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しおりを挟む西の砦ヴォーウルフ。
王都から馬を走らせて五日ほどの距離にある要塞だ。元々は北方の蛮族の侵攻を防ぐために築かれた砦で、急流の川が崖下に流れる断崖絶壁の上に建てられたその砦は十年前に滅んだ世界最強の軍隊を持っていたガラガンド帝国にしても攻略不可能と言われた我が国が誇る難攻不落の天然の要塞である。
だが、そんな難攻不落と言われた砦は今現在、防衛拠点としての機能を完全に失っていた。砦の門は既に破壊され、砦の至る所には火の手が上がり、武器を手にしたゴブリン達が我が物顔で砦内を闊歩している。しかし、ゴブリンを迎え撃つべき兵士の姿はない。勿論、ここにはこの砦を守護する兵士達がいた。が、この砦を守護していた兵士達は突然この砦に襲撃してきたゴブリンに最初は戦いを優勢に進めていたものの次から次へと文字通り無尽蔵に湧き出てくるゴブリンを前に徐々に消耗していき、最後には砦が陥落する寸前まで追い詰められ、この砦が陥落する直前でヴォーウルフ砦の最高責任者であるレオナード将軍の苦渋の決断によりこの砦から逃げ出していたのだ。だが、逃げられたのはほんの一部の兵士達で、逃げ遅れた兵士達は抵抗空しくみなゴブリンに蹂躙され……
「聞いていた以上ですわね」
西の砦ヴォーウルフから数キロ離れた山の上から双眼鏡を覗き込むワタクシは思わず呟く。双眼鏡越しに映るのは逃げ遅れた数多くの兵士の死体とその死体を貪り食う緑の肌をした悍ましい魔物の姿。思わず目を背けたくなる光景が双眼鏡越しに広がっており、ここまで多くの犠牲を出したにも関わらず自分は無傷で王都に逃げてきたレオナード将軍に対する怒りがふつふつと湧いてくるが、今はそんな事を言っている場合ではない。湧き上がった怒りを一旦抑え込み、そのまま双眼鏡で暫く砦内を観察したワタクシは双眼鏡から目を離し、自分の隣にいる副官に話しかけた。
「……やはり正面突破は無理ですわね。いくらなんでもゴブリンの数が多すぎます」
「ええ、そうでしょうなあ。報告によると最終的には千を超えるゴブリンがあの砦を襲撃していたらしいですから……氷魔姫ネウラとの戦いで多くの聖騎士を失った今の我々では正面から砦を責めるのは無理でしょう」
ワタクシの言葉に副官も同意を示す。正直、氷魔姫ネウラと戦う前の『神聖騎士団第九部隊』ならいくらゴブリンがいようが、あの砦を正面から突破することが可能だっただろう。それを可能とする戦闘経験豊富な聖騎士達がいたからだ。
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