モンキー骨董屋

さる

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トオル

厨二病

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店の奥で、何かが床に落ちる音がした。
鈍い衝撃と、湿った感触が混ざったような音。
トオルは息を呑み、背筋に冷たいものが走った。

――いや、走ったのは恐怖ではない。
胸の中心で、まるで心臓が笑い出すような 昂り が広がっていく。

(え……ちょっと待て……これ、漫画みたいな展開じゃん……?)

引き戸が軋みながら開いた。

現れたブルーノは、白いシャツの袖口に赤黒い飛沫を散らしていた。
呼吸はわずかに乱れ、指先には血で濡れた手袋。

普通の人間なら悲鳴をあげる光景。
だがトオルは――目を、輝かせていた。

「……すっげえ……!」

思わず声が漏れた。

ブルーノが片眉を上げる。
警戒、そして殺気さえ帯びた視線。
しかし、その殺気ですらトオルには魅力的に映った。

「お前……見たな。」

低く、冷やりとした声。
だがトオルは一歩踏み出す。

「いや、あの……すみません。でも今の……めちゃくちゃ“悪役”でしたよ!」

ブルーノ「……は?」

「いや、もう、完全に悪のカリスマのやつですよ!
 血のつき方とか、表情とか……リアル悪役。
 あ、俺、トオルって言います! 今日からファンになりました!」

テンションが高すぎる。
常軌を逸している。
だが嘘は言っていない目だった。

ブルーノは表情を緩めないまま、内心だけで呟いた。

(……こいつ、壊れてるな)

そして同時に、別の考えも浮かぶ。

(壊れてるなら……扱いやすい)

ゆっくりと血のついた手袋を外しながら、ブルーノはトオルへ歩み寄る。
目つきは柔らかいが、深いところでは計算が光っている。

「……トオル、だったな。
 さっきのことを誰かに話す気は?」

トオルは首を横に振るどころか、胸を張った。

「むしろ、もっと聞かせてほしいくらいです!
 悪役って、やっぱ人の裏側が出るっていうか……!」

ブルーノは微かに笑った。
その笑みは、客に向ける愛想のそれとも、獲物に向けるそれとも違う。

――新しい“使い道”を思いついた時の笑い。

「……いいだろう。
 興味があるなら、少し話してやるよ。
 奥へ来い。どうせお前も、こういうのが好きなんだろ?」

誘われた瞬間、トオルの顔がぱっと明るくなる。

「うわ……マジっすか!? やった!
 あ、もちろん秘密にします! ぜったいバレません!」

ブルーノは背を向けた。
トオルは憧れる子供のように、軽い足取りでその後に続いた。

ただ一つだけ違うのは――
彼らの向かう先が、普通の大人が一生触れない“闇”であることだった。
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