本気のキスは甘くとろけて

矢崎未紗

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本気のキスは甘くとろけて

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 今年の春に高校を卒業して大学生になったばかりの指原さしはら柚子ゆずには、七歳年上の恋人がいる。大学でできた友人の真帆が入っているサークルの先輩のお姉さんという、「知り合い」のカテゴリに入りもしないれっきとした他人が主催した合コンで出会った、大熊賢人という社会人だ。

 かなり前のことだが、そのサークルの先輩のお姉さん主催で合コンが開かれた。しかし参加予定者に欠員が出たので、その穴埋めとして真帆が参加することになった。そこまでなら柚子としては「ふーん」という程度の関わりでしかなかったのだが、当日にもう一人欠員が出てしまい、たまたまアルバイトの予定がなく帰宅するところだった柚子は、強引な真帆によってほぼ無理やり大衆居酒屋に連れていかれたのだ。
 相手の男性陣はおろか真帆以外の女性側のメンバーも「どちら様でしょうか」という状態だったが、生真面目な柚子は未成年なので慎重に酒を断りつつ、知らないなりに話を合わせ、広げ、相槌を打った。激しく気疲れをしたので、二次会のカラオケへは絶対行くまいと愛想笑いで辞退の言葉を繰り返し、どうにか一次会のみで帰宅することができた。しかし数日後、その合コンに参加していた賢人から、連絡先を教えてほしいというアプローチが真帆を通じて入った。当人の柚子よりもテンションの上がった真帆は、「早く教えちゃいなよ!」とこれまたやや強引にせっついた。あまりにも真帆が急くので、半ば真帆を満足させるために柚子は賢人と連絡先を交換し、何度か二人で出かけたのち正式に交際を申し込まれたのである。

 日本で最も権威のある大学を卒業して大手の証券会社に努めて四年目という賢人は、知れば知るほど二次元の世界のヒーローか、と思う人物だった。高校時代はサッカー部で、全国大会に出場したことがあるという。それなのに模試では常に成績上位で、予備校では一部費用免除の特別待遇を受けるほどだったらしい。プロになれるのでは、とも言われたらしいが本人は高校限りですっぱりとサッカーを辞め、今では普通のサラリーマンをしている。しかし、ぱっちりとした二重にしゅっとした鼻筋、スポーツをしていたのだと容易に想像できる首の太さと厚い胸板。女性ならば誰もが一瞬は見惚れるようなその容姿ならば、芸能界に興味はありませんかとスカウトされたことがあるに違いない。「普通のサラリーマン」と言うには、できすぎている。
 柚子には社会人二年目の兄がいるが、兄こそ「普通のサラリーマン」だ。まだ学生気分が抜けていなくて、毎日疲れたと愚痴をこぼし、そのくせ学生時代よりも財布の中身は潤っているので飲み会にはやたらと行って、早くもビール腹が育ちつつある。
 賢人のスペックは決して「普通」ではなく、高嶺の花と言っても過言ではない。なぜ彼が、高校を卒業したばかりでまだ垢抜けしきれていない柚子に交際を申し込んだのか、万人が疑問に思うところである。
 付き合う前のデートで、柚子は賢人に対して、不満や嫌悪感は一切抱かなかった。「好き」と思えるにはまだ少し気持ちが遠いところにある気がしていたが、「付き合ってほしい」と言われた際には素直に「嬉しい」と思えたので、恐れ多くもその申し出を受けた。けれど、自分は遊ばれているだけなのかもしれない。何度もそう思った。

 賢人は人目を惹く印象的な見た目と違って、常に落ち着いていた。急に声を荒げたり激しく気分を変えたりすることはなく、メッセージアプリでのやり取りでもたまにする電話でも、いつも一定のテンションを保っていた。そして大手の証券会社だからなのか、賢人の仕事はいつも忙しそうだった。急な仕事でデートをキャンセルすることは何度もあったし、取引先の相手の希望であれば、キャバクラへ行くことも珍しくはないようだった。柚子に知る術はないが、もしかしたら一人や二人、店外での付き合いのある顏馴染みのキャストもいるのかもしれない。
 ハイスペックで、仕事のできる社会人の恋人。ただの大学生にすぎない自分には、正直もったいない相手だと柚子は思う。

