奴隷だった私が四天王の嫁になるまで

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二章

奴隷だった私は勇者と出会う

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「え?ゆ、勇者??」

イーラは聞きなれない言葉と名前に混乱する。
ただでさえ何が起こったのかわからないのに、余計混乱してくる。
深くえぐれた地面をちらりと見る。
わかっているのはさっきの物凄い攻撃はこの人物がしたということだ。
暁斗と名乗った人物は、十代から二十代の間くらいの年齢だろうか。
角もなく肌も白っぽいのでおそらく人間だ。格好は兵士なのか鎧を付けている。そして、首には特徴的な赤黒い首輪をしていた。

「そんなことより、怪我してない?」

暁斗は心配そうな表情で言った。

「え?えっと……」
「可哀想に、顔も真っ青だし、震えてるじゃないか」

そう言うと、暁斗は突然イーラを抱き上げた。

「きゃ!」

いきなり抱き上げられて、イーラは思わず声をあげる。

「大丈夫だよ。近くに小さいけどテントはってキャンプしてるから、そこならもっと安全だよ」

そう言うと暁斗は乗っていた馬にイーラを乗せると、キャンプ地らしきところに連れて行った。
大きなテントが中心にあり、小さいテントが数個周りに建っていた。
簡易なものだが数日はしっかり生活出来るくらいの設備はありそうだった。
中に入ると中には三人の女性がいた。彼女達は暁斗がテントに入ると笑顔で出迎える。ちなみに全員人間だった。

「勇者様おかえりなさい」
「おかえり。暁斗、見回りご苦労様」
「お帰りなさい、暁斗様」

その中でも優しそうな表情の女性が、イーラに気が付き、不思議そうに聞いた。

「あら?その方はどうされたんですか?」
「ただいま。見回りをしてたら、魔族を見つけたんだ。この子は魔族が連れてた奴隷だよ」
「え?魔族が?」
「なんとか助けられたんだけど、酷い事をされたみたいなんだ。着替えや食事を頼むよ」

暁斗がそう言うと、出迎えた女性の一人が感心したように言った。

「まあ、暁斗様。流石ですわ、お優しいのね」
「いやぁ、こんな事当然だよ」
「いや、そんなことないぞ。なかなか出来ることじゃない」

もう一人いた女性がさらに言った。

「そ、そうかな。ありがとう」

暁斗が恥ずかしそうに言う。イーラは横抱きにされながらそれを聞いていた。なにがなんだかわからないが、どうやら暁斗はイーラがカイたちにいじめられていたように見えたようだ。
戸惑いキョロキョロしていると、暁斗が気が付いた。

「あ、ごめん。とりあえず、体を温めないといけないな……そうだ、ユキ。ユキ!」
「はーい」

また、一人今度は女の子がやってきた。その子はイーラと同年代くらで、なんとハーフだった。
そのユキと呼ばれた女の子はイーラを見て、少し驚いた顔をした。

「魔族に連れられてたんだ。濡れちゃったから、この子に着替えと食事を頼むよ」
「はい。分かりました」

ユキは素直に頷く。
暁斗はイーラをゆっくり降ろし、立たせる。

「大丈夫?立てる?ユキに付いて行って」
「うん……」

この勇者と名乗った暁斗は、イーラに敵意はないようだ。
なんだかよくわからないが、とりあえず従うことにした。

「こっちに、来て」

ユキがそう言ったので、イーラは付いて行く。大きなテントには小さなテントが繋がっていて、それぞれの部屋になっているようだ。イーラはその中の一つに入った。

「とりあえずタオルで拭いて。服はこっちね。……着替えるの手伝おうか?」
「う、ううん。大丈夫」
「じゃあ、食事の準備をしてくるね。その間に着替えてて」

ユキはてきぱきとタオルや服をイーラに渡すとそう言って、テントを出て行った。
イーラはとりあえず、服を脱ぎ体を拭くことにした。とりあえず落ち着かなくては。
沼に落ちて濡れてしまったが、ローブのお陰でそんなに汚れは付いていなかった。
顔の汚れを落し、渡された服を着ると少し落ち着いてきた。
改めて考える。
彼らの会話から、暁斗はイーラは魔族の奴隷で酷い目にあわされていると思っているようだった。
おそらく、沼に落ちたところを見てカイに落されたと思ったのだろう。
勘違いにしては早とちりすぎるが。
そして、出迎えた女性たちはユキ意外はみんな人間だった。
最初に暁斗に声を掛けた女性は優しそうな容姿で、あの服装はおそらく神様に仕える巫女さんだ。人間の国にいた時に見かけたことがある。
その後に声を掛けた人は鎧を付けていたので剣士だろうか?女性の剣士は珍しい。
もう一人はイーラと同じようなローブを着ていた。もしかしたら人間側の魔法使いかもしれない。
問題は、彼らは何者で、ここで何をしているかだ。

