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第09話 歴解派操言士と空白の物語
3.不思議な本(中)
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「――今はそれなりに紙が大量生産されているけど、それが難しかった時代、紙はとてつもなく貴重だったからよ。それに、大量の紙にいっせいに文字を書きつける生活器を操言士が発明するまで、すべて手書きだったからね。本の形にできたのが一冊だけ、という文献が少なくないのよ」
王黎ではない女性の声の解説が聞こえて、紀更は背後を振り向いた。するとそこには、よれよれのカーディガンを着た雛菊が立っていた。
「雛菊さんっ!」
「入館許可、無事に下りたのね」
「はい。あの、イレーヌ様のおかげだとラファルさんから聞きました。でも、イレーヌ様に掛け合ってくれたのは雛菊さんですよね」
紀更は嬉しそうに破顔し、雛菊に駆け寄った。雛菊はそっぽを向き、まあそうね、と小さな声でぶつぶつ答える。
「ありがとうございます、雛菊さん」
「別に。それより、読みたいものがあるなら出すわよ。貴重な本を慣れない手付きで扱われるのも心配だしね」
雛菊は早口で言うと、紀更と王黎に視線をやった。
「じゃあ、王家の家系図と三公団の組織図みたいなものをお願いしようかな。初代操言士の資料は、ここにはないもんね」
「ええ。じゃあ、あっち、窓際の閲覧テーブルで待っていてちょうだい」
雛菊が指差した方向には四人掛けのテーブルと椅子があり、王黎と紀更はそこに向かい合って座る。ほどなくして、雛菊が数冊の本を両手で持ってやって来た。
「王族の家系図はこっち。ついでに、王族のことが書かれた資料。それと、こっちが三公団に関わるものよ」
雛菊は慎重に、テーブルの上に本の山をふたつ作って指差した。
「王黎がいるなら解説は不要ね。戻すのもやってあげるから、読み終わったら声をかけてちょうだい。私は二階の奥にいるから」
「ありがとう、雛菊。そうさせてもらうよ」
雛菊は仏頂面で去っていく。紀更は座ったまま、ぺこりと頭を下げた。
「さて、まずは家系図から見てみようか」
王黎は本の山のひとつから、薄い冊子のような本を手に取る。そしてそれを丁寧にゆっくりと開いた。
「紙を留めるための糸が、なんだか長いですね」
「これはたぶん、新しいページを上に綴っていくためじゃないかな。ほら見てごらん」
王黎が広げた一ページ目には、現国王のライアンや二人の王子の名前が目に付くように大きく書かれている。その次のページには先代王チャルズの名前がひときわ大きく書かれており、ライアンの肩書きは王ではなく王子と記されていた。
「こうやって一代ずつ書いてページを足していくんだよ」
「なるほど。これ、さかのぼって見てもいいですか」
「いいよ」
王黎は紀更が見やすいように、本の向きを変えた。
「ライアン王のお姉さんがイレーヌ様で、二人姉弟。あ、シドニー王妃の生家がモワナール家って、ちゃんと書いてありますね」
紀更はページをめくる。
ライアンの母、つまり先代王チャルズの妃はオフレド家出身らしい。そしてチャルズには姉が二人、それから妹が一人いる。その妹はシャフマン家に嫁ぎ、生まれた息子が現ポーレンヌ城の城主になっているらしい。
「ライアン王のおじいさんの代はエドワード王とお姉さんの姉弟……女性が多いんですね、王族って」
夢中で家系図をたどる紀更を、王黎は黙って眺めている。
「エドワード王のお妃様も、やっぱりオフレド家出身」
紀更は食い入るように、家系図の隅から隅まで目を通す。四大華族の名字が頻繁に出てくるので、ブリアナが言っていたように、四大華族は本当に王家との関わりが深いのだと実感できた。
(ペレス家、ガルシア家、ノヴァーク家……)
一ページ、また一ページをめくる。
ライアン王、チャルズ王、エドワード王、アレクサンドロス王、フィリップ王、カール王――。そうして歴代の王家をさかのぼり、初代オリジーア王レバまでたどり着く。だが、そこで紀更は不思議なことに気が付いた。
「王黎師匠」