 だから、つい何度も思ってしまう。彼にとっての自分は、年下で言いなりにさせやすく、社会人よりも日々の時間に余裕がある学生だから、都合のいい存在でしかないのではないか。多忙な日々の合間にちょっと遊ぶ程度の恋人でしかないのではないか。普段は充電器に挿したまま放置しておいて気が向いた時だけ手を伸ばすゲーム機のようなものだ、と。
 賢人と付き合い始めてから半年以上、柚子は何度も卑屈にそう考えた。しかし、遊び相手にすぎないのではないかと考えると、ひとつだけ腑に落ちないことがある。それは、賢人がキス以上のことをしてこない、という点である。
 ファーストキスは高校生の時にすませてしまった柚子だが、セックスの経験はまだない。七歳も年上の賢人は当然あるだろうが、不思議なことに柚子に手を出す気配がなかった。夕食を終えたあとは終電がなくなる前に必ず柚子を送り返すし、怪しげな空気のバーに誘うだとか、無理やり飲ませて酔った勢いのままホテルに直行だとか、そんなことも一切ない。賢人は一人暮らしをしているそうだが、自宅に柚子を招くこともなく、健全な屋外でのデートしかしない。もしも本当に「遊び相手」にすぎないのならば、さっさと身体の関係を持ちたがるのが当然のような気がする。

 遊びにすぎないのか、そうではないのか。遊びでないなら、絶妙に縮まらないこの距離感はいったいどうしたらいいのだろう。付き合っているはずなのに見えない線が明確に引かれているようなほんの少しの寂しさは、いつになったら消えるのだろう。

「電車、間に合うか?」

 賢人は自分の左手首の腕時計と駅の改札機の上部にある時計の両方を確認してから、柚子に尋ねた。

「はい、大丈夫です」

 柚子はこくりと頷く。
 日曜日の今日は、久しぶりに長い時間、賢人と一緒にいられた。長く首都圏に住んでいるが実はまだ行ったことのない最新の巨大電波塔に行って観光し、のんびりと食事をして、途中でスイーツの食べ歩きもした。そして、今日は夕飯前に別れることになっていた。

「また連絡する」

 背の高い賢人は柚子を見下ろす。電車なんてまだいくらでも走っている時間なのに、柚子には門限なんてないのに、まるで早く柚子を家に帰さねば、という空気感で、賢人は別れのその瞬間が来るのを待っている。
 ターミナル駅を行き交う大勢の人々。その中の何人かの女性が、賢人にちらちらと視線を向けているのがよくわかる。芸能人と並んでも見劣りしなさそうな賢人は、しかし自分に注がれる視線などすべて無視して、ただ柚子だけを見つめていた。

「じゃあな」

 別れを告げる言葉。
 ああ、「好きと思えるにはまだ遠い」なんて思っていたけど、今ははっきりとわかる。この高嶺の花のような恋人のことが、とても好きだ。だって、別れのその言葉が、胸に突き刺さってとても痛い。まだ「じゃあね」なんてしたくない。その言葉が胸の中に冷たく広げる寂しさに濡れながら、帰りの電車になんて乗りたくない。もっと一緒にいたい。もっともっと傍にいたい。

「柚子?」

 いつもならおとなしく「はい、また今度」と返すはずの柚子が黙ったままなので、賢人は怪訝そうな表情になった。

「あの、賢人、さん」

 最近ようやく呼べるようになってきた彼の名前を、柚子はぎこちなく呼んだ。呼び捨てでいいと彼は言ったが、呼び捨てにできる勇気はまだなく、かろうじてさん付で呼べるようになったばかりだ。

「今日……賢人さんの家に行っても……いいですか」

 緊張で全身が縮こまってしまっていた柚子の声はとても小さかった。
 ちゃんと聞いてもらえただろうか。自分の声は賢人に届いただろうか。柚子は賢人の顔を直接見ることができず、自分の手で自分の手をもじもじとさすりながら、賢人のウェストあたりをそれとなく見つめる。
 しばらくの間、賢人からの返事はなかった。もしかしたら柚子の声が小さすぎて聞こえなかったのかもしれない。あるいは聞こえていたが承諾しかねるので、断りのための言葉を探しているのかもしれない。
 柚子は緊張したまま永遠にも思える時間を感じたが、やがて賢人は柚子の手を取ると、目の前にある柚子が乗るはずの路線の改札ではなく、自分の自宅に向かう地下鉄の改札を目指して歩き出した。



(キスって……こんなに甘いんだ)

