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第8章 踏み込んだ関係
4. 心からの気持ち
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日が暮れて、空は薄い群青に染まりはじめていた。
強く降っていた雪は弱まり、地面には白く積もった名残が残っている。
吐く息はまだ白く、頬をかすめる風は冷たい。けれど、俺の胸の奥だけは、不思議と熱を帯びていた。
俺と南条は、いつも通り校舎裏から並んで帰っていた。
何かを話すでもなく、黙ったまま。
でも、それが心地よくて。沈黙すら、大切な時間のように感じていた。
南条の腕が、ふと俺の肩に触れる。
そのわずかな接触にさえ、心臓が跳ねる。
雪でかじかんだ指先とは裏腹に、胸の内はどこまでも熱かった。
この感覚を、ずっと味わっていたい。
そして、まるで何かに背中を押されるように、自然と口が開いた。
「……俺さ」
自分でも気づかないほど小さな声だったのに、南条はちゃんとこちらを見た。
夜風が吹き抜けて、制服の裾を揺らす。
なのに俺は、風なんかよりも、隣の彼のまなざしの方が気になって仕方がなかった。
「美術室で、ひとり絵を描いてたお前を見たとき……たぶん、あの時から……」
足元に視線を落としながら、ぽつぽつと言葉を並べていく。
「なんか……目が、離せなくてさ。意味もわからないのに、ただ、見てたかった」
南条は驚いたように目を瞬かせて、それからゆっくりと目を伏せた。
白い息を吐いて、小さく呟く。
「……僕は」
その声が、夜の静けさに吸い込まれていく。
でも、しっかりと耳に届いた。
まるで雪のように、そっと心に降り積もる声だった。
「白浜くんが……僕の絵を、初めて褒めてくれたとき」
言葉に迷いながらも、南条はゆっくりと言葉を紡いだ。
「〝すげぇな〟って言葉が……嬉しかったんだ。ほんとうに初めて言われて、嬉しくて、心がぐしゃぐしゃになってた……」
その時、ふと綾瀬の姿を思い出した。
綾瀬は、南条の絵が好きだと言っていた。ならば、初めてじゃないのでは……そう思い、すこし間を置いて、ぽつりと呟く。
「……でも、綾瀬が言ってたよ。お前の絵、好きだって」
それに南条は、ふっと寂しそうな笑みを浮かべる。けれどそのまま、首を小さく横に振った。
「……ゆいは部活中、いつも隣にいてくれた。絵を描いてる僕のことも、ちゃんと見てくれてた。でも……言葉にしてくれたことは、一度もなかった」
そこには、重たい寂しさと、優しい諦めのような色が混じっている。
「どれだけ近くにいても、言わなきゃ伝わらないことって、あると思う。ゆいの気持ちは、何ひとつ……僕には届かなかった」
「……」
その言葉が、胸に突き刺さった。
俺自身がずっと、伝えたいことから目を逸らしていたから。
気づけば、俺の足は止まっていた。
深呼吸をひとつして、震える声で、言葉を吐き出す。
「……ねぇ、前も言ったけど。俺、南条のことが好きだよ」
南条の目が、わずかに見開かれる。
頬が赤く染まり、目の奥に光るものが浮かんでいた。
ひと粒、涙がこぼれ落ちる。
けれどそれは悲しみじゃなくて、温かさだと思った。
「……僕も」
その声が震えていることに、南条自身が気づいていないようだった。制服の裾を握る手も、声と同じように震えている。
「ほんとうは僕も、白浜くんのこと……好き」
「……」
その瞬間、胸の奥で何かがほどけた。
言葉にできなかった想いが、すべて形となって、目の前に現れたような気がする。
気づけばまた、俺たちの距離が縮まっていた。
今度は意識して歩み寄ったわけじゃない。
ただ自然と、お互いの心が、身体が求め合っていたのだと思う。
俺はすこしだけ背伸びをして、南条はすこしだけ背をかがめる。
そしてふたたび、ゆっくりと唇が重なる。
今度のキスは、最初のものよりも深かった。
震える吐息ごと、すべてを預けるようなキス。
南条の手が、そっと俺の制服の袖を握る。
俺もまた、彼の制服の裾を握り返した。
雪が静かに舞いはじめていた。
音もなく、俺たちの肩に、髪に、そっと降り積もっていく。
でも、その冷たさすら気にならないほど、胸の奥があたたかかった。
ようやくお互いに触れ合えた想いが、俺たちを包み込む。
目を閉じると、南条の匂いが近くにあった。
