すろらいふ・おんらいん

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アカネ 02

01 現実逃避を超えたい

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 眼鏡を外す。オフィスが広がる。
「あ~~」
 アカネが嘆く。通信で会話する。
「目が疲れた?」
「現実だ……」
 僕たちの仕事はプログラマー。
「そうだね」
「……もう少し、人の少ない所に行きたい」
 不便でなく、人の少ない町にと。
 すっかりアカネは管理者意識を欠いていた。
 そして現実とのギャップをプチ拒絶していた。
「私の人生って、パソコン画面に向かってずっとキーボードを叩き続ける人生?」
「現実見ないよ! 帰ろうか」
 時間は終業時間。エリマも呼びに来る。
「はい、仕事が終わった人は帰りましょう」
 アカネが離席する。そのまま帰宅。
「――どうしたのでしょう」
「あぁ。厳しい職場に疲弊しているんだよ」
「え、そんな部署――」
 バランスは一応?
「メインのチームだから、その分大変なんだよ」
「なるほど。――そうですね」
「まぁ、僕たちの仕事も、あと十年すれば全部AIがね」
「それ、業界の厳しい現実ですから!」
 怯えるエリマ。
「ソラタさんは余裕ですね」
「ん? まぁ、最悪プログラマーじゃなくていいし」
「でも、アレを持っているんですよね」
「――鋭いね」
「詳しい人からは、もう――」
 プログラマーの特殊資格を持っているから。

 後日、お互いの家で。
「農家になる!」
 アカネが言い切る。
「ゲームの世界を現実に持ってくるんだ」
 アカネの現実逃避。相当疲れているのだと。
「しばらくPCから離れたら?」
「いいや!」
「――なに、その根気は」
 
 行動に移すアカネ。現実を知る。
「土地がない!」
 正確には「作物を育てる自信が無い」とか。
「つまり?」
「人の少ない所に行きたい」
「判ってた」
 疲れているアカネ。
「異世界に転生したら、異世界農業スローライフが!」
「異世界でもないよ」
 ネットの世界。
「――判ってるけど」
「それに、実際の農家も大変だよ」
「判ってる! 暇をしているな。なんて思ってない! 現実逃避」
「だろうね」
「マイナスイオン、浴びたい!」
「フィトンチッドね」
 訂正が入る。
「別に、今の仕事でいいんでしょ」
「――仕事はね。――郊外に行って」
「結局、家で仕事になるよ。今と変わらない」
 すでに職場の日と家の日がある。
 助けるソラタ。
「有給は?」
「――ある」
「使いな」
「――うん。いや……」
「なんで? ダメなの?」
「いや、業界が……」
「まぁ、気にしなくていいよ」
 厳しいプログラマー業界。

 数分町の景色を見るアカネ。
「私ね、こういうのがいいなって。でも売れないでしょ」
「だから売れる方に?」
「それしか仕事ないし。でも、これからはソラタのように。もう、疲れた!」
 それはまぁ、ご自由に。
「ソラタ。……男をやって」
「……ん?」
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