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同期の柏蔵
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「ねぇ、どう思う?」
「んー、そうだな、こう言っちゃなんだけど、俺は怪しいと思う」
「……だよねぇ……やっぱり、他に女、いるのかな」
仕事終わり、金曜日とあって繁華街はいつになく賑わっている。
そんな中、相談ごとがあった私は同期の柏蔵を誘って飲みに行く為駅前にある行きつけの居酒屋へ向かうさなか、不安に思っていることを打ち明けた。
その内容というのは、遠距離恋愛している彼氏のこと。
仕事が忙しくて最近は会えないことが多くなり、何だかんだでもう二ヶ月は会っていない。
以前は頻繁に取り合っていた連絡も、最近では週一くらいまで落ちていた。
社会人だし、忙しいのは分かる。
帰りが遅くて連絡を忘れることがあるのも仕方がない。
余裕がないのかもって分かってる。
だけど、
だからって連絡もしない、会えないのでは、淋しさだって募るし不安になる。
そんな中、先日同僚とお昼を食べていたときに友人の彼氏が浮気をしていたという話を聞いた。
その人の彼も遠距離らしく、話を聞くと状況が私とそっくりだった。
だから、その週の日曜日に慌てて連絡をしてみたのだけど、
家に居ると言っていたはずなのに、
電話口で、女の子の声が聞こえてきた。
彼に問うと「テレビの声だ」と否定したけど、
あれは絶対、テレビじゃなかった。
同じ空間に居る、そんな気がした。
「ねぇ、柏蔵の彼女も遠距離じゃん?」
「ん? まあな」
「離れてて、心配にならない?」
「そりゃあ安心ってことはないけど、遠距離なんて信頼し合わなきゃ続かねぇだろ? 俺らの場合はお前のとこと違って距離も離れてるからな……頻繁に会うことも出来ねぇからとにかく信用するしかねぇじゃん?」
「……そっか……凄いね、柏蔵も彼女も」
柏蔵には大学の頃から交際を始めた彼女がいて、社会人になるときに彼女が母親の知り合いがやっているという九州の会社に就職が決まったことで遠距離になったらしい。
私よりも遠距離歴は短いけど距離は離れているのに、そうやって言い切れるくらいの信頼関係があるのが羨ましい。
私たちだって始めはそうだった。
お互いを信用していた。
でも、
連絡も来ない、会う約束をしても駄目になることが続けば、
やっぱり不安しかない。
私だってこうして柏蔵と食事に行ったり飲みに行くことはあるから、女の子と二人きりにならないでなんて我侭を言うつもりはない。
だけど、
休日で時間が出来たのなら、
少しでもいいから会おうとする努力をしてくれてもいいんじゃないかって思っちゃうの。
私たちの場合は離れていると言っても隣の県だから会おうと思えば十分会える距離なのに。
時間があるのに私とは会わないで他の女の子と一緒に居るかもしれない事実が、
私は嫌なのだ。
「ま、とりあえず今日は飲みまくろうぜ!」
話をしているといつの間にか居酒屋に着いていて、暗く落ち込んでいる私を元気づけようと明るく言ってくる柏蔵。
「そうだね! 沢山飲んで沢山愚痴るから、覚悟してよね?」
「おー、どんとこい!」
こうして私たちは店に入り、個室へと通された。
ビールと軽くつまめる物をいくつか頼み、商品が届くや否やジョッキ片手に乾杯をする。
仕事終わりだし、ストレスも溜まってるし、とにかく飲んでスッキリしたかった私はいつもより少しだけペースが早かった。
それには柏蔵も気付いていたようで、
「おい、宇佐美、お前少し飲み過ぎじゃね? そんな飲み方してると酔うぞ?」
「平気平気! このくらいじゃ酔わないもん」
心配して注意してくれたのだけど、私的にはこのくらい平気だと思って軽く受け流していた。
だけど、飲み始めから一時間を過ぎた頃、
「おい、大丈夫かよ?」
「うーん、ちょっと、頭がクラクラする」
「だから、あんな飲み方するからだよ。ったく。ほら、お前は水飲んでろ」
「えー……」
持っていたお酒を取り上げられて水の入ったグラスを渡された私は不満に思いぶうたれる。
そんな時、横に置いていたスマホに着信を知らせるバイブが鳴る。
「あ、……彼氏からだ」
「マジか。早く出たら?」
「うん――もしもし?」
着信は彼からのもので、私は期待に胸を膨らませながら電話に出たのだけど……
「もしもし? 瑛人?」
私が呼び掛けても何も答えず不思議に思っていると、
『おい、阿澄、俺のスマホ知らね?』
少し遠くの方で彼の声が聞こえてくる。
『えー? 知らなーい』
そして、より近くから『阿澄』と呼ばれた可愛らしい声の女の子が瑛人に「知らない」と答えると、そこで電話が切れてしまった。
一体、今のは何だったのだろう?