「なんだい」
「レバ王のお妃様は、どうしてお名前がないのでしょうか」
「名前がない?」
「はい。ここです」
紀更は初代王の家系図が書かれた、最後のページを指差した。
「初代王レバ、その息子で二代目の王であるザーライ。その二人の名前しかありません」
「ほんとだね。これが書かれた時、初代王たちのことはもう昔すぎて、お妃様の名前がわからなかったのかもしれないね」
「それと、もうひとつ不思議なんです」
紀更は家系図をぼんやりと見つめ、ゆっくりとページをめくる。
「女性が多いと思ったんですけど、違う……そうじゃなくて、歴代の王には一人も男兄弟がいません」
「一人も?」
「はい」
見落としはないはずだ。紀更は確かめるようにページを行き来する。
初代王レバから現王ライアンにいたるまで、この家系図によると王には代々、息子は一人しか生まれていない。娘なら何人か生まれているが、息子は必ず一人だ。そしてその息子が必ず次代の王となっている。
「偶然でしょうか」
「どうだろうねえ。何か事情があって書かれていないのかもしれないね」
「事情? 家系図に名前が書かれない事情なんてあるのでしょうか」
「うーん」
王黎は声の大きさを落として、とても言いにくそうに言った。
「王家は、実は一夫多妻が認められているんだ。次の王様が生まれないといけないからね。まあ、ここ何代かは一夫一妻だけど」
「一夫多妻?」
「二人以上の女性と結婚できる、ってことだね。たとえば最初に結婚した奥さん、つまり王妃様との間になかなか男の子が生まれないから二人目の奥さんと結婚する。そちらは王妃様とは呼ばれず第二夫人とか側室とか妾とかと呼ばれるけど、その第二夫人が男の子を産んだとする。次の王様はその男の子になるかと思いきや、その後王妃様にも男の子が産まれる。そうなると第二夫人の産んだ男の子は、言い方は悪いけど用済みだ。国王の長男ではあるけれど、立場としては第二夫人よりも王妃様の方が上だから、当然王妃様との間にできた男の子の方が優遇される。もしかしたらそういう用済みになってしまった男の子は、家系図に書かれていないかもしれないね」
「ここに書いてないことも、あるかもしれない?」
「うん、そういうこと。本は時代を超えて様々な出来事や知識を残しておくのに便利な手段だけど、そこに書かれていることが必ずしも真実で、一から百まですべての事実が網羅的に書かれているとは限らないんだ」
オリジーアにおいて、婚姻は比較的自由だ。婚姻可能な年齢、すなわち成人の十七歳になれば、当人同士の合意だけで結婚はできる。しかし一夫一妻が絶対だ。一夫多妻は王家以外には認められていない。だからなのか、王の第二夫人の息子が不要になるという話が、紀更にはどこか罪深いことのように思えた。
「でも、もしこの家系図が真実で不要になった王子様なんていなかったとすれば、レイモンド王子とサンディ王子はオリジーア王家初の、男兄弟の王子様ですね」
「まあ、そうなるね」
「サンディ王子が生まれた頃、私はまだ生まれていませんけど、騒ぎになったりしなかったんですか」
いまサンディは二十一歳だから、サンディが生まれた頃の王黎は九歳くらいだったはずだ。何か憶えているかもしれないと思って紀更は尋ねた。
「うーん……まあ、第二王子万歳、って喜びの声はあったかなあ。でも騒ぎにはなっていなかったと思うよ。城の中や四大華族はどうだったかわからないけどね」
当時のことをあまり記憶していななさそうな王黎は、曖昧に返した。
それから、紀更は三公団について書かれた本に手を伸ばす。わからない点や気になる点があれば王黎に尋ねることを繰り返し、時間は流れていった。
太陽が西に傾きかけた頃、紀更は視界の端に人影が見えたことに気が付き、本から顔を上げた。するとその人影は、紀更の横の空いている椅子にゆっくりと腰を下ろす。紀更とは別の本を読んでいた王黎も、ふと顔を上げてその人物を見つめた。
「こんにちは」
雑に伸びた金髪に、眠たげな暗い青色の瞳。やけに細い眉のその人物は王黎と紀更を見つめ、おもむろに話しかけてきた。
「こ、こんにちは」
「操言士団、国内部の、リカルドです」
