ありふれたこの世界であの王冠を手にしたい。

天智学

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第四話

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 その後一週間、僕達はルクスと稽古をした。
 その結果として、僕は消えるようなフェイントと、そもそもの剣の腕を手に入れた。
 しかし、恐らくだがフェイントは人間を相手することを想定した技術だから、四獣相手には決定打にならない可能性がある。

「ラディウスぅ、強くなったじゃねぇかぁ。そろそろ油断できないかもなぁ」

 お世辞ではないことは分かる。やはり、僕は剣を使うことはできる方なのだろう。

「ルクスさん!俺はどうですか!」

 レントはそう言って炎の魔法球を一つ浮かせてみせた。

「じゃあ、それ維持したまま打ち合いなぁ」

 ルクスはそう言って剣を構えた。それに呼応するように、レントも剣を構える。
 次の瞬間、打ち合いが始まった。
 レントの魔法球は彼の動きに合わせて、しっかりと追従するように動いている。たとえ一つだけとは言え、困難な技をこの短期間でこなしてみせるのは流石と言うところだろうか。

「うん、悪くねぇなぁ。でも、剣がまだまだだなぁ」

 ルクスがそう言った瞬間、ルクスの圧が変わったのが分かった。
 剣に籠もる力も、踏み込む足の力も、身体の使い方も、全てが変わった。本気とまでは行かないのかもしれないが、僕と打ち合っているときと同じくらいには力を発揮している。

「ぐぅ!!」

 そんなルクスに、僕よりも剣の腕だけで言えば劣る今のレントがついていけるわけがなかった。レントは防戦一方、それどころか確実に隙を作られていた。ルクスの気分次第でいつでも一本取れる。そんな状況だった。
 そして、ついにレントの木剣が弾かれ、宙を舞った。致命的な隙だ。だからこそ、ルクスは確実にこの隙を突きに来る。

「はぁぁぁ!!!」

 刃を突き立てようとするルクスに対し、レントは瞬時に魔法球を操作して放った。流石に避けるしかないだろう。そんな僕の予測は平気で超えられてしまった。

「あぁー、及第点」

 そう言うとルクスは高速で剣に光の魔力を纏わせた。一度見たことがある、月のような輝き。いや、その時よりも眩く光るその剣は、いとも簡単にレントの魔法球を切り裂いた。
 その刹那、ルクスの木剣はレントに届いていた。

「くっそぉ!!やっぱりおかしいですよぉ!」

 悔しがるレントをよそに、ルクスは木剣を肩にトントンと当てて平然としていた。

「いやいやぁ、動きは悪くなかったよぉ。でも、魔法球の質が悪いなぁ。もっと魔力を練り上げろぉ。そんなカッスカスの魔法球なんてぇ、簡単に引き裂けちまうぞぉ」

 なるほど、魔法球にも質があるのかと何となく思った。僕には魔法を使うことはできないけれど、いつか何かの役に立つかもしれないことは全て覚えておくべきだろう。

「簡単に言ってくれますけど、それ相当難しいんですからね!!」
「分かってるってぇ。だから及第点って言ってんだろぉ。お前等二人共、合格だぁ」

 ルクスはそう言って僕達の頭に手を置いた。思わず、心の中でガッツポーズをした。

「ほら、さっさと試練行ってこいよぉ。もしぃ、負けたらもっとしごいてやるからぁ。じゃあ、俺はこの一週間サボった仕事があるからぁ、じゃあなぁ」

 ルクスはそう言って何の余韻もなく訓練場を後にした。
 ルクスは実力だけで言えば守護王に匹敵する力を持っている。守護王とは、王国を守る各属性最強の人間で、現在この国には四人の守護王がいる。ルクスは、その四人に匹敵する力を持っているにも関わらず、自分の意志で王宮指南役の任に就いたのだ。なぜかと理由を聞けば「守護王だとぉ?面倒に決まってんだろぉ」とのことだった。
 だから、ルクスの仕事は僕達を指南することのはずだ。そんなルクスにサボっている仕事がある。何となく嫌な予感がしたが、杞憂だと思うことにした。