 初めて訪れた賢人の部屋は、築浅と思われるきれいなマンションの一室だった。あまり物は持たない主義なのか、ワンディーケーの室内はすっきりと片付いていて生活感は薄い。けれど、部屋の隅のスチールラックの上には高校時代のものと思われるサッカーの賞状とトロフィーがあって、なんだかかわいいと柚子は思った。
 バッグをダイニングの床に置いて案内された洗面所で手洗いとうがいをした柚子は、短い廊下の壁を背にして賢人に囲われ、顎を固定されて深い口付けをされた。ディープキスはこれまでにも数回ほどしたが、今日の賢人はどこか余裕がなく、彼の舌はいささか性急に、柚子の口内と唇を舐め取っていた。

「んぅ……」

 長い口付けの終わりに、柚子は小さな息を吐き出す。それから、恐る恐る賢人を見上げた。至近距離で見つめれば、整った顔の作りをまじまじと観察したくなってしまう。くっきりとした二重に、長いまつげ。やや小顔だが首は太く、今でも定期的に運動をしているのか、着ているシャツは少し窮屈そうで、その布の下にある筋肉の硬さが見て取れる気がした。
 何かを言いたい、言わなければならない。そんな焦りを柚子は感じたが、うまく言葉が出てこない。これからここで何が起きるのか、何もわからないほど子供ではないつもりだ。けれど、この空気をどう動かして手懐ければいいのかはわからない。

(私は……)

 勇気を出して、部屋に行ってもいいかと尋ねた。そしたら賢人は黙ってここへ連れてきてくれた。きっとこれから、抱いてもらえるのかもしれない。それは緊張するが嬉しいことで、嫌なことではない。だがその前に、訊いておきたいことがある。どうしても確かめたいことがある。

「遊び相手……ですか」
「なに?」

 柚子の言葉が突拍子もなかったのか、賢人の眉間に皺が寄る。端麗な顔だと、少しでも不機嫌そうな表情になるとそれだけでかなりの迫力が出る。

「私は、賢人さんにとって都合のいい彼女……ただの遊び相手……ですか」

 きっと、彼の周りには魅力的な女性が大勢いることだろう。これだけのスペックと優良な容姿を持っているのだから、合コンの誘いもお付き合いの誘いも、彼にはいくらでも降ってくるに違いない。そもそも、自分たちの出会いも合コンだった。
 それなのに、突出した良さなど何も持っていない平凡な自分を恋人にしていることが、柚子には信じられない。都合のいい遊び相手だと言われた方が、まだ納得できる。

「おい、柚子」

 俯いた柚子の両頬に手を添えて、賢人は柚子の顔を上げさせた、するとその拍子に、柚子の両目から一滴の涙がはらり、と頬を伝った。

「ひっ、く……」
「なんで泣くんだよ」
「だって……わからない」
「何が」

 賢人の声は少し尖っていて、決して優しくはない。なぜだか怒っているようだ。
 そのことに柚子は気付いていたが、賢人のことを慮るよりも、自分の中に溜め込んでいた不安を一気に吐き出してしまうことにした。

「私……私なんか、賢人さんと釣り合わない……。平凡だし、普通だし、何も……何も、賢人さんみたいにすごくない……好きになってもらえるところなんて、ない」
「だから俺に遊ばれてると思ってたのか」

 賢人の声に冷たさが混じる。ああ、完全に怒らせてしまった。柚子は一抹の恐怖を覚えたが今さら否定することはできず、こくりと頷いた。

「あのな、柚子」

 賢人は柚子の顔を少しだけ自分の方に引き寄せると、前髪のかかったひたいにちゅ、とキスをした。それから、親指で柚子の涙を拭う。

「俺は品行方正だった……とは、まあ……あまり胸を張って言えない気もするが、お前のことを遊びだと思ったことは一度もない」
「でも……」
「なんて言えばいいんだ」

 賢人は柚子のひたいに自分のひたいをごちん、と当てると懸命に言葉を探した。

「好きになった理由を言えばいいのか。なら簡単だ。一目惚れだよ。あの合コンで、参加者全員に気を遣いながら笑顔を絶やさないようにしていたその懸命なところが、すごくいいと思った。それに、かわいいと思ってる。柚子が自分を他人と比べてどう評価するのかは自由だが、俺は柚子のこと、めちゃくちゃかわいいと思ってるよ」