状況から察するに、彼は女の子と一緒に居て、スマホを探しているようだった。
そして、今私のスマホに彼からの着信があって、電話のすぐ近くから女の子の声が聞こえてきたということは、今さっきの電話は女の子が掛けてきたもので、彼女である私に自分の存在をアピールしてきた……ということだろうか。
「宇佐美?」
「え?」
「どうした?」
「あー、うん……」
何だか情報を上手く処理出来ない私は今の出来事を柏蔵に話してみる。
「――というわけなんだけど、やっぱり、宣戦布告的なやつかな?」
「……うーん、かもな……」
話を聞いた柏蔵はどこか気まずそうな表情を浮かべながら「かもしれない」とだけ答えてきた。
「だよねぇ……。やっぱり女、いたんだ……」
今の電話で彼には別に女がいるということがハッキリ分かってしまった私は泣きそうになるのを柏蔵に見られたくなくて机に突っ伏した。
柏蔵も、私が泣きそうだと分かっているのか、どう声を掛けるか悩んでいるのか何も言って来ない。
暫く無言の時間が続く中、先に口を開いたのは柏蔵の方。
「――まあさ、やっぱ仕方ねぇんじゃん? 遠距離じゃ、淋しさもあんだよ」
「え……」
「なんつーか、気の迷いとか、そーいうのかもしれねぇじゃん? まずは一度、よく話し合う方がいいんじゃね?」
「……そんな、浮気を許せって言うの?」
「いや、別に許せとは言わねぇけど……どうしても許せねぇなら、別れる方がいいと思うし」
びっくりした。
まさか柏蔵が、そんなことを言うなんて。
柏蔵の性格なら「浮気する男なんてすぐに別れるべきだ」とか言いそうなのに。
どうせ、自分たちは上手くいってるから他人事なんだ。
だから、簡単にそんなことを言うんだ。
何だかちょっと、ガッカリだな。柏蔵はそういうの、許せないタイプだと思ってたから。
結局、男は浮気の一つや二つ、軽く見ているということなのかもしれない。
だって、よく言うじゃない? 男の浮気の一度や二度で騒ぐなって……。
柏蔵の言葉に賛同出来ない私が黙り込んでいると、
「――お前の気持ちは分かる。けどな、相手のこと、本当に好きなら、まずは一度話し合うべきだと思う。どうするかは、それからでも遅くないと思うんだよ――俺も、今まさにそういう状況だから」
「え? そういう、状況……?」
柏蔵はサラリととんでもないことを口にした。
「――いやさ、実を言うと俺の彼女、他に男がいるっぽいんだよな……」
「嘘……でしよ?」
「阿呆か。こんなこと、冗談で言わねぇよ。まあ、まだ確実ってわけじゃねぇけど……疑うような出来事があったんだよ、少し前に会ったときに……」
驚いた――なんてものじゃない。
だって、彼女が浮気をしているかもしれない事実があるんだよ?
それなのに、今の今まで何でも無いような顔して、私の愚痴を聞いてくれていたんだよ?
