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優しい夜
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「私が大書庫に入れるって今日の時点で知っているのは数人しかいなかったはずです。大書庫に入れると知っている人間は少ないです」
そう言われてローグはハッとした表情になる。
確かにわざわざ言いふらす事でもないからミルはほとんど誰にも言っていなかった。知っているのは許可を出した、第一王子、話の流れで言ったロストとフェイ局長くらいだ。
「それじゃあ、兄上以外知っているのは二人か」
「私達が大書庫にいた時間が結構長かったですから、その二人が誰かに悪意なく言ってしまったのかもしれません、それでもそれでも数は少ないはずです」
「それじゃあ、襲ってきたのはあのニ人のうちどちらかという事か?」
「……考えたくないですけど……」
ミル食堂で話した事を思い出す。
「ロストはそんな事をするような人ではないです。将来の事を考えてもそんな事をする理由がないです」
「そんな事をするような人じゃないっていうのは、あまり根拠にならないぞ。ロストは確か貴族だったよな?彼の貴族としての立ち位置は?派閥はどこに所属している」
ローグはムッとした表情で言った。相変わらずロストの事になると、なんだかむきになってしまう。
「そうですね。えっと……確かロストの父親が貴族で。たしか伯爵です。鉱山を含む土地を治めていて、歴史もあります。ロストはその次男。派閥は……第一王子だったと……」
第一王子が側に置いていたのはそれも理由だ。ロストは長男ではないから家を継ぐ立場ではないが、優秀だし信頼されている。
「なるほど、それならば確かに可能性は低いか……」
「脅されていたり、弱みを握られて無理矢理従わされている可能性はありますが……」
ミルは暗い顔で言った。優しい人だからあり得ることだそうだったらとても辛い。
「そこまで考え始めたらキリがないな。それじゃ、フェイ局長はどうだ?」
局長はとても親切で優しそうな人だった。動機も見当たらない。
ミルがそう言うとローグも頷く。
「確かにそうだ。しかし、あの局長は魔法薬も扱うと言っていただろう、物腰も柔らかくてそんな事しなさそうに見えるが……俺はそれが気になったな」
「魔法薬……確かに魔法薬の部署がなくなったあとは局長が代行していたと」
「それに、局長であれば大書庫に入って禁忌の魔法を知ることも出来るんじゃないか?」
「確かに……」
それは、第一王子にも確認した方がいいだろう。仮にも城で魔法省の局長を勤めているのだ。大書庫に入る許可を持っていてもおかしくない。
「ミルは彼の経歴は知っているか?」
「まさか、王城で初めて会ったので……」
「そうか、俺も魔法省の局長だという事以外は詳しくは知らないんだ。これも兄上に聞いてみるしかないな」
「そうですね。でも、そんな時間があるでしょうか?」
実は、第一王子が王になるための戴冠式が2日後に迫っているのだ。王を殺した犯人を探すのは重要だが、それ以上に第一王子は忙しい。
「まあ、それなら、知っていそうな奴を探すか。どうにかなるだろう。戴冠式が終わってからでもいい。戴冠式の方が大切だ」
ミルはメモを書きつつ頷く。分からないことだらけだ、こんな事で犯人がわかるのか不安になる。ローグは流石に疲れた顔で言った。
「可能性を考え始めるとキリがないな……究極を言えば兄上だって候補になってしまう」
「だ、第一王子ですか?そんなこと……」
「動機という点を覗けば、物理的に兄上が王を殺すことは可能だ。誰かに命令したのかもしれないし。動機ももしかしたら俺が邪魔だったのかもしれない」
「そ、そんなこと……」
疲れて最悪の想像をしているローグにミルは泣きそうな表情になる。
