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一章

奴隷だった私と魔法の本2

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「私、魔法を使ったの?」

驚いてそう聞き返すと、ピアーズが説明する。

「ああ、そのようだな」
「え?でも私はハーフだよ?」

イーラは不思議そうに聞き返す。ハーフは魔法が使えない。少なくともイーラはハーフがそんなことができるなんて聞いたことがなかった。

「あまり知られていないがハーフも魔力はある。魔族も人間も魔力があるのだから、ハーフが魔力があるのは当然だ」
「でも、魔法を使ってるハーフなんて見たことないし……」
「魔法を使うにはそれなりの訓練と知識が必要なんだ。ハーフにそれを得る機会はほとんどない。だから、使えないと思われてる」
「そうなんだ……」

イーラは自分の手を見下ろす。確かにハーフが魔法を使ったところは見たことがないが、魔力が無いと言われた事もない。

「それでも、少し不可解な事がある」

ピアーズが難しい顔で言った。イーラはそれを見てまた不安になる。

「ヴィゴ!」

そう言ってピアーズが誰かを呼んだ。

「はい。お呼びですか?」

すると、誰かが部屋に入ってきた。眼鏡をかけていて真面目そうな顔をしている。イーラはこの屋敷にきてしばらく経つが、見たことがない顔だった。
不思議そうな顔をしていると、ピアーズが気が付いた。

「ああ、イーラはこいつと会ったことがなかったな。俺の秘書のヴィゴだ」
「ピアーズ様、この子は……以前おっしゃっていた。拾ってきたハーフの子供ですか?」
「ああ、少し調べたい事が出来た。今日は急ぎの予定はないよな?この後の予定は後に回してくれ」
「それは、構いませんが。何があったんですか?」

ヴィゴが不思議そうに聞く。それはそうだろう、突然拾ってきた子供がこんなところに来て、上司が仕事を後回しにしたいと言うのだ。イーラはまたもや何か大事になってしまって申し訳なくなった。
ピアーズは簡単にイーラに起こった事を説明し始める。

「確かに、不思議な状況ですね」
「そうなんだよ……」
「しかし、今は急ぎの予定はありませんが、あまり時間をかけすぎないで下さいよ。あなたは一度熱中すると、他が見えなくなることがありますから」
「分かってるって」

そう言って、ピアーズはイーラを連れてどこかに向かった。
ピアーズは何か色々な道具が置かれている部屋に、イーラを連れて入る。

「ピアーズ、何するの?」
「とりあえず、お前の魔力量を測ってみる」

ピアーズはそう言って何か古びた道具を取ってきた。
それは、大きな杯でその中心辺りにももう一つ小さな器が杯から生えたようになっている何かの容器だ。ピアーズはそこに、水を持ってきて小さな器の方に入れた。

「イーラ、手を」

ピアーズがそう言ってイーラに手を出すように言う。

「はい」
「少し、痛いが我慢しろ」

そう言ってピアーズはイーラの手を取って指に針を刺した。

「っ!」
「少し、血をもらうぞ」

そうして、流れた血を小さな器の方にたらす。水の中に血が滲んで広がった。
何だろうと見ていると、一瞬間が空いた後小さな器から水が溢れた。
その勢いは止まらず、あっという間に杯が満たされていく。

「凄い……イーラの魔力がこれほどとは……」

一緒に付いて来ていたコンラートが驚いた顔でそう言った。

「え?どういう事?これなあに?」
「これは、魔力を測る道具だ。この器に血をたらすことで、その人物の魔力の量を測れるんだ。水の量が多ければ多いほど魔力も高い」

ピアーズがそう説明した。

「えっと……じゃあ、私の魔力の量は多いの?」
「ああ、かなり多い。しかも普通の魔族より多い」
「そんなに?」
「これはあり得ないですよ……」

コンラートが言った。

「でも……あの……そもそも、魔族とハーフはどれくらい魔力の違いがあるの?」

イーラは分からない事ばかりで混乱してきた。すると、今度はコンラートが説明する。

「魔力は個人差がありますが、基本的に魔族が一番魔力が高く、人間はその十分の一ほどの魔力しかありません。ハーフに関してはそもそも、はっきり調査した訳ではありませんが、魔族と人間の間くらいらしいです」
「え?人間より多いんだ……」
「ええ、それでも魔族の半分くらいです。でも使えないと思われているのは、さっきピアーズ様が言ったとおり、使うのは訓練や勉強が必要だからです」
「しかし、この結果を見るとイーラは平均的な魔族より魔力が高いことになる」

