王子「女勇者に無理難題を突き付けたら全裸で帰ってきた」

小野

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「ライゼル様!!好きです!!結婚して下さい!!!」


 大きなリボンで髪を可愛く着飾った女勇者ミリアが頬を赤く染めながら城中に響き渡る大声量で王子ライゼルに向かって求婚の言葉を発した。これには救世の勇者を一目見ようと同席していた雪原の王でありライゼルの母親である女王マリーも驚きを隠せない様で「は?え?ま?」と要領を得ない言葉を呟きながらミリアとライゼルを交互に見ている。しかし、求婚された張本人であるライゼルは驚くほど冷静に聖剣の担い手であり単身で魔王を討伐した勇者を見つめて……数秒ほど間を置いてから口を開いた。


「……勇者様と僕が会ったの今日が初めての筈ですが……」

「はい!一目見た瞬間にビビッと来てライゼル様に運命を感じました!」

「……なるほど、運命ですか。聖剣の担い手である勇者様がそう言うなら間違いはないでしょうね。しかし、僕は感情というものを感じる事が出来ません。故に勇者様を愛することは永遠にありませんが……それでも僕と結婚したいと言いますか?」


 色が籠らない青い瞳を勇者に向けながらライゼルは問いかける。普通の人間ならばここで引き下がるのが常だが、流石は単身で魔王討伐という無謀……否、偉業を遣って退けた勇者。ここで大人しく引き下がる訳もなく、ズズイッと三歩ライゼルに近付くと目をキラキラ輝かせながら


「はい!愛は夫婦生活の中で育んで行きましょう!!」


 と、言ってのけた。その真っ直ぐすぎる瞳に感情が分からないなりに王子として様々な人々と接してきた経験から「こういう目をしている人間には何を言ってもムダ」だと言うことを経験から理解していたライゼルは数秒間、考える素振りを見せた後、重たく口を開いた。


「……勇者様の意志が固いことは分かりました。しかし、僕と結婚することは勇者様も王族になるという事。他の王族や家臣達を納得させる為にも勇者様には王族となる覚悟を見せて頂きたい。故に……」

「ゆ、故に……」


 ゴクリと生唾を飲み、真剣な表情で自分の言葉を待つ女勇者の珊瑚の瞳を見つめながらライゼルは勇者を諦めさせるつもりで『無理難題』を言い放った。


「婚姻の試練として女神の三神器を手に入れて来て頂きたい」


 ライゼルの言葉に女王マリーは絶句した。女神の三神器と言えば千年前に戦火により大神殿から紛失し、現在は所在も分からない、存在も確認出来ない……本当に実在するのか分からない代物だ。それを婚姻の試練にするなんて結婚するつもりがサラサラないのか、と「勇者の血が我が王家に入る!」と内心喜んでいた女王マリーはガッカリする。しかし、女王の落胆を他所にミリアはライゼルの言葉に目をキラキラと輝かせると心得たとばかりに胸を大きく叩いて言い切った。


「ええ!お任せ下さい!!必ずその……女神のなんとやらを手に入れてライゼル様と結婚してみせますとも!!」


 ふんすっ!と、一片も女神の三神器が手に入らない可能性を考えていない勇者のやる気に満ちた表情に女王マリーの良心はズキズキと痛むが、ライゼルは特に何の感情を抱かず、さっそく女神の三神器を探しに行こうとする勇者に向かって「ええ、待っていますよ」という社交辞令的言葉を送り、謁見の間を出て行く勇者を見送ったのだった。





ーーーーー





 摂氏一千度を超える溶岩が流れる古の遺跡にその魔物はいた。遥か昔、およそ千年前に悪逆非道なる邪神により生み出されたかの魔物の名前は『炎の暴君イフリート』。大神殿より奪いし『太陽の冠』を内に取り込んだ魔物であり、山の民から水を、糧を、命を奪い、数百年に渡って山の民を苦しめてきた元凶である。しかし、女神の神器を取り込み「魔王」すらも凌ぐ強大な力を持つ自分が無謀にも一人で戦いを挑みを来た人間に苦戦を強いられている事にイフリートは驚きを隠せなかった。

 普通の人間なら例え魔法の守りがあろうと一瞬で灰と化す灼熱の炎を浴びても髪の毛一本すら燃えず立ち向かってくる人間の攻撃を防ぎながらイフリートは叫んだ。


「ありえん!ありえん!こんな事は千年の間に一度もなかった!貴様は……人間!貴様は一体何者なのだ!?」

「私は勇者ミリアです!!」


 イフリートの反撃を受け止めながら人間が叫んだ言葉にイフリートは一瞬虚を付かれる。が、すぐに嘲笑を含んだ声で笑い出した。


「くっ、ははははは!勇者!?勇者だと!?数百年の間、山の民を救うことすらしなかった勇者がいまさら山の民を救いにきたというのか!!ははははは!笑わせてくれる!聖剣の加護がなければこの場に存在することすら出来ない癖に!」

「!!」


 人間は図星を突かれた様に目を見開く。その姿にイフリートはやはりか、と思った。勇者という存在は血筋や才能で選ばれるのではなく、どんな逆境や苦難に陥ろうと決して諦めぬ挫けぬ『強い心』を持った人間が選ばれ……そして聖剣は勇者に選ばれた者の強い想いの力に応えて加護という名の力を勇者に与える。

 そう。つまり、目の前にいる人間から聖剣の加護さえ奪えば山の民と同様、魔物に蹂躙され泣き祈る事しか出来ない無力な存在へと成り果てるのだ。ならば己がする事は一つ。と、思ったイフリートは突然両手を天に掲げると恐ろしい言葉の羅列を唱えた。すると、遺跡を流れていた溶岩が吸い寄せられる様にイフリートの頭上に集まり、太陽の如き球体を描く。これこそがイフリートが千年の間に編み出した絶技『死の太陽(メガフレア)』。国を一瞬で滅ぼすほど強大な力を秘めた奥義だ。


「はーっはははは!さぁ!!愚かな人間よ!!聖剣諸共塵となるがいい!はーっはははは!!!」
 
 
 イフリートは自分の勝利を少しも疑わず、高笑いしながら聖剣を破壊すべく、険しい顔をする人間に向かって『死の太陽(メガフレア)』を勢い良く放ったーー……



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