでいたミョルドがミーミルの耳に鼻を寄せて深呼吸する。
 ニニャもミーミルの耳の匂いをかぐ。
 イカルガはミーミルの腹の辺りの匂いをかぐ。

「うわーセクハラ」

 ミーミルは抵抗も出来ず叫ぶだけだった。

「うーん……」
「おかしいねぇ……」
「どうなっている」

 三人はさらにミーミルの二の腕や太もも、尻尾の匂いをかぎ始めた。

「ひぃーくすぐったい! 何これ! 何イベント!? 助けてアヤメ!」
「何か面白い」
「面白いじゃなくてさぁ!」

 ミーミルの身体を吸い尽くした亜人種達は、ミーミルから離れる。
 三人は一様に不思議そうな顔をしていた。

「……今のは何」

 ミーミルは両手で身体を抱きしめ、縮こまりながら聞く。

「え? 私達の挨拶の仕方と言いますか……ミーミル様は知らないのですか」
「私たちは知らない相手にはこうするんです。人相手ではしませんけど……」
「匂いでどこの出身か分かるからな」

 三人は口々に匂いを嗅いだ理由を説明する。

「それで、何か分かったのか」
「いえ、さっぱり。嗅いだことのない匂いです。ミーミル様は亜人種ですが、この森で産まれた亜人種ではないようですね」

 どうやら亜人種達の鼻は確かなようだ、とアヤメは思った。
 普通では知り得ない情報を得ている。

「それで、ミーミル様はどこの出身の方なのですか?」
「えーと」

 ミーミルがアベルを見ると、アベルが助け舟を出してくれた。

「実はお二人共に記憶の混濁がありまして、詳細な出身地は覚えていないのです。アイリス帝国内という事だけしか――」
「――そうですか」

 ミョルドは残念そうな表情を浮かべた。

「お前も見ない顔だな」

 イカルガがアベルを見据える。

「これは挨拶が遅れて申し訳ありません。先日、中央から移動になったアベル・シェラトンと申します。パークス様の部隊を指揮する部隊長になります」
「そうか。宜しく」

 イカルガは手を差し伸べる。
 アベルはその手を取り、握手した。
 他の二人もアベルと握手していく。

 やはり人であるアベルとはごく普通の挨拶を行うようだ。

 最初から最後まで嘘だらけの自己紹介だったが、亜人種はちゃんと信用してくれている。
 パークス達が騙されているかどうか見極めるという話だったが、これでは逆である。
 こちらが向こうを騙しているようになってしまった。

 アヤメの良心が、ちくちくと痛んだ。

「それで、どうされます?」

 いきなりミョルドがミーミルに問いかける。

「?」

 だが問いの意味がミーミルには分からなかった。

「挨拶します?」

 ミョルドはそう言って髪をかき上げ、うなじを見せる。
 ニニャは屈んで二の腕を見せる。
 イカルガは羽を畳んで背を見せる。


「…………」


 ミーミルは熟慮する。

 その思考の果てに。
 深く、深く頷くと、こう言った。


「やり」「止めておきます。どうせ何もかも分からない猫なので」

 アヤメが止めた。

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