ピアーズが後を継いで言った。

「なんでだろう?何か間違いじゃ……」

イーラは困惑する。イーラには奴隷だったということ以外何にも特徴がない。それなのに突然そんなことを言われても理由がわからない。

「いや、その可能性は低い。この道具に間違いは滅多にないんだ」

ピアーズがそう言ってさっきの魔法の本を取り出し、続ける。

「そもそもイーラがさっき使った魔法は、かなり高い魔力がないと発動しない魔法なんだ」
「そのために、魔力の測定をしたんですね」

コンラートが言った。

「ピアーズはどれくらいだったの?」

イーラは聞いてみた。話ではピアーズは魔族の国で一番高い魔力と言われていた。

「ピアーズ様の時は杯から溢れました」
「ああ、懐かしいな」
「あの時はみんな驚いてちょっとした騒ぎになりましたね」
「凄い……」

イーラは改めてピアーズの凄さを確認した。

「しかし、それでも分からない事はある」

ピアーズはまた考えこむように手を顎にあてる。

「どういう事?」
「この呪文が読めたことだ」
「あ……そうだ。なんでなんだろう?」
「この呪文は、過去に強大な魔力を持つ者が作った魔法なんだ。独特の言葉で構成されていて正しい発音と一定以上の魔力がないと発動しない。しかし、その分短い詠唱で強力な魔法が使える」
「同じ効果のある魔法を使おうとすると、もっと長い詠唱が必要になるんです」

コンラートが言い添える。

「そう、俺もこの魔法は勉強してみたが、魔力は足りたがこの独特の言語が壁になって諦めたんだ」
「ピアーズでも無理だったのに、なんで私は出来たんだろう……」
「うーん、これに関しては、イーラにもわからないなら。流石に俺も分からないな……」

ピアーズがまた考え込むように言った。

「魔力に関しては個人差があるので、イーラの魔力がたまたま異常に高いだけと説明出来なくないですが、これに関しては説明がつきません」

コンラートも考え込みながら言う。
二人ともとても賢い人だ。それなのにわからないなんて、イーラはまた不安になってくる。
それに気がついたのか、ピアーズが安心させるように笑ってイーラの頭を撫でた。

「大丈夫だ。これから、詳しく調べてみよう。それに今まで普通に暮らしてきて害はなかったんだ。すぐに、なにかあることはないだろう」

まだ少し不安はあったものの、ピアーズの言葉でイーラは少しホッとした。
そして、ピアーズは続けて言った。

「それに、この状況は不可解ではあるが面白い」

ピアーズはそう言ってニヤリと笑った。

「ピアーズ様、また何か変な事を始めるつもりじゃないでしょうね」

コンラートが少し警戒するように言った。
しかし、ピアーズはそんな言葉耳に入っていないようだ。

「イーラの能力をそのままにしておくのはもったいない。それに、以前からハーフの可能性についても調べてみたいと思っていたところなんだ」

ピアーズは面白い遊びを思いついた子供みたいな表情で言った。その顔にイーラはまた少し不安になってきた。

——それから数日後。
イーラはピアーズの仕事している執務室に呼び出され向かった。
そこに行くと、ピアーズとヴィゴの他に、また知らない人物が待っていた。

「ピアーズ、この人誰?」

ピアーズはニコニコ笑っていて、この間と同じく楽しそうだ。

「イーラに家庭教師を付けることにした」
「……へ?」
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