1億日連勤の転生女神、有休を取る

M.M.M

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訪問者+乱入者

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「はーい、どちら様ですか?」
「うわっ!すげえ美人じゃねえか!」

 ドアを開けて出てきた女を見るなりナガンが思ったことをそのまま口走り、兄のザガンはその足を踏みつけた。
 ぎゃっとナガンが悲鳴を上げるのを無視して彼は謝罪する。

「すまねえな。育ちが良くないもんで」
「いえ、気にしてません。それであなた方は……?」
「俺はザガン。こっちは弟のナガンだ。ここから西側に行った所にあるピモンドって村のモンで、この辺りで狩りをしてた。急にこんな屋敷が出来てたんで住人に挨拶しようと思ったんだが」

 半分は事実だ。
 彼らは正体の分からない相手を知るためにまずは友好的な態度をとってみた。もしもに備えて腰の蛮刀はいつでも抜けるようにしてある。

「まあ、それはご丁寧にどうも。私はエーレイン。職業は……まあ、特にありませんね」
「職がないのか?商家や貴族のボンボンみたいな遊び人か?」
「ナガン、黙ってろ。確認したいんだが、あんたは魔術師なのか?急に家を建てるなんて芸当ができるのはあいつらしかいないと思ったんだが」
「えっと……まあ、そんな感じです」

 曖昧な答え方だった。
 ひょっとしたら魔術師というのは虚勢で、この家を出現させた者はこの場所にいないのでは。弟のナガンはそんな都合の良いことを考えたのか、兄にちらちらと視線を送る。
 馬鹿な真似をするなと兄は目で返す。この女が魔術師かどうかよりも家の中に何人いるかのほうが重要だ。

「ここに住む気なのか?言っちゃなんだが、ここは獣も通るし、ごくたまに魔獣も出るんだぜ?女一人で暮らすにはいろいろ不便だろ?」
「それは心配してません」
「ああ、仲間か家族がいるんだな?」
「いえ、そういう……」

 彼女がそこまで言ったところで3人の耳にザザザッと草木をかき分ける音が聞こえた。
 3対の目がそちらへ向くと藪の中を何かが動いている。かなり大きい。

「なんだ?鹿か?」
「俺に任しとけ」

 弟のナガンが猟師の本能から矢を弓につがえる。
 また藪の中で動いた何かへ彼の矢が走った。藪が沈黙する。

「やったか?」

 ザガンの問いに弟は眉を寄せて「わからねえ」と答えた。
 次の瞬間、何かが飛来してナガンの肩を貫いた。

「ぎゃあっ!」
「ナガン!?」

 彼の肩には矢が突き刺さっていた。先ほどナガン自身の放った矢が。
 ザガンの全身に鳥肌が生じる。放たれた矢を飛ばし返す・・・・・魔獣に心当たりがあったからだ。
 彼は蛮刀を抜いて叫んだ。

「おい、姉ちゃん!仲間がいるならすぐ呼べ!ありゃ山賊猿だ!」

 その名前を言ったと同時に藪から茶色の毛に覆われた魔性の生き物が飛び出た。
 身長は10歳程度の人間ほど。1対の真っ赤な目と太い手足を持ち、手は足よりも太く長かった。

「山賊猿というのは何ですか?」
「魔物に決まってんだろ!」

 エーレインの呑気な質問にザガンは苛立った。
 弟は肩を射抜かれ、ほとんど戦力にならない。そしてこの魔物が噂通りなら自分一人でもおそらく勝てない。魔物はその名の通り魔術を使う生物で。ただの猟師の手に余る。

「ギギ、ギャギャ!」

 山賊猿の輪郭が青く光り、周囲にある木の枝や小石が宙に浮いた。
 念動力を遣う猿。先ほどのナガンの矢はこの力で防ぎ、同じくこの力で投げ返したのだろう。
 獲物を見つけると石や木を飛ばして負傷させ、安全な距離から獲物を嬲るように殺してゆく。その残忍さから山賊猿という呼称が定着した。

「悪いが家に避難させてくれ!しばらく籠城だ!」

 ザガンは彼女の腕をとって家に入ろうとした。
 話し合う余地などない。そうしないと全員死ぬからだ。
 しかしエーレインの体はびくともしない。まるで地面に根が生えたように。

