ごりごり

みかんと納豆と食パンの牛

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父さんと子供2

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何度お前が蘇ろうと殺してやる。

目が覚めるとそこはどこかの病院だった。世話してたらしい看護師さんが驚いた様にひゃっと声を上げてから、逃げるように病室を飛び出していった。

その後に大勢の人が部屋に入ってきて、健康状態を確認された後に警察官から事情を説明された。

なんでも僕の家に強盗が入ってきて犯人は未だ逃走中。...家は半分燃えてしまったらしいし、中にいた人は全員死亡が確認されたらしい。
ただ母さんが行方不明だと言われて僕は少し驚いた、きっと死んでしまったんだと思っていたから。それにどこにいると言うんだ?

襲ってきたやつの顔を聞かれたが、何も分からなかったと答えると警官は複雑そうな顔をしながら

「やはり呪いか…」

と小さな声で呟いた。

警官は僕から何も情報が得られないと知ると、お大事にと言って足早に帰っていった。
医者も身体の状態がまだ良くないから院内を歩かない事を言ってから直ぐに帰ってしまった。

やけに静かな室内を眺めながら、僕は今後の事を考えていた。僕のことを襲ってきたのは確かに父さんだった。でもあいつは僕が殺したはずなんだ。



僕がまだ3歳とかそんくらいの自我が芽生えたての記憶、それは父さんが母さんを殴っている光景からいつも始まる。
僕は姉ちゃんに抱きしめられて目と耳を塞がれてたけど、それでも聞こえてくる罵声にずっと怯えてた。

父さんは仕事から帰ってくると、飯が不味いとか風呂がぬるいとか簡単な事で僕たちに...正確には母さんと姉ちゃんに手をあげた。

母さんにはなんでできねえのかって、姉ちゃんには僕を守るのと口答えしたからって、僕にはこうなりたくなければ俺に逆らうなって言って、頭をぐわしぐわしと撫でてきていた。

そんな生活が姉ちゃんが小学校に行くまで続いて、学校で姉ちゃんのアザが見つかって問題になったらしい。教育委員会が家にやってきた。でも

「...うちには特に問題は無いので大丈夫です。」

やってきた委員会の人に母さんがそう言い放ったのを僕は一生忘れない。僕と一緒に部屋で遊んでいた姉ちゃんが

「おかーさん、?」

と言って玄関に向かう姉ちゃんに

「...っっはぁぁ...ごめんねぇ...ごめんねぇ...!!」

と泣きながら謝る母さん、その日も父さんは帰ってきて母さんと姉ちゃんを殴った。

それから僕が小学校に上がって、虐められて、姉ちゃんが助けてくれて、でも不登校になって。
ずっと家にいる僕に父さんはイラついてて、さっさと学校に行けと追い出された。
行きたくないなと公園でぼーっとしてる、そんな時に

「...ねえ、君どうかしたの?...もう学校始まってる時間だよね。」

声をかけてくれたのが透さんだった。
透さんは父さんと母さんの会社の同僚で、ずっと母さんを見かけなくて心配になって家に来ようとして僕と会ったらしい。

そこから僕と透さんの関係が始まって、僕はこんなお父さんいたらいいのになと思うようになった。
透さんも母さんが好きっぽいし邪魔なのは父さんだけ、でも逆らえないし...と思っていた日だった。

透さんと会った日、家に帰ると父さんが母さんをまた殴っていた。いつもはそれだけなんだけど、今日は違った。近くに姉ちゃんが倒れてた。

血を流して倒れてて、母さんもぐったり倒れてて、父さんはこっちを見ると

「おっ勇斗も帰ってきたのかーじゃあ一家心中と洒落こみますか!」

そう言って僕に襲いかかってきた、僕は咄嗟に持っていたバッドで父さんを殴った。何度も何度も何度も何度も何度も



その後は透さんに何とかしてもらった、というのが正しいのだろうか?透さんを呼んだのは覚えているがそこからの記憶が無い。
ただ確かなのは、その後父さんは行方不明扱いになって、しばらくしてから透さんと母さんは結婚したという事だ。

...僕が殺したんだ、父さんを。なのに出てきたって事はもしかしたら生きてたのかもしれない。あの日以降父さんの話題は出なくなったし分からない。

父さんが生きてるなら殺すしかない...姉ちゃんを殺したのは父さんだ。

絶対に許さない。もう何回でも殺してやるんだ。警察には頼らない。何度でも何度でも

僕は少し息を吸った、そしてベッドから起き上がってみた。ちょっとばかしふらつくが医者が言っていた程では無い。恐らく僕をこの部屋から出したくないんだろう。

「大丈夫だよ、大丈夫。君らには興味無いから」

そう言いながら僕は病室を開けようとした。...が、外側から鍵がかかっている。窓から降りるにもここは4階、またここに戻ってくることになる。

...父さんが来るまではここにいる事になるのかと少しうんざりしながら僕は眠りについた。
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