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第一章 産声

第七話 神無月の産土。ー前編ー

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10月。あと3日で『出雲駅伝』が迫っている。区間も決まっており、僕は第4区⒍2キロを駆ける。今回の出雲駅伝には、立教大学だけでなく、北海道大学、東北学連選抜、亜細亜大学、創価大学、法政大学、東海大学、中央大学、明治大学、早稲田大学、北信越学連選抜、皇學館大学、中京大学、関西大学、関西学院大学、立命館大学、中国四国学連選抜、徳山大学、第一工科大学、日本文理大学、後はアメリカのIVYリーグ先発の全21大学&選抜チームが神有月の出雲で襷を繋いでいく。
神無月の国の者達が、神在月へ詣るのだ。
最後のトラックを回る。これを回ったら、もう出雲駅伝への練習ができなくなる。少しペースが遅くなる。前に浜田がいる。早く練習を切り上げ、僕を見ている。残り何歩くらいだろうか。この時、この場所だけ僕はIQが跳ね上がったかのように考えた。それほどに、恋しかったのだ。最後の一歩を走り切り、浜田に無言の笑顔を見せる。
野間監督「これで出雲への練習は、もう終わる。明日はしっかり休んでこい。そして明後日、東京駅集合で出雲へ向かう。各自、持ち物はメールを送信した。しっかり確認して出雲へ向かえ。」
『はい!』
ー明日ー
僕は近くの神社へ向かう。神無月にも神は宿っている。そう思い神社へ詣る。
「ふぅ」
少し肌寒い東京池袋。何も考えず、精神を統一する。一呼吸を経て、手を合わせる。
(出雲駅伝、高順位で終えますように。)
と、願いを神無月の神社の神に祈った。
アルバイトだって、非日常。僕は今は文系の国語の授業を担当している。今は小5の授業。
塾生「先生!いつもより、緊張してない?」
「そうなんだよぉー。先生明後日にちょっと出雲駅伝に出るんだよ。」
塾生「え!?それつすごいやつだよね!先生、頑張ってください!」
「うん!」
塾長「え、ちょっと何?横浜君、出雲駅伝出るの?今日早く切り上げるって、そういうこと!?」
「はい、あまり言いたくなかったんですが。」
塾長「体調に気をつけて!大団円になって応援してあげるよ!」
「ありがとうございます!」
ー出雲駅伝前日ー
東京駅へ着いた僕。30分、予定時刻よりも早くに。そこには、本馬の姿がいた。
本馬「お前もか、緊張、するよな。」
「うん、緊張しかしない。寝れないかも。」
本馬「そうだな。俺もだ。」
普段かっこいい本馬の何気ない非日常の会話に、本馬の可愛らしい一面が垣間見えた。友達とイメージというのは、友達の力の方がうんと強くて、イメージを超えることもザラにあるのだな。
星野先輩「お前ら、今日早いな。」
「はい。緊張しているので。」
星野先輩も、口数が少ない。みんなこの日はそういうものか。
星野先輩「立教は出雲駅伝、初めての出場だから、余計に緊張するな。目標は、7位とか、行けたらいいな。行けたら。」
「はい、星野先輩も、緊張しているんですね。」
星野先輩「まぁ、そういうことになちゃうな。」
僕を横目にさらっとかっこよく突き放たれた、一言。この一言にどれだけの想いが詰まったか。僕はわかりしえない。
野間監督「みんな着いたかー!出発するぞ!」
一同『はい!』
僕は浜田に隣の新幹線に乗車する。
夕方の東京駅を走り抜ける、新幹線。その中に僕ら立教大学駅伝部陣が乗っている。この新幹線はみんな緊張しすぎてお通夜モードだった。
宿舎に着いた僕ら。今日食べた夕食も忘れるくらいに緊張度がMAX。浮きそうな感じがしてたまらない。
浜田「ねぇ、寝れないよ、横浜。」
「おいおい、なんなら寝なければいいじゃん。」
浜田「そっか、そうだな!」
こいつはプラス思考バカだなぁとか思ってたら、結局一時になるまで寝れなかった。
みんなのいびきや寝相を眺めていたら、寝てしまっていた。
「立教大学!初出場!初優勝!!!その立役者でもある、立教大学一年、横浜快斗さんにインタビューします!横浜さん。今回の出雲駅伝に、どのような思いで臨みましたか?!」
「そうですね。ただ僕は…」
目が覚めた。あれは夢か、おかげて緊張がほぐれた。
神無月の神様に、僕は救われたのかもしれない。
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