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二章

奴隷だった私と王城

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大きな音を立てて、王城の門が開いた。
馬車の窓から城を眺めてみたが、大きすぎててっぺんも見えなかった。街に入ってここに来るまで、かなり時間がかかったが、城の門をくぐってから建物に入るのも時間が掛かりそうだ。
馬車が門をくぐると、ピアーズを待っていたのか、沢山の人がずらりと並んで出迎えた。
きらびやかな鎧を着た兵士が、一糸乱れぬ動作でお辞儀をしたかと思うと、その間からこれまたきらびやかな服を着た恰幅のいい官僚らしき人物がぞろぞろ人を連れて出てきた。

「ピアーズ様、お待ちしておりました。旅はいかがでしたか?」
「デニセか……長話をするつもりはない、案内を先にしてくれ」

ピアーズは顔をしかめて嫌そうに言った。

「おや、お疲れですか?お食事などご用意しておりましたが……」

出迎えたデニセと呼ばれた男は、気にした様子もなく、ニコニコしながらそう言った。

「大丈夫だ。それより、先に用事を済ませたい」
「申し訳ございません。まだ、皆さん揃っておられなくて……」

デニセは汗をふきつつ相変わらずニコニコ笑いながら言った。ピアーズはため息を吐く。

「仕方ないか……行くぞ」

イーラとカイはピアーズと共に、デニセに付いて行く。他の部下達は馬車を片付けに行ったり、荷物を運ぶため、他の場所に案内された。
城の中はどこもかしこも荘厳で煌びやかだった。天井も見上げるほど高く、隅々まで装飾が施されていた。そして、王家の紋章がそこかしこに描かれていて、王家の権威を表現しているようだった。
城の見た目と同じで、黒を基調にした装飾はさらに荘厳さを増している。
城の中はピアーズの屋敷と同じく複雑な作りになっているようだ。イーラはあまりキョロキョロしてはいけないと思いつつ、その壮大さに目を奪われる。
広い広場から階段を登り、城の中なのに大きな庭園がある通りに出た。
その時、誰かがピアーズに話しかけてきた。その人も煌びやかで明らかに威厳のある恰好をしている。引き連れている人の数も多い。

「イーラ、カイ、少しここで待っていろ」

ピアーズは、相変わらず忙しいみたいだ。そう言って誰かとどこかに向かった。
待っている間イーラとカイはやることがないので、とりあえず近くにあった庭園を眺める。
初めて来た王都にお城の中まで来たことで、流石に緊張していたが。思わぬところで綺麗な風景にすこし緊張がとけた。

「綺麗だね」
「そうだな」

ピアーズの屋敷の庭も広くて綺麗だが、ここはそれに比べれば狭いもののその分色々な種類の花がバランス良く配置されていて一つの絵画のように美しい。
庭園は水をやったばかりなのか、太陽の光を浴びて輝いている。

「カイは王城に来た事あるの?」
「いや、お城の中は初めてだな……」
「やっぱり広くて大きいね。機会があったら、探索とかしてみたいかも……」

こっそりいうと、カイもいたずらっぽく答える。あれから、5年も経ったが二人にとって探索は一番楽しい遊びだ。

「面白そうだな。また、迷いそうだけど……」
「そうだね」
「っていうか、そんな事してたら怒られるよ」

そんな風に二人で会話していると、突然背後から声がきこえた。

「なんで、こんなところにハーフがいるんだ?」
「本当だ、汚らわしい……」

振り返ると、騎士の服を着た二人組がいた。二人はイーラより少し年上くらいで、騎士だとしても若いので、おそらく騎士見習いだろう。
二人は顔をしかめて、汚いものを見るようにイーラの方を見ていた。
カイがムッとした表情でイーラを庇うように立って言った。

「何か用かよ」
「俺は、このハーフに言ってんだよ。お前が連れて来たのか?じゃあ、早くこの汚い奴隷を連れて出ていけ」

騎士見習いの一人はさらに顔を歪め、馬鹿にしたようにカイに言う。

「俺達は用事があってここにいるんだ。それから、イーラは奴隷じゃない。お前らこそ、どこかに行けよ」
「魔族の癖に何庇ってんだよ。俺はお前のために言ってやってるんだぞ。早く出てけよ」

騎士見習いがそう言ってイーラを掴み、突き飛ばそうとした。

「止めろ!」

カイはそう言って相手の手を掴んで止める。

「なんだよ、お前。生意気だな、俺が誰か知ってて言ってんのか?」
「知るわけないだろ。どうせいきなりこんな失礼な事を言えるんだから、教育もまともに受けてない下っ端なんだろ」