「あ、私は、守護部の紀更と申します」
「うん、知ってる。不思議な、操言士だよね」
一語一語、言葉を選ぶように話すリカルドの口調はやけに緩慢としていた。
「王黎さん、も」
「うん、久しぶりだね、リカルドくん」
王黎に挨拶をしたリカルドは、紀更に視線を移した。
「本、面白い?」
「え、あ、はい。知らないことを知るのは、とても楽しいです」
「ん、いい子。飴、あげる」
リカルドと名乗った青年はズボンのポケットから飴缶を取り出し、紀更の手に一粒の飴を無理やり握らせた。
「飴は、すぐ舐めないと、べたべた」
「あ、はい」
紀更は手のひらの中の飴玉を口に入れ、舐め始める。小さいのですぐにとけてなくなりそうだ。
「王族に、興味が、あるの?」
「いえ……その、少し気になって」
「三公団も?」
テーブルの上に積まれた本の中身をぱらぱらと確認しつつ、リカルドは紀更に問いかける。口の中で飴玉を転がしながら紀更は答え、そんな二人のやり取りを王黎は黙って見守っている。
「何が、気になるの」
「えっと、同期の操言士の女の子がモワナール家の子で、王族とつながりがあると聞いたのでほかにそういう人がいるのかなって。ここの図書館なら、王家の家系図があると教えてもらって」
「王族との、つながり?」
「実際に見てみて気になったのは、レイモンド王子とサンディ王子が、たぶん、オリジーア王家初の、男兄弟の王子様かもしれない、ってことでしたけど」
「ん……飴、もう一個、あげる」
リカルドはもう一度飴缶を取り出したが、まだ口の中で飴玉を転がしていたので紀更は首を横に振って受け取りを断った。
「本は、書いた人の思惑が、必ず入る」
「書いた人の思惑? 王族の家系図なのにですか」
「そう。本は……紙の資料は、そういうもの。でも、だから、楽しい。ここは幸せ。たくさんの本に、囲まれて、わくわくする」
リカルドはまたもズボンのポケットをごそごそと探ると、本にしてはとても小さくてページ数の少ない冊子に近いものを取り出して紀更に渡した。
「それ、あげる」
「え、あげるって……もらえません。これはリカルドさんのでしょう?」
「大丈夫。それ、ここの図書館の」
「そっ、そんなの、もっともらえませんってば!」
紀更はおおいに戸惑い、その本をリカルドに突き返した。しかしリカルドは受け取らず、本を紀更に押し返す。
王黎ではない女性の声の解説が聞こえて、紀更は背後を振り向いた。するとそこには、よれよれのカーディガンを着た雛菊が立っていた。
「雛菊さんっ!」
「入館許可、無事に下りたのね」
「はい。あの、イレーヌ様のおかげだとラファルさんから聞きました。でも、イレーヌ様に掛け合ってくれたのは雛菊さんですよね」
紀更は嬉しそうに破顔し、雛菊に駆け寄った。雛菊はそっぽを向き、まあそうね、と小さな声でぶつぶつ答える。
「ありがとうございます、雛菊さん」
「別に。それより、読みたいものがあるなら出すわよ。貴重な本を慣れない手付きで扱われるのも心配だしね」
雛菊は早口で言うと、紀更と王黎に視線をやった。
「じゃあ、王家の家系図と三公団の組織図みたいなものをお願いしようかな。初代操言士の資料は、ここにはないもんね」
「ええ。じゃあ、あっち、窓際の閲覧テーブルで待っていてちょうだい」
雛菊が指差した方向には四人掛けのテーブルと椅子があり、王黎と紀更はそこに向かい合って座る。ほどなくして、雛菊が数冊の本を両手で持ってやって来た。
「王族の家系図はこっち。ついでに、王族のことが書かれた資料。それと、こっちが三公団に関わるものよ」
雛菊は慎重に、テーブルの上に本の山をふたつ作って指差した。
「王黎がいるなら解説は不要ね。戻すのもやってあげるから、読み終わったら声をかけてちょうだい。私は二階の奥にいるから」
「ありがとう、雛菊。そうさせてもらうよ」
雛菊は仏頂面で去っていく。紀更は座ったまま、ぺこりと頭を下げた。
「さて、まずは家系図から見てみようか」
王黎は本の山のひとつから、薄い冊子のような本を手に取る。そしてそれを丁寧にゆっくりと開いた。
「紙を留めるための糸が、なんだか長いですね」
「これはたぶん、新しいページを上に綴っていくためじゃないかな。ほら見てごらん」