「悪い、変な事を言ったな。もし、兄上が俺を邪魔だと思っているならとっくに他の方法で実行しているだろう」
いたずらっぽく、ローグが言った。
「ローグ様冗談でも止めてください。家族でそんな事を疑うなんて……」
「……そうだな」
ローグは微笑みながら答えた。しかし、その表情にはわずかに悲しみが漂っていた。
「そう言えば、ミルは大書庫で人間を動物にする方法が書かれた本は見つかったのか?」
ローグが話を変えるように言った。
大書庫に入ったのはそれがそもそも目的だった。結果を聞く前に、男が現れたので結局聞いていなかった。
「す、すいません。大書庫が広くてまだ何も……しかも、他の物に目移りしてしまって……申し訳ありません」
「いや、あんな事になるなんて分からなかったし、あんなに沢山資料があるんだ。見つからなくてもおかしくない」
ローグは慰めるように言った。実際、大書庫には大量の書物があり、いまだに、その分類がどうなっているのかを把握することも出来ていなかった。
大書庫は沢山貴重な資料はあるが、貴重過ぎて人が入れないようにしているせいで、司書もおらず、資料の管理はあまりされていないのだ。
「取り敢えず、この事は朝いちばんに兄上に伝えて、もう一度大書庫に行って資料を確認してみた方がいいだろう。それから、局長の事ももっと調べよう」
「そうですね。そうするしかなさそうですね」
局長が本当に何か関わっているのかは、確信が持てない。しかし、可能性は高そうだ。
何も出来なかったのが歯がゆいが、可能性を考えることは無駄にはならないはず。
食事が終わったころ、明日の事を話していたら時間が来てローグは猫に戻っていた。
明日のために二人は眠ることにした。ベッドは最高級のもので寝心地はよさそうだ。しかし、煌びやかすぎてミルは落ち着かなかった。
”ミル大丈夫か?眠れそうか?”
なんせあんな事があったのだ、心労も相当だろうと、ローグは心配そうに聞いた。
「う……流石にすぐに眠れる自信はないですけど……が、頑張ります」
外には兵士も見張っているし、ここの隠し通路は、事前に入れないように家具で塞いである。入ってこられてもすぐに分かる。
しかし、襲ってきた人物は誰も入れないはずの大書庫に入ってきたのだ。
こんな状況では、どんなに胆力がある人間でも動揺はする。
”大丈夫だ何かあっても俺が守る。俺はどんなケガをしても治るのだから、それを利用しない手もないだろう”
大書庫で襲われた後も普通なら死んでいるような怪我も、すぐに跡形もなく消えた。
更に、首輪にはいつでも人間に戻れるように、薬をセットしておいた。これなら襲われても人間に戻って応戦出来る。
「で、でもいくら死なないとはいっても、何度も怪我をするなんて辛すぎます」
ミルも怖かっただろうにローグの怪我を思い出したのか、泣きそうな顔で言った。ローグはそれを見て相変わらずミルは優しすぎるなと苦笑する。
”心配するな、本当に大丈夫だから。それより早く休んだ方がいい”
「うう、そ、そうですね。すいません、本当に私ご迷惑ばかり……」
結局自分は何も役に立っていない上に、迷惑を掛けていることに気が付いて落ち込む。
それでもこれ以上迷惑はかけられないとミルは、自分で作ったよく寝れるお香を焚く。
少し気持ちも落ち着いてきた。
灯りを消してベッドに入る。ローグはミルの枕の横で丸くなった。
”まだ不安なら、眠れるまで少し話すか?”
ローグが気を使うように言った。
「ありがとうございます……なんとか大丈夫そうです」
そうは言っているが、あきらかに無理をしているのは明白だった。
”なにか俺に出来ることがあったら言ってくれ。出来ることはあまりないが……”
ローグがそう言うと、ミルが「じゃあ……あ、いえ、何でもないです」ともごもご言った。
”何かあるのか?”
「えっと……怒らないでくださいね。ちょっと撫でさせてもらってもいいですか?」
”撫でる?そんな事でいいのか?”