カイは挑発するように言った。

「カイ!私は大丈夫だから。無視した方がいいよ」
「イーラ、でも……」

イーラが止めようとすると、騎士見習いはイラついたようにさらに言う。

「本当にムカつく。なにすかしてんだ!早く出てけよ!」
「キャっ!」

今度はイーラは髪を捕まれ引っ張られた。

「やめろ!」

カイはそう叫んで、今度は相手を着き飛ばした。相手はよろけて倒れた。

「な、何をする!」
「それはこっちのセリフだ。いい加減にしろよ。弱い女の子に手を上げるなんて、それでも騎士か!」
「うるさい!格好つけやがって。どっちが本物の騎士なのか証明してやる」

そう言って着き飛ばされた男は、剣を抜いた。

「お、おい。いいのか……」

もう一人の見習い騎士が流石にまずいと思ったのかそう言った。王城で剣を抜くことは基本禁止されている。

「構うもんか!こいつらに、何が正しいか教えてやるんだ」

相手は完全に頭に血が昇っているようだ。もう一人も勢いに乗せられたのか戸惑いつつも剣を抜いた。
カイは身構える。
不味いことに、こちらは武器になるものを持ってないのだ。 

「っ!イーラ下がれ」

カイはそう言ってイーラを下がらせる。相手が剣を振り上げ、斬りつけてきた。カイはなんとか避けたがいつまでも避け切れるとは思えない。
イーラは咄嗟に呪文を唱える。

「『風よ我は命ずる、天空のパルスよ疾く走れ!』」
「うわ!」

強い風に相手が怯んだ。カイはその隙に足払いをして、転ばせ殴った。

「何するんだ!」

もう一人の騎士見習いが、イーラの方を向き切りつけてきた。イーラ避け切れずよろける。

「イーラ!危ない!」

カイはそう言ってイーラを切りつけようとしている奴にタックルをする。

「っぐ!くそ!舐めやがって」

相手はよろけたがこけはしなかったが、今度はタックルをしたカイに向かう。
相当頭に血がのぼったのか剣を無茶苦茶に振り回す。

「っく!」

カイはなんとか身を回転させ避ける。しかし、滅茶苦茶に剣を振り回すので避けるのに精一杯だ。

「カイ!伏せて」

イーラは相手の注意が他にいったので、地面に落ちている石を2、3個手に取り、魔力を込めた。
そうして、もう一度風の魔法の呪文を唱える。
その途端、石はふわりと浮いて、勢いよく相手に当たった。

「痛!っうが!」

石は全て当たり、痛みのためか相手はたまらず倒れる。その隙にカイが腹を蹴って止めを刺した。
相手はたまらず地面を転がった。

「何をしている!!」

その時、誰かが怒鳴った。
倒れた二人はその声を聞いて慌てて起き上がる。

「エクムント様!」

エクムントと呼ばれた人はピアーズより二十は上の中年くらいの男性だった。
ひょろりとした体形だが、皺を刻んだ眉間の所為か威圧がある。
重厚なローブを着ていて分厚い本を持って、厳めしい顔のままこちらに近づく。
カイはイーラを守るように背中に庇った。

「何をしているのか聞いている」

エクムントはギロリと四人を睥睨へいげいする。

「こ、これは……あいつらが、悪いんです。俺達は何も……」

二人はオロオロと言い訳をし始めた。

「何言ってんだ!お前らが先に手を出して来たんだろ!」

カイが怒鳴る。

「どうしたんだ」
「ピアーズ様」

その時、丁度ピアーズが戻ってきた。周りを見て眉をひそめる。

「あなたの部下ですか?」
「ああ、エクムントか。何があったんだ?」

エクムントはピアーズを見た途端さらに顔をしかめた。

「私も今来たところでね……とは言えどちらの言い分が正しいにしろ、私の部下が剣を抜いてしまったのは事実のようだ」

そう言ってイーラ達に絡んできた二人を睨む。二人は気まずそうに目を逸らした。
どうやら、二人はウィアーの部下のようだ。
ピアーズはため息を吐いて言った。

「とりあえず、大事には至らなかったようだな。カイ、イーラ怪我はないか」
「はい、大丈夫です」

カイはそう答えた。
突っかかってきた二人は流石に冷静になったのか、項垂れてしまっている。
ウィアーが口を開いた。

「私の部下が失礼したようだ。おい、二人。今すぐ自分の部屋に戻り、言い訳でも書いておけ。その後に罰を言い渡す」
「エクムント様、俺達は……」
「見苦しい言い訳は聞きたくない。行け!」

エクムントが指をさしてそう言ったので、流石にもう何も言えなくなった二人は、すごすごそこから立ち去った。
エクムントはイーラとカイを睨むように見た後「それでは私は失礼します」と言ってどこかに行った。
ピアーズが二人を見る。カイとイーラは身を縮めた、何も悪いことはしていないが騒ぎを起こしてしまったのは事実だ。
固まる二人を見てピアーズはまたため息をついた。

「大丈夫だ、怒ってはない。詳しい事は後で聞く。ここでの用事を先に片付けるぞ」

そうして、二人はピアーズと本来の目的だった報告に向かった。
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