奴隷だった私が四天王の嫁になるまで

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二章

奴隷だった私と王城3

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「ピアーズ様がおこしです」

その言葉とともに扉脇で控えていた兵が扉が開く。
ピアーズはしずかに部屋に入った。部屋にはこの国の王であり、ピアーズの父親アドルフが優雅に椅子に座っていた。
どうやら、今はお茶の最中だったようだ。

「ピアーズか久しぶりだな」

王が軽く顔を上げて言った。

「お久しぶりです。陛下。今日はご挨拶に……」
「ああ、ピアーズも来ていたのか」
「……兄上。おられたんですね」

どうやら、エドワードもこの部屋にいたようだ。

「色々報告も兼ねて休憩してたんだ。それより、さっきも言ったが本当に久しぶりだな。もっと帰ってくればいいのに」
「申し訳ありません色々忙しくて」

ピアーズは目を伏せ、困ったように言った。

「働き過ぎは体に悪いぞ。ピアーズもどうだ?」

王がそう言ってピアーズにお茶を勧める。

「ありがとうございます」

ピアーズがそう言って席につくと、エリオットも座りお茶を飲んだ。

「それにしても。人間達も面倒なことをしてくれるものだ。自分たちの土地で大人しくしていればいいのに、勇者なんて存在を生み出して……」

王は苦々しい顔で言った。エリオットの報告を聞いたのだろう。

「父上ご安心下さい。対策は進めておりますので」

エリオットがそう答える。

「まったく……今のうちに全力で叩き潰せないのか?」
「残念ながら。それもなかなか難しいのですよ。向こうも色々対策をしています。下手をすればまたこちらに犠牲出ます。こればかりはそう簡単には進められません。しかし、そのうち人間達も我々の偉大さに気が付くでしょう」

エリオットは少し困った顔で説明をする。
すると、ピアーズが口を挟んだ。

「王よ。そもそも、この無駄な争いをこれ以上続けなければいいのでは?取り合えず奪った土地を半分でも人間に返して、休戦を申し入れては?」

それを聞いた、王は驚いた顔になる。

「何を言ってる。あの土地はもう我々のものだ。しかも休戦なんて申し入れたら、絶対に調子に乗って、もっと返せと言って来るに決まっているだろう」
「そうだ。それに、勇者を作っているシステムもがいかに残酷かということを、ピアーズも知っているだろう。あんな事を簡単にしてしまえる者たちだ。それなりの報いを受けて同然なんだ」

エリオットも呆れたように答えた。

「しかし……」
「一体どうしたんだ。ピアーズ、むしろ昔は戦いに積極的だっただろう。それに、何度も人間と戦って、あいつらに殺された魔族もいるんだぞ。今更なにを言っている?」
「……何度も戦って来たから言うのです。あんな事、無駄でしかない。いらない恨みが募るだけで戦いが広がり。さらにはこちらも消耗させられるだけだ」
「何を甘ったるいことを言ってるんだ。がっかりしたぞ、以前は王位継承にもっとも近いとまで言われた実力もあったのに……」

王は呆れたように言った。

「私は、そんなもの興味ありません。それよりも今後の戦い方の方が問題です。戦いが悪化すれば、いずれは自国民も犠牲にしなくてはならなくなる。いや、もう影響はでています」

そうなのだ、今はあまり目には見えないが争いの弊害は少しずつ市民の生活を圧迫している。

「じゃあ、ハーフの奴隷を前線にでも立たせればいい。あいつらをもっと増やして、戦場にたたせろ。そう言えばピアーズはハーフの子供を育てているんだったな。使えるのか」
「っ!イーラはそのために育てているわけではありません!そもそも、ハーフを奴隷として扱うのも私は反対なんだ。人間を残酷だというなら、こんなことはもう止めないと」

しかし、王はそう言ったピアーズを呆れた顔で見る。

「ハーフを魔族と同じように扱うなんてとんでもないことだ。あいつらは物と同じだ。我々が使ってやって価値が出るのだ。感謝して欲しいくらいなんだぞ」
「まあまあ、落ち着いて下さい。ピアーズも長旅で疲れて。それより話が逸れててしまった。話を戻しましょう」

エリオットが間に入りたしなめる。ピアーズはまだ何か言いたそうだったが、これ以上は無駄だと思って口を閉じた。
その後、些末な報告を済ませ。その場はそれで終わった。

**********

一方イーラは、報告が終わると客室に案内された。
そこは王城にある客室がある一角で、部屋は広くて豪華だった。流石王城だ。
大きなベッドに机、何人も座れそうなソファがあって、テーブルには色んな種類の飲み物が準備してある。
温かいお湯が張られたバスタブも準備されていて、いい匂いで満たされていた。
持ってきていた荷物も置かれていて、作りたての食事も準備されている。

