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うろこ道

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第六章 地上調査

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✳︎✳︎✳︎

 一行は高尾山駅を後にした。
 荒れ果てた登山道を登りながら、寛人は汗を拭った。
(進んだ気がしない)
 延々と同じような風景が続き、まるで終わらない責め苦のようだった。さらに両側を包囲するように巨木がそそり立ち、ひどく閉塞感を感じる。
 黙々と前を歩く河野の背中に目を向けた。彼に異変を感じたらすぐに対応できるように――頭ではそう思っていたが、河野より先に、自分の脚の方が動かなくなってしまいそうだった。
 後ろに目を馳せる。渥美が、大柄の乾に肩を貸しながら厳しい顔つきで歩を進めていた。今や気力で持ちこたえているのかもしれない。そのさまを見ると、へばってなんかいられないと思う。
 しばらく進むと、道が二股に分かれていた。
 右側のなだらかな道は土砂で塞がれていて、タイヤ痕は左側の急斜面を登っていた。
 河野がナビゲーションを見ながら大きく息を吐いた。
「左が男坂、右が女坂というらしい。先で合流しているようだ」
 塞がれた女坂――この日本の現状を表しているようだった。
「ここを登るのかよ……」
 渥美が男坂を見上げながら愕然と呟いた。
 元は階段だったのか、ところどころに石段の名残が残されていた。土がむき出しのところにも尖った石が顔を出し、危険この上ない。
「……無理だ。置いていってくれ」
 乾が荒く息を吐きながら苦しげに言った。
「こんなところで置いていけるか!」
 渥美が言い、河野も「駄目だ」と鋭く乾を見据えた。
 寛人は乾の顔を覗き込んだ。伏せた眼差しは朦朧としているようだった。額に触れる。熱もずいぶんと上がってきている。
「解熱鎮痛剤です。飲んでください」
 寛人は背嚢から薬を出し、乾に渡した。
「二錠ずつ飲んでください。楽になりますから。――河野さんも」
 河野は差し出された錠剤を見やる。
「……何錠持ってきたんだ?」
「これだけです」
「なら俺はいい。とっておけ」
 駄目です、と寛人は強い口調で河野を見据えた。
「僕は湖で発煙筒を惜しんで後悔しました。だからもう、必要と思った時には使うと決めたんです」
 寛人は河野の手を取って、錠剤を握らせた。
「効果は十二時間続きます。それまでにドームを見つけましょう」


 寛人は、渥美と二人で乾を支えながらなんとか男坂を上りきった。
 もう動けねえよ――渥美は膝をつく。
「頑張ったな、乾。渥美も柚木も、助かった」
 先に坂を登りきった河野が励ますように言った。寛人は顎に伝う汗を拭いながら、その顔を見やる。河野の顔色はひどく悪かった。
 眼前には平坦な道が続いていた。やはり倒木や岩が転がる荒れ放題な状態ではあったのだが、坂でないことにものすごく安堵した。
「苦抜け門……」
 ふいに渥美が呟いた。見れば、登山道の右側に木々に埋もれるように枝分かれした小道が続き、その道を塞ぐように石の門が倒れていた。石門には、と大きく赤字で墨書されていた。
「潜れば苦しみから抜けられるのかよ? そもそも倒れてるから潜れねえよな」
 渥美が皮肉げに口元をゆがめた。
 その脇道をじっと見ていた河野が、ふいにナビゲーション端末に目を落とした。
「分析班の画像解析によれば、映像に映ったドームの位置はこの近辺らしい。お前たちはここで待っていてくれ。俺はこの脇道を確認してくる」
 渥美がぎょっと河野を見た。
「こんな小道だぜ、寄る必要ないだろ。タイヤ痕は道なりに続いてるし……」
「まあでも一応な。ドームを見逃す可能性は潰しておきたい。そこまで距離もないようだしな」
 でもよ――渥美は脇道に目をやった。苦抜け門の奥は細い急階段が続いている。体調不良の状態でここを行くのはかなりきついはずだ。
「僕も行きます」
 そう言った寛人の脚は、疲労で小刻みに震えていた。
「大丈夫だ。さっと見てすぐに戻ってくる。お前たちは余計な体力を使わず休んでいるんだ」
「河野さんだって体調悪いだろ。そんな状態でひとりでなんか行かせられねえよ。――乾さん、上にいいものがあるかもしれないぜ。頑張れるよな?」
 ああ、と乾は薄く笑った。
「では乾くんのお世話は私が代わりましょうか。渥美くんは殿しんがりを」
 さあ持って――斎藤は、渥美に乾のレーザーライフルを持たせた。
「いいですか。まずここが電源です。構え方はこう。ほら、ここに手を添えて。銃床を肩の付け根にしっかり当ててください。肘は落とし、脇は閉めて――」
「え――え? ちょっと待って――」
 渥美は、訳もわからぬままあれよあれよと言う間にレーザーライフルを持たせられた。
「斎藤……お前、銃を使えたのか?」
 河野が呆れたように斎藤を見やった。
「使えないとは一言も言ってませんよ。使わないとは言いましたが」
 つまらない疑問など抱かずにさっさと行って済ませましょう――斎藤は言った。
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