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シュガーリウム城の甘いひととき
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シュガーリウム城、中庭。砂糖結晶の敷石がキラキラとまばゆい光を放ち、泉や水路には黄金色の甘さ漂うプリン水が流れている。
花壇にはチョコレートローズやキャンディマリーゴールドなど、甘い花が咲き誇り、みに天使たちが楽しそうにその面倒を見ている。
みに悪魔たちは楽しそうに走り回っているが、ただ遊んでいるだけではなく有事の際にはすぐに動く。甘く見えて、彼らは国防の任をちゃんと果たしている。
「こらっ! お城の壁に黒蜜で落書きをするのはやめなさい!」
「ぬはははは! 演出っち直伝の黒蜜アートだぜ! 上手いだろ~!」
「たしかに上手ですが、ダメなものはダメです!」
ぴぴーっとみに天使の笛が響き、壁に落書きをしていたみに悪魔が黒蜜筆を片手にドタバタと逃げ回る。それもよく見られる光景で、愛嬌溢れる一幕であった。
「みにの皆様はいつもかわいらしいですわね」
淡いパステルカラーのパラソルの下に、なゆ姫が優雅に腰掛けている。栗色のゆるウェーブ髪が風に柔らかく揺れて、森の緑の瞳は花々や泉、みにたちを優しく見守っていた。テーブルの上には透き通るガラスのティーカップに注がれた濃厚な甘さのチョコミルクティーと、小さな焼き菓子。なゆ姫はそっとティーカップを手に取り、甘い香りを楽しむように目を閉じた。
「ふふ、やっぱりお茶の時間は落ち着きますね」
そこにぽよん、ぽよんと跳ねるような足音。寝起きの夢見心地な雰囲気で歩いてきたましゅ姫。
「もち……起きたの。おはようなゆ姫」
「おはようございます、ましゅ姫。お待ちしてましたわ。さあ、こちらにどうぞ」
「……もち、ここがいい」
なゆ姫が手を置いた席ではなく、ましゅ姫は子供のように小さくなってなゆ姫の膝上に滑り込んだ。ましゅまろ族には、ある程度なら身体の大きさを自由に変えられるというよくわからない特徴があった。
「なゆ姫の膝の上、とってもぽかぽかして落ち着くから好きなの」
「……わ、私も ましゅ姫とこうして過ごせることを嬉しく思います」
なゆ姫は照れながらもティーカップをおいてましゅ姫を抱き締めた。もちよりも柔らかいもちもちの肌に触れ、頭を撫でる。
「……もちもちでたまりません、ずっと触れていたいです」
「ましゅまろ族は、この柔らかさが自慢なの。そう言ってもらえると嬉しいの」
ましゅ姫はなゆ姫に甘えるように身を寄せる。どちらからともなく微笑んでいると、上空に巨大なキャンディと共にみにたち。
「おっ、姫たち~! 見てくれよこのキャンディ……ってしまったあぁぁっ!」
「あ、危ないでしゅー!」
はしゃぎすぎて魔法の制御をおろそかにしてしまい、キャンディが重力に引かれて落ちる。羽を揺らしてあわてふためくみにたち。
その下には姫たちのいるパラソル。気付いたましゅ姫が素早くパラソルの上にたち、両手を広げる。
「……美味しそうなキャンディ、もちの朝ごはんにぴったり。ましゅまろでスイートハグして食べるの。――もちもちばりあ!」
白いましゅまろがなにもない空間から現れ、もっちりとキャンディを包み込んで受け止める。地面に静かに落ちてぷるぷると震えるましゅまろを、ましゅ姫は小さくちぎって口にした。ましゅまろのふわふわのなかに、キャンディのカリッとした甘さが広がる。
「キャンディとましゅまろのハーモニー……喜びの味なの! みんなも食べてみるの!」
みにたちが手を止めて一斉に集まり、なゆ姫も静かに口に運ぶ。
「美味しいです、流石ましゅ姫。守るだけでなく、味も高めてしまうなんて……!」
