同期以上、恋人未満。

螢日ユタ

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同期の柏蔵

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私には、とてもじゃないけど真似出来ない。


「まあ、宇佐美の場合は俺と違って実際彼氏が女と居る状況を電話越しにだけど聞いちまってるから、やっぱり難しいかもしれねぇよな」

「…………」

「けどさ、今実際どう?」

「どうって?」

「彼氏が女と一緒に居るって分かった今、それでも彼氏と付き合い続けたいと思えるかってこと。それによって、変わるんじゃねぇの? 一度かどうかはわからねぇけど、今回だけのことなら許せるのか、浮気は絶対許せないから別れを選ぶのか」


確かにそうだ。


実際のところ、私はどうしたいのだろう。


彼氏のことは好きだから遠距離になっても付き合い続けてる。


それは、あっちも同じだと思ってるけど……。


「馬鹿じゃねぇのって思うかもしれねぇけど、俺は今はまだ、彼女のことが好きなんだ。だから、知らない振りをする。宇佐美はどうだ?」

「私は……」


柏蔵に問い掛けられて私が出した答えは、


「……私も、彼氏のこと、好き……。こんなことで、駄目になりたくない……」


柏蔵と同じで、今はまだ、彼氏のことが好きという結論だった。


この選択が正しいのか間違っているのかは分からない。


だけど、


私も柏蔵も相手のことが好きだから、


相手を信じたいという思いがあるのだと思う。


他の人に目を向けてしまっている事実は悲しいけど、


別れを切り出されていないということはきっと、


心は自分の方にあるということ。


今はそれを、信じるしかない。


「よし、宇佐美、もっと飲むか!」

「え?」

「もうこうなりゃとことん楽しもうぜ。相手だって他の奴と居るんだ、今だけは、俺らも相手のことなんて忘れて楽しむべきだろ?」


柏蔵は私を慰めてくれている。


自分だって本当は辛いだろうに、


何でも無い振りして私を元気づけようとしてくれてる。


こういうところが良い奴なんだよね、柏蔵って。


「そうだね! 飲もう飲もう!」


話題が話題だっただけに、すっかり酔いが冷めかけていたこともあって私たちは再びお酒を頼み、再度乾杯をする。


「まあさ、俺らは似たような境遇にいるみたいだし? お互い愚痴言い合いながら頑張ろうぜ」

「ここで負けてちゃ浮気相手らしき存在あいての思う壺だもんね。とにかく頑張ってお互い遠距離恋愛乗り越えていこう!」


かなり同じ境遇にいる私たちは半ば同盟のようなものを組む形で互いに頑張ろうと励まし合い、お酒を飲み始めた。


この日から私と柏蔵は、以前にも増して仲が深まっていった気がする。


同じ境遇に置かれている仲間がいる、それだけで、恋人あいてに怪しいところがあっても気のせいだ、大丈夫、気持ちは自分にあると自信が持てる。


でも、ふと思うときがある。


いくら好きでも、


遠距離だからって言っても、


やっぱり浮気なんて良くない。


恋人に他の相手がいるかもしれないという事実があるのに、


それを黙認したままでいることが、


果たして互いの為になるのか。



それから暫くして、今週末は三連休。


嬉しいことに、私も柏蔵も恋人がこちらへ会いに来てくれることになっていて、互いに「良かったね」と喜び合った。


これで、離れかけていた心が再び近付けばいい。


そう思っていたのだけど――


休みの前日の金曜日、


仕事を終えてスマホを見ると瑛人からメッセージが届いていて、明日の時間の確認かな? なんて思いながら開いてみると、


「…………」


そこには、《悪い、明日行けなくなった。急に取り引き先との接待が入ったんだ、悪いな。また今度埋め合わせするから》という内容が記されていた。


正直、またかと思った。


しかも、今週は三連休。


明日が駄目でも、日曜日は?


泊まりが無理でも、少しくらい会えないの?


本当に、仕事で来れないの?