「じゃあ、準備して城の前で集合しよう」
「おう!」

 そして、僕達は訓練場を後にした。


「あぁー。めんどくせぇー」

 あくびをしながら玉座の間へ歩を進めていく。
 この一週間、ラディウスとレントをとことんしごいてやったから、試練自体に心配はない。だが、問題は…。

「ルクス、よく来てくれた」

 玉座の間の扉を開けると、威厳と厳格さを併せ持つ低い声で名前を呼ばれた。
 普段ならもう少し軽く声をかけてくるはずなのだが、それをしないということが事態の深刻さを物語っている。

「例の件ですよねぇ。守護王にやらせればいいじゃないですかぁ。なんで王宮指南役の俺が出なきゃいけないんです?」
「知っての通り、守護王は王国の守護を任せる重要な立場だ。そう軽々に都からは出せんのだ。そこでルクス、お前の出番だ」

 言いたいことは分かるが、王国の危機かもしれないという時ですら守護王を動かせないというのは中々問題なのではないだろうか。まぁ、それもきっと俺が王宮指南役に就いたせいなんだろうが。

「分かりましたよぉ。確認ですが、いにしえの宝具の一つ、『邪爪じゃそう』が奪われたということで間違いないんですね?」

 俺は少し真面目な口調でそう言った。

「その通りだ。それに加えて、邪爪の守護を任されていた風の守護王は…」
 王は深刻そうな顔を浮かべて、一呼吸間を置いてから重たく口を開いた。
「殺された」
「…はっ?」

 王の言葉に思わず声が出た。風の守護王、ウェントゥス・レーニス。期待のルーキーと揶揄される、天才的な魔法の才を持った男だった。

「…まぁ、ウェントゥスがやられたなら、次に動くのは俺でしょうね」

 俺はまだ理解が追いついていなかった。守護王が平気で殺されているという事実もそうだが、ウェントゥスには剣の指導をしたこともあった。
 ラディウスのように何度も何度も「もう一本お願いします!」と言ってくる、少し面倒だが可愛いやつだった。
 そんなウェントゥスが、死んだ。

「…犯人の目星は?」
 絶対に殺してやる。そのくらいのつもりで俺は口を開いた。ウェントゥスを殺したのだ。それくらい当たり前だろう。
「あぁ、目撃情報によると、奴は茶色い狼のような毛を全身に身に纏っていたらしい」
「獣人、ですか」

 獣人、その起源はわからないが、人と獣が交わって産まれたのではないかと言われる知能を持った人型の獣だ。
 その全てが悪ではないことは分かっている。だが、獣人に対してあまりいいイメージはない。今回のことでその溝はより深まった。

「あぁ、恐らくだが、奴が向かった先は龍なる大地だ」
「あぁ?ラディウスがこれから向かう場所じゃねぇか。なんで止めなかったぁ?」

 俺は怒りと困惑で魔力の制御が効かなくなってしまった。身体から魔力が溢れ出して、辺りの空気を揺らす。

「だからこの一週間お前に稽古をつけてもらったのだ。それに、ドラゴンのそばにいる限り死ぬことはないだろう。だが、それも不確かだ。だから、お前が守ってやれ」

 随分と無責任な言葉だ。俺は剣は人を守るためにある。なんて言う柄じゃない。でも、ラディウスを見捨てるほど人間性を捨ててもいない。俺の心中なんて、全てお見通しというわけか。

「分かりましたよぉ。ラディウスは責任を持って俺が守ります」

 俺はそう言って城を後にした。そして、光の魔術の行使によってラディウス達よりも早く龍なる大地に辿り着いた。
 …そして、俺はこの後地獄を見ることになった。

「はじめまして、ですよね。私の名前はサティロス。よろしくお願いします」

 茶色い毛を身に纏い、鎖を肩に巻き付けた男は言った。

「あぁー?うるせぇなぁ。まぁ、剣士の礼儀ってことで名乗ってやるけどさぁ。俺はルクス。ルクス・グラーディオだ」

 俺の名乗りに対し、奴は笑顔で巨大な爪のついた鋼色の手甲を構えた。腕の半分近くを覆うそれには、見覚えがあった。
 邪爪・イナニス。ウェントゥスから奪ったいにしえの宝具だ。

「ルクスさんですね。じゃあ」

「さようなら」
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