クズな元カレに、沼る。

元カレ

4

大和がもう暫く居てくれることになり、ひとまず彼を部屋へ招き入れる。


「適当に座ってて。今コーヒー淹れるから」


大和に座るよう言った私は荷物を置いて上着を脱いで、手洗いうがいを済ませてからキッチンに立つ。


大和はベッドを背にして床に腰を下ろすとスマホを弄り始めた。


何だかこうしてその光景を見つめていると、付き合っていた当時を思い出す。


私の部屋に来ていたときもあんな風に寛いでいたなと懐かしくなった。


コーヒーを淹れてカップを持って大和の隣に腰を下ろした私。


何を話せばいいのか分からなくて、シンとした空間が気まずくて、おもむろにリモコンを手にしてテレビを付けた。


暫くテレビからお笑い芸人のコントの様子が流れていく中、大和が口を開いた。


「――何かさ、懐かしいよな、こうしてコーヒー飲みながら部屋で寛ぐの」

「……う、うん……そうだね」

「まさかまたこうして、お前の部屋に上がる日が来るなんて……思いもしなかった……」

「……私も、まさか大和を部屋に上げる日が来るなんて……思わなかった」


そんなやり取りをする中、大和が持っていたマグカップをテーブルに置くと、私からもカップを奪ってテーブルに置いてからそのまま顔を近付けてきて、


「――和葉」

「ちょ、大和……ッ」


不意打ちで唇を奪われた。


不意打ちだったから、拒む余裕が無かった。


不意打ちだったから……。


そう、言い訳のように頭の中で繰り返す。


触れるだけの、軽いキス。


大和の唇が離れて、視線がぶつかる。


「――ごめん。我慢出来なかった。和葉が可愛過ぎて」

「……また、すぐそういうこと言う……」


付き合っていた当時も、大和は『可愛い』とか褒める言葉をよく口にしていた。


褒められて嬉しくない訳じゃないけど、


それは彼女である私だけに言って欲しい言葉なのに、


浮気相手の女の子たちにも言っていた。


だから、今はもう大和に褒められるのは嬉しくない。


嬉しくないはずなのに、


「――和葉、会わない間に更に可愛くなった」


再び『可愛い』と口にした大和の手が伸びてきて後頭部に添えられると、


「……ん、」


二度目のキスをされた。


一度目は不意打ちだったから仕方ない。


でも、二度目の今は……拒もうと思えば出来たはずだった。


それなのに、


拒まないどころか、


「……っん、……はぁ、……」


流されて、触れるだけの軽いキスから、大和の舌が私の咥内に侵入してきた激しいキスを受け入れている。
　

「……っ、や、……まと、……だめ……ッんん」


理性のある今、私は軽い抵抗を試みる。


だけど大和はそれを許してはくれず、私の後頭部を押さえ付けるように固定してきては、私が抵抗出来ないよう激しい口づけを繰り返してくる。


何で大和はこんなことをするんだろう。


好きって言うなら何故、私以外の人に浮気なんてするんだろう。


別れた後も、他の女の子と付き合ったくせに……。


大和の力に敵わず抵抗出来ない私はただされるがまま。


「……っ、や、……ッん、はぁ、……っぁ、」


キスだけでは我慢出来なくなったのか、大和の手が私の頬から首筋、鎖骨、胸元へと降りていく。


これ以上は駄目。


元カレの大和とこれ以上のことなんて、


したら駄目に決まってるのに……。


「……っんん、……っあ、……やっん、……」


大和の手は胸へと当てられ、服の上から撫でるように触れてくる。


舌を絡めとる激しいキスの嵐と、思考回路を断つような執拗な手の動き。


そして、


刺激を与え続けられた私の身体からは力が抜けていき――


「――ッあ、……」


大和に支えられるように自身の身体を預けていく。


こうなったら最後、


私の身体を押し倒した大和。


上に跨り私を見下ろすと、


「……和葉、いい？　俺はお前と、やり直したい――」

「や、……だめ――っんん、」


同意を求めつつも返事を聞く前に私の唇を塞いだ大和は、トップスの裾を捲りながら素肌に触れ、なぞるように身体に刺激を与え始めた。

「やだ、……大和、……っお願いだから、……やめて……っ」


抵抗するのも、止めてとお願いするのも今しかない。


今を逃してしまったら最後、


きっと私は大和を受け入れてしまう。


「もういいよ、『やだ』『止めて』しか言わねぇ口から出て来る言葉なんて聞かねぇ。一番正直な身体に聞くから。本当に嫌なら、身体で教えてくれよ」

「……っや、そんなの、……むりっ……あぁッ」


