季節番外編置き場

ユーリ

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海の日

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「今日は何だか、魚介類が多いね!」

「………」

運ばれて来た今日の夕食には、全て魚介類が使われていた。その中には、僕の好きな食材を使った料理もあった。

「いつも贈られて来る荷物が、今日届いたようだからね。それに、夏は海の恵みに感謝する日があるから、他の季節よりも、少し多めに贈って来るからね」

「そうね。だけど、何時も季節事に旬の物を贈って下さるから、たまに申し訳なくなってくるわ」

「相手も、思惑が合って贈って来る物だから、気に病む必要はないよ」

父様達が話しているのを聞きながら夕食を食べていると、兄様の手がほとんど動いていないのに気が付いた。それに、いつも以上に黙ったままの兄様に、僕は気になって声を掛ける。

「食べないの?」

「いや…食べる…つもりだ…」

「ん?それなら、兄様はどの料理が好き?」

「……シンプルに魚だな」

夕食が運ばれて来てから、やっぱりどこか様子がおかしい。何かを頻りに気にしているような様子で、僕からの問い掛けにもどこか上の空だった。少し気にはなりつつも、僕は兄様へと声を掛け続ける。

「あのね、僕はエビが好きなんだ」

「ならば…私のも食べるか…?」

「えっ!?良いの!!?」

「ああ…」

ずっとあらぬ方向を向きながら食べていた兄様が、エビを一匹丸ごと使った料理を皿ごと差し出して来た。僕はさっきまでの疑問を忘れてそれを受け取ろうとしたら、それに気付いた父様が止めた。

「オルフェ、好き嫌いは駄目だよ」

「えっ!兄様!エビ嫌いなの!?」

「………」

皿を受け取ろうとしたままの姿勢で兄様に問い掛けるも、兄様はこっちを向く事もなく黙ったままだった。好き嫌いなどなさそうな兄様に、そんな物があるのも驚いたけれど、こんなに美味しいのに嫌いな理由が分からない。

「エビ、美味しいよ!」

「いや…美味しいのだろうが…ただ…この見た目では…食べる気がなくなるだけだ…」

「そうね…。確かに、見た目は…少し抵抗はあるわね…」

兄様が視線を向けようとしない料理に、母様も視線を落として、少し気まずそうにしていた。僕も一緒になって料理に視線を落とすけど、おなか側から両開きになったグリルは、エビの足の部分が全部見えていて、美味しいと分かっていないと、少し躊躇しそうな絵面だった。兄様達に言われて、改めて料理を見たせいか、僕の顔も自然と微妙なものへと変わる。

「それなら、料理長は今日から変更しよう」

「何で!?」

まるで天気の話でもするような気軽さで言う父様に、僕が驚きの視線を向ければ、父様は事も何気に言った。

「食べる者の食欲を無くす料理を作る料理人など、この屋敷には必要ないよ」

「アル…何もそこまでしなくても…」

「そうです。これは私の問題であって、料理長は関係ありません」

「料理長のご飯、毎日美味しいよ!」

「そうか?エレナ達がそう言うなら、私はこのままでも構わないよ」

僕たちが揃って反対すると、父様はあっさりと自分の意見を引っ込めた。まるで、自分の意見よりも、僕達の意見にしか興味がなさそうな様子だった。そんな父様を前に、僕は再度、隣にいる兄様へと視線を向けた。

「兄様は、この見た目が駄目なの?」

「そうだな…どうしても、ゲテモノ料理を食べているような気になる…」

「それなら、中身だけなら平気なの?」

「………」

これまでも、エビが使われた料理が出ていたりしたけれど、兄様もいつも普通に食べていたから、料理の見た目が駄目なのかと思って訊ねていたら、兄様は何処か言葉でも探すように視線を泳がせながら黙ってしまった。

「オルフェは、エビそのものが嫌いなんだろう?リュカが見ている手前、何時は嫌そうにしながらも残さずに食べていたから、今まで何も言わなかったけどね」

「そうだったの!?」

僕が視線を向けると、父様の言葉を頷くように、兄様は僕から視線を逸らす。

「でも、どうしても嫌いなら、無理して食べる必要はないと思うわよ」

「そうだね。食べないと死ぬ訳でもないからね。父親として、注意はした方が良いかと思って言っただけだったから、エレナの言う通り、食べたくなければ食べなくて良いよ」

「しかし…兄としては…」

「兄である前に、オルフェはオルフェなんだから、自由にしていいよ」

特に怒った様子もなく、にこやかに笑っている父様を前に、兄様はどうしようかと迷っているようだった。だけど、悩んでいる間も、一切、料理には目を向けようとはしなかった。