「子供のころから、馬とか家畜とか小さな動物を撫でるのが好きで……嫌なことがあると、よく撫でて紛らわしてたんです」
ミルは恥ずかしそうに言った。そういえば、ローグが人間だと分かる前は、事あるごとに身体を撫でていた。
嵐が来た時も撫でていたなと、ローグは思い出した。
言った途端、恥ずかしくなったのか、ミルは顔を赤らめる。仮にもローグは王族だ。
「だ、だめですよね」
”いや、いいぞ”
「え?いいんですか?」
”ああ、それくらいかまわない”
ローグはそう言って、ミルが撫でやすい場所に移動する。
「そ、それじゃあ……」
ミルはおずおずと猫のローグを撫でる。
相変わらず黒猫の毛皮はツヤツヤで柔らかくて触り心地が良かった。暖かく柔らかいそれを撫でると、それだけでこわばっていた表情が少し柔らかくなってきた。
「ローグ様……本当に大丈夫ですか?」
ミルは不安そうに聞いた。王族をこんな風に撫でるなんて不敬以外のなにものでもない。
”大丈夫だよ、……嫌じゃないし……”
ローグは少し恥ずかしそうに言った。こんな状況にならなくてもいつでも撫でていいぞと言おうとしたが、なんだかいいにくくてそう言った。
ミルの手は優しくて相変わらず心地いい。そう思っていたら勝手に喉がゴロゴロ鳴り出した。
「ふふ……」
”こ、これは、別に深い意味はないから……”
「私、この音も好きです落ち着きます」
”そ、そうか……”
恥ずかしかったが、ミルが誤魔化すように言ってくれた。
襲われ、緊張していたのはローグも同じだったようだ。身体の力が抜けたような気がする。
「そう言えば、ローグ様はお城におられた時局長とは、面識はなかったのですか?」
ローグはあの城で王子だったのだ、局長は家臣にあたる、流石に関りがあったはずだ。ミルはふと思い出して言った。
”ううん……何度か話した事はあるがあまり印象には残っていないんだ。無能では無いが特別優秀でもないといった印象だった。ミルが凄いと褒めていたのは少し意外だったくらいだ”
「そうなんですね。でもローグ様あまり魔法の事はご存知ないって仰ってたから、無理もないと思います」
”俺が担当していたのは軍関係が多かったのも原因だな。まあ、もしなにかしら関わっていたとしても立場上あまり深くかかわる事はなかったと思うがな”
魔法省の局長とはいえ第二王子との地位の差は相当違う。何かあったとしても何人かの人間を挟むことになるので、喋った事があるなら、まだ関わりがある方だともいえる。
王城には本当に沢山の人が働いている。
「ということは局長は王城では、そんなに目立つ人物ではなかったということですかね?」
”おそらくな……ただ、俺も城での立場が微妙だったからな。城の中の事を全ては把握できてはいない”
「お城は広いですし、国を動かすお仕事されてたんですし当然ですよ。細かい事は下の物がするものですし」
”……それにしても、もし局長が何か関わっているとして、どうしてこんな事をしたんだろうか……”
フェイ局長が犯人だと決まった訳ではないが、怪しいのは確かだ。しかし、動機がわからない。
「私には想像も出来そうにないです」
最近初めて王城に入り、局長と初めて会ったミルにとっては推測することもできない。
”王家に何か恨みでもあるのか、地位の高い誰かが裏にいてそれで動いているのか……”
「でも、王様を殺しても得をする人はいないって仰っていたし……それも考えると動機が分かりませんね……」
”考え方を一度変えてみた方がいいかもしれない”
「どういう事ですか?」
”王が殺されたから王になにか恨みがあるとか、得になると思っていたが逆もありうるんじゃないかと……”
「逆?ですか」
”そう、俺に恨みや、いなくなることで得になる事があるって考えもあるんじゃないかと……”
「ローグ様に……」
”王を殺したのも俺を殺人の容疑者にするためで、王城に戻れないようにするためとか……”
「なるほど、そういう可能性もあり得るね。でも、そうだとしたら誰が何のために?」
”……俺に恨みがある人物、例えば王妃とか……”
