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プロローグ
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「リディア・ラクロワ! 今この時をもって、君との婚約を破棄する!」
白亜の大講堂に、声が響く。
告げたのは私の婚約者である王子。
その声は鋭く、背後に立つ少女の方を私の視線から隠すように王子が立ちはだかったっている。
愛する人からの冷たい視線。
周囲の生徒たちからは、侮蔑と嘲笑のまなざしが注がれる。
「貴殿がノエル嬢に行った悪行の数々……その非人道的な所業、もはや看過できない!」
私は——リディア・ラクロワ。
この国の、古く気高い血筋を持つラクロワ公爵家の令嬢。
いつだって完璧であれと教えられてきた。淑女として、貴族として、婚約者として。
けれどこの瞬間、私の全ては——無様に否定された。
(なぜ? )
(私が、何をしたというの? )
「私の名は、リディア・ラクロワ……」
誰に聞かせるでもなく、小さな声で自分の名を唱える。
けれどそれはもう、何の意味もない。
この婚約は〝縁〟で決まっていたはずだった。
〝縁結びの儀〟で定められた、たしかな印だったはずなのに——。
誰もが私から離れていく。
たった一人、護衛騎士の少年だけが、静かに私を見ていた。
その視線すらも、慰めにはならなかった。
私はただ、断罪された女として、舞台の中央に立ち尽くしていた。
王子はゆっくりと腰に刺した剣を抜き私へと向ける。刃が光を反射し、大講堂に冷たい影を落とす。
「リディア・ラクロワ。罪状はすでに記録にある。学園卒業と同時に、王都中央広場にて公開裁定にかける。そこにて、貴殿の悪行は白日のもとに晒され、その身は——法のもと、処刑に処す!」
ざわ……と、嘲笑と溜息が渦を巻く。
誰も、私を庇わない。
〝縁〟で結ばれたはずの未来は、紙屑のように破られた。
(処刑……? 私が? )
喉がつまる。胸の奥がじくじくと痛む。
私はただ、完璧であろうとしただけだった。
淑女として、由緒正しい家の娘として、婚約者として——そのすべては『正しさ』だと信じていたのに。
どうして?
何を……どこで、誰を、間違えたのだろう。
(私の名は、リディア・ラクロワ……)
震える唇で、もう一度唱える。
縋るように。自分自身に縫いとめるように。
でも、その名は誰の耳にも届かない。
背中に、ひやりと冷たい風が通り抜ける。
——あぁ。私の物語は、ここで終わるのね。
瞼を閉じる。
暗闇が、静かに降りてきた。
ーーーーーーーー
あれは、ゲームの中ワンシーン。
王道の悪役令嬢が、観衆の目の前で断罪されるシーン。
悪役令嬢、リディア・ラクロワの唯一のモノローグ。
ならば私は断罪されないように、誰も虐げずに、誰ともかかわらないようにしていたというのに……。
どうしてこうなってしまったのだろう……。
「リディ、おはよう。婚約者の僕を置いていくなんて酷いじゃないか? まさかまた『仲人』の仕事かい?」
「リディア嬢! 美しい私に朝から出会えるなんて君は幸運だね! まぁ、こんな平凡な人間が婚約者なんて君はついてないが、その点私はハーフマーメイドだからこの人間の婚約者よりずっと長く美しい私を愛でる権利を君にあげようじゃないか!」
「ハーフマーメイド風情が『時』を語るとは笑わせる。エルフの私には全てが遠く及ばん。弁えよ。お前はすぐに醜くく老いるが私はリディアが生きている間は衰えない。リディアは美しいものが好きだ。だったら私を選ばない訳がない」
「アッハッハッハ。もしかして貴方、もうボケちゃったんですか? いきなりリディア様に介護させる気ですか? 分かってないぁ? リディア様は剣の似合う男が好きなんですよ? それならこの王立騎士団所属の僕一択でしょ」
「リディア様、おはようございます。今日も煩い羽虫が周りを飛び回っているようですね。しかしご安心ください。ラクロワ家の執事である私が害虫の盾となり、一生お守りいたします」
「いや本当にどうしてこうなったの……」
断罪されないように、ゲームの攻略対象達に結婚相手を紹介するはずだったに、どうして上手くいかないの!?
