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「え、いま勇者様をアンデットにしたと言ったか……?」

「はい!申し訳ありませんでした!」

「いや申し訳ありませんでしたじゃないんだが!?お、お前は……自分が何をしたのか分かっているのか!?大海を凍らせるほどの強大な魔力を持つ『氷魔姫ネウラ』を魔法で打ち破り、闇に堕ちた古の英雄『暗黒騎士ゾーディス』を剣で打ち倒し、そして二つの大陸を魔王の魔の手から救った勇者様を汚らわしい動く死体アンデッドにしたんだぞ!?申し訳ありませんで済まされるわけないだろうが!」

「はい!本当に反省してーー……え、勇者様?」


 男の口から信じられない言葉が聞こえた気がしてがばっと顔を上げた僕はおそるおそるいつのまにか側に戻ってきていた彼の姿をまじまじと見つめる。そういえば確かにどことなく王国中に出回っている勇者の姿絵に似ているような気がしなくも……いや、でも勇者レオンハルトは氷魔姫ネウラとの戦いで傷ついた体を癒すために婚約者であるアレクシア姫がいる王宮に身を寄せているはずだ。じゃあ、今の兵士の話はタチの悪い冗談?いや、冗談にしては兵士の怒り方が尋常ではない。じゃあ本当に彼は勇者ーー……


「っ!」


 その事実に気づいた瞬間、全身から汗が吹き出す。や、やばい。いや、やばいなんてものじゃない。めちゃくちゃやばい。だって魔王軍にギリギリまで追い詰められていた人類を救った救世の大英雄と言っても過言じゃない勇者レオンハルトをアンデットにしちゃったんだよ?この事実が神殿或いは王宮に知れれば魔王の手先という烙印を押されて王都から確実に追放されるだろうし、最悪壮絶な拷問の末「よくも勇者様をアンデットにしたな!」「この魔王の手先が!」「死んであの世で詫びろ!」と人々の恨みを一身に受けながら公開処刑されるに違いない。そ、そんな死に方嫌すぎる!!だって、僕には真面目にネクロマンサーの仕事をこなしつつお金をいっぱい貯めて王都郊外に家を買ってのんびりと畑を耕しながらスローライフを送るって言う夢があるのだから!!


(ど、どうにかしないと……!)


 この人生最大の危機と言っても過言ではない状況を打破する為に僕は必死に頭を働かせる。そして思いついたこの状況を切り抜ける苦し紛れの嘘を務めて冷静な顔をして口にした。


「……ああ、彼は勇者レオンハルト様だったのですね。なぜ自分から『アンデッドにしてくれ』と言ってきたのかずっと疑問に思っていましたが……彼が勇者であるなら納得です」




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