 賢人は柚子のひたいから顔を上げると、柚子を見下ろした。

「俺は柚子のことが好きで、心底大事にしたいと思ってる。だから身体目的なんて万が一にも思われたくなくて、これまで手出しもしなかった。まあ、でも……言うは易しだが信じにくいよな。デートのドタキャンはするし、仕事の付き合いならキャバクラも行くしな。でも勘違いすんなよ。同伴とかましてや風俗とか、柚子以外の女とそういう一対一の付き合いは一切してないからな」
「ほ……ほんと、ですか」

 遊びじゃないの? 大事に思ってもらえているの?
 まだぽろり、ぽろりと涙をこぼす柚子に、賢人は再び口付けた。とてもやさしくゆっくりと柚子の唇を食み、少し離しては再び口付ける。手探りで柚子との距離を縮めながらも、もっともっと近付いて重なりたいとでも懇願するように。

「ただの遊び相手なら、こんなキスはしねぇよ」

 賢人は苦笑した。
 一時の遊び相手のつもりなら、さっさと抱いていただろう。帰りの電車の時間の心配なんてしないし、ドタキャン後のデートで心から申し訳なく思って謝りもしない。外見や経歴などわかりやすいスペックで他人と比較したら、確かに柚子は凡人中の凡人かもしれないが、他人との比較なんて賢人にとっては意味がない。控えめながらも一生懸命に和を保とうとする柚子のことは、本当に心の底からかわいく、そして愛おしいと思っているのだから。

「風呂、使うよな」

 呼吸は浅いが、一応涙の止まった柚子に賢人は声をかけた。柚子はこくりと頷き、賢人からタオルと、そして着替え代わりの彼のシャツを受け取ってシャワーを浴びる。浴室から出てきた柚子と交代で賢人もシャワーを浴びると、二人は寝室のベッドの上で向かい合った。

「それに、柚子は若いからな」
「え?」
「何かとコンプライアンスのうるさい世の中だろ。いくら高校は卒業していてもまだ成人していないわけだし……そんなに焦ることもないと思うぞ」
「それは……でも」

 柚子は賢人の太ももの上に手を置くと、下から見上げるようにして賢人の顔をのぞき込んだ。

「私が、もっと賢人さんと近付きたいから」
「そう言われたら据え膳食わぬは男の恥だが……本当にいいんだな」
「はい」

 柚子はぎこちなくほほ笑む。すると、賢人は柚子の身体をそっと押してベッドの上に仰向けにさせた。それから、柚子に覆いかぶさるように四つん這いになると、角度を変えて何度も何度も柚子に深く口付けた。

「んっ……!」

 賢人の大きな手のひらが、柚子が着ているシャツの中に侵入する。その指は柚子の乳房を全方位からやわやわと揉み、中程度のサイズの感触を楽しんだ。それから賢人の手はさっと柚子の背中側に回り、ブラジャーのホックをいとも簡単に外す。あまりにも慣れ切ったその手付きは、賢人の女性経験が決して少なくないのだということを柚子に感じさせたが、初めて異性にふれられるというシチュエーションに、柚子の思考はとっ散らかっていっぱいいっぱいだった。

「あ、あのっ」
「待たない。なるべく優しくするが、柚子が泣き叫びでもしないかぎり止まらないから、覚悟しろ」

 その言葉通り、賢人は柚子のシャツを脱がせ、ブラジャーもあっという間にはぎ取った。自身もボクサーパンツ一枚になると、夜が始まったばかりの薄暗い室内の中にさらされた柚子の赤い果実をぱくりと口に含んで舌で転がした。蛇のような舌先が柚子の乳首を転がし、それからぐるりと円を描くように乳輪を舐める。食われていない方の乳首は指でつままれ、弾かれ、こすられ、とにかく刺激され続ける。

「んぁ……はぅっ……」

 生まれて初めてされる胸への愛撫。賢人の手付きが生み出すじれったくも艶やかな心地は、自然と柚子になまめかしい声を上げさせていた。

「ゃああっ……ああっ…」

 賢人の愛撫はとどまるところを知らず、揉んでは舐め、舐めては吸い、左の次は右、右の次は左、時には同時に、たまに鎖骨や唇に移ってはふれるだけのキスをし、柚子の細い腰にまで愛撫の手が伸びる。そしてその手は少しずつ下半身に近付き、柚子の白い太ももをなでさすった。最初は外側をなでていたその手が内側にすべり、パンティの上に賢人の手が乗ったその瞬間、柚子ははっきりと賢人の名を呼んだ。

