ありふれたこの世界であの王冠を手にしたい。

天智学

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第六話

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 剣を後ろ向きに構え、全力で駆け出す。
 腹のダメージと疲労の蓄積によって身体に限界を感じながらも僕のスピードは衰えていない。
 奴は駆け寄る僕に風の斬撃を連続で放つ。それを僕は全力で切り払い、全力で避ける。恐怖を感じないわけがない。でも、それでも僕はあいつに勝ちたい。
 僕は剣を振りながら全力で頭を回す。奴を打ち倒すためには地形操作を封じる必要がある。そのためには奴を宙に浮かせるしかない。
 リスクは大きいが、フェイントを使う他ないだろう。
 そう決意し、奴の懐に飛び込もうとした瞬間、僕の身体はバランスを崩し前のめりに転倒した。

「がぁっ…!」

 先ほどまで立っていた地面を見てみると、そこには段差ができていた。

「地形操作っ!」

 そう叫ぶと同時、奴の前足が僕に振りかぶられる。
 必死で地面を蹴り、すんでのところで回避することができた。だが、僕の隣の地面は抉れて沈んでいる。その光景には思わず冷や汗が流れ落ちた。
 だが、ただで転ぶつもりはない。僕は片手で剣を握り、全力でそれを振った。
 その一撃は奴の前足を浅く切った。やはり、ドラゴンの鱗は硬い。
 次の瞬間、反対の前足での追撃が襲いかかる。僕は全身に力を込め、瞬時に立ち上がってそれを回避した。
 ドラゴンは強い。だが、ルクスほど速くない。だから避けることは容易だし、カウンターを入れることもできる。
 しかし決定打に欠ける。やはりレントの魔法と僕の全力の一撃の合わせ技にしか勝機はないだろう。
 僕が再び走り出すと、風の刃に交えて足元の地形が絶え間なく変化していく。上手く踏み込むこともできなければ、回避行動すらも潰されてしまう。

「ぐあぁっ」

 風の一手が、ついに僕を捉えてしまった。その隙を奴は冷静に突きに来る。翼を振りかぶった全力の一撃、咄嗟に剣を構えてはみたものの、防ぎ切れる気がしない。これはまずい。そう直感した瞬間、僕の真横を灼熱の球体が通り、ドラゴンの翼に衝突し爆発した。
 その正体は、レントの放った炎の魔法球だった。
 後ろを見てみれば、息を切らしながら上級魔法の準備をしつつこちらに手をかざすレントの姿があった。

「流石レント!!」

 薄い白煙を切り裂き、僕は両手で剣を握った。
 一瞬の隙を突くにしては余りにも振りかぶった大きな一撃。それは明らかにこちら側の隙と言える。だが…。
 態勢を整えたドラゴンが遅れて僕にカウンターを仕掛ける。その瞬間、僕は剣を手放した。消えるようなフェイント。本来剣を持ったままやるところだが、苦肉の策と言ったところだろうか。

「何っ!?」

 意表を突かれた奴は隙だらけだった。僕はその隙を全力で突きにかかる。

「はぁぁぁぁっ!!!!!」

 懐に入り込み、先ほど切った部分をめがけて全力で蹴りを叩き込んだ。
 その瞬間、奴が宙に飛ぶ。

「レント!!!!」

 僕が叫ぶと、それに呼応するようにしてレントが叫んだ。

「分かってる!!炎渦マグヌス・フランマ!!!!」

 レントがそう宣言した刹那、周囲を高温が包み込んだ。そして次の瞬間、レントの手のひらから巨大な炎の塊が射出された。
 それはドラゴンめがけて直進し、結果として態勢を整え直す前の奴の胴に見事なまでにクリーンヒットした。

「ぐぅっ」

 奴が唸り声を上げながら落下してくるのを見た僕は、瞬時に宙に浮いていた剣を取り、両手で握る。そして頭上に剣を構え、タイミングを見計らって振り下ろす。

「せやぁぁぁ!!!」

 その一撃は奴の腹を綺麗に斬った。

「がぁぁぁぁっ!!!!」

 悲鳴を上げながら、ドラゴンは力なく倒れた。
 それを見た瞬間、僕は思わず全身から力が抜け、剣を支柱にその場にひざまずいた。
 後ろを見れば、レントも両手を地面につけて息を切らしている。だが辛うじて意識はあるようだった。
 僕は乱れる呼吸を整えてから立ち上がり、レントに近寄った。

「立てるか、レント」

 そう言って僕はレントに手を差し伸べた。

「あぁ…。さんきゅー…」

 レントは僕の手を取り、力なく立ち上がりながら言った。

「倒した、んだよな?」

 倒れたまま動かないドラゴンを見て、レントが言った。

「あぁ…」

 まだ実感の沸かない僕は曖昧な言葉を返すことしかできなかった。
 だが、レントはそんな僕の言葉でドラゴンを倒したということを自覚したのか、「よっしゃぁぁ!」と言ってその場でガッツポーズをしてみせた。
 しかし、やはり魔力を使いすぎたのかその場でぶっ倒れそうになっていた。僕はそんなレントを支えながら、ドラゴンに近寄った。

「これで、試練クリア、ですよね」

 僕の言葉にドラゴンは身体をピクッと反応させ、次の瞬間には飛び起きた。

「いやぁ!やられたわい!手加減していたとは言え、中々やるなぁ!小僧ども!」

 その言葉に僕は思わず笑みがこぼれた。愚者の僕が、四獣の試練を一つ攻略したのだ。

「やったな、ラディウス」
「あぁ!」

 僕たちは顔を見合わせて喜びを分かち合った。

「あぁ、体が痛いわぁ。ほら、我は寝るから、とっとと帰れ!」
「あぁ?何だその態度!俺達はお前に勝ったんだぞ!」
「何を。あまり調子に乗るでないぞ。我が本気を出せば小僧などちょちょいと…」
「分かりました!ドラゴン様は凄いんですね!」

 僕は二人の会話を遮って言った。そして、その場を後にするために入り口の方へ体を翻した。

「ラディウス」

 そんな僕達の背後から、改まった様子のドラゴンの声がした。その声に僕は思わず立ち止まり、「はい?」と声を上げる。

「誇って良いぞ。貴様は愚者などではない。立派な戦士だ」

 その言葉に僕は思わず目を見開いた。立派な戦士?僕が?
 今まで散々愚者だと罵られてきたこの僕が?
 僕は冷静に思考を巡らせてみる。
 もしかしたら、いやもしかしなくても僕は、立派な王様に近づけたのではないだろうか。

「ありがとうございます」

 頬の筋肉が緩むのを感じながら、僕はその場を後にした。
 そして、火山を出た僕が次に感じたのは、死の気配だった―。
 魔力と魔力のぶつかり合い、それを感じたのだ。

「レント―」

 言いかけた僕の言葉は、そこで止まった。レントは既に意識を手放していたのだ。
 僕はレントを背負いながら魔力を感じる方向へ駆け出した。まだ遠い。そんなことを感じながら僕は必死に走った。何か嫌な予感がしたのだ。
 魔力が近い。そう感じた瞬間、周囲にカァンという甲高い音が鳴り響いた。
 音のした方向を見るとそこにはボロボロのルクスと見知らぬ獣人の姿があった―。
 
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