「ギャギャッ!」

 山賊猿が念動力で小物を飛ばした。
 矢のような速度で飛来するそれから目と首をかばう兄弟。体に走る激痛を予期したが、いつまで経ってもその痛みはやってこない。ザガンが恐る恐る手を動かしてみると血まみれの山賊猿が倒れていた。

「え?な、何が……」
「兄貴、何が起きたんだ?」
「私が倒しましたけど、別にいいんですよね?」

 エーレインの言葉に二人は同時に「え?」と聞き返した。
 この女が山賊猿を倒した。どうやって。決定的瞬間を二人は見ていないが、血まみれの魔物という証拠がある。

「あの魔物ってこの近くでよく出るんですか?」
「ち、違う!」
「魔物なんてそうそう出てたまるかよ!」

 弟の言葉に兄は同意しつつも恐ろしくなった。
 彼女を怒らせたら自分たちもああならないという保証がない。
 そんな事は知らず、エーレインは安堵していた。

「滅多に出ないんですね?よかった。この辺りは魔物の溜まり場だなんて言われたらどうしようかと思いました」

 そんな場所に狩りに来る猟師はいない。
 ザガンはそう言いたかったが沈黙する。二人はこの女や屋敷をどうにかしようなどという気持ちはすでに消え、早くこの場から去りたい、いや、逃げたいと思った。

「あんたは本当に魔術師なんだな……」
「ナガン、怪我は大丈夫か?村に戻って手当するぞ」
「ああ……」
「あ、待ってください」

 エーレインに呼び止められて二人は悪寒を感じた。
 何をする気だ。まさか当初の目的がばれたのかと。

「実はお願いがあるんです。私はここで静かに暮らしたいので出来ればそっとして貰えます?ここの事を他人に教えないでほしいんです」
「わ、わかった!誰にも教えねえ!そうだな、ナガン!」
「あ、ああ!言わねえ!」

 弟は首が壊れそうなほど激しい頷きを繰り返した。

「助かります。あ、そうだ。お詫び……じゃなくてお礼にこれをどうぞ」

 彼女は青い液体の入った小瓶をどこからか出した。
 なぜか毒という単語が2人の頭をよぎる。

「怪我に効く薬です」
「そ、そうか。あとでナガンに使ってみるよ」
「え?俺に?」
「そうしてください」
「ありがとよ!さあ、帰るぞ、ナガン!」

 ザガンは余計な事を言おうとしたナガンの口を押え、早足で去る。
 湖のほとりからいくらか距離が離れた所で彼はやっと弟の口を離した。

「兄貴!あんな怪しい薬飲みたくねえよ!」
「黙れ!いいか、よく聞け。俺たちはとんだ化け物魔女を相手にするところだった。それはわかるな?」
「あ、ああ……」
「あいつを怒らせたら何をされるかわからねえ。俺たちはあいつの事を誰にも喋らない。お前が惚れ込んでる女にも言うな。わかったか?」
「わ、わかったよ……」

 頭の悪い弟が本当にわかっているのか。
 しばらく目を光らせる必要があるなとザガンは思った。




「あああああああ……やっちゃった……」

 外見こそ酷いけど礼儀正しく挨拶してきた猟師さん達を見送った後で私、エーレインは頭を抱えたわ。あの魔物がやってきたのはたぶんこの別荘が原因よね。まあ、あの薬で怪我は治るから貸し借りはなしってことで。
 この別荘ってひょっとして目立つ?迷彩色にでもしようかしら。却下!私の美的センスが許さないわ。でもどうしようかな。生き物がこの建物を見ても全然気にならない方法でもあれば……あれ?そういう術があったような……。

「あー!そうだ!知覚遮断の術があったじゃない!」

 単純な解決法を今になって思いついたわ。
 普通の生き物はこの屋敷の姿形を見ることができず、触ってもそこにあるとわからない。
 そういう神術を使えたのにまですっかり忘れてた。
 でも、今から術をかけてもあの二人はここに建物があると知ってるから違和感が出るわよね?記憶の改竄はすごく面倒だし……あーあ、もう手遅れだわ。他の場所に引っ越しちゃう?でも、せっかく別荘を創ったし、うーん……。
 ちょっと悩むけど、もう少しここに滞在してみましょう。
 さすがに2時間足らずで引っ越しするなんて嫌よ。今度こそ私の穏やか休暇が始まるはず。たぶん。
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