けれど大和は私の言葉に耳を傾けるつもりなんて無くて、露わになった胸の頂きに唇をあてがうと、そのままそこを甘噛みした。


全身に電流でも走ったかのようにピリっとした痛みと何とも言えない快感が身体と脳裏を支配する。


もう駄目、これ以上は止められない。


元カレの大和は、私の気持ち良い部分を沢山知っている。


大和とのセックスに、散々溺れてきたのだから。


私の身体もまだ、それを覚えてる。


それに、


大和と別れてから私は誰とも付き合わなかったから当然、セックスだってご無沙汰だ。


そんな中で大和からの愛撫を受けてしまったら、


そんなの、


受け入れてしまうに、決まってる。


身体だって求めてしまうに、決まってる……。

　
「ほらな？　和葉だってその気じゃん」

「違っ……」

「気持ち良さそうな声、上げてたくせに？」

「あれは違う……」

「ふーん、分かった、そんなに言うなら今から俺が何しても絶対声上げるなよ？」

「え？」

「俺が触っても気持ち良くねぇんだろ？　なら声なんて上げねぇよな？　簡単だろ？」

「そ、それは……っ」

「いいから、黙れよ――」

「やっ――んん！」


再び唇を塞がれると、胸を強く揉みしだいてくる。


「……ッ、……っ」


今はキスをされて声を出せないけど唇が離されたら最後、すぐに声が出てしまうだろう。


嫌なはずなのに、身体は本当、正直だ。


「……っはぁ、……はぁっ、」


唇を解放されるのと同時に胸から大和の手が離れていく。


今のうちに何とかして大和から逃れようと身体を動かさそうとしたけれど、


「逃げられると思うなよ？　和葉がもう一度俺を見てくれるまで、離してやらねぇから――」

「や、駄目っ！」


片手で押さえつけるように私の身体を固定した大和は、もう片方の手で私の下腹部を撫でるように触れ始めた。


「――ッ、……っ」


声を上げそうになるのを必死に我慢する私に大和は言う。


「へぇ？　頑張るじゃん？　けど、もうそろそろ無理じゃね？　和葉の一番弱いところ、俺知ってるし」と。


私の、一番弱いところ……それって……。


ニヤリと不敵な笑みを浮かべた大和はスカートを捲り上げると、ストッキングと一緒に下着まで一気に脱がせてきて、


「――ッ！！」


既に濡れてヒクついていた秘裂に指を擦り付けるように這わせると、そのまま割れ目の中へ指を一本挿し入れた。

　
「――ッ！」


大和の指は容赦無く私の膣内へ入り込んできて、私の一番気持ち良くなれる場所まで迷わず進んでいく。

　
駄目、そこに触れられたら、私……。


そして、私が最も弱い部分に指が到達した刹那、


「――やぁっ、んんッ」


我慢しきれず私の口から声が漏れ出てしまった。


「ほらな？　やっぱり無理だろ？　俺だけだよ、和葉を気持ち良くしてやれるの。他の男には絶対無理。つーか、触れさせたくねぇ。だからさ和葉、もう一度俺ら、やり直そう？　な？」


大和は指を引き抜くと、私の方へ顔を寄せて「もう一度やり直そう」と迫ってくる。


「……っ、やだ……。大和の彼女でいると、……辛くなるから……っ」

「もう絶対、そんなことさせねぇって！」

「そんなの、……信用、できない……っ」


だって私は、大和のその言葉を信じて何度か許したよ？


それでも浮気をしていたのは、大和でしょ？


浮気男の言うことなんてもう信じない。


別れるときにそう決めた。


だから別れた。


もう二度と、辛い思いをしない為に――。


「わたし、……先輩とのこと、本気で考えてるから……大和とやり直すのは、無理……」


何とかして大和にはあきらめてもらおうと先輩のことを引き合いに出したのだけど、口にしてからそれが逆効果であったことに気付く。


「……ふーん、やっぱりあの男のこと、好きなんだな。けどさ、アイツ今この状況を知ったらどう思うだろうな？　送るって言ったのに断られた挙句、実は元カレと居るなんてさ」

「……そ、れは……」

「変な男に尾行されてたまたま会った元カレに送ってもらったって話す？　けど、アイツはきっと部屋に上げるのはどうなんだって思うよな？」

「それは……」

「――そんなにあの男が良いなら、今から俺の前で電話しろよ？　そんでアイツに言えよ、本気で考えてるって」

「何言って……」

「そうすれば、俺、諦めるよ、お前のこと」

「……本当に？」

「ああ」

「……分かった」


大和がどういうつもりでそんなことを言うのか分からないけど、それで諦めてくれるならと一旦解放された私は身体を起こしてスマホを手に取ると、楠木さんに電話を掛けた。