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丑蜜時の襲撃者
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――シュガーリウム城、プリンセスルーム。
なゆ姫は今日一日のプリン泉の癒術を滞りなく終えてシュガーリウム城へと帰還していた。私室で過ごし、消耗した魔力を回復する。
「ふぅ……もうお腹がぺこぺこですわ。体が甘味を欲してますの……!」
なゆ姫の目の前には、たんまりと甘味が器に盛られて並べられていた。まずマカロンを手にとって口に運ぶ。口に広がる甘い味わいに自然と口元が緩む。
――と、部屋の前でなゆ姫の護衛をしているチョコミント兵の声と、悪魔たちの声が聞こえてきた。
「なゆ姫、入っていいよな?」
「ええ、もちろんですわ」
スイートデビルノクティスの面々がなゆ姫の部屋に並ぶ。
「食べながらでいいから聞いてくれ」
あくまちゃんが判明したことをなゆ姫に伝えると、なゆ姫は微かに目線を落として目を泳がせた。
「我らスイートデビルノクティスがどんな敵であろうとも退けてみせよう! 姫に危害が及ぶことは決してありませぬゆえ、ご安心召されよ!」
演出がいつもの調子で語る姿に、なゆ姫は励まされて顔を上げる。
「ま、そういうわけだ。あばよなゆ姫、ゆっくり体を休めよ」
そして、全員が部屋をあとにした。
丑蜜時。蜜の香りを含んだ風が、静寂の夜を柔らかく満たしていた。シュガーリウム城を一人で歩いていたあくまちゃんは魔力の乱れを察して、駆け出していた。
城の広間に足を踏み入れたあくまちゃんの眼前で、ゆらりと空間が揺らぎ、そこからフードをかぶった影が姿を現した。あくまちゃんは即座に、甘い香り漂う黒蜜鋼の短剣を抜いて、斬りかかる。
「てめぇ……ただ者じゃねえな。この城に侵入してくるとはよ……!」
影は刃を腕で難なく弾き、あくまちゃんを無視して上を目指す。だが、翼に魔力を込めて加速したあくまちゃんがその先に立ちはだかる。どろりとした黒蜜が、階段を全て埋め尽くしていった。
「いい度胸じゃねえかおい。オレ様を無視なんてよぉ」
荒々しい声が響く。しゃべる様子のない敵に苛立ちがあくまちゃんのなかに募る。翼が一瞬で巨大化。目的をあくまちゃんに切り替えて迫る影を、振るわれた翼の突風が吹き飛ばした。影はキャンディストーンの柱に激突し、ぴくりとも動かない。
「は、昼間の襲撃でオレ様たちの力を削いでなゆ姫を暗殺でもするつもりだったんだろ? だがな――あんなん温すぎんだよ!」
影のフードをあくまちゃんが豪快に破り捨てる。そこにいたのは――人間ではない無機質な存在。表情を持たない、甘味人形だった。
『クク……ケケッ……アヒャヒャッ! なゆ姫と、愚かな者共に死を――!』
人形の内側から狂った笑い声が響く。胸から光がこぼれる。あくまちゃんはすかさず人形の胸に手を突っ込んで、砂糖結晶を引っ張り出した。
光を放って熱を帯び、震えるコアを黒蜜が素早く包み込んだ。
刹那、黒蜜の内側でコアが爆ぜた。魔力の波動が駆け抜け、水飴のガラスがぱりんと砕け散った。
あくまちゃんは何事もなかったかのように、残された人形に目を向ける。
「手掛かりを残さないための爆発でもあったんだろうが、オレ様を前にしちゃ粗末なもんだ。解析すりゃあ敵のことはすぐにわかる。それでぶっ飛ばしてお終いだ」
駆けつけてきたチョコミント兵とみにたちに後処理の指示をだし、スイートデビルノクティスに通信機で城に来るように言ってから、あくまちゃんは人形を持ち上げた。