マフラーに残る体温。
ふたりきりの夜。
降り続く雪の中、俺たちはただ夢中で、何度も唇を重ねた。
強く降っていた雪は弱まり、地面には白く積もった名残が残っている。
吐く息はまだ白く、頬をかすめる風は冷たい。けれど、俺の胸の奥だけは、不思議と熱を帯びていた。
俺と南条は、いつも通り校舎裏から並んで帰っていた。
何かを話すでもなく、黙ったまま。
でも、それが心地よくて。沈黙すら、大切な時間のように感じていた。
南条の腕が、ふと俺の肩に触れる。
そのわずかな接触にさえ、心臓が跳ねる。
雪でかじかんだ指先とは裏腹に、胸の内はどこまでも熱かった。
この感覚を、ずっと味わっていたい。
そして、まるで何かに背中を押されるように、自然と口が開いた。
「……俺さ」
自分でも気づかないほど小さな声だったのに、南条はちゃんとこちらを見た。
夜風が吹き抜けて、制服の裾を揺らす。
なのに俺は、風なんかよりも、隣の彼のまなざしの方が気になって仕方がなかった。
「美術室で、ひとり絵を描いてたお前を見たとき……たぶん、あの時から……」
足元に視線を落としながら、ぽつぽつと言葉を並べていく。
「なんか……目が、離せなくてさ。意味もわからないのに、ただ、見てたかった」
南条は驚いたように目を瞬かせて、それからゆっくりと目を伏せた。
白い息を吐いて、小さく呟く。
「……僕は」
その声が、夜の静けさに吸い込まれていく。
でも、しっかりと耳に届いた。
まるで雪のように、そっと心に降り積もる声だった。
「白浜くんが……僕の絵を、初めて褒めてくれたとき」
言葉に迷いながらも、南条はゆっくりと言葉を紡いだ。
「〝すげぇな〟って言葉が……嬉しかったんだ。ほんとうに初めて言われて、嬉しくて、心がぐしゃぐしゃになってた……」
その時、ふと綾瀬の姿を思い出した。
綾瀬は、南条の絵が好きだと言っていた。ならば、初めてじゃないのでは……そう思い、すこし間を置いて、ぽつりと呟く。
「……でも、綾瀬が言ってたよ。お前の絵、好きだって」
それに南条は、ふっと寂しそうな笑みを浮かべる。けれどそのまま、首を小さく横に振った。
「……ゆいは部活中、いつも隣にいてくれた。絵を描いてる僕のことも、ちゃんと見てくれてた。でも……言葉にしてくれたことは、一度もなかった」
そこには、重たい寂しさと、優しい諦めのような色が混じっている。
「どれだけ近くにいても、言わなきゃ伝わらないことって、あると思う。ゆいの気持ちは、何ひとつ……僕には届かなかった」
「……」
その言葉が、胸に突き刺さった。
俺自身がずっと、伝えたいことから目を逸らしていたから。
気づけば、俺の足は止まっていた。
深呼吸をひとつして、震える声で、言葉を吐き出す。
「……ねぇ、前も言ったけど。俺、南条のことが好きだよ」
南条の目が、わずかに見開かれる。
頬が赤く染まり、目の奥に光るものが浮かんでいた。
ひと粒、涙がこぼれ落ちる。
けれどそれは悲しみじゃなくて、温かさだと思った。
「……僕も」
その声が震えていることに、南条自身が気づいていないようだった。制服の裾を握る手も、声と同じように震えている。
「ほんとうは僕も、白浜くんのこと……好き」
「……」
その瞬間、胸の奥で何かがほどけた。
言葉にできなかった想いが、すべて形となって、目の前に現れたような気がする。
気づけばまた、俺たちの距離が縮まっていた。
今度は意識して歩み寄ったわけじゃない。
ただ自然と、お互いの心が、身体が求め合っていたのだと思う。
俺はすこしだけ背伸びをして、南条はすこしだけ背をかがめる。
そしてふたたび、ゆっくりと唇が重なる。
今度のキスは、最初のものよりも深かった。
震える吐息ごと、すべてを預けるようなキス。
南条の手が、そっと俺の制服の袖を握る。
俺もまた、彼の制服の裾を握り返した。
雪が静かに舞いはじめていた。
音もなく、俺たちの肩に、髪に、そっと降り積もっていく。
でも、その冷たさすら気にならないほど、胸の奥があたたかかった。
ようやくお互いに触れ合えた想いが、俺たちを包み込む。
目を閉じると、南条の匂いが近くにあった。
マフラーに残る体温。
ふたりきりの夜。
降り続く雪の中、俺たちはただ夢中で、何度も唇を重ねた。
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