「あの、賢人さんっ」

 柚子は無自覚のうちに閉じてしまっていた目を開いて賢人を見上げる。賢人は穏やかながらも、獲物を前にして興奮している獣のような眼差しをしていた。

「どうした?」
「なんか……変な感じです」
「変って?」

 賢人の口元がニヤりとつり上がる。意地悪い笑みだ。
 柚子は説明するための言葉を探したが、上半身を覆う不思議な感覚をなんと表現したらいいのかわからない。それと、下半身を侵食しつつある切なさについても。

「感じてる、ってことか」

 柚子が言葉に詰まっている様に満足したのか、賢人は柚子の身体をなぞる動きを再開した。それは柚子を焦らすものではなく、柚子を完全に追い込むための行為の始まりだった。

「んぅっ……あっ……」

 賢人の指が、パンティの上から柚子の秘所をやさしく上下にさする。繰り返される指の往復は、徐々に柚子のそこに熱を生み出していった。

「んっ……や、賢人、さんっ……」

 頬を上気させた柚子が、ちらりと賢人を見つめる。甘い声とその物欲しげな視線に我慢ができなくなった賢人は、柚子の下着に手をかけた。柚子の腰を浮かせて、あっという間にそれをはぎ取ってしまう。そして柚子の両足を左右に大きく開いた。

「やだっ……!」

 空気が股の間を通る。その感覚にはっとした柚子は足を閉じようとした。身体の中で一番恥ずかしい部分を賢人の前にこんなおっぴろげにしなければならないなんて、羞恥で身体中の血が沸騰しそうだ。

「見せろよ。柚子のえっちなところ」

 賢人は制止しようとする柚子の手を払いのけると、柚子の太ももを持ち上げるように固定した。すると、女壺からわずかに垂れている愛液も、ぷっくりと充血した花弁も、その花弁から顔をのぞかせた赤貝も、何もかもが丸見えになった。

「いや……恥ずかしいっ」
「いいぜ、その顔。すっげー、そそられる」
「賢人さんの意地悪っ!」
「好きな女をいじめたいのは、男の性なんだよ」

 賢人はそう言ってから背中を丸めると、大胆に開かれた柚子の秘所に唇を落とした。そして、瑞々しく張った小さな豆をはむり、と唇で挟み、ちろちろと舌で舐める。その刺激に柚子の腰がびくんびくんと揺れ、鳴き声にも似た嬌声が上がった。

「や、やだっ……そんな、汚い、ところっ」
「さっきシャワーをしたから汚くなんかねぇよ。それより、おとなしく気持ちよくなっておけ」

 恥ずかしさを隠すように、柚子は両手で自分の顔を覆う。賢人の行為も、賢人に舐められている自分の股も、何も見ていられない。けれど、視覚情報がなくなった分余計に、賢人の舌先や指先が、自分の女の器官を愛撫していることがよくわかる。ワレメがなぞられ、蕾は先ほど乳首にされたようにコリコリとはじかれ、そのたびに、電流が身体中を駆け巡るような感覚に襲われ、柚子はただ身悶えた。賢人の指が肉壺に入っていくと、柚子は自分でもはっきりと、そのナカがしとどに濡れていることを感じた。

「濡れてるから大丈夫そうだな」

 賢人は下着を脱いで自分も素っ裸になると、枕元にあらかじめ出しておいたコンドームをささっと自分の肉棒にかぶせる。そして、軽いキスを柚子と交わすと、柚子の膣内へゆっくりと分身を埋めていった。