「うわー、凄い」

ただ、ピアーズはここに住んでいた時の部屋で寝るようだ。今日一緒に寝れるのは諦めた方がよさそうだ。
流石に王城で王子の部屋に勝手に入っていったら、ピアーズは何も言わないかもしれないが、他の人に咎められるだろう。ハーフのイーラにこんな豪華な部屋が用意されているだけでも破格なのだ。
おそらくピアーズが手配してくれていたのだろう。
明日にはここを出るとピアーズは言っていたので、イーラは荷物は解かず食事を済ましてお風呂に入った。
さっぱりしたところで、少し早いが寝ることにした。
イーラはベッドに座ると、いつものように髪を櫛で梳く。

「はあ……」

ぼんやり今日の事を思い出すとため息が出てた。城に入って庭での事から始まり、色々あった。

「疲れたけど、今日は眠れるかな……」

ピアーズがいないのに、初めての場所で眠れる気がしない。
そう思った時、扉がノックされた。

「ピアーズ様がお呼びです」

扉の外には使用人がいて、そう言った。イーラは急いでガウンを着て使用人の案内でピアーズの部屋に向かった。

「ピアーズ様お呼びですか?」
「ああ、イーラか。入れ」

部屋に入ると、ピアーズも丁度お風呂から出たところなのか、髪が少し濡れていてくつろいだ格好をしていた。
ピアーズの部屋は、当然だがイーラの部屋より数段広くて豪華だった。ここも沢山の本と本棚があってピアーズの屋敷の雰囲気とよく似ていて。ここで昔暮らしていたというのが納得させられた。
それと同時に居心地の良さを感じてホッとする。
イーラはいつものようにピアーズのベッドに寝転がった。

「一緒に寝るつもりで呼んだわけではないんだがな……」

ピアーズは呆れたようにそう言いつつ、クスクス笑う。
ベッドに座るとイーラの頭をいつものように撫でた。
くすぐったくてイーラも思わずクスクス笑う。
しかし、ピアーズが突然暗い声に変わり言った。

「イーラ、今日はすまなかったな……」
「え?……」

いったい何の事かわからなくて驚く。

「来る必要無かったのに来てもらって、不快な思いをさせてしまった」

まあ、たしかにピアーズの家にいると一切言われない事を沢山言われた。
しかし、奴隷だったのは事実だしそれが当然だった。それに、奴隷だった頃に比べれば優しい方の罵倒だ。

「いえ……それよりも偉い人達が沢山並んでいて、そっちの方が緊張しました」

そう言うとピアーズは苦笑して、「お前は、変なところで度胸があるよな」と言った。緊張したのに何で度胸があるのだろう?と疑問に思っているとまたピアーズは急に真面目な顔になって言った。

「イーラ、お前はハーフだ。それは、わかっているな?」
「はい」

それは、わかっている。しかし、なんで今さらこんな事を言うのだろうか?もっと自分の身分をわきまえろということだろうか。
たしかに殿下と呼ばれる立場の人の部屋に入っていきなりベッドで寝ころぶのは失礼だったかもしれない。
しかし、ピアーズの口から出たのは意外な言葉だった。

「だから、魔族に。いや、俺に従わなくてもいい」
「え……?」
「今後も魔族がハーフに対して酷い扱いをするだろう。だから、イーラが俺たちに協力する必要なんてない」
「……」
「人間側につくこともありだ。話しを聞く限り勇者はイーラに危害を加えるつもりはないようだし……」
「でも……」

まさか、そんな事を言われると思わなくて混乱する。

「勇者も言っていただろう。人を奴隷やペット扱いするのは間違っていると」
「はい」
「確かにその通りだし、酷い扱いだ」

ピアーズは自嘲するように言う。

「……でも、ピアーズ様に拾われて私は幸せです」
「例えそうでも、間違いである事は変わらない」
「……」

ピアーズは眉を顰め厳しい顔で言う。それを見たイーラはどう答えていいかわからなくなった。

「まあ、今すぐ答えを出す必要はない。しかし、考えた末に勇者側に付いても、それは間違いではない。それは覚えておけ」
「……はい」

その後、イーラは自分の部屋に帰された。本当は今日も一緒に寝たかったけど、真面目な顔のピアーズにしっかり考えろと言われて、言い出せなかった。
次の日、イーラ達は屋敷に帰る馬車に乗っていた。
王都に来たのにあっという間だった。遠く離れていく街を眺める。
ここに来た時、街に買い物に行きたいなんて言っていたが、結局それは叶わなかった。
イーラは背もたれに寄りかかり、あくびをした。