「……ふふん、どやぁ、なの!」
ましゅ姫がどや顔をし、皆がそれを見て笑う。喜びに包まれる中庭での時間はこうして過ぎていった。
◆◇◆
しばらくして、中庭での穏やかな一時を終えて私室に戻ったなゆ姫は甘い装飾が施されたなゆ電話が鳴っていることに気付き、その受話器をとった。
「はい、こちらなゆ姫です」
「えへへ、なゆお姉ちゃん久しぶり! 妹系あいどるのみるくだよ!」
電話の向こうの甘さを極めたような、耳をとろけさせる声の主はなゆ姫の従兄弟で、なゆ国各地を飛び回っている国民的アイドルのミルク・キャラメリゼ・スィーティア。通称みるくのものだった。
「みるくちゃん……お久しぶりですわ、お元気そうで何よりです!」
「あと一週間でそっちにつく予定だから先に伝えたくて! みんなは元気? ましゅ姫とてんしちゃん、あくまちゃんたちにも会いたいな~!」
「ええ、みんな変わらず元気にしておりますわ。あくまちゃんたちは今は遠征で不在ですが明日には帰還するとのことなので、問題ありません」
「やった! みんなといっぱいお話ししたかったんだー! シュガーリウム城でもたくさん歌っちゃうからたのしみにしててね!」
「……ふふ、ではみるくちゃんが来るまでに盛り上がれるようにステージを用意しておきますね」
「わーいっ! 大好きだよなゆお姉ちゃん! それじゃあまったねー!」
「え、ええ……それでは」
そして電話を終えたなゆ姫は寝台にぽふっと身を預け、胸に手を当てた。
「みるくちゃんのお声は耳元で聞くと甘すぎて、胸の高鳴りがなかなか収まりませんわ……でも、楽しみです。皆様と相談して、本当は両想いなあくまちゃんとみるくちゃんの仲を進展させる方法を考えませんと……」
なゆ姫は勢いよく身を起こすと目を輝かせ、腕を突き上げる。
「――みるくちゃんとあくまちゃんの恋路を応援する、ハートフル・スイートミッション。いまここに発動ですわ!」
従兄弟とあくまちゃんの恋路を応援したい気持ちが、なゆ姫の心のなかで甘く燃えていた――。
花壇にはチョコレートローズやキャンディマリーゴールドなど、甘い花が咲き誇り、みに天使たちが楽しそうにその面倒を見ている。
みに悪魔たちは楽しそうに走り回っているが、ただ遊んでいるだけではなく有事の際にはすぐに動く。甘く見えて、彼らは国防の任をちゃんと果たしている。
「こらっ! お城の壁に黒蜜で落書きをするのはやめなさい!」
「ぬはははは! 演出っち直伝の黒蜜アートだぜ! 上手いだろ~!」
「たしかに上手ですが、ダメなものはダメです!」
ぴぴーっとみに天使の笛が響き、壁に落書きをしていたみに悪魔が黒蜜筆を片手にドタバタと逃げ回る。それもよく見られる光景で、愛嬌溢れる一幕であった。
「みにの皆様はいつもかわいらしいですわね」
淡いパステルカラーのパラソルの下に、なゆ姫が優雅に腰掛けている。栗色のゆるウェーブ髪が風に柔らかく揺れて、森の緑の瞳は花々や泉、みにたちを優しく見守っていた。テーブルの上には透き通るガラスのティーカップに注がれた濃厚な甘さのチョコミルクティーと、小さな焼き菓子。なゆ姫はそっとティーカップを手に取り、甘い香りを楽しむように目を閉じた。
「ふふ、やっぱりお茶の時間は落ち着きますね」
そこにぽよん、ぽよんと跳ねるような足音。寝起きの夢見心地な雰囲気で歩いてきたましゅ姫。
「もち……起きたの。おはようなゆ姫」
「おはようございます、ましゅ姫。お待ちしてましたわ。さあ、こちらにどうぞ」
「……もち、ここがいい」
なゆ姫が手を置いた席ではなく、ましゅ姫は子供のように小さくなってなゆ姫の膝上に滑り込んだ。ましゅまろ族には、ある程度なら身体の大きさを自由に変えられるというよくわからない特徴があった。