王黎が広げた一ページ目には、現国王のライアンや二人の王子の名前が目に付くように大きく書かれている。その次のページには先代王チャルズの名前がひときわ大きく書かれており、ライアンの肩書きは王ではなく王子と記されていた。
「こうやって一代ずつ書いてページを足していくんだよ」
「なるほど。これ、さかのぼって見てもいいですか」
「いいよ」
王黎は紀更が見やすいように、本の向きを変えた。
「ライアン王のお姉さんがイレーヌ様で、二人姉弟。あ、シドニー王妃の生家がモワナール家って、ちゃんと書いてありますね」
紀更はページをめくる。
ライアンの母、つまり先代王チャルズの妃はオフレド家出身らしい。そしてチャルズには姉が二人、それから妹が一人いる。その妹はシャフマン家に嫁ぎ、生まれた息子が現ポーレンヌ城の城主になっているらしい。
「ライアン王のおじいさんの代はエドワード王とお姉さんの姉弟……女性が多いんですね、王族って」
夢中で家系図をたどる紀更を、王黎は黙って眺めている。
「エドワード王のお妃様も、やっぱりオフレド家出身」
紀更は食い入るように、家系図の隅から隅まで目を通す。四大華族の名字が頻繁に出てくるので、ブリアナが言っていたように、四大華族は本当に王家との関わりが深いのだと実感できた。
(ペレス家、ガルシア家、ノヴァーク家……)
一ページ、また一ページをめくる。
ライアン王、チャルズ王、エドワード王、アレクサンドロス王、フィリップ王、カール王――。そうして歴代の王家をさかのぼり、初代オリジーア王レバまでたどり着く。だが、そこで紀更は不思議なことに気が付いた。
「王黎師匠」
「なんだい」
「レバ王のお妃様は、どうしてお名前がないのでしょうか」
「名前がない?」
「はい。ここです」
紀更は初代王の家系図が書かれた、最後のページを指差した。
「初代王レバ、その息子で二代目の王であるザーライ。その二人の名前しかありません」
「ほんとだね。これが書かれた時、初代王たちのことはもう昔すぎて、お妃様の名前がわからなかったのかもしれないね」
「それと、もうひとつ不思議なんです」
紀更は家系図をぼんやりと見つめ、ゆっくりとページをめくる。
「女性が多いと思ったんですけど、違う……そうじゃなくて、歴代の王には一人も男兄弟がいません」
「一人も?」
「はい」
見落としはないはずだ。紀更は確かめるようにページを行き来する。
初代王レバから現王ライアンにいたるまで、この家系図によると王には代々、息子は一人しか生まれていない。娘なら何人か生まれているが、息子は必ず一人だ。そしてその息子が必ず次代の王となっている。
「偶然でしょうか」
「どうだろうねえ。何か事情があって書かれていないのかもしれないね」
「事情? 家系図に名前が書かれない事情なんてあるのでしょうか」
「うーん」
王黎は声の大きさを落として、とても言いにくそうに言った。
「王家は、実は一夫多妻が認められているんだ。次の王様が生まれないといけないからね。まあ、ここ何代かは一夫一妻だけど」
「一夫多妻?」
「二人以上の女性と結婚できる、ってことだね。たとえば最初に結婚した奥さん、つまり王妃様との間になかなか男の子が生まれないから二人目の奥さんと結婚する。そちらは王妃様とは呼ばれず第二夫人とか側室とか妾とかと呼ばれるけど、その第二夫人が男の子を産んだとする。次の王様はその男の子になるかと思いきや、その後王妃様にも男の子が産まれる。そうなると第二夫人の産んだ男の子は、言い方は悪いけど用済みだ。国王の長男ではあるけれど、立場としては第二夫人よりも王妃様の方が上だから、当然王妃様との間にできた男の子の方が優遇される。もしかしたらそういう用済みになってしまった男の子は、家系図に書かれていないかもしれないね」
「ここに書いてないことも、あるかもしれない?」
「うん、そういうこと。本は時代を超えて様々な出来事や知識を残しておくのに便利な手段だけど、そこに書かれていることが必ずしも真実で、一から百まですべての事実が網羅的に書かれているとは限らないんだ」
