国を建て直す前に自分を建て直したいんだが! ~何かが足りない異世界転生~

猫村慎之介

文字の大きさ
110 / 136
第二部 四章

第五十四話 槍投げ

しおりを挟む
「キリがねぇ!!」

 ミーミルはシルバーパロックをなぎ倒しながら叫んだ。
 すでに百体近くは倒している。
 だが、まだ半分も終わっていない。

 時間がかかりすぎていた。

「……どうしよう。フリージングブラスト!」

 アヤメは初歩のマジックスキルを使いながら呟く。
 これでも何発か撃てばシルバーパロックを倒す事はできた。

 恐らく時間をかければ全滅させられるだろう。
 しかし今は時間をかけたくないのだ。
 
 少し前に地響きがあった。

 ミーミルの耳には、ネーネ族の村がある方向から聞こえてきたという。
 ネーネ族の村に何かが起きているのは間違いない。
 一刻も早く村に帰らねばならなかった。

「アヤメちゃん、ミーミルさん、私達を置いて村に戻って!」
「みんなきっと酷い目にあってると思うの!」
「いや、それは駄目だ!」

 ミーミルはスキルでシルバーパロックを両断しながら叫ぶ。
 アヤメも同感だった。

 ここで二人を置いて行っては、何の為に二人を助けに来たのか分からない。

 
 しかしこのまま、ここで戦い続けても――。

 
「何かいい方法はねーのか!」

 辺りはパロックに埋め尽くされている。
 この包囲を抜けるとしたら……考えられるのは……。

「そ、空を飛ぶ? とか?」
「馬鹿じゃねーの」

 アヤメの提案はミーミルに一撃で却下される。
 自分で言っていて無理があるとは思った。

 幼精族には、一応、羽を生やす方法はある。
 しかしそれは飛ぶための羽ではなく、別の用途に使う羽であった。

「じゃあアレだ。俺がアヤメをブン投げるから、それで飛んで行ってこい」

 無茶苦茶だ。
 人間にそんな事が――。

 
 ――。



 もしかして、出来るのでは?



「ミーミル」
「何だよ」

「わたし投げたらどれくらい飛ばせると思う?」
「……」
 
 ミーミルが本気で言っているのか、という表情を浮かべる。

 もちろん本気ではない。
 ただの戯言である。
 
「例えば歌と薬でブーストしたら行けたりなんかして?」
「ボールとか槍投げるのとは違うんだぞ。人間をそんな上手く投げれるはずがない」
 
 同じ重量の物でも、飛びやすい物と飛びにくい物はある。
 間違いなく人間は投げにくく、飛びにくい物だった。
 ニ十キロの鉄球とニ十キロの人間を、同じ力で投げても飛距離は大きく変わってくる。