「そういえば、母様や父様には、苦手な食べ物とかってあるの?」

兄様が悩んでいる間、父様達にも苦手な物があるか聞いてみた。

「そうね。私はドリアンとか、匂いが強い物とかが苦手ね」

「アルは?」

「う~ん?これと言った食材はないね?」

父様には、やっぱり嫌いな物はなさそうだった。普段の様子を見ていても、そんな素振りもなかったから、その答えに納得していると、ふっと思い出したように、父様が口を開いた。

「敢えて上げるなら、キノコ、かな?」

「キノコ?」

父様の口から、普段から何気なく使われている食材の名前が出てきて、僕は首を傾げながら問い掛ける。

「ああ、学院時代の実習中に、毒キノコを食べてしまってね」

「ええっ!!?」

「大丈夫だったの!!?」

「えっ?ああ、免疫がある私達にとっては、大した毒でもなかったし、解毒剤も一応常備していたから、心配するような物でもなかったよ」

心配して声を上げる僕達に、父様は一瞬、何を心配されているのか分からないような顔をした後、僕達を安心させるように、朗らかに笑いながら言った。

「そう…?それなら…いいのだけど…」

そんな父様の様子を見ても、母様は、不安と心配を混ぜ合わせたような顔をしていた。

「味見で少量口に入れただけで、直ぐに吐き出したから、解毒剤を飲まなくても、少し頭痛がするくらいだったから、本当に大丈夫だよ」

「だけど、父様はよく、直ぐに毒キノコだって分かったね?」

「毒には苦みがあるものが多いから、口に入れれば直ぐに分かるんだよ。だから、苦い物を食べたりすると、どうしてもそういった物を思い出してしまうけどね」

「しかし、いくら演習中で、食材を現地調達したとしても、父上ならば直ぐに見分けが付いたのではないですか?」

「ああ、食事の担当が私だったから、すぐに気付いて端に避けてはいたんだ」

「えっ!?父様は料理できるの!?」

「私の他に、出来そうな者がいなかったね。それに、私も任せたくなどなかったから、見様見真似で作っていた」

「凄い!」

僕が父様に感心していると、兄様は、さほど驚いた様子もなく、疑問を口にした。

「それならば、何故、そんな事になったのですか?」

「それは、私が端に避けておいた食材を、入れ忘れた食材と勘違いしたレクスが、私が傍を離れた隙に、それらを手伝いと称して鍋に入れていたらしくてね。レクスには、二度と料理に触るなと言っておいた」

「それだけ?」

「ん?そうだが?」

「怒ったりは…しなかったの…?」

普通、わざとじゃなくても、毒キノコを入れたら怒りそうなものなのに、父様には怒った様子がなかった。

「作り直すのが面倒だと思っただけで、その時は食事に毒が入っていようと、特に興味もなかったからね。それに、魔物用の罠にでも使えるかと、捨てなかった私も悪かったしね。まあ、レクスの勘にも引っかからない程度の毒だったから、全部食べたとしても、そこまでの影響はないからね」

「それって、どれくらい毒なの?」

「えっ?う~ん?普通の人が食べたら、少し後遺症が残るくらい、かな?」

「それ!大丈夫じゃないよ!?」

「アル!?本当に大丈夫だったの!?」

「2人共、少し大げさだよ。毒なんて、免疫を付ける訓練のために、子供の頃から食べている物だったから、スパイスみたいなものだよ」

そう言いながら朗らかに笑う父様に、僕と母様は少し引いていたけれど、兄様は何処か真剣な顔をしていた。

「…父上…私も…訓練をした方が良いですか…?」

「今のは冗談だから2人は真似したら駄目だよ」

兄様の問いに、父様は間を置く事なく言い切っていた。だけど、少し微妙になった空気を誤魔化すように言った。

「まあ、そういった物を食べる機会なんかないから、私の嫌いな物については、あまり考えなくていいよ」

父様は笑ってるけど、父様の嫌いな基準が、ちょっと僕達と違う気がした。

その後、兄様はワインで流し込むようにしながらも、ちゃんと全部完食していた。
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