ありふれたこの世界であの王冠を手にしたい。

天智学

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第五話

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 自室に戻った僕は、壁にかけられた剣を手に取る。真っ黒な鞘に仕舞われたそれは、使い古してはいるものの手入れを欠かしていないお陰で綺麗な状態を保っている。
 この剣は、幼少期にルクスから譲り受けた名も無き剣だ。当時、まだ幼かった僕は街の武器屋に行っては、ガラス越しに剣を眺めていた。
 そんな僕に対して、ルクスは笑顔で言った。

「ラディウスぅ。俺がまだ素人だった時に使ってた剣だ。これぇ、やるよ」

 そう言って僕の目線の高さに合わせるようにしゃがんだ後、僕に剣を手渡した。
 当時の僕は、それはもう嬉しくて仕方がなかった。幼少期にしか味わえない、あの不思議なワクワク感。今でも鮮明に思い出すことができる。
 僕はベルトに剣を刺し、僕の体躯には少し小さい深緑色のケープマントを羽織った。このマントは、昔父上に贈ってもらったマントだ。
 未来の王様に。そう言ってくれた時の喜びは今でも忘れない。
 …でも、僕はまだ王様には程遠い。それどころか、愚者と罵られる始末だ。
 それでも、僕は立派な王になりたい。
 覚悟を決めて、僕は部屋を出た。そして城門を潜り、兵士から「頑張ってください!ラディウス様!」なんて声をかけてもらった後、レントと合流した。

「ういー!遅かったな!」

 そう言うレントの格好は先程とほとんど変わりがない。強いて言うのであれば、腰に剣をぶら下げていることだけだろうか。

「行こう」
「はいよ!」

 そして、僕達は馬車に乗り込んだ。戦闘に備え、常に剣の柄に触れておく。
 龍なる大地の付近には、必ず魔物が存在する。
 魔物とは、木、草、石、岩。あるいは山、森などの自然に魔力が蓄積し、その結果、意思を持った怪物のことだ。
 龍なる大地。国土面積の三割を覆う、岩石地帯。そんな大規模な自然に、魔物がいないほうがおかしい。
 はずなのだが…。

「魔物、いねえな」

 レントは独り言のように呟いた。
 そう、一切魔物が出てこないのだ。妙な静けさに嫌な予感を覚えたまま、僕達は目的地である龍なる大地最大級の火山に到着した。
 一言目に出た感想は、暑い。そう、あまりにも暑かった。
 僕達は馬車を降りて、火山の側面に掘られるようにして存在する巨大な門の前まで歩いた。
 暑さと緊張で全身から汗が噴き出す。正直に言えば、やはり怖い。
 いくら魔物との戦闘経験を積んでいようが、どれだけ稽古をしていようが、恐ろしいものは恐ろしいのだ。
 僕達は目と目を合わせ、覚悟を決めて門を押した。
 門が開いた途端、熱風が僕達を襲う。そして次に異様な圧力を感じた。

「ほう…。面白い人間が来たなぁ」

 ただ喋っているだけなのに、その威圧感は異常なほどだった。呼吸が乱れたのが分かる。必死で深呼吸をしながら、僕は口を開いた。

「試練に参りました。ユースティティア王国、第一王子のラディウス・インペリウムです」
「同じくユースティティア王国、兵士見習いのレント・フランマリーだ」

 僕達の名乗りに奴は低く唸り声を上げながら言った。

「ほう、お前がラディウスか。面白い。では、少し戯れてやるとしようか」

 そう言うと奴は咆哮を上げた。耳を劈くようなその咆哮に、僕は慌てて剣を抜いた。そして、初めて奴の姿を見た。
 僕達の何倍以上もある巨大な真っ赤の身体に、翼と一体化した前足。吸い込まれるような漆黒の爪を持つ後ろ足。翼からは炎が噴き出ていて、周囲を真紅に染めている。
 透明なシアン色の目は僕達を刺すような鋭い視線を送っていて、揺れる尻尾は凶器のように鋭い。