 普通に考えれば無理な話だ。
 
「じゃあ他に何か……何か……」

 アヤメは違う策を練る為に、頭を巡らせる。

「アヤメちゃんを飛ばすの?」

 リッカが不思議そうな表情をしながらアヤメを見ていた。

「うん……できればと、思ったんだけど、さすがに無理かなぁって」
「昔ね、おばあちゃんに聞いたお話なんだけど」

「え?」

 いきなり始まった話に困惑するアヤメ。
 だがリッカは話を続けた。

「法術が無かった頃にね。魔法で空を飛ぶ人がいたの」
「う、うん」

「その人達はほうきにまたがって、空を飛んだんだって」
「へぇ……」

 まるで魔女の話だ。
 世界や文化が違っても、やはりどこかで似てくるモノなのかもしれない。

「だからアヤメちゃんもほうきに跨ったら、飛べるかもしれないよ」
「ほうきで空を飛ぶ……」

 もちろん『リ・バース』にそんな機能はない。
 リ・バースは空を飛べないゲームだった。

『魔人飛刀!』

 ミーミルがいきなり魔人刀スキルを放つ。

 しかし目標はシルバーパロックではなかった。

 ミーミルが放った闇の光波は、近くの木の枝を切り飛ばす。
 ミーミルはパロックを蹴散らしながら、木の枝を回収してきた。
 枝の余分な部分を刀で手早くそぎ落とす。


「よし、ほうきの完成だ」
「丸太じゃん」
「そうとも言う」

 一メートルくらいの長さの丸太である。
 アヤメをこれに乗せて、ミーミルが投げれば飛んでいくかもしれない。

「あはは」

 余りにぶっ飛んだ発想に思わずアヤメは笑ってしまった。
 正気とは思えない。

「はは……え? 本気でやるの?」
「やってみよう。駄目だったら戻って来い」

「本気なの」
「昔見た人気漫画で、殺し屋がな? 柱をへし折って、それを投げて、その上に乗って空を飛んでたんだ」

「本気?」
「あれ出来たら面白いだろうなぁ、って思ったんだよ」

「本気!?」
「やってみようぜ」


 やる事になった。





「無理じゃない? 無理じゃないの?」

 アヤメは丸太にしがみつきながら言った。

「いけるいける」

 そう言いながらミーミルは攻撃力強化のポーションを飲み干す。

「掴んでるだけだと振り落とされるかもな」

 襲って来るシルバーパロックを適当に追い払いながら、ミーミルは言った。
 勢いよく投げられるのだから、その加速についていかねばならない。
 いくらアヤメの力が人外であっても、丸太を握っているだけでは体を保持できないだろう。

「じゃあ私達もついてく!」「のりたいー」

 セツカとリッカがアヤメにしがみつく。
 そして二人は木霊触を発動させた。
 触手がまるでシートベルトのように三人に巻き付き、丸太にしっかり固定される。

「おお、今更だがコレいい案だな。セツカとリッカを安全に村にも届けられるぞ。護るのがマキシウスだけになって負担がかなり減る」
「そうかな……いい案かな……?」

 丸太にしがみつくアヤメには全くそうは思えなかった。

「とりあえず歌を頼む」
「……」

 アヤメはとりあえず『ジグラートの烈火』を歌い始めた。
 ミーミルの身体が赤く発光する。

「よし。後はちゃんと飛ばせるかどうかだが――」

 ミーミルは丸太に手をかける。

「ミーミル様」

 そこで様子を見ていたマキシウスがミーミルに声をかけた。

「どうした?」
「お二人は法術を使えない――そうですな」

「うむ」
「ならば、私がさらにミーミル様を法術で強化してみましょう」

 
 それは――一体どうなるのか?
 今まで一度もやった事がない。

 
「法術の上に法術を重ねる事はとても難しい技術です。しかしお二人が使っている技が、法術でないならば――」

 マキシウスはミーミルの背中に触れると、深呼吸をする。

 
火王結鬼掌フラーム・ギガスストレングス

 
 その瞬間、ミーミルの身体に底知れない力が漲って来た。

「おお!? ええ!? なんだこれ!」
 
 ミーミルは思わず自分の身体を確認する。
 アヤメの歌が二重にかかったような感覚であった。

 マキシウスは法術を唱え終わると膝をつく。
 かなり体に負担をかける法術のようだ。

「ふぅ……。私が使える最高の法術をかけました。効果時間は短いですが、大幅に筋力を強化できるはずです」
「ありがとうマキシウス」

 ミーミルは、そう言ってまた近寄ってきていたシルバーパロックに刀を振る。

 
 いきなり空気が引き裂かれるような音が響く。
 シルバーパロック達と一緒に、地面が抉れて吹き飛んだ。

 さっきと同じように刀を振るっただけである。

 特殊なスキルは使っていない。
 しかし威力がケタ違いに上がっている。
 
「い、威力がおかしい」
 
 ミーミルもさすがに驚いている。

 それを見てアヤメはジェノサイドと戦った時の事を思い出していた。
 あの時も歌との相乗効果で、兵士の法術が異様な威力になったのだ。

 それと同じ事が、ミーミルに起きたのだった。
 
「マジでいける気がしてきたわ」

 ミーミルは自分の手を握ったり開いたりしながら言った。
 二人の木霊触固定だけでは、もしかしたら衝撃に耐えられないかもしれない。

 アヤメは丸太に貫手を放つ。
 丸太を持つのではなく、丸太に手を突き刺して固定した。

「その硬い物に指を突き刺すの慣れん。どう考えてもビジュアルがおかしい」

 アヤメは歌いながらミーミルは睨む。

「分かった。余計な事は無しにして投げればいいんだろ」

 良くはないが歌っているアヤメは反論が出来なかった。

 セツカとリッカがアヤメにしがみつく。
 二人は嬉しそうだった。
 
 ミーミルは三人の幼女が乗った丸太を担ぐ。

「方向はこっちだな!」
「うん! 村はあっち!」

 リッカが頷いた。
 
 ミーミルは一歩後ろに下がると、助走をつける。
 この世界に来てからの、ミーミルの全力遠投。
 どれくらい飛ぶか予想はつかない。
 

 
「うおおおおおおおおおおおおおらああああああああ!!!!」


 
 そして叫ぶと、丸太を槍投げの要領で射出する。




 丸太の先端が亜音速に到達した。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情され、異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

処理中です...