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目を覚ましたらお城にいました

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「おはようございます、人魚様。お身体の具合は如何ですかな?」

 それは低めの、ダンディな声だった。しかし、目の前にいるのは白衣姿の馬が一頭と二羽のメイド姿のフラミンゴである。

――動物……が喋った? 人魚様って私のこと? というか、そもそもここは一体?

 あまりにも常識外れの光景に、私の頭の中は一気に混乱しはじめる。色々な疑問がぐちゃぐちゃに絡まって、私は声を失った。口を二度三度パクパクさせて、結局何も言わずに来訪者をただただ見つめるだけの私。白衣の馬が業を煮やしたのか、ツカツカツカツカ、私の方まで歩み寄り、私の顔を覗き込んだ。顔と顔の距離がやたらと近く、私は息がぐっと止まる。けれど、それは一瞬で、馬は今度は布団を捲って、私の身体を観察してきた。

「ふむ……。怪我は完治しておりますな。ただ、顔色が少し悪い」

 私の体をしげしげと見つめてきたかと思うったら、ぼそぼそ呟いて、ノートに何やら記入した。そうして再び馬の顔が近くに寄ってくると、私もグググと仰け反ってしまった。

「さてさて、右手を上げてくださるかな?」

 白衣の馬がそう言うので、私は素直に従った。
 馬の雰囲気は大変貫禄があり落ち着いたものなので、私も気持ちが落ち着き、徐々にパニックから脱してきたのだ。ダンディーな馬の声に耳を傾ける余裕もでてきていた。

「左手もあげてくださいね」

 馬が今度はそう言って、私もまた素直にそれに従った。すると馬は、

「知能あり。但し、左右が反対なため少しお馬鹿のようである」と呟きながら手元のノートに記載し始める。

――いやいや、待って。言われた通りにしたよ、私は!

 言われた通りにしたのにも関わらずあまりにも理不尽かつ不本意な結果に、私は抗議をしたくも、どう言って良いのか分からず、またもや口をパクパクさせるのみであった。私のその様子を見た馬は、

「言葉が喋れないのですかな? まさか、本当に伝説の通り……」聞き取れるかどうかの音量でぼそりとした呟いた。

――伝説?

 伝説とは? 私は馬の発言が気になって首をかしげた。どういう意味か聞きたいと思い、口を開いたとき、

「殺しておしまい! 殺しておしまい!」
「――っ」

 2羽のフラミンゴのメイドが甲高い声で騒ぎ始めた。

「人魚なんて嘘! 殺しておしまい!」
「人魚だったらおぞましい! 殺しておしまい!」

 それぞれのフラミンゴがそれぞれ騒いでいる。

「これ、お前達。静かにしなさい!」

 馬が一喝すると、フラミンゴは静かになった。

――人魚? 殺す? 私は殺されてしまうの?

 状況が何一つ呑み込めなかった。

「あの……。何も分からないのですが」

 私は勇気を振り絞って馬に訪ねてみた。

「ふむ、言語正常。記憶に異常あり、と」

 馬は丁寧に記録を取る。そして私の頭をコツコツ叩く。

――そうじゃない!

 私は内心ツッコミを入れる。

「あの、私はどうしてここに? これからどうなるの?」
「貴方は献上されたのです。そして、今晩は陛下のご子息様とご面会することになるでしょう。」

 いま少し具体的に尋ねたつもりだったのだけれど、結局答えはよく分からないものだった。

 それではまた夜まで休むように、と言い残して馬とフラミンゴ二羽は部屋を出ていく。

 私は一人、頭をフル回転させて状況を整理しようとした。

 ――気がついたら海岸に打ち上げられていた。そして死んだ人魚に間違えられつつ発見されて、気を失って、また気がついたらこの暖かいベッドの中にいた。そして、馬とフラミンゴが来て、去っていった。そして、フラミンゴは私のことを「殺しておしまい」と叫び散らし、馬は私が献上品であり陛下のご子息様に今夜会うことになる、と言った。

 なるほど、つまり。ここは馬やフラミンゴが普通に喋って、人魚とかもいるような異世界ってやつで、私は村人? に人魚に間違えられて、お城に献上されたってことになるのだろうか。

 あまりにも突飛な想像だけれど、実際突飛な事が起こって突飛な単語が耳に入ってくるのだから、きっとあながち間違いではないはずだ。

 こういう世界に憧れていた私は、この摩訶不思議と言えるような、ともすれば身に危険が迫りくるかもしれない環境にいるにも関わらず、不覚にも広角が思いっきり上がるのを感じたのだった。
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