本当なら、自分だって気が気じゃないはずなのに。
「そ、それで……柏蔵は、聞くの? 彼女に……」
「いや、聞かない」
「え?」
「知らない方が良いこともあると思うし、俺が怪しいと思ったのはあの一度だけ。モヤつきはあるし気にはなるけど……あれは俺の勘違いだって思うことにした」
「それで、いいの?」
「ああ、いいんだ。あれ以降会えてないから、もしかしたら彼女は別の誰かと会ってるかもしれないけど、それは今は知らなくていい事だと思ってる」
「…………」
「けど――」
「けど?」
「もし、もう一度怪しいと思う出来事があった、そのときは……俺は言うよ、ハッキリと。その上で、これからどうするかを話し合うって決めてる」
柏蔵の決意は固かった。
「んー、そうだな、こう言っちゃなんだけど、俺は怪しいと思う」
「……だよねぇ……やっぱり、他に女、いるのかな」
仕事終わり、金曜日とあって繁華街はいつになく賑わっている。
そんな中、相談ごとがあった私は同期の柏蔵を誘って飲みに行く為駅前にある行きつけの居酒屋へ向かうさなか、不安に思っていることを打ち明けた。
その内容というのは、遠距離恋愛している彼氏のこと。
仕事が忙しくて最近は会えないことが多くなり、何だかんだでもう二ヶ月は会っていない。
以前は頻繁に取り合っていた連絡も、最近では週一くらいまで落ちていた。
社会人だし、忙しいのは分かる。
帰りが遅くて連絡を忘れることがあるのも仕方がない。
余裕がないのかもって分かってる。
だけど、
だからって連絡もしない、会えないのでは、淋しさだって募るし不安になる。
そんな中、先日同僚とお昼を食べていたときに友人の彼氏が浮気をしていたという話を聞いた。
その人の彼も遠距離らしく、話を聞くと状況が私とそっくりだった。
だから、その週の日曜日に慌てて連絡をしてみたのだけど、
家に居ると言っていたはずなのに、
電話口で、女の子の声が聞こえてきた。
彼に問うと「テレビの声だ」と否定したけど、
あれは絶対、テレビじゃなかった。
同じ空間に居る、そんな気がした。
「ねぇ、柏蔵の彼女も遠距離じゃん?」
「ん? まあな」
「離れてて、心配にならない?」
「そりゃあ安心ってことはないけど、遠距離なんて信頼し合わなきゃ続かねぇだろ? 俺らの場合はお前のとこと違って距離も離れてるからな……頻繁に会うことも出来ねぇからとにかく信用するしかねぇじゃん?」
「……そっか……凄いね、柏蔵も彼女も」
柏蔵には大学の頃から交際を始めた彼女がいて、社会人になるときに彼女が母親の知り合いがやっているという九州の会社に就職が決まったことで遠距離になったらしい。
私よりも遠距離歴は短いけど距離は離れているのに、そうやって言い切れるくらいの信頼関係があるのが羨ましい。
私たちだって始めはそうだった。
お互いを信用していた。
でも、
連絡も来ない、会う約束をしても駄目になることが続けば、
やっぱり不安しかない。
私だってこうして柏蔵と食事に行ったり飲みに行くことはあるから、女の子と二人きりにならないでなんて我侭を言うつもりはない。
だけど、
休日で時間が出来たのなら、
少しでもいいから会おうとする努力をしてくれてもいいんじゃないかって思っちゃうの。
私たちの場合は離れていると言っても隣の県だから会おうと思えば十分会える距離なのに。
時間があるのに私とは会わないで他の女の子と一緒に居るかもしれない事実が、
私は嫌なのだ。
「ま、とりあえず今日は飲みまくろうぜ!」
話をしているといつの間にか居酒屋に着いていて、暗く落ち込んでいる私を元気づけようと明るく言ってくる柏蔵。
「そうだね! 沢山飲んで沢山愚痴るから、覚悟してよね?」
「おー、どんとこい!」
こうして私たちは店に入り、個室へと通された。
ビールと軽くつまめる物をいくつか頼み、商品が届くや否やジョッキ片手に乾杯をする。
仕事終わりだし、ストレスも溜まってるし、とにかく飲んでスッキリしたかった私はいつもより少しだけペースが早かった。
それには柏蔵も気付いていたようで、
「おい、宇佐美、お前少し飲み過ぎじゃね? そんな飲み方してると酔うぞ?」
「平気平気! このくらいじゃ酔わないもん」
心配して注意してくれたのだけど、私的にはこのくらい平気だと思って軽く受け流していた。
だけど、飲み始めから一時間を過ぎた頃、
「おい、大丈夫かよ?」
「うーん、ちょっと、頭がクラクラする」
「だから、あんな飲み方するからだよ。ったく。ほら、お前は水飲んでろ」
「えー……」
持っていたお酒を取り上げられて水の入ったグラスを渡された私は不満に思いぶうたれる。
そんな時、横に置いていたスマホに着信を知らせるバイブが鳴る。
「あ、……彼氏からだ」
「マジか。早く出たら?」
「うん――もしもし?」
着信は彼からのもので、私は期待に胸を膨らませながら電話に出たのだけど……
「もしもし? 瑛人?」
私が呼び掛けても何も答えず不思議に思っていると、
『おい、阿澄、俺のスマホ知らね?』
少し遠くの方で彼の声が聞こえてくる。
『えー? 知らなーい』
そして、より近くから『阿澄』と呼ばれた可愛らしい声の女の子が瑛人に「知らない」と答えると、そこで電話が切れてしまった。
一体、今のは何だったのだろう?
