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実は地域限定だったってこと、あるよね。
しおりを挟む「は~りつけ~っ」
「よ~ぉっよ~ぉっ」
だんだだだっだっ、だんだだだっだっ
だだだだだんだだだっ
『は~りつけ~、は~りつけ~、は~りつけ~て石投げよ~っ!』
えいっ
「あいたっ」
アップフェルが顔や上半身に石を投げられた苦痛で顔を歪める。
『とが~りとがった、とがりいし~っ』
ていっ
「いっつっ」
アップフェルが石をぽこぽこぶつけられまた顔を歪める。
歌詞はこんなだが、一応川の流れで角が丸まった小石を拾ってきて使っている。
これは本物の断罪ではなく教訓祭り。あと、子どもたちから老若男女まで参加する祭り。投げる方も怪我をしては困るから。
ドンドドドンッ
『おおきぃい~わ~なげちまえ~』
ドンドドドンッ
さながら盆踊りのように、磔にされたアップフェルな周りをカレイル、ヴィーノ、俺、シェルたんや祭りのために集まってくれた領民たちと周る。カレイルの奥さんや2人のご子息も参加してくれている。
そして踊りつつ、歌いつつ、石係と呼ばれる石をざるに入れてサークルの周りを巡るボランティアから石を受け取り、アップフェルに投げ付ける。
『は~りつけ~、は~りつけ~、いしなげろ~』
「な~げろっ」
「ドート・ンボーリーになげすってろっ!」
因みにドート・ンボーリーとはこの世界の、いやプレナイト公爵領が抱える雪山のことだ。悪いことをしたらドート・ンボーリーからスキーにくくりつけて投げ捨てる。それがプレナイト公爵領で大人たちが子どもたちに言い教えることである。
※危険ですので良い子は絶対に真似しないでください
えいやっ
そして俺は再び小石を投げつけた。
「いや、いったぁっ!何これ何の罰ゲームだっ!何で領主なのに磔にされにゃぁならんのだぁっ!
!」
アップフェルが叫ぶ。はぁ、仕方がないなぁ。んもぅ、王子さまだから知らないのかな?それともアップフェルだから知らないのか?
一旦お祭り実行委員会に合図を送り、曲を止めてもらう。
「いや、領主だからだろ」
「いや、だから何で領主になったらこんな目に遭うんだぁっ!!」
「領主になったら領民から必ず受ける洗礼だろうが。この国の伝統じゃん」
「そんな伝統知らんわぁっ!!」
「もぅ、これだから」
元王子さまは。
「え、でも昔ぼくが住んでた領地にはなかったですよ?」
と、ヴィーノ。ウーヴァは男爵家の出身だったが、ああいう性格なので成人と共に男爵家から追い出され、ヴィーノは平民として平民街で育ったのだっけ。
まぁその男爵家は男爵家で、ウーヴァが公爵夫人の座に収まったら金をせびってきたわけだが。でも今は返済を求められて財政が火の車になったそうだ。ま、男爵家が破滅するのは俺もヴィーノも踊り狂って喜ぶが、領民たちが苦しい思いをしないかだけが心配。
ちょっと話がそれたものの、ヴィーノの故郷ではなかったの?
「え、領主就任の時にやるやつだけど、就任後も毎年藁人形作ってやらない?」
尤も前領主レザンは頑なに領地を訪れることを拒否してきたので、ずっと藁人形をレザンに見立てて磔し、尖り石や岩を投げ付け、最後は火を付けて火炙りにしたものだけど。
「やったこと、ないですよ?」
きゅるんと首を傾げるヴィーノ。え、マジで?
「ユウェルさま、この祭りをやるのは、プレナイト公爵領だけですよ」
と、カレイル。そういやカレイルは別の貴族が治める領地出身だったっけ?
「むしろ、この祭りがあるからこそ、プレナイト公爵家に就職しました」
んまじでぇっ!?まさかの就職理由がこれ!?てか、この祭りってプレナイト公爵領限定いぃぃっ!?
タァサイ侯爵家のあはん合戦やルベライト公爵家のチ○ポ合戦文化も独特だなぁ、プレナイト公爵家にはそう言うのないなぁと思ってたけど、――――――あったぁーっ!!
磔祭り、磔音頭、プレナイト公爵領限定だったぁ――――――っ!!!
なお、カレイル曰くここまでの『磔音頭』はこのプレナイト公爵領の童謡だと言う。作詞作曲振付は初代磔祭り実行委員会会長だったらしい。
「ぼくも、気に入っちゃいました!こうして、領主さまへの鬱憤を晴らせるなんて!」
ヴィーノくん、何か目が輝いてるんだけど。鬱憤を晴らしている対象、一応夫だぞ。
いやアップフェルだからまぁいいか。
「フハハハハっ!そうですよねぇっ!おらぁっ、クソ領主めぇぇっ!!」
カレイル性格変わってねえぇぇっ!?うちに来るまで一体どんな悪徳領主に苛まれてたのっ!!
「くたばれクズ領主めっ!えいやっ!」
かわいく夫に石を投げ付けるヴィーノ。ヴィーノはヴィーノで幼い頃どんなクズ領主に苛まれてたのっ!?
そして投げ付けてる相手は……アップフェルだから別にいいか。むしろ、それがこの祭りの醍醐味。
「そうだ、カレイル。これがプレナイト公爵領限定なら、この祭りを領地の名物にしようよ。観光客呼べるじゃん」
普段領主に対して感じている鬱憤を晴らせる祭りなんて素晴らしいじゃんっ!果樹園ばかりが広がるプレナイト公爵領。たまにあるとすればワイン工場とフルーツ缶工場くらい。
今までの観光の目玉と言えばフルーツ狩りと缶工場ツアー、ワイン工場、飲み比べツアーくらい。その他はフルーツを加工してジュースやワインを作るくらいだ。
因みにワインはもともと領地にあったのだが、フルーツ狩りなどのツアーやジュース加工については俺の案。今ではすったり領地経営における大事な収入源となった。記憶を取り戻す前だと言うのに、俺、よく思い付いたっ!えらいっ!
それに加えて年に一度の大型イベントがあればっ!
「ほう、それはいい考えです!」
「さすがはユウェルさま!」
カレイルの奥さんも賛同してくれる。
「嫁に行かれても俺たちのことを考えてくれるなんて!」
「王弟殿下、うちのユウェルさまをよろしくお願いします!」
「ささ、王弟殿下もうちのプレナイト公爵領産ワインをどうぞ」
「ずるいぞ!うちのもだ!」
領民たちーーもう元領民たちだが、感謝されるのはやっぱり嬉しいなぁ。
そして俺の夫であるシェルたんはお酒が飲める上にプリン体で苦しむ義父上の前で平然とビールが飲めるくらい強いので、領民たちから差し出されたワインを楽しんでいた。
「いや、だから何故私は磔にされてるんだぁ~~っ!」
あ。アップフェルのこと、忘れてた。
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