「どうした?眠いのか?」

カイがイーラに言った。

「うん、ちょっと昨日眠れなくて……」
「昨日色々あったもんな。ごめんな、俺なにも出来なくて」

カイが気遣うように言った。
城で色々言われたことを気にしているようだ。

「カイありがとう。私は大丈夫だよ。ちょっと馴れない場所で眠れなかっただけだから」
「寝てていいよ。次の宿に着いたら起こすよ」
「ありがとう」

そう言われてイーラは言葉に甘えることにした。昨日、よく眠れなかったのは本当だ。しかし、眠れなかったのは色々言われたせいではない。どちらかと言えばピアーズに言われた事をずっと考えていて眠れなかった。
イーラはカイに寄りかかり目を閉じた。
ピアーズに言われた事の、答えはまだ出ない。
目をつぶると、ゆらゆら揺れる馬車にイーラはいつのまにか眠っていた。
それから数日後 ——
イーラ達は無事にピアーズの屋敷に戻った。
屋敷に戻ると、王城であったことが夢だったのではないかと思うくらい、穏やかな日々が戻ってきた。
イーラは朝起きると食事を済ませ、頼まれた仕事をこなす。カーラ先生が来れば授業を受け、課題をこなしていてるといつの間にか日も暮れて夕食になる。夕食が終わればあっという間に寝る時間だ。
勿論、イーラはいつも通りピアーズの隣で添い寝する。あれから、ピアーズは勇者の事は話題に出すことはなかった。イーラもピアーズが話題に出さないので何も言わなかった。
そんな、感じで日常は何の変化もなく過ぎたが、多少変わったこともあった。

「次の用事まで、ちょっと時間があるな……」

イーラはそう言うと、こっそり屋敷の裏にある森に向かう。

「よし、ここなら大丈夫かな」
「イーラ、なにしてるんだ?」
「わぁ!」
「わぁ!な、なんだ?」

いきなり声をかけられて驚く。カイもその声に驚いた。

「カ、カイか……びっくりした。なんでいるの?」

ここは森の中だ、まさかいるとは思わなかった。

「いや、ここに入って行くのが見えたからどうしたんだろうって思って。イーラこそ何してるんだ?」

カイにそう聞かれて、イーラはどう言っていいか分からなくて言葉に窮する。

「ええ……っと……」

迷っているとカイが言った。

「もしかして、俺には言えないようなことしてたのか?」
「違う。違うよ……説明しづらくて……」

イーラは慌ててそう言ったが、カイは納得はしていなさそうな顔だ。

「じゃあ、ゆっくりでいいから。教えて?」

イーラはなんとか、考えながら説明する。

「簡単に言うともっと強くなろうと思って……魔法の特訓をしようと思ったの」
「特訓?」
「うん。でも屋敷とか庭だと危ないから、森でしたらいいかなって……」

そう言ってイーラは、自分でも何の説明になってないなと呆れた。

「でも、なんでいきなり強くなろうなんて思ったんだ?王城でも騎士見習いに勝てたし、特に弱いと思わないよ」

カイは少し困惑したように行った。

「そうなんだけど……」
「もしかして、何か困っていることがあるのか?」

心配そうなカイの表情に、イーラは罪悪感を覚える。

「ううん、そんなことないよ。ただ、説明しずらくて……」

イーラは口ごもる。
訓練しようと思ったきっかけは、ピアーズの言葉だ。ピアーズは魔族でも人間でもどちらの味方をしてもいいと言った。
イーラはピアーズに言われた通り、この事について考えてみた。
しかし、考えてみたもののどちらかに味方するなんて想像が出来なかった。
人間にはいい印象がない、勇者も悪い人じゃないとは思うがついて行きたいとは思わなかった。
勿論、ジャックとフィルを知っているから人間にもいい人もいる事は知っている。
魔族も今回王城に行ったことで魔族にも色々いる事が分かった。
とは言えイーラは、自分の意志で何かを決めるなんてあまりしたことがない。だからこんな重要なこと簡単に決められなかった。
そもそもイーラがどちらに味方しようがなんの影響もないだろう。
だから、深くは考えることは諦めた。
でも、今回の事で分かったことはハーフであるイーラの立場はとても弱いということだ。
あたりまえだが今更ながら実感した。
ピアーズは好きに決めてもいいと言ったが、もし決めたとしても実行は出来ないだろうと思った。
ハーフであるイーラが一人で生きるには、ハーフの立場はあまりにも弱すぎる。
だから、とりあえず強くなろうと決めたのだ。

「……別に、変な事じゃないよな?」

答えに困っているのが分かったのか、カイがそう言った。イーラは頷く。

「ごめん、上手く言えなくて……」

カイは魔族だ。
この事を言ってもきっと、カイは優しいから困らせてしまう。
でも、カイは笑って軽く言った。

「変な事じゃないなら、いーや。それより、水臭いな」
「え?」
「特訓するなら、一緒にしようぜ。協力した方が効率もいいだろ?」

イーラは嬉しくなった。カイは全部話さなくてもイーラの事を信じてくれたのだ。

「カイ……ありがとう」

そうして、カイとイーラは二人で特訓をする事になった。
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