「いっ……た……やっ……痛いっ」

 裂けるような鋭い痛みが、柚子の下半身に広がる。目の覚めるようなその痛みに、柚子は自分の身体の横に置かれている賢人の腕に爪を立てた。

「痛いか。少し我慢してくれ。止めらんねぇんだ」

 柚子の目尻に涙が浮かぶ。それを見下ろしても、賢人は腰の抽送を止められなかった。
 遊びなんかじゃない。合コンで出会ったあの日から、本気で好きだった。柚子の気持ちがまだ自分に向いていないことはわかっていたが、万が一にもほかの誰かにとられたくなくて、彼女の気持ちが曖昧な時期に告白してしまった。断られる可能性も十分覚悟していたが、交際を承諾してもらえて天にも昇る気持ちだった。付き合い始めてからは、何度も抱きたいと思った。けれど、これまでしてきたような浅くて雑な付き合いはしたくなくて、思いとどまっていた。柚子のことが本当に好きで、大切で大事にしたいからだ。
 でも、その我慢はもう要らない。「遊び相手なんじゃないか」と不安に思う柚子は、裏を返せばしっかりと、好いてくれたのだろう。つまり、いとしく思うこの気持ちはもはや、ためらうことなくぶつけていいのだ。
 大事にしたいから抱けないでいた恋人を、ようやく抱ける。やっと柚子のナカに入れる。柚子とつながれる。性行為が初めての柚子にとってそれはまだ痛みを伴うものでしかないとわかっていても、我慢などできるはずもない。賢人は挿入と後退をゆっくりと繰り返し、奥深くを穿つスピードを徐々に上げていった。

「ああっ……やあぁっ……んっ」

 ろくな言葉の言えなくなった柚子は、ただ賢人に揺さぶられるたびに甘い悲鳴を上げた。何度か出し入れを繰り返されているうちに痛みは少しずつ小さくなり、今はただ、自分のものではない熱い存在が内臓を突き動かしているように感じた。

「柚子、大丈夫か」
「は、い……なん、とか」
「もう少し頑張ってくれよな」

 そう言うやいなや、賢人は激しく腰を打ちつけた。

「ああっ……! んぅっ、あんっ……あぁんっ」

 突かれる。まさにその言葉がぴったりだ。何度も何度も、賢人が動くたびに身体が突かれる。内臓が――強いて言うなら子宮が、ぎゅっと押し上げられる。

「柚子のっ……ナカ、すげぇ気持ちがいいっ」

 搾り取られるような締め付けに、賢人もなまめかしい声を漏らした。陰茎の出し入れをするたびに、賢人と柚子の足の付け根の皮膚が当たり、パンパンという音がする。自分がいま彼女を犯しているのだと思うと、興奮で目の前が白くなる。

「はぁっ……ああっ……」

 柚子の内ももが震え、足の指先に力が入る。何かが張り裂けそうな、それとも身体から出て行ってしまいそうな、不思議な不安。

「柚子っ……イくっ!」

 賢人が小声で啼く。
 賢人は柚子に乱暴に口付けると、押し付けるように舌をからませた。

「っ……!」

 キスをしたままの二人に、波が来る。
 細かく何回かにわけて、最後の腰振り。
 どくどくと抜けていく。コンドームの中に、白い精液が吐き出される。

「はぁ……」

 賢人の吐息がひとつ。その色っぽい声は、賢人が快感を得たことを物語っていた。

「はぁ……んぅ……」

 賢人が柚子のヴァギナから肉棒を引き抜くと、柚子は最後の一滴とばかりになまめかしい吐息を漏らした。柚子は目を閉じたままぐったりとしており、その下半身は痙攣を起こしていて動くに動けないようだった。

「柚子」

 賢人は全力疾走したあとのような疲労感を覚えたが、深呼吸を繰り返してから、ゆっくりと落ち着きを取り戻す。それから、目を閉じている柚子の顔をのぞき込んだ。まるで寝ているようだったが意識はあり、賢人に名前を呼ばれると柚子はゆっくりと目を開いた。

「大丈夫か」
「はい……」
「頑張ったな。痛かっただろ。優しくしてやれなくて悪い」

 賢人は柚子の頭をそっとなでながら謝った。

「賢人さん、ごめんなさい」
「お前が謝ることは何もねぇだろうが」
「でも私……変な風に疑っちゃって」
「そう思われても仕方ねぇからな、俺の行動は」

 賢人は苦笑する。付けっぱなしのコンドームをふと見れば、今にも溢れそうなほどの精液で満ちていた。

「遊びじゃねぇよ。俺は本気だ。本気で柚子のことが好きで、この先もずっと、なるべく一緒にいたいと思ってる。だから、柚子も自信を持ってくれないか」
「はい……えっと……善処します」
「なんか妙に頼りない返事だな。柚子の方こそ、俺のことは遊びなんじゃないのか」
「ち、違いますよ! 私だって賢人さんのこと、本気で好きです!」
「そうか」

 賢人はニヤりと笑うと柚子のひたいに、瞼に、そして唇にキスをした。裸のまま抱き合ってするキスは今までで一番甘く、とろけそうだと柚子は思った。
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