溺愛中毒の彼に囚われて。

螢日ユタ

文字の大きさ
4 / 9
俺が全て上書きしてやるよ

1

「なあ愛結、話したくなけりゃ無理にとは言わねぇけど、お前をこんな風にした男とは一体、どこでどう出逢ったんだよ? 交際相手って言ってたけど……柳木等組の男との出逢いって……」

「……交際相手だけど、そういう関係になったのはそもそも合意の上じゃなくて、……そうしなきゃいけなかった……」

「何だよ、それ」


落ち着きを取り戻した私は航海くんに聞かれ、そもそも何故このようなことになったのかを話し始めることにした。


「――私は、両親に売られたんです。借金のカタに……」

「親に、売られた?」

「仕方無かったんです、両親にはお金を返す宛も無かったから、私が身売りするより他には……」

「いや、だからって……」


私の話を聞いた航海さんは困惑していた。


無理も無いと思う。


実の両親にお金の為に売られただなんて話。


だけど、これは事実。


私の両親は元からお金遣いが荒く、身の丈に合わない生活をする為に、色々なところからお金を借りていた。


初めは返せていたみたいだけど、徐々に厳しくなり、悪徳業者からもお金を借りるようになっていた。


私がそれを知ったのは、高校三年の秋頃。


家に借金取りが来たことで全てを知った。


「返す」と言いながらもそんなお金が無かった両親は親戚や知人に頭を下げて回るも全て断られ、夜逃げしようという話をし始めたものの失敗に終わり、それを取り立てをしていた柳木等組にバレて私たち家族は窮地に立たされた。


そんなとき、


柳木等組の幹部でそれなりの地位にいた男、田畠たばた 玲生れおが両親に言ったのだ。


「借金を全てチャラにする代わりに、娘を俺に売れ」と。


初めこそ渋っていた両親も、借金を全て無かったことにしてもらうだけでなくて新たな住まいや仕事まで用意して貰えるという話しに目が眩み、私は売られたのだ。
 

「……高校卒業してすぐ、私は田畠の元に行くことになりました。それからの生活は……地獄のようでした……。彼は自分の手元に私を置くだけではなくて、両親の借金をチャラにしてやった分、私にお金を稼ぐよう要求してきました」

「金を稼ぐって……」

「私の場合は、アダルトビデオへの出演です。嫌だったし、経験も無かったから怖かったけど、断る選択肢は無くて……せめて顔出しはしないことを条件にと……私は――」

「――もういい! もう分かったから! これ以上は言わなくていいから!」


航海くんは私の言葉を遮るように身体を抱き締め、これ以上言わなくて良いと言った。


この後は言わなくても想像出来るだろうから、聞く必要は無いということなのだろう。


私の初体験は売り物にされ、お金の為に、何人もの男の人の相手をさせられた。


田畠は私を気に入ったなんて言っていたけど、そんな素振りは無かった。


彼女とは言われていたけど彼には他にも女の人がいたみたいだし、気分次第で何でも出来て、自分の言うことを聞く従順な女を手元には置いておきたいだけだったのかもしれない。


「愛結、ごめん。辛いこと話させて」

「え?」

「俺が変なこと聞いたせいで、話したくねぇこと口にさせた。悪かった」

「そんな……航海くんは、何も……」

「いや、俺が悪い。これまでのこと聞く必要なんて無かった。これからは今までのことは全て忘れていい。もう二度と思い出させたりもしない。苦しむ必要も怯える必要もないから、安心しろ」