「なゆ姫の膝の上、とってもぽかぽかして落ち着くから好きなの」
「……わ、私も ましゅ姫とこうして過ごせることを嬉しく思います」
なゆ姫は照れながらもティーカップをおいてましゅ姫を抱き締めた。もちよりも柔らかいもちもちの肌に触れ、頭を撫でる。
「……もちもちでたまりません、ずっと触れていたいです」
「ましゅまろ族は、この柔らかさが自慢なの。そう言ってもらえると嬉しいの」
ましゅ姫はなゆ姫に甘えるように身を寄せる。どちらからともなく微笑んでいると、上空に巨大なキャンディと共にみにたち。
「おっ、姫たち~! 見てくれよこのキャンディ……ってしまったあぁぁっ!」
「あ、危ないでしゅー!」
はしゃぎすぎて魔法の制御をおろそかにしてしまい、キャンディが重力に引かれて落ちる。羽を揺らしてあわてふためくみにたち。
その下には姫たちのいるパラソル。気付いたましゅ姫が素早くパラソルの上にたち、両手を広げる。
「……美味しそうなキャンディ、もちの朝ごはんにぴったり。ましゅまろでスイートハグして食べるの。――もちもちばりあ!」
白いましゅまろがなにもない空間から現れ、もっちりとキャンディを包み込んで受け止める。地面に静かに落ちてぷるぷると震えるましゅまろを、ましゅ姫は小さくちぎって口にした。ましゅまろのふわふわのなかに、キャンディのカリッとした甘さが広がる。
「キャンディとましゅまろのハーモニー……喜びの味なの! みんなも食べてみるの!」
みにたちが手を止めて一斉に集まり、なゆ姫も静かに口に運ぶ。
「美味しいです、流石ましゅ姫。守るだけでなく、味も高めてしまうなんて……!」
「……ふふん、どやぁ、なの!」
ましゅ姫がどや顔をし、皆がそれを見て笑う。喜びに包まれる中庭での時間はこうして過ぎていった。
◆◇◆
しばらくして、中庭での穏やかな一時を終えて私室に戻ったなゆ姫は甘い装飾が施されたなゆ電話が鳴っていることに気付き、その受話器をとった。
「はい、こちらなゆ姫です」
「えへへ、なゆお姉ちゃん久しぶり! 妹系あいどるのみるくだよ!」
電話の向こうの甘さを極めたような、耳をとろけさせる声の主はなゆ姫の従兄弟で、なゆ国各地を飛び回っている国民的アイドルのミルク・キャラメリゼ・スィーティア。通称みるくのものだった。
「みるくちゃん……お久しぶりですわ、お元気そうで何よりです!」
「あと一週間でそっちにつく予定だから先に伝えたくて! みんなは元気? ましゅ姫とてんしちゃん、あくまちゃんたちにも会いたいな~!」
「ええ、みんな変わらず元気にしておりますわ。あくまちゃんたちは今は遠征で不在ですが明日には帰還するとのことなので、問題ありません」
「やった! みんなといっぱいお話ししたかったんだー! シュガーリウム城でもたくさん歌っちゃうからたのしみにしててね!」
「……ふふ、ではみるくちゃんが来るまでに盛り上がれるようにステージを用意しておきますね」
「わーいっ! 大好きだよなゆお姉ちゃん! それじゃあまったねー!」
「え、ええ……それでは」
そして電話を終えたなゆ姫は寝台にぽふっと身を預け、胸に手を当てた。
「みるくちゃんのお声は耳元で聞くと甘すぎて、胸の高鳴りがなかなか収まりませんわ……でも、楽しみです。皆様と相談して、本当は両想いなあくまちゃんとみるくちゃんの仲を進展させる方法を考えませんと……」
なゆ姫は勢いよく身を起こすと目を輝かせ、腕を突き上げる。
「――みるくちゃんとあくまちゃんの恋路を応援する、ハートフル・スイートミッション。いまここに発動ですわ!」
従兄弟とあくまちゃんの恋路を応援したい気持ちが、なゆ姫の心のなかで甘く燃えていた――。
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