ありふれたこの世界であの王冠を手にしたい。

天智学

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第一話

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 僕はこの国の第一王子として生を受けた。
 約束された地位、身分、実力。全てが順風満帆に行くはずだった。

「ラディウス様、あの的を魔法で射るのです」

 王宮の指南役である彼に俺は今日も指導されている。
 的を視界に収め、右手を的に向けて構え、左手で右手がブレないように押さえる。
 今俺が求められているのは、魔法の初歩である魔力の放出だ。当然、第一王子であるこの僕がこなせない訳が…。

「はっ!」

 右腕の筋肉を隆起させ、精一杯力を込めるも、何も起きなかった。そう、僕は魔法が使えないのだ。
 ふと隣を見てみれば、さも当たり前のように皆が魔力を放ち、的を粉々に粉砕している。
 それもただ魔力を放つだけではなく、属性を付与し燃やしたり潰したり、見れば魔法だと分かる行為をしている。

「やはりダメですか。ラディウス様は類稀な魔力を持っているのになぜ…」

 魔力測定の結果、僕の魔力は常人の何倍、何十倍もあるということが分かった。
 この国では、魔力の量に応じて四級から一級、そして一級より上の完成魔導師ペルフェクトマジシャンに割り振られる。
 僕は問答無用で完成魔導士と認定され、将来を期待されていたものの、一切の魔法を使うことができなかった。

「おい、やっぱりあいつ魔法使えないんだな」
「王子のくせに、兵士見習いにも劣るとか、流石は愚者だな」

 小声で話しているつもりなのか、はたまた僕に聞かせたいのか分からないが、そんな会話が聞こえてきた。
 完成魔導師は、賢者として国からも尊ばれる存在だ。そんな立場でありながら魔法が使えない僕を人々は愚者と罵る。
 まぁ、その通りだろう。

「で、では今日の私の稽古はここまでにしましょう」

 そう言って彼は立ち去った。そして、休息のひとときが訪れた。
 疲労感どころか汗を流すこともなく、僕は訓練場の隅に座り込んだ。
 硬い石造りの床は、僕にかける情けなどないというように冷たかった。

「ふぅ」

 一息つきながら俯く僕のもとに近づいてくる気配を感じた。そして、次に三人分の足音がした。

「ラディウス様ぁ。俺達疲れちゃったんで、そこどいてくれません?」
「そうそう、あなたは魔法なんて使ってないんですから、休む必要なんてないでしょう?」

 ははははと嘲笑いながら彼らは言った。

「そうだね。今どけるよ」

 僕がそう言って立ち上がって歩き出した瞬間、彼らの中の一人が僕に足をかけようとしたのが分かった。
 僕は冷静に前方向へ跳ね、空中で一回転して着地した。

「あ、おい!」

 そんな僕の行動が気に入らなかったのか、彼は僕の肩に手を置いて僕を制止した。

「愚者のくせに、調子乗んなよ!」

 彼がそう言って僕に殴りかかろうとしたその瞬間、訓練場の空気が変わったのが分かった。

「何々ぃ?喧嘩ぁ?めんどくせぇからやめとけよぉー」

 飄々とした様子であくびをしながらも、覇気のある足音を鳴らしている。その足音の主は、黒のロングコートを羽織った長めのウルフヘアーの男。彼は剣の追求者、ルクス・グラーディオ。王国随一の剣士だ。
 普段は退屈そうに伸びとあくびを繰り返すだけの彼も剣の実力は確かなようで父上からの信頼も厚い。
 そう、剣。この世で重要なのは魔法だけじゃない。剣の実力も重要なのだ。だが、剣の追求者であるルクスですら魔力測定の結果は一級クラス。つまり、上に上がるには魔法と剣、どちらの才能も必須なのだ。

「ルクス先生!どうやったら先生みたいになれますか!?」

 先程までは僕にくだらない興味を抱いていた彼らも、気が付けばルクスのそばにいた。

「あぁ?知らねぇよ、んなもん。頑張ってりゃそのうちなれるさ。俺くらい」

 頑張れば、その言葉は常に僕の支えだった。愚者と揶揄される僕でも、立場だけじゃない、名実ともに立派な王になれると信じたかった。

「えー、絶対無理ですよ!僕らなんかじゃルクス先生なんて夢のまた夢ですよ!」

 まるでおだてるかのように、彼はそう言って両手を擦った。

「まぁ、そうかもな。それじゃあお前らで勝手にやり合っとけー」

 ルクスからの指示を受けた僕は、先ほど足をかけてきた彼と木剣を構えた。
 そして、打ち合いが始まるというその瞬間、ルクスが言った。

「あ、ラディウス、ちゃんと手加減しろよぉ」

 と。
 僕はその言葉を聞いた上で踏み込み姿勢を取った。
 そして、次の瞬間には向き合った彼は木剣を構えたまま僕に頭を叩かれていた。
 少し遅れて、彼は目を見開きながら尻もちをついた。