「……航海くん……」


どうして彼は、こんなにも私の為に一生懸命になってくれるのだろう。


航海くんのような人に、もっと早く会いたかった。

 
「……っう、……っひっく……うう」


ポロポロと涙が溢れ落ちていく。


「泣けよ。思い切り泣いて、辛いことは全て忘れろ。な?」

「うっ、……っひっく、……わたるくん……っ」

「大丈夫。もう平気だから」


浴室で、服も着ないでただタオルを身に纏っただけの姿で涙を流す私。


傷や痣だらけの身体を気持ち悪がりもせず、壊れ物を扱うみたいに優しく包み込むように抱き締めて頭や背を撫でてくれる航海くん。


彼が『大丈夫』という言葉を言ってくれると、安心出来る。


だからなのか、不安な気持ちが少しずつ晴れていく気がした。


「っくしゅん」

「――っと、悪い、いつまでもこんな格好じゃ風邪ひいちまうよな。愛結、立てる? とりあえず下着着てから寝室来いよ。今部屋着になりそうな服探してくるから」


私がくしゃみをしたことで航海くんは私の身体を放して離れていこうとする。


「やっ、航海くん、行かないで! 一人にしないで……っ」


別に家から出て行く訳では無いことくらい分かっているのに、彼が少し離れてしまうだけで恐怖に駆られた私は航海くんの服の裾を掴んで引き止める。


「ちょっと寝室行くだけだって」

「やだ……。それに、力が抜けて、立てない……」


ほんの少しの間でも離れて欲しくない私は立てないと嘘を吐いて、彼の気を引こうとする。


そんな私の言葉を聞いた航海くんは、


「ったく、仕方ねぇな」


そう呟いて軽く頭を掻くと私の身体をフワリと抱き上げた。


よく見ると、私を抱き締めてくれていた航海くんの服は濡れてしまっていて、私を抱き上げたことで更に濡らしてしまったことに気付く。


「あ、航海くん……ごめんなさい、服、濡らしちゃって……」


そんな私の言葉に何も答えず、無言のまま浴室から出て行くと、そのまま寝室まで歩いて行き優しくベッドの上に降ろしてくれた。


「あっ、ベッドまで濡らしちゃう……」


ベッドの上に降ろされたことでシーツまで身体から滴り落ちる水滴で濡らしてしまったことに気付いて急いで降りようとしたけれど、


「服もシーツも、水滴なんてそのうち乾く。そんなことよりまずは身体と髪を拭く方が先だろ?」

「……ッあ、」


身に纏っていたタオルを航海くんが取ると、彼は丁寧に私の身体の水滴を拭い始めた。

 
「傷、痛むか?」

「……ううん、……大丈夫……」


身体をピクリと震わせた私を前にした航海くんは傷が痛むのかと聞いてきたけど、傷は痛くはない。


痛々しい身体をしてるけど、ほとんどの傷は暫く前に負ったものだから。


「本当、酷ぇことするよ……。女の身体にこんな傷や痣を作るなんて」

「……ッ」

「愛結がすぐに謝るのは全て田畠って野郎のせいなのも分かる。けど、何も悪いことしてねぇんだから、いちいち謝るなよ。な?」

「……」


航海くんの言い分はよく分かる。


ここに田畠は居ないから怯える必要が無いことも、何もしてないのに謝る必要が無いことも。


でも、毎日田畠の顔色を窺って生活してきた私には、その癖がついてしまっている。


殴られないように、酷いことをされないように謝る癖は、すぐには抜けないの。


「……ごめんなさい……やっぱり、すぐには……」


もはや口癖のように『ごめんなさい』を口にした私に、


「また言ってる」


航海くんは少し呆れ顔で指摘してくる。


「あ、……ごめ――」


口を開けば謝ることしか出来ない私に航海くんは、


「――っん……」


顔を近付けて来ると、そのまま私の唇を自身の唇で塞いできて『ごめんなさい』の言葉を遮られた。

 
「……っ、わたる、くん……」


塞がれた唇はすぐに離され、私は彼に「何故こんなことを?」という意味で問い掛けると、


「愛結がどうしても謝っちまうって言うなら、俺はお前が『ごめん』を言うたびに止めてやるよ。その唇を塞いで」


私を真っ直ぐ見据えながらそう口にしてくる。


真剣な眼差しで見つめられて、恥ずかしくなった私は視線を少しだけ下に逸らす。


そんな私をよそに航海くんは更に言葉を続けた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

ホストな彼と別れようとしたお話

下菊みこと
恋愛
ヤンデレ男子に捕まるお話です。 あるいは最終的にお互いに溺れていくお話です。 御都合主義のハッピーエンドのSSです。 小説家になろう様でも投稿しています。

お兄様「ねえ、イケナイ事をしよっか♡」

小野
恋愛
父が再婚して新しく出来たお兄様と『イケナイ事』をする義妹の話。