「こいつは研究の出番だな。……行くか、なゆ科学研究所
なゆ姫は今日一日のプリン泉の癒術を滞りなく終えてシュガーリウム城へと帰還していた。私室で過ごし、消耗した魔力を回復する。
「ふぅ……もうお腹がぺこぺこですわ。体が甘味を欲してますの……!」
なゆ姫の目の前には、たんまりと甘味が器に盛られて並べられていた。まずマカロンを手にとって口に運ぶ。口に広がる甘い味わいに自然と口元が緩む。
――と、部屋の前でなゆ姫の護衛をしているチョコミント兵の声と、悪魔たちの声が聞こえてきた。
「なゆ姫、入っていいよな?」
「ええ、もちろんですわ」
スイートデビルノクティスの面々がなゆ姫の部屋に並ぶ。
「食べながらでいいから聞いてくれ」
あくまちゃんが判明したことをなゆ姫に伝えると、なゆ姫は微かに目線を落として目を泳がせた。
「我らスイートデビルノクティスがどんな敵であろうとも退けてみせよう! 姫に危害が及ぶことは決してありませぬゆえ、ご安心召されよ!」
演出がいつもの調子で語る姿に、なゆ姫は励まされて顔を上げる。
「ま、そういうわけだ。あばよなゆ姫、ゆっくり体を休めよ」
そして、全員が部屋をあとにした。
丑蜜時。蜜の香りを含んだ風が、静寂の夜を柔らかく満たしていた。シュガーリウム城を一人で歩いていたあくまちゃんは魔力の乱れを察して、駆け出していた。
城の広間に足を踏み入れたあくまちゃんの眼前で、ゆらりと空間が揺らぎ、そこからフードをかぶった影が姿を現した。あくまちゃんは即座に、甘い香り漂う黒蜜鋼の短剣を抜いて、斬りかかる。
「てめぇ……ただ者じゃねえな。この城に侵入してくるとはよ……!」
影は刃を腕で難なく弾き、あくまちゃんを無視して上を目指す。だが、翼に魔力を込めて加速したあくまちゃんがその先に立ちはだかる。どろりとした黒蜜が、階段を全て埋め尽くしていった。
「いい度胸じゃねえかおい。オレ様を無視なんてよぉ」
荒々しい声が響く。しゃべる様子のない敵に苛立ちがあくまちゃんのなかに募る。翼が一瞬で巨大化。目的をあくまちゃんに切り替えて迫る影を、振るわれた翼の突風が吹き飛ばした。影はキャンディストーンの柱に激突し、ぴくりとも動かない。
「は、昼間の襲撃でオレ様たちの力を削いでなゆ姫を暗殺でもするつもりだったんだろ? だがな――あんなん温すぎんだよ!」
影のフードをあくまちゃんが豪快に破り捨てる。そこにいたのは――人間ではない無機質な存在。表情を持たない、甘味人形だった。
『クク……ケケッ……アヒャヒャッ! なゆ姫と、愚かな者共に死を――!』
人形の内側から狂った笑い声が響く。胸から光がこぼれる。あくまちゃんはすかさず人形の胸に手を突っ込んで、砂糖結晶を引っ張り出した。
光を放って熱を帯び、震えるコアを黒蜜が素早く包み込んだ。
刹那、黒蜜の内側でコアが爆ぜた。魔力の波動が駆け抜け、水飴のガラスがぱりんと砕け散った。
あくまちゃんは何事もなかったかのように、残された人形に目を向ける。
「手掛かりを残さないための爆発でもあったんだろうが、オレ様を前にしちゃ粗末なもんだ。解析すりゃあ敵のことはすぐにわかる。それでぶっ飛ばしてお終いだ」
駆けつけてきたチョコミント兵とみにたちに後処理の指示をだし、スイートデビルノクティスに通信機で城に来るように言ってから、あくまちゃんは人形を持ち上げた。
「こいつは研究の出番だな。……行くか、なゆ科学研究所
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