「お待たせ。着替えられた?」

考えているとユキが帰って来た。イーラは頷く。

「食事を持って来たよ」

ユキはそう言って、イーラを椅子に座らせスープが入ったお皿を渡してくれた。

「ありがとう」

スープは色々な野菜が入ったスープだった。
イーラはとりあえず、それを食べることにした。スープは温かくて美味しかった。
イーラはおずおずと質問してみる。

「あの……あなたたちは……あの、暁斗って人はなにをしてるの?」
「んーと、暁斗様は神様に選ばれた勇者様で、他の世界から召喚された凄い方なんだって」
「他の世界……?」

勇者という言葉もよく分からなかったが、ユキの説明もよくわからない言葉が並んでいる。

「実を言うと、私もよくわからないんだ」

困惑したイーラに気が付いたのか、ユキは恥ずかしそうに笑う。

「あなたは、どうして一緒にいるの?」

ユキもハーフのようだが、他の人間と同じように扱われている。

「私はハーフだから、あなたと同じで奴隷をしてたんだけど。暁斗様に拾われて仲間になったの。魔族と戦うお手伝いをしてるんだよ」
「拾われた……」
「ユキって名前も暁斗様が付けてくれたの」
「珍しい、名前だね」

ユキという名前はあまり聞きなれない語感だった。少なくともイーラは聞いた事がない。不思議そうに聞くとユキも首を傾げつつ答えた。

「うん、私もよくわからないんだけど。なんでも好きな”あにめきゃら”の名前なんだって」

相変わらず、よく分からなかったが、奴隷だったが拾われて名前をもらったという境遇は、自分とよく似てるとイーラは思った。
そんな、会話をしているとスープは食べ終わった。
イーラ達は勇者達がいる大きなテントに戻ることにした。

「お待たせ、着替えと食事が終わったよ!」

ユキがそう言ってテントに入る。
暁斗はイーラの姿を見てポカンとした表情になる。

「やばい……汚れてて顔がよく分からなかったけど、めちゃくちゃ可愛い……タイプだ……」

暁斗は顔を赤くさせボソッと言う。しかし、イーラにはよく聞こえなかった。

「えっと……服と食事ありがとうございます」
「そう言えば、名前はある?」

ユキが思い出したように言った。

「え?あ、イーラと言います」

そう言ってから、本当の名前を言って良かったのだろうかと思った。落ち着いているつもりだが、まだ混乱しているみたいだ。

「イーラちゃんか。可愛い名前だね」
「……さっきは助けてくれてありがとう、助かりました」

イーラはとりあえず、勇者達と話を合わせることにした。少なくともカイを攻撃した魔法の力は強力なものだった。
変に疑問を持たれたり敵意を持たれることは避けたかった。
ついでにカイの事を思い出した。特に怪我はしていなかったみたいなので良かったが、きっと心配しているだろう。
出来れば戻りたいがどうすべきか、分からない。

「そんな、お礼なんていいんだよ。僕は当たり前の事をしただけだから。……それにしても、本当に可愛いな……奴隷の子って大抵従順だから、この子も仲間にしたい……あ、しかもオッドアイじゃん、絶対レアキャラだよ……」

最後の方はまた、ぼそぼそ言ったのでよく分からなかった。
暁斗はさっきよりなんだか鼻息が荒い。

「あの……あなた達は?」
「私はファンニと言います。巫女をしていて暁斗様のお手伝いをさせて頂いているの。よろしくね」

そう、巫女の格好をした人が言った。最初に思った通りこの人は巫女のようだ。

「私はウェンディだ、剣士をしている。よろしくな」
「私はカーリーっていうの。一応魔法使いよ、よろしくね」

それぞれの女性がそう自己紹介をしてくれた。それぞれの職業はイーラが最初に想像した通りだったようだ。それにしてもなんで全員女性なのだろうか?

「えっと……あなた達は何しにここへ?」
「私達は神に選ばれた暁斗様と世界を救うために、旅をしているの。今は魔法の訓練のためにモンスター狩りをしているのよ」

ファンニがそう言った。

「モンスター狩りって……もしかしてあの大きなモンスターを倒したのあなた達だったの?」

もしやと思ったが、ここに来る前に見つけた死骸を倒したのはこの人達だったようだ。こうなると、ますます油断出来ない。

「ああ、あの魔族達もモンスター狩りをしてたんだな。まあ、あのモンスターは訓練には丁度良かったなからな」
「流石でしたわね、暁斗様。あんな大きなモンスターを倒すなんて。しかも一人で」
「え!?一人で倒したの?」