「レント、作戦通りに行くぞ」

 僕はそう言ってドラゴンに向かって駆け出した。
 事前にルクスから聞いた情報によると、ドラゴンの武器は翼から繰り出される旋風とあの漆黒の爪。そして、地形の操作とのことだ。
 僕達の作戦はシンプル。僕が前衛でひたすらに攻撃に耐え、その間にレントが上級魔法を準備し、放つ。つまり、僕がどれだけ持ちこたえられるか次第だ。
 だが、逆に言えば持ちこたえるだけでいいのだ。それなら、勝機はある。
 走りながら脇腹に剣を構える。前方からの攻撃すべてに対応するためだ。
 そんな僕に、奴は翼から旋風を放った。
 それはまるで風の刃のような一撃だった。だからこそ、僕はこの一撃を防ぐことができる。

「はぁっっ!」

 僕は剣を一閃した。風とぶつかった瞬間、カァンと音を立てて風は真っ二つに切れた。
 魔法ですら叩き切る僕の前にただの風の斬撃など、そよ風でしかない。
 距離を詰め、僕は奴に飛びかかる。宙に浮いた瞬間、何とも言えない灼熱感が体を襲うが、その一切を無視して切りかかった。
 だが、僕の放とうとした一撃は、奴が繰り出した前足によってすんでのところで放つことができなかった。必死に体を捻らせ、攻撃を避ける。
 だが、そんな僕に続けて反対の足で奴は切りかかってきた。僕は瞬時に剣を構え、その一撃を防いでみせる。金属同士がぶつかったような甲高い音が周囲に響く中、僕は地面に着地し、再び走り出した。
 やはり、強い。

「せやぁぁぁっ!!!」

 僕は声を荒げながら一直線に突っ込んだ。隙だらけだ。その隙を突くために、奴は再び前足で僕を引き裂きに来る。そう、ここに勝機がある。
 僕は全力でスライディングをした。眼前を漆黒の刃が覆うも、それは僕を捉えることができない。そして、僕は奴の懐に入ることに成功した。

「はっ!」

 肉の切れる音が耳に響き、返り血が僕の左目を覆う。そう、僕は奴の腹を切り裂いたのだ。

「ラディウス、やるではないか」

 だが、奴は冷静に跳ね、尻尾で僕を思い切り殴った。

「ぐぶっ」

 腹に突き刺さったそれは、かなりの痛手だ。だが、血は出ていない。出血で倒れることはない。なら、まだ戦える。
 僕は腹の痛みを堪えながら、左目の血を指で軽く拭き取り再び駆け出した。
 その瞬間、レントが叫んだ。

「ラディウス!!準備はいいぞ!!!」

 その叫びに僕はレントの方を向く。そこには、数え切れないほどの炎の刃を召喚したレントの姿があった。
 この状況で、僕がやるべきことは一つ。奴が上に避けられないように、上から切りかかること。
 僕は瞬時に飛び上がり、上から剣を振り下ろした。
 そして、それを合図にレントが叫ぶ。

炎威の斬撃フェルド・アキエース!!!!!」

 刹那、無数の炎の斬撃が奴を襲う。辺り一面を白煙が覆い、僕は高速でレントの元へ戻った。

「はぁ、はぁ、やったか!」

 息を切らしながらレントが言った。上級魔法、一級クラスの魔術師でやっと戦術的に使用が可能と言われるほどの強力な魔法だ。それを二級クラスであるレントが使用したのだ。その負荷は想像を絶するだろう。
 だが…。

「くっふっふっ」

 白煙の中から低い笑い声が辺りに響く。
 やはり、倒すことは叶わなかったのだ。白煙が辺りを覆う寸前、奴が地形を操作するのが一瞬だけ見えていた。
 白煙が晴れると、やはりそこには岩の壁が立っていた。それも、あの魔法でもびくともしていない。

「地形操作まで使わせるとは、中々やるではないか。侮っていたぞ」

 奴がそう言った瞬間、岩の壁は一瞬でただの地面に戻った。地形操作、想像よりも厄介だ。

「レント、行けるか?」

 僕の言葉にレントは息を切らしながら口を開いた。

「あぁ…さっきよりも負担が少ない上級魔法くらいなら、ギリギリ。でも、それ放ったらたぶんぶっ倒れる」

 レントの現況から、現状なすべきことを冷静に考える。
 僕のただの一撃は、決定打にはなり得ない。もし僕の一撃で奴を倒すのであれば、僕は全身全霊の一撃を放たなければならない。それをするには、レントの魔法で隙を作るしかない。だが、そのレントの魔法を奴にぶつけるためにはさらに奴に隙を作るしかない。
 僕は戦闘でズレたマントを整えながら、ハッキリと宣言した。

「ここからは、全力だ」

 そして、僕は再び駆け出した―。
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