ありふれたこの世界であの王冠を手にしたい。

天智学

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第十一話

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 目眩がする。力が抜ける。身体が揺れる。血が垂れる。
 奴の一手は僕に致命的なダメージを与えていた。
 だが、それでも僕は負けたくない。負けるわけにはいかない。父上もレントも、皆が見ているのだ。絶対に負けたくない。

「おぉーっと!!ラディウス選手がサクスム選手の魔法によって大ダメージを負ってしまった!!これは勝負ありかー!!!」

 実況の声に僕は気合を入れて剣を構え直す。

「ラディウス様、まだ戦うというのであれば容赦は致しませぬよ」

 彼はそう言いながらも剣を構え直した。
 息を切らしながら、僕は口を開く。

「僕は、まだ戦える。絶対に負けない」

 そう宣ってみるものの、僕の身体はほとんど言うことを聞かない。だが、まだ僕は立っている。

「それでは……」

 そう呟くと彼は剣を肩で構えた。

「ゆくぞ!!!」

 奴は一瞬で僕との距離をゼロにした。
 僕は慌てて剣を振り、奴の突進を止める。しかし、奴は僕の一刀を受け止めると同時、僕の剣を簡単に弾いてみせた。
 カァンッと周囲に音が鳴り響いた次の瞬間、僕の胴は斬られていた。
 斬られる寸前、半身を引いていたおかげで致命には至っていないものの、その痛みによって僕の反撃は遅れてしまう。

「くっ」

 苦し紛れに剣を振るも、その刃は空を切る。
 その瞬間、僕には致命的な隙ができていたと思う。誰から見ても圧倒的に不利。そんな状況で、僕は気付いた。
 奴が僕に刃を振り上げるその瞬間、一瞬だけ隙ができていたことを。
 普段なら絶対に気付くことができない一瞬の隙、それを僕は見逃さなかった。

「……」

 僕は無言で横薙ぎを放った。
 その刹那、僕は何もかもが遅く感じていた。
 彼が身を引く動作も、舞う血飛沫や彼の目の見開きですら、僕の目には遅く見えた。
 全てが遅い世界でただ一つ、僕の一刀だけが速かった。

「何ぃっ」

 次の瞬間、僕の剣は確実に奴の胴体を切った。

「おぉっと!!何が起きた!!!ラディウス選手のあまりにも速い一閃、それがサクスム選手を切り裂いたー!!」

 実況の冷静な分析によって僕の視界は通常速に戻った。
 切られた直後の隙、それが奴にはほとんどなかった。だからこそ、僕は冷静に思考を巡らせることができた。

「ふぅぅん!!」

 僕は辺りに落ちていた岩石の破片を蹴り上げた。
 渾身の力を込めたそれはまるで弾丸の如く奴に飛んでいく。

「そんなもの!!」

 奴の叫びを無視するように、僕は懐に侵入した。
 奴が僕の放った弾丸を防ぐのに精一杯になっている隙を突いて、僕は奴の横腹めがけて突きを放つ。
 奴はサイドステップで躱すも、その傷は浅くはない。

「ぐぅ」

 奴がうめき声を上げると同時、僕は全力で大地を踏み抜いた。
 次の瞬間、僕は剣を逆袈裟に振り上げる。

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 僕の一刀は奴の剣によって防がれる……かに思えた。しかし、僕の刃は奴の剣を宙に舞わせてみせた。

「我を守る盾と成れ。岩壁の守護者ロシュ・コスタス

 僕が次の一手を放つ寸前、奴が高速で唱えた。
 その瞬間、地面が隆起する。
 僕の一刀を阻むその壁をどうするのか。答えは決まっている。

「ぶった斬る!!!」

 僕は全身全霊の横薙ぎを放った。空間を裂くような僕の一閃は、岩の壁を完膚なきまでに斬った。

「くっ…!」
 僕が奴の身体を切り裂こうとしたその瞬間、奴が拳を構えた。

「我を守るけんと成れ。岩甲の拳闘士ロシュ・グラディアートル

 奴が唱えると同時に奴の手を岩が包んだ。僕は迷わずに剣を振り抜いた。

「おぉぉぉぉっ!!!」
「せやぁぁぁぁぁ!!!」

 次の瞬間、まるで鋼鉄とぶつかり合ったような衝撃が僕の剣を襲う。すぐに弾き返されてしまいそうな威力にも怯まず、僕は両手で剣を握った。

「はぁぁぁぁっっっ!!!!」

 僕が全身の力を剣に込めた瞬間、奴の手甲にビキビキとヒビが入った。

「ぐぅぅっっっ!!!」

 それでも奴は最後の最後まで抵抗を諦めなかった。僕の身体も限界を迎えるその寸前、奴の手甲が音を立てて砕け散った。
 僕は奴の喉元に剣を突き立てた。
 途端、観客席がざわめく。

「なんてこった!!愚者、ラディウス・インペリウムがまさかまさかの勝利だー!!!!!!」

 そんなざわめきに負けず、実況が言った。
 僕は息を切らしながら小さく呟く。

「はぁ、はぁ。終わりだ……」

 僕の言葉に彼は目を見開きながら両手を上げて口を開く。

「ラディウス・インペリウム。なるほど、貴方は愚者などではない。立派な戦士のようだ」

 その言葉を合図に、僕の身体からは力が抜けた。僕は剣を支柱にしてその場にひざまずく。
 観客席から小さな拍手が響いた。

「ラディウスー!!!すげーぞー!!!」

 その拍手の主はレントだった。そこから拍手は少しずつ広がっていき、次第に会場全体を拍手が包んだ。
 これがあと何戦か続く。そう考えると少し辛いものがあるがやり遂げるしかない。そう思えるほどにこの拍手は僕にとって大きいものだった。
 僕は目の前の彼に手を差し伸べた。
 戦いの最中は敵でも、戦いが終わってしまえばそれはもう敵ではない。
 僕は彼とお互いを支え合いながら部舞台の端へ歩を進めた。
 拍手に包まれる会場を歩く中、僕はつい口角が上がってしまった。
 愚者と罵られる僕が、ようやく皆に認められるきっかけを掴んだのだ。嬉しくて仕方がない。
 そんな余韻に浸りながら、特別な一席に座る父上と目を合わせた。自分が誇らしかった。

「愚者!!!!!」

 そんな事を考えていた時、吹き抜けになった会場のてっぺんから声がした。
 声のした方を見ると、そこには黒いマントを羽織った怪しげな一人の男が立っていた―。
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