「!!王妃様!?」
”昔から俺を目の敵にしてきたしてきたし、最初に俺がやったと言い出したのも王妃だ……まあ、それならなんで俺をわざわざ猫にしたのかは意味がわからないが……”
ローグは少し自信がなさそうに言った。
「それもそうですね……そうなると、結局分からなくなりますね……」
ミルも困ったように言った。結局振り出しにもどる。そう言えば以前も同じ結論になった気がする。
”いい線だと思ったんだがな……”
「でも、秘密の道が使われていることを考えると王族の方の可能性は高いですよね……」
”その線で考えると……王妃と兄上……それから弟のアルフか……”
そう言われてローグはハッとした表情になる。
確かにわざわざ言いふらす事でもないからミルはほとんど誰にも言っていなかった。知っているのは許可を出した、第一王子、話の流れで言ったロストとフェイ局長くらいだ。
「それじゃあ、兄上以外知っているのは二人か」
「私達が大書庫にいた時間が結構長かったですから、その二人が誰かに悪意なく言ってしまったのかもしれません、それでもそれでも数は少ないはずです」
「それじゃあ、襲ってきたのはあのニ人のうちどちらかという事か?」
「……考えたくないですけど……」
ミル食堂で話した事を思い出す。
「ロストはそんな事をするような人ではないです。将来の事を考えてもそんな事をする理由がないです」
「そんな事をするような人じゃないっていうのは、あまり根拠にならないぞ。ロストは確か貴族だったよな?彼の貴族としての立ち位置は?派閥はどこに所属している」
ローグはムッとした表情で言った。相変わらずロストの事になると、なんだかむきになってしまう。
「そうですね。えっと……確かロストの父親が貴族で。たしか伯爵です。鉱山を含む土地を治めていて、歴史もあります。ロストはその次男。派閥は……第一王子だったと……」
第一王子が側に置いていたのはそれも理由だ。ロストは長男ではないから家を継ぐ立場ではないが、優秀だし信頼されている。
「なるほど、それならば確かに可能性は低いか……」
「脅されていたり、弱みを握られて無理矢理従わされている可能性はありますが……」
ミルは暗い顔で言った。優しい人だからあり得ることだそうだったらとても辛い。
「そこまで考え始めたらキリがないな。それじゃ、フェイ局長はどうだ?」
局長はとても親切で優しそうな人だった。動機も見当たらない。
ミルがそう言うとローグも頷く。
「確かにそうだ。しかし、あの局長は魔法薬も扱うと言っていただろう、物腰も柔らかくてそんな事しなさそうに見えるが……俺はそれが気になったな」
「魔法薬……確かに魔法薬の部署がなくなったあとは局長が代行していたと」
「それに、局長であれば大書庫に入って禁忌の魔法を知ることも出来るんじゃないか?」
「確かに……」
それは、第一王子にも確認した方がいいだろう。仮にも城で魔法省の局長を勤めているのだ。大書庫に入る許可を持っていてもおかしくない。
「ミルは彼の経歴は知っているか?」
「まさか、王城で初めて会ったので……」
「そうか、俺も魔法省の局長だという事以外は詳しくは知らないんだ。これも兄上に聞いてみるしかないな」
「そうですね。でも、そんな時間があるでしょうか?」
実は、第一王子が王になるための戴冠式が2日後に迫っているのだ。王を殺した犯人を探すのは重要だが、それ以上に第一王子は忙しい。
「まあ、それなら、知っていそうな奴を探すか。どうにかなるだろう。戴冠式が終わってからでもいい。戴冠式の方が大切だ」
ミルはメモを書きつつ頷く。分からないことだらけだ、こんな事で犯人がわかるのか不安になる。ローグは流石に疲れた顔で言った。
「可能性を考え始めるとキリがないな……究極を言えば兄上だって候補になってしまう」
「だ、第一王子ですか?そんなこと……」
「動機という点を覗けば、物理的に兄上が王を殺すことは可能だ。誰かに命令したのかもしれないし。動機ももしかしたら俺が邪魔だったのかもしれない」