この人数では勝つのも難しいはずなのに、一人で倒したなんて思わなかった。

「え?みんな大げさだな……大した事ないよ」

暁斗は少し照れながら、普通の事のように言う。
イーラはさらに警戒を強めた。それと同時にカイが逃げられて本当に良かったと思った。

「それにしても、イーラだっけ?奴隷にしては少し雰囲気が変わってる気がする……やけに小奇麗だし、本当に魔族に酷い目にあってた奴隷なの?」

ウェンディが少し懐疑的な表情で聞いた。

「どういうこと?」

暁斗が聞き返す。

「いや、魔族がここに送り込んだスパイって事もありうると思って……。魔族なら、こういう卑怯なこともするだろう?」
「な!イーラちゃんがそんなことするわけないだろ?ねえ?」

暁斗は慌てたように言って、イーラに聞く。

「えっと……実は私、奴隷っていうより……その、ペットとして飼われてて……」

イーラはそう言った。元奴隷というのは嘘ではないが、普通の奴隷と少し違うのも本当だ。
魔法を使ったり、使用人として雇われて給料をもらえることは普通はない。
でもあまり変に思われるのも怖くてそう言った。
それにペットというのも間違いではない。

「え?!ぺ、ペット!!」

暁斗は顔を真っ赤にして言った。そして、そのまま怒った表情で続ける。

「っていうか、酷いよ。人を動物みたいに扱うなんて。やっぱり魔族は酷いやつばっかりなんだな」

しかし、イーラをチラリと見ると「でも、イーラちゃん可愛いからペットにしたのも分かるな……それになんかエロいな……」と小さな声でぼそぼそ言った。

「暁斗どうしたんだ?」

ウェンディが言った。

「もし、仲間にしたら。色々お願いできるかも……え?ああ、なんにもないよ。そんな事より!」

暁斗はぼそぼそ何か言った後、慌てて言った。イーラには相変わらず何を言っているのか聞こえない。
そして、イーラの手をいきなり掴むとさらに言った。

「イーラちゃん!酷いやつに捕まってたんだね。でもここにいたらもう大丈夫だよ安心してね」
「あ、ありがとう……」

イーラはとりあえず話を合わせるようにそう言った。
暁斗は一貫してイーラに優しい態度だ。
しかし、言っていることもそんなに変ではないはずなのになんだがぞわぞわ鳥肌が立った。
しかも、指で手をそろりと撫でられて思わず手を振りほどきたくなった。
イーラは、これ以上は疑われたくなくて必死に我慢する。

「暁斗様お帰りなさいませ……おや?その子は?」

テントにまた誰か入ってきた。
今度は男性だった。
女性ばかりだと思っていたが男性もいたようだ。
その人は壮年と言った感じで、ここにいる女性よりかなり年上のようだ。

「ああ。ドナートさっき魔族に連れられているのを見つけて、助けたんだ」

ドナートと呼ばれた人はその言葉に、少し眉をひそめたがすぐに笑顔になって言った。

「素晴らしい。流石、勇者様です。こんな状況でもそんなお優しいことが自然にできるなんて、なかなか出来ることではありませんよ」
「いつもだけど、ドナートは大げさだな……当然の事をしただけだよ」

暁斗は頭を掻きながら言った。

「いや、流石神に選ばれた唯一無二の勇者様です。誰にでも真似出来ることではありません」
「あの……神に選ばれた勇者ってなんですか?」

イーラが聞いた。すると、ドナートが驚いた表情になる。

「ええ、知らないのか?まあ、奴隷なら知らないなら仕方ない。暁斗様は我々の信仰するアスター神がこの世界を救うために遣わしてくれた勇者様です」

ドナートは陶酔したように言った。

「この世界に召喚された時は驚いたよ。いきなり、魔族を倒して世界を救ってくれなんて言われるんだもん……」

暁斗はそう言って苦笑した。イーラはアスター教と言うのは知っていた。たしか人間の国にある宗教の一つで、アスター教といったと思う。しかし、勇者がどうとかって話は初めて聞いた。

「魔族を倒して、世界を救う……」
「もしかして、壮大な話し過ぎて戸惑ってるのかな?大丈夫だよ、まだ戦いに慣れてないけど、訓練を積めばもっと強くなれるはずだよ」

暁斗は暗い顔になったイーラに安心させるように言った。

「う、うん」

よくわからなくてイーラはとりあえずそう言った。
それから、いくつか質問してみたがよくわからず。
しばらくして、夜も遅くなったので休むことになった。

「これからの事は、また明日考えよう。今日は色々あって大変だったと思うけど、ゆっくり休んで」

テントから出るところで暁斗はそう言った。

「は、はい……」
「行くところがないならずっとここに居たらいいよ。僕達は歓迎するよ」

そう言って暁斗にまた手を握られた。

「え?あの……」
「ここにいればもう、魔族にこき使われることもなくなるし。何不自由なく暮らさせてあげられるよ」

また、手を撫でられて鳥肌がたったが勢いに押されて何も言えなかった。
すると、暁斗はそれを了承と取ったようでさらに続けた。

「じゃあ、仲間になってくれるんだね。よろしくねイーラちゃん」
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