スイーツ王国物語はちゃめちゃ国家運営記~恋も野望も詰め合わせ~

くろ

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プロローグ

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 ――なゆ国、シュガーリウム城。ミントキャンディとマカロンストーン、カラメルシュガーでコーティングされた甘くも堅牢なお城。

 最上階、プリンセスルーム。甘い香りの立ち上るキャラメルタイル、ホワイトチョコレートの壁、天井はクリームシュガー製のドームで、黒糖星が散りばめられている。

 とろけるような甘味音色を奏でる鳥、シュガリリスのさえずりが聴こえ、柔らかな光が降り注ぐ朝。
 ふわふわのスフレベッドで、ゆっくりと少女が目を覚ました。
 栗色のゆるふわウェーブ、優しく揺れる光を宿した、スウィートグリーンの瞳。透けるように白く、滑らかな肌。
 バニラミルクの香りをさせる彼女はここなゆ国の姫、なゆ=ミルクフォン・シュガリーネ。

「シュガリリスさん、おはようございますですわ……」

 窓の側に集まっていたシュガリリスに、壁ホワイトチョコレートをなゆ姫はそっと差し出し、嬉しそうに食べ始めた姿に微笑んで。
 やがてシュガリリスは砂糖がこすれるような音を立て、キャラメルリボンの尾を揺らして飛び去っていった。

「また明日も来てくださいませね……! 私、お待ちしてますから~!」

 ひらひらと手を振ってシュガリリスを見送り、淡いミルクホワイトのスウィートドリームピローガウンから、和洋折衷のパステルカラーのドレスに着替えると、部屋の中央に位置するプリン泉からプリン水を大きな器に注ぐ。
 プリン水はすぐにぷるぷるのプリンとなり、それをスプーンで口に運び、手を頬に添えてうっとりとした笑みを浮かべる。

「今日もプリンはぷるぷる美味しいですわ。ほっぺたがとろけますの……!」

 大きなプリンを食べ終えたなゆ姫はプリンセスルームをあとにする。
 ふんわりカカオの香り漂うチョコストーン廊下を、生クリーム色のメイド服に身を包んだメイド達に優しく挨拶しながら歩き、やがて彼女は甘玉座の間へと辿り着く。
 ホワイトチョコレートの壁に、透明な飴細工ドームから差し込む甘陽の光が揺れる中で、マカロンクッションが敷かれたプリン色の玉座にそっと腰を降ろし、手を胸に重ねて眼を閉じる。

 「さて――今日も皆様に健やかなる甘味がありますように」

 その声は、まるでとろけるキャラメルのように優しく、甘く、玉座の間全体に広がっていく。

「姫さま……あぁぁ……なんて甘々しいの……!」

「朝食の生クリームあんバターカステラより甘い……っ!!」

 数名の生クリームメイドとチョコミント兵が、その甘気溢れる声に耐えきれず倒れた。そして、唐突にそんな光景に角砂糖を投じるように勢いよく扉が開かれる。

「相変わらずの甘さだな、なゆ姫。スイートデビルノクティス筆頭、ダルカ=ノワール・ヴァン・なゆ様が来てやったぜ」

 扉の向こうから現れたのは、ダークチェリー色のゴスロリ装束を身に纏い、黒蜜色の角、小さな黒翼を持つ甘味悪魔、通称、あくまちゃん。

「ったく情けねえやつらだ、起きたらオレ様が甘くしつけてやるぜ。黒蜜のプールでなぁ」

 そう言って、あくまちゃんは笑いながら倒れたチョコミント兵の一人をつま先でつついた。倒れた者は一様に蕩けた微笑みを浮かべている。
 幸せに満ちた甘味の夢を見ているのだ。

「まあまあ……皆様、頑張っておられるのです。甘さに包まれて夢を見るのも、悪いことではありませんわ」

 なゆ姫がくすりと微笑み、玉座から立ち上がる。その動作だけで空気がバニラシュガーの香りに包まれ、また一名のメイドがふにゃりと崩れ落ちた。

「ふにゃあ……ひ、姫しゃまぁ……」

「おいおい……」

 あくまちゃんは呆れたようにため息をつき、黒蜜色の角をぐるりと揺らす。と、扉の向こうから複数のぱたぱたと翼で飛ぶ音が聞こえてきた。 

「てんしちゃんがいらっしゃったようですわね」

「はい。おはようございます、なゆ姫、あくまちゃん。皆様。心が甘味を求めるとき、そこにはきっと、なゆがあるのです。
 ――セレフィーナ=ルミエール・ラピス・なゆ。今日も愛と優しさと共に、参上です」

「……よう、てんしちゃん」

 扉を開けて現れたのは、プラチナブロンドの髪に白銀の甘衣。虹色の光輪と、白翼を持つ。通称てんしちゃん。
 その後ろに続くのは、ミントミストのヴェールに包まれた癒しの天使隊。
 彼女たちの羽ばたきとともに、ミストが優しく広がって甘く爽やかな香りが部屋を包み込む。

「甘味が彼らの心をふんわりと包みますように。天使隊の皆さん、お願いね。優しさを胸に癒して差し上げて?」

 夢の中にいる者たちは魔法で編み上げた砂糖絹の担架で、天使隊によって運ばれていく。てんしちゃんはなゆ姫に目を向けて。

「なゆ姫、本日のご予定は?」

「毎年恒例の各地のプリン泉の調整を行おうと思いますの。数日は掛かるので、その間の代替甘味の用意に昨日からみに悪魔ちゃんたちとみに天使ちゃたちにお願いしていますわ。1日にできる調整には限りがあるので、午後は魔力回復のために身を休めようかと」

 あくまちゃんが、自信満々に前に出て自らの胸を叩く。

「なゆ姫はどんと構えてな。オレ様たちスイートデビルノクティスがいりゃ、あんたの出る幕はほとんどねえさ。

「頼もしいです、あくまちゃん」

 と、今度は慌ただしい足音が聞こえてくる。扉が勢い良く開かれ、転がり込んできたのはみに悪魔とみに天使たち。小さな羽でくるくると三人の回りを飛んでいる。

「た、大変! 大変なのです~! 黒蜜ダムに暴走甘味獣の群れが接近中! このままでは黒蜜ダムが枯渇する恐れがあります~!!」

「……なにぃ? そいつは放っちゃおけねえな。黒蜜はオレ様たち甘味悪魔の血液だ! 速攻で鎮圧するぞぉぉぉッ!!!」

 勢い良く飛び出したあくまちゃん。彼女を止められるものはなく、甘い黒蜜の香りが走った後には残されていた――。

 

 


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