現実はセーブもロードもない。やり直しなんてできないのに!
これは、婚活中のアラサーだった私がゲームの世界に転生し、この世界の仲人を目指す話である……。
白亜の大講堂に、声が響く。
告げたのは私の婚約者である王子。
その声は鋭く、背後に立つ少女の方を私の視線から隠すように王子が立ちはだかったっている。
愛する人からの冷たい視線。
周囲の生徒たちからは、侮蔑と嘲笑のまなざしが注がれる。
「貴殿がノエル嬢に行った悪行の数々……その非人道的な所業、もはや看過できない!」
私は——リディア・ラクロワ。
この国の、古く気高い血筋を持つラクロワ公爵家の令嬢。
いつだって完璧であれと教えられてきた。淑女として、貴族として、婚約者として。
けれどこの瞬間、私の全ては——無様に否定された。
(なぜ? )
(私が、何をしたというの? )
「私の名は、リディア・ラクロワ……」
誰に聞かせるでもなく、小さな声で自分の名を唱える。
けれどそれはもう、何の意味もない。
この婚約は〝縁〟で決まっていたはずだった。
〝縁結びの儀〟で定められた、たしかな印だったはずなのに——。
誰もが私から離れていく。
たった一人、護衛騎士の少年だけが、静かに私を見ていた。
その視線すらも、慰めにはならなかった。
私はただ、断罪された女として、舞台の中央に立ち尽くしていた。
王子はゆっくりと腰に刺した剣を抜き私へと向ける。刃が光を反射し、大講堂に冷たい影を落とす。
「リディア・ラクロワ。罪状はすでに記録にある。学園卒業と同時に、王都中央広場にて公開裁定にかける。そこにて、貴殿の悪行は白日のもとに晒され、その身は——法のもと、処刑に処す!」
ざわ……と、嘲笑と溜息が渦を巻く。
誰も、私を庇わない。
〝縁〟で結ばれたはずの未来は、紙屑のように破られた。
(処刑……? 私が? )
喉がつまる。胸の奥がじくじくと痛む。
私はただ、完璧であろうとしただけだった。
淑女として、由緒正しい家の娘として、婚約者として——そのすべては『正しさ』だと信じていたのに。
どうして?
何を……どこで、誰を、間違えたのだろう。
(私の名は、リディア・ラクロワ……)
震える唇で、もう一度唱える。
縋るように。自分自身に縫いとめるように。
でも、その名は誰の耳にも届かない。
背中に、ひやりと冷たい風が通り抜ける。
——あぁ。私の物語は、ここで終わるのね。
瞼を閉じる。
暗闇が、静かに降りてきた。
ーーーーーーーー
あれは、ゲームの中ワンシーン。
王道の悪役令嬢が、観衆の目の前で断罪されるシーン。
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ならば私は断罪されないように、誰も虐げずに、誰ともかかわらないようにしていたというのに……。
どうしてこうなってしまったのだろう……。
「リディ、おはよう。婚約者の僕を置いていくなんて酷いじゃないか? まさかまた『仲人』の仕事かい?」
「リディア嬢! 美しい私に朝から出会えるなんて君は幸運だね! まぁ、こんな平凡な人間が婚約者なんて君はついてないが、その点私はハーフマーメイドだからこの人間の婚約者よりずっと長く美しい私を愛でる権利を君にあげようじゃないか!」
「ハーフマーメイド風情が『時』を語るとは笑わせる。エルフの私には全てが遠く及ばん。弁えよ。お前はすぐに醜くく老いるが私はリディアが生きている間は衰えない。リディアは美しいものが好きだ。だったら私を選ばない訳がない」
「アッハッハッハ。もしかして貴方、もうボケちゃったんですか? いきなりリディア様に介護させる気ですか? 分かってないぁ? リディア様は剣の似合う男が好きなんですよ? それならこの王立騎士団所属の僕一択でしょ」
「リディア様、おはようございます。今日も煩い羽虫が周りを飛び回っているようですね。しかしご安心ください。ラクロワ家の執事である私が害虫の盾となり、一生お守りいたします」
「いや本当にどうしてこうなったの……」
断罪されないように、ゲームの攻略対象達に結婚相手を紹介するはずだったに、どうして上手くいかないの!?
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