「そ、そんなこと……」
疲れて最悪の想像をしているローグにミルは泣きそうな表情になる。
「悪い、変な事を言ったな。もし、兄上が俺を邪魔だと思っているならとっくに他の方法で実行しているだろう」
いたずらっぽく、ローグが言った。
「ローグ様冗談でも止めてください。家族でそんな事を疑うなんて……」
「……そうだな」
ローグは微笑みながら答えた。しかし、その表情にはわずかに悲しみが漂っていた。
「そう言えば、ミルは大書庫で人間を動物にする方法が書かれた本は見つかったのか?」
ローグが話を変えるように言った。
大書庫に入ったのはそれがそもそも目的だった。結果を聞く前に、男が現れたので結局聞いていなかった。
「す、すいません。大書庫が広くてまだ何も……しかも、他の物に目移りしてしまって……申し訳ありません」
「いや、あんな事になるなんて分からなかったし、あんなに沢山資料があるんだ。見つからなくてもおかしくない」
ローグは慰めるように言った。実際、大書庫には大量の書物があり、いまだに、その分類がどうなっているのかを把握することも出来ていなかった。
大書庫は沢山貴重な資料はあるが、貴重過ぎて人が入れないようにしているせいで、司書もおらず、資料の管理はあまりされていないのだ。
「取り敢えず、この事は朝いちばんに兄上に伝えて、もう一度大書庫に行って資料を確認してみた方がいいだろう。それから、局長の事ももっと調べよう」
「そうですね。そうするしかなさそうですね」
局長が本当に何か関わっているのかは、確信が持てない。しかし、可能性は高そうだ。
何も出来なかったのが歯がゆいが、可能性を考えることは無駄にはならないはず。
食事が終わったころ、明日の事を話していたら時間が来てローグは猫に戻っていた。
明日のために二人は眠ることにした。ベッドは最高級のもので寝心地はよさそうだ。しかし、煌びやかすぎてミルは落ち着かなかった。
”ミル大丈夫か?眠れそうか?”
なんせあんな事があったのだ、心労も相当だろうと、ローグは心配そうに聞いた。
「う……流石にすぐに眠れる自信はないですけど……が、頑張ります」
外には兵士も見張っているし、ここの隠し通路は、事前に入れないように家具で塞いである。入ってこられてもすぐに分かる。
しかし、襲ってきた人物は誰も入れないはずの大書庫に入ってきたのだ。
こんな状況では、どんなに胆力がある人間でも動揺はする。
”大丈夫だ何かあっても俺が守る。俺はどんなケガをしても治るのだから、それを利用しない手もないだろう”
大書庫で襲われた後も普通なら死んでいるような怪我も、すぐに跡形もなく消えた。
更に、首輪にはいつでも人間に戻れるように、薬をセットしておいた。これなら襲われても人間に戻って応戦出来る。
「で、でもいくら死なないとはいっても、何度も怪我をするなんて辛すぎます」
ミルも怖かっただろうにローグの怪我を思い出したのか、泣きそうな顔で言った。ローグはそれを見て相変わらずミルは優しすぎるなと苦笑する。
”心配するな、本当に大丈夫だから。それより早く休んだ方がいい”
「うう、そ、そうですね。すいません、本当に私ご迷惑ばかり……」
結局自分は何も役に立っていない上に、迷惑を掛けていることに気が付いて落ち込む。
それでもこれ以上迷惑はかけられないとミルは、自分で作ったよく寝れるお香を焚く。
少し気持ちも落ち着いてきた。
灯りを消してベッドに入る。ローグはミルの枕の横で丸くなった。
”まだ不安なら、眠れるまで少し話すか?”
ローグが気を使うように言った。
「ありがとうございます……なんとか大丈夫そうです」
そうは言っているが、あきらかに無理をしているのは明白だった。
”なにか俺に出来ることがあったら言ってくれ。出来ることはあまりないが……”
ローグがそう言うと、ミルが「じゃあ……あ、いえ、何でもないです」ともごもご言った。
”何かあるのか?”
「えっと……怒らないでくださいね。ちょっと撫でさせてもらってもいいですか?」
”撫でる?そんな事でいいのか?”
