雨上がりの朝に

むちむちボディ

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夜風と重なる吐息

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銭湯を出ると、夜風が頬を撫でた。
熱くなった体がひんやりと冷まされるのが心地よい。

 「ぷはぁ……やっぱり風呂上がりは最高だな」

寛は手拭いでごしごしと顔を拭きながら、大きく息を吐いた。

隣では健太郎がのんびりと腰に手を当て、空を仰いでいる。

 「今夜は月が綺麗だな」

 「……お前、たまに風情あること言うよな」

 「そりゃ、職人だしな。こういうのも大事よ」

健太郎はくっと笑うと、ぽんと寛の背中を叩いた。

 「おい、腹減ったな。いつものとこで飯でも食ってくか?」

 「あぁ……そうだな」

二人は自然と並んで歩き出す。

いつもの定食屋でいつものように飯を食い、ビールを飲み、くだらない話をする。

ただ、今夜はどこか意識してしまう自分がいた。

健太郎の手が、すぐそばにある。

肩が触れそうな距離にいる。

それだけで、やけに落ち着かない。

(考えすぎだ……いつも通りだろ)

自分に言い聞かせながら、寛はぐいっとビールを煽った。

けれど、喉を流れる冷たい液体とは裏腹に、腹の奥には熱がくすぶっている。


店を出ると、夜風が再び二人を包んだ。

 「ふぅ……飲んだな」

健太郎が満足そうに腹をさすりながら言う。

 「お前、ほんとよく食うよな」

 「お前も人のこと言えねぇだろ。さっきの唐揚げ、どっちが多く食った?」

 「ぐ……」

言い返せずに口をつぐむと、健太郎は楽しそうに笑った。

 「ははっ、お前ほんと可愛いな」

 「はぁ!? 誰が可愛いだと?」

 「お前だよ。そういうとこがな」

健太郎はさらりと言って、寛の肩に腕を回した。

重みのある腕がずしりとのしかかる。

 「お、おい……」

 「いいじゃねぇか。風呂上がりに軽く酔って、こうして歩くのも悪くねぇ」

健太郎の吐息が、耳の近くで感じられる。

胸がざわつく。

 「……お前、本当に俺と暮らす気、あんのか?」

つい口をついて出た言葉に、健太郎は少しだけ目を細めた。

 「あるさ」

迷いのない声。

それが妙に重く響いて、寛の胸の奥に落ちていく。

 「でもよ……」

 「……でも?」

 「俺、こういうの……慣れてねぇし」

 「知ってる」

 「それに、こんな歳になって、今さら……」

 「関係ねぇよ」

健太郎はふっと笑うと、腕の力を少し強めた。

 「俺は、お前と一緒にいたいって思っただけだ」

寛は何も言えず、ただ歩く。

健太郎の腕の重みを感じながら、胸の中で何かがじわりと広がっていくのを、ただ黙って受け止めていた——。
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