オリジーアにおいて、婚姻は比較的自由だ。婚姻可能な年齢、すなわち成人の十七歳になれば、当人同士の合意だけで結婚はできる。しかし一夫一妻が絶対だ。一夫多妻は王家以外には認められていない。だからなのか、王の第二夫人の息子が不要になるという話が、紀更にはどこか罪深いことのように思えた。
「でも、もしこの家系図が真実で不要になった王子様なんていなかったとすれば、レイモンド王子とサンディ王子はオリジーア王家初の、男兄弟の王子様ですね」
「まあ、そうなるね」
「サンディ王子が生まれた頃、私はまだ生まれていませんけど、騒ぎになったりしなかったんですか」
いまサンディは二十一歳だから、サンディが生まれた頃の王黎は九歳くらいだったはずだ。何か憶えているかもしれないと思って紀更は尋ねた。
「うーん……まあ、第二王子万歳、って喜びの声はあったかなあ。でも騒ぎにはなっていなかったと思うよ。城の中や四大華族はどうだったかわからないけどね」
当時のことをあまり記憶していななさそうな王黎は、曖昧に返した。
それから、紀更は三公団について書かれた本に手を伸ばす。わからない点や気になる点があれば王黎に尋ねることを繰り返し、時間は流れていった。
太陽が西に傾きかけた頃、紀更は視界の端に人影が見えたことに気が付き、本から顔を上げた。するとその人影は、紀更の横の空いている椅子にゆっくりと腰を下ろす。紀更とは別の本を読んでいた王黎も、ふと顔を上げてその人物を見つめた。
「こんにちは」
雑に伸びた金髪に、眠たげな暗い青色の瞳。やけに細い眉のその人物は王黎と紀更を見つめ、おもむろに話しかけてきた。
「こ、こんにちは」
「操言士団、国内部の、リカルドです」
「あ、私は、守護部の紀更と申します」
「うん、知ってる。不思議な、操言士だよね」
一語一語、言葉を選ぶように話すリカルドの口調はやけに緩慢としていた。
「王黎さん、も」
「うん、久しぶりだね、リカルドくん」
王黎に挨拶をしたリカルドは、紀更に視線を移した。
「本、面白い?」
「え、あ、はい。知らないことを知るのは、とても楽しいです」
「ん、いい子。飴、あげる」
リカルドと名乗った青年はズボンのポケットから飴缶を取り出し、紀更の手に一粒の飴を無理やり握らせた。
「飴は、すぐ舐めないと、べたべた」
「あ、はい」
紀更は手のひらの中の飴玉を口に入れ、舐め始める。小さいのですぐにとけてなくなりそうだ。
「王族に、興味が、あるの?」
「いえ……その、少し気になって」
「三公団も?」
テーブルの上に積まれた本の中身をぱらぱらと確認しつつ、リカルドは紀更に問いかける。口の中で飴玉を転がしながら紀更は答え、そんな二人のやり取りを王黎は黙って見守っている。
「何が、気になるの」
「えっと、同期の操言士の女の子がモワナール家の子で、王族とつながりがあると聞いたのでほかにそういう人がいるのかなって。ここの図書館なら、王家の家系図があると教えてもらって」
「王族との、つながり?」
「実際に見てみて気になったのは、レイモンド王子とサンディ王子が、たぶん、オリジーア王家初の、男兄弟の王子様かもしれない、ってことでしたけど」
「ん……飴、もう一個、あげる」
リカルドはもう一度飴缶を取り出したが、まだ口の中で飴玉を転がしていたので紀更は首を横に振って受け取りを断った。
「本は、書いた人の思惑が、必ず入る」
「書いた人の思惑? 王族の家系図なのにですか」
「そう。本は……紙の資料は、そういうもの。でも、だから、楽しい。ここは幸せ。たくさんの本に、囲まれて、わくわくする」
リカルドはまたもズボンのポケットをごそごそと探ると、本にしてはとても小さくてページ数の少ない冊子に近いものを取り出して紀更に渡した。
「それ、あげる」
「え、あげるって……もらえません。これはリカルドさんのでしょう?」
「大丈夫。それ、ここの図書館の」
「そっ、そんなの、もっともらえませんってば!」
紀更はおおいに戸惑い、その本をリカルドに突き返した。しかしリカルドは受け取らず、本を紀更に押し返す。
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