悲しい、淋しい思いよりも疑いの心が生まれる。


《そっか、分かった。仕事大変だね。頑張ってね》


モヤモヤの中、メッセージにそう返信をした私は着替えをして会社を後にした。


あーあ、また予定無くなっちゃった。


一人、繁華街を歩きながら私は予定が無くなってしまったことを嘆く。


三連休、一人で何をしようか。


いっそ日帰りでひとり旅でも行こうか。


そんなことを考えながら歩いていると、


「宇佐美」

「……柏蔵」


柏蔵が声を掛けてきた。


走って来たのか、少し息が上がっている。


「何だよ、暗い顔して。昼間は明日彼氏に会えるって言って嬉しそうな顔してたくせに」

「あー、うん。それがね、駄目になっちゃったんだ」

「は?」

「彼、急に仕事になっちゃったんだって。だから、来れないって……」


私のその言葉に、何も言わない柏蔵。


そうだよね、言葉をかけづらいよね。


柏蔵は彼女と会えるわけだし、ここで私がこんな暗い顔していては、喜びづらいだろう。


「全くもう、嫌になっちゃうよね~。まあでも、仕事じゃ仕方ない――」


心配をかけないよう、明るく振る舞おうと吹っ切れたフリをして言葉を続けると、


「――何だ、宇佐美もか。奇遇だな、実は俺のとこもなんだよ。先輩が体調崩したから代わりに仕事出なきゃならねーんだってさ」


柏蔵の方も彼女が来れなくなってしまい、予定が無くなったことを知った。

 
「……え?」

「何だろうな、俺ら、こんなとこまで同じじゃなくてもいいのにさ」

「……ほ、本当、だよね」


びっくりした。


まさか、柏蔵のところも同じ状況になっていたなんて。


っていうか、ここまで同じ境遇になること、ある?


「はぁ……。予定、無くなっちまったなお互いに」

「……そう、だね」


楽しい連休になるはずだったのに、一気にどん底まで落とされた気分の私たち。


「そうだ、どうせお互いに予定も無くなったしさ、今日も飲みに行っちゃう?」


本来ならば明日の為に早く帰って準備をするはずだった訳だけど、もうその必要は無い。


一人で居てもつまらないし寂しいだけだから柏蔵と過ごすのも悪くないかなと思って飲みに誘ってみると、


「だな。そうするか!」


口角を上げて笑顔を見せた柏蔵が私の誘いを受けてくれたので、私たちはいつもの居酒屋へ向かうことに。


けれど、


「すみません、予約で埋まってて」


連休前とあって既にいっぱいらしく、入ることが出来なかった。


その後も何軒か店を回るも全て駄目で、諦めて帰ろうかと思っていると、


「……これは提案なんだけどさ、宇佐美さえ良けりゃ、俺の家に来ない? 酒とか用意してあるし、宇佐美の家より俺のが近いしさ……どお?」


柏蔵に、家で飲まないかと誘われた。

 
「え、……私が、柏蔵の……家に?」


まさかそんな提案をされるなんて思ってもみなかった私は驚いて思わず目を見開きながら聞き返す。


「――って、流石にそれはまずいよな。悪い、今のは忘れてくれ」


私の反応を見て、流石にそれは無いと思ったらしい柏蔵がやっぱり無かったことにしようとすると、


「……い、いいよ。私は別に、大丈夫。だって、やましいことなんて無いし……私は柏蔵のこと、信用してるから」


気付けば私の口からそんな言葉が出て来ていた。


「そ、そりゃ勿論、俺だってお前に何かしようだなんて思ってねぇよ。店さえ空いてりゃそこでいいけどどこも空いてねぇし、このまま帰るってのもつまらねえし、俺はただ……お前と純粋に飲み明かしたいだけだから」

「だよね。それじゃあ、お邪魔しようかな、柏蔵の家に」


私たちは同期で、


共に遠距離恋愛の相手がいて、


その相手には他の相手がいるかもしれないという、似た境遇にいる。


それでも相手を信じたいから、


二人で励まし合っている、同志のような存在。


そんな私たちの間にやましいことなんて無いし、二人きりになったからって何か起こるはずもない。


そう思ったから、


私は柏蔵の誘いに乗ることにした。
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