子犬はオオカミさんに包まれていたい♡

金色葵

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窓の外を見つめながら思い出す記憶

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自分がそう評されることがある、ということは知っていた。大学でもそう言われることが多い。
医学部と獣医学部に属している近衛はちょっとした有名人であり、その上両学部でトップの成績を誇る近衛は、周りから幾度となくそう言われてきた。『こんなことができるのは天才に違いない』『狼上くんは天才だからこんなことができるんだよ』、尊敬、やっかみ、羨望、そう言った気持ちを『天才』というその一言にこめ、何度向けられてきたことだろう。
それを聞くたび、言われるたび、近衛は苦笑いを浮かべるしかなかった。
近衛はただ、大事な家族であるまめの死をきっかけに、もう二度と何もせず大事なものを失いたくない、という強い決心から、一心不乱に自分のすべてを勉強に捧げてきただけだ。人よりできるようになるには、人の倍勉強するしかない。単純で凡人な自分にはそれしか術がなく、寝る間を惜しんで勉強量を増やしている、ただそれだけなのだ。
だって近衛は知っている『本物の天才』というのがどういう人間なのか。
近衛は友人の王子のような美貌を思い出す。大河の噂は入学当初から轟いていた。大学入試を満点合格なんてどんな奴だと思っていたら、とんでもないイケメンでびっくりしたのを覚えている。大河はいつもキラキラと目を輝かせ、自分の興味と探求心をただただ純粋に追い求めていた。寝る間を惜しむ、ではなく寝る間を忘れて研究に没頭し、寝ていないことにさえ気付かない、そんな人間なのだ。目の下にクマができ、顔色が悪くなってもにこにこといつも楽しそうに研究と向き合っていた。
やらないといけない近衛とは違い、ただ楽しいことをしているだけの大河。やりたいから楽しいからしているだけの大河には、勉強や研究をしているという感覚さえないだろう。まあその分、人として大事な生活能力は壊滅的ではあるが。
近衛はふっと息を吐き出す。
(ああいうのが天才っていうなら、俺は違うな)
近衛は疲れを感じているし、帰ったら今回学んだことをもう一度復習しないとと思っている。
自分が目指していることは生半可なことではないと自覚しているからこそ、本当は毎日必死なのだ。
(ま......学生のうちに臨床の現場に立てることなんてあんまりないから、めちゃくちゃ勉強になったけど)
加藤にまで天才と言われるとは思わなかった。からかわれているだけかもしれないが、と近衛は自嘲気味にに笑った。
(天才なんて、俺には程遠いのに......)
苦しさにも似た思いが胸の中に燻り、近衛は視線を俯かせる。
瞬間。
『近衛先輩はほんと努力家。すごいな......』
『また夜更かししてる! もう寝ないと体に悪いよ!』
『近衛先輩が努力家なのは知ってるけど......俺は先輩が心配でっ......』
一緒に暮らす前、そして暮らしてから光琉に言われた言葉の数々が蘇る。それが一瞬で近衛の苦しさを癒し、心を温めた。
自分が決めたこと、覚悟もしていたし大変なことだって分かった上で選んだ道。だからこそ死ぬほど努力を重ねているのに、周りは結果だけを見て簡単に人にレッテルを貼る。何も知らず、近衛を天才だともてはやす周りを、見て見ぬふりをしていたけど、きっと近衛は傷ついていたのだ、そう言われるたび。自分の身を削った努力を、そんなたった一言で片づけられているような気がして。
それに自分でさえ気付いていなかったのに。
だけど光琉は違った。最初から本当の近衛を見てくれていた。近衛の努力に気付いて、それを見つけてくれた。
(自分を見ていてくれる奴がいるって、こんなに嬉しいことだったんだな)
伝えたら光琉はきっと、そんなの当たり前だと首を傾げるだろうけど。それがどれだけ近衛の支えになっているか光琉は気付いていない。光琉の存在があるだけで、近衛はどれだけだって頑張れるし、やらないとと思っていた勉強さえ楽しいと感じることができる。だって自分のやってきたこと、これからやることはすべて光琉の存在が認めてくれるし、光琉がいればすべて報われるから。
愛しくて堪らない。自分がこんなに誰かを愛する日がくるなんて、嬉しくて幸せで夢のようだ。大げさではなく光琉は近衛の生きる糧であり、生きていてよかったと心から思う存在だ。
愛しい、守りたい、可愛い、大好き。そう思う気持ちが、毎日とめどなく溢れてきて止まらない。
(愛してる、俺のひかる)
心の中でそう唱えるだけで、幸せな気持ちが際限なく広がっていく。それが近衛を温めて、さっきまでの苦しさはすっかり胸の中から消えていた。
近衛は光琉と初めて会った時のことを思い出す。
あの頃は心身ともに疲れ切っていて、半ば自分の夢を諦めかけていた時だった。

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