状況から察するに、彼は女の子と一緒に居て、スマホを探しているようだった。
そして、今私のスマホに彼からの着信があって、電話のすぐ近くから女の子の声が聞こえてきたということは、今さっきの電話は女の子が掛けてきたもので、彼女である私に自分の存在をアピールしてきた……ということだろうか。
「宇佐美?」
「え?」
「どうした?」
「あー、うん……」
何だか情報を上手く処理出来ない私は今の出来事を柏蔵に話してみる。
「――というわけなんだけど、やっぱり、宣戦布告的なやつかな?」
「……うーん、かもな……」
話を聞いた柏蔵はどこか気まずそうな表情を浮かべながら「かもしれない」とだけ答えてきた。
「だよねぇ……。やっぱり女、いたんだ……」
今の電話で彼には別に女がいるということがハッキリ分かってしまった私は泣きそうになるのを柏蔵に見られたくなくて机に突っ伏した。
柏蔵も、私が泣きそうだと分かっているのか、どう声を掛けるか悩んでいるのか何も言って来ない。
暫く無言の時間が続く中、先に口を開いたのは柏蔵の方。
「――まあさ、やっぱ仕方ねぇんじゃん? 遠距離じゃ、淋しさもあんだよ」
「え……」
「なんつーか、気の迷いとか、そーいうのかもしれねぇじゃん? まずは一度、よく話し合う方がいいんじゃね?」
「……そんな、浮気を許せって言うの?」
「いや、別に許せとは言わねぇけど……どうしても許せねぇなら、別れる方がいいと思うし」
びっくりした。
まさか柏蔵が、そんなことを言うなんて。
柏蔵の性格なら「浮気する男なんてすぐに別れるべきだ」とか言いそうなのに。
どうせ、自分たちは上手くいってるから他人事なんだ。
だから、簡単にそんなことを言うんだ。
何だかちょっと、ガッカリだな。柏蔵はそういうの、許せないタイプだと思ってたから。
結局、男は浮気の一つや二つ、軽く見ているということなのかもしれない。
だって、よく言うじゃない? 男の浮気の一度や二度で騒ぐなって……。
柏蔵の言葉に賛同出来ない私が黙り込んでいると、
「――お前の気持ちは分かる。けどな、相手のこと、本当に好きなら、まずは一度話し合うべきだと思う。どうするかは、それからでも遅くないと思うんだよ――俺も、今まさにそういう状況だから」
「え? そういう、状況……?」
柏蔵はサラリととんでもないことを口にした。
「――いやさ、実を言うと俺の彼女、他に男がいるっぽいんだよな……」
「嘘……でしよ?」
「阿呆か。こんなこと、冗談で言わねぇよ。まあ、まだ確実ってわけじゃねぇけど……疑うような出来事があったんだよ、少し前に会ったときに……」
驚いた――なんてものじゃない。
だって、彼女が浮気をしているかもしれない事実があるんだよ?
それなのに、今の今まで何でも無いような顔して、私の愚痴を聞いてくれていたんだよ?
本当なら、自分だって気が気じゃないはずなのに。
「そ、それで……柏蔵は、聞くの? 彼女に……」
「いや、聞かない」
「え?」
「知らない方が良いこともあると思うし、俺が怪しいと思ったのはあの一度だけ。モヤつきはあるし気にはなるけど……あれは俺の勘違いだって思うことにした」
「それで、いいの?」
「ああ、いいんだ。あれ以降会えてないから、もしかしたら彼女は別の誰かと会ってるかもしれないけど、それは今は知らなくていい事だと思ってる」
「…………」
「けど――」
「けど?」
「もし、もう一度怪しいと思う出来事があった、そのときは……俺は言うよ、ハッキリと。その上で、これからどうするかを話し合うって決めてる」
柏蔵の決意は固かった。
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