「え、あ、え?」

 困惑した様子の彼を見て、ルクスは口を開く。

「あぁー、だから言ったろぉラディウス。ちゃんと手加減しろってさぁ。じゃないとぉ」
「勝負にもならないよ」

 ルクスの言葉に先程まで僕を嘲笑っていた彼らの顔色が悪くなった。そう、僕は剣に関しては他人よりも多少できるほうだ。だが、魔法が使えないのでは話にならない。

「しょうがないから、俺とやり合うかぁ。ほら、ラディウス、構えろぉ」

 そう言うとルクスは木剣に魔力を纏わせた。
 煌々と真っ白に光る木剣は、まるで月のような輝きを放っている。
 次の瞬間、木剣と木剣がぶつかり合った。そして、ルクスの剣の光が何倍にも膨れ上がり、僕の目を潰した。

「うっ」

 そう声を上げたと同時、僕の頭はルクスの木剣で叩かれていた。
 そう、ただ剣が使えるだけでは、魔法も剣も使える人間には刃が立たない。それに、今ルクスが使ったのも詠唱の必要すらない本当に初歩の初歩もいいところな魔術だ。
 下級魔術までならどうにか捌けるとしても、中級以上は今の僕にはどうすることもできない。
 それでも、僕はこの世界で立派な王になりたいのだ。

「もう一本頼む!ルクス!」

 僕の言葉にルクスは面倒そうに後頭部を掻いた後、口を開いた。

「はぁ、しょうがねぇなぁラディウスは。俺のキャラ、面倒くさがり屋なんだけどなぁ」

 そして、再び木剣を構えた。
 そして、幾度も剣と剣を交えた。体の水分が尽きてその場にぶっ倒れるまで。
 その光景を、彼らは黙って見ていた。

「っはぁ、はぁ、はぁ」

 気が付けば訓練場の窓からは暖かなオレンジ色の光が差していて、空は燃えていた。

「そんなに強くなりてぇのかぁ?」

 流石のルクスも少し息を切らしながら座り込んでそう言った。

「うん。僕はみっともない王になりたくないんだ。みんなから尊敬される王になりたいんだよ」

 僕がそう言うとルクスは口を開いた。

「そうかぁ。じゃあ、明日も練習だな」
「うん。分かってる」

 僕が呼吸の隙間で漏らすように聞くと、ルクスはにやっと笑みを浮かべてから立ち上がった。

「じゃあ、また明日なぁ。俺はもう疲れたから寝るわぁ。おやすみー」

 ルクスはそう言うと木剣を定位置に置いてから振り返ることもなく立ち去っていった。
 目を閉じ、地面の硬さに苦痛を感じながらも休んでいると、「愚者のくせに」なんて言葉が聞こえてきたが気にしないことにした。
 僕はそれから暫く経って訓練場の端に置いてあった水筒を手に取り、適当な箱の上に腰を下ろして水を飲んだ。
 何もかもが枯れ果ててしまいそうだった身体にじんわりと潤いが広がっていくのが分かる。
 よし、これならまだ剣を振れる。そう決心し、僕は再び立ち上がって木剣を振り下ろした。何度も、何度も。振るたびに汗が額から落ちて宙を舞うが、その一切を気にせずに剣を振るった。
 夜が更けて、フクロウが鳴くまでずっと。

 汗を拭きながら城に戻ると、兵士の敬礼に出迎えられた。
 きっと、僕がとても優秀で、偉大な王子であれば兵士は堅苦しい表情を浮かべているのだろうが、みんな笑っている。僕が偉大ではないというのもそうだが、それに加えて僕自身そんな堅苦しい挨拶なんて求めていない。だから、早々に「もっと気軽に!」と兵士には釘を刺したのだ。
 食卓に足を運ぶと、そこにはすでに父上がいた。
 厳格な衣を身に纏い凛々しい姿で席に座るその姿はまさに国王に相応しいと言えるだろう。
 と、言いたいのだが…。

「んー!ラディウスー!今日も頑張ったんだなぁ、偉いぞぉー!」

 僕が部屋に入った次の瞬間にはすでに僕の隣に立っていて、そう言って頬を擦り付けてくるのだ。

「はいはい。食事を摂りますよ。父上」

 僕の言葉に父上は「つれないなぁ」と言いながらも席に座り直した。
 ナイフとフォークを手に取り、用意された食事に刃を入れる。
 切れ味の良いナイフのお陰で、負担なくスライスすることができた。

「さて、ラディウス」
「なんですか?」
「お前は強くなりたいんだな?」

 父上らしくない真面目な声色かつ手を止めて言った。
 父上の言葉に僕も食事の手を止めて冷静に思考を巡らせる。
 僕は偉大な父の跡を継ぐためにも、このままではだめなのだ。

「はい。僕は強くなりたいです、父上」

 僕の言葉に父上はふっと笑ってからこう言った。

「それなら、そろそろ四獣の試練を受けさせるべきかな」

 と。
     
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