「子供のころから、馬とか家畜とか小さな動物を撫でるのが好きで……嫌なことがあると、よく撫でて紛らわしてたんです」
ミルは恥ずかしそうに言った。そういえば、ローグが人間だと分かる前は、事あるごとに身体を撫でていた。
嵐が来た時も撫でていたなと、ローグは思い出した。
言った途端、恥ずかしくなったのか、ミルは顔を赤らめる。仮にもローグは王族だ。
「だ、だめですよね」
”いや、いいぞ”
「え?いいんですか?」
”ああ、それくらいかまわない”
ローグはそう言って、ミルが撫でやすい場所に移動する。
「そ、それじゃあ……」
ミルはおずおずと猫のローグを撫でる。
相変わらず黒猫の毛皮はツヤツヤで柔らかくて触り心地が良かった。暖かく柔らかいそれを撫でると、それだけでこわばっていた表情が少し柔らかくなってきた。
「ローグ様……本当に大丈夫ですか?」
ミルは不安そうに聞いた。王族をこんな風に撫でるなんて不敬以外のなにものでもない。
”大丈夫だよ、……嫌じゃないし……”
ローグは少し恥ずかしそうに言った。こんな状況にならなくてもいつでも撫でていいぞと言おうとしたが、なんだかいいにくくてそう言った。
ミルの手は優しくて相変わらず心地いい。そう思っていたら勝手に喉がゴロゴロ鳴り出した。
「ふふ……」
”こ、これは、別に深い意味はないから……”
「私、この音も好きです落ち着きます」
”そ、そうか……”
恥ずかしかったが、ミルが誤魔化すように言ってくれた。
襲われ、緊張していたのはローグも同じだったようだ。身体の力が抜けたような気がする。
「そう言えば、ローグ様はお城におられた時局長とは、面識はなかったのですか?」
ローグはあの城で王子だったのだ、局長は家臣にあたる、流石に関りがあったはずだ。ミルはふと思い出して言った。
”ううん……何度か話した事はあるがあまり印象には残っていないんだ。無能では無いが特別優秀でもないといった印象だった。ミルが凄いと褒めていたのは少し意外だったくらいだ”
「そうなんですね。でもローグ様あまり魔法の事はご存知ないって仰ってたから、無理もないと思います」
”俺が担当していたのは軍関係が多かったのも原因だな。まあ、もしなにかしら関わっていたとしても立場上あまり深くかかわる事はなかったと思うがな”
魔法省の局長とはいえ第二王子との地位の差は相当違う。何かあったとしても何人かの人間を挟むことになるので、喋った事があるなら、まだ関わりがある方だともいえる。
王城には本当に沢山の人が働いている。
「ということは局長は王城では、そんなに目立つ人物ではなかったということですかね?」
”おそらくな……ただ、俺も城での立場が微妙だったからな。城の中の事を全ては把握できてはいない”
「お城は広いですし、国を動かすお仕事されてたんですし当然ですよ。細かい事は下の物がするものですし」
”……それにしても、もし局長が何か関わっているとして、どうしてこんな事をしたんだろうか……”
フェイ局長が犯人だと決まった訳ではないが、怪しいのは確かだ。しかし、動機がわからない。
「私には想像も出来そうにないです」
最近初めて王城に入り、局長と初めて会ったミルにとっては推測することもできない。
”王家に何か恨みでもあるのか、地位の高い誰かが裏にいてそれで動いているのか……”
「でも、王様を殺しても得をする人はいないって仰っていたし……それも考えると動機が分かりませんね……」
”考え方を一度変えてみた方がいいかもしれない”
「どういう事ですか?」
”王が殺されたから王になにか恨みがあるとか、得になると思っていたが逆もありうるんじゃないかと……”
「逆?ですか」
”そう、俺に恨みや、いなくなることで得になる事があるって考えもあるんじゃないかと……”
「ローグ様に……」
”王を殺したのも俺を殺人の容疑者にするためで、王城に戻れないようにするためとか……”
「なるほど、そういう可能性もあり得るね。でも、そうだとしたら誰が何のために?」
”……俺に恨みがある人物、例えば王妃とか……”
「!!王妃様!?」
”昔から俺を目の敵にしてきたしてきたし、最初に俺がやったと言い出したのも王妃だ……まあ、それならなんで俺をわざわざ猫にしたのかは意味がわからないが……”
ローグは少し自信がなさそうに言った。
「それもそうですね……そうなると、結局分からなくなりますね……」
ミルも困ったように言った。結局振り出しにもどる。そう言えば以前も同じ結論になった気がする。
”いい線だと思ったんだがな……”
「でも、秘密の道が使われていることを考えると王族の方の可能性は高いですよね……」
”その線で考えると……王妃と兄上……それから弟のアルフか……”
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