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重なる鼓動
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夜の道を並んで歩きながら、寛は健太郎の腕の重みを感じていた。
――こうして肩を組まれるのは、別に初めてじゃない。
仕事帰りに飲んだ後、千鳥足で支え合いながら帰ったことも何度もある。
それなのに、今夜は違った。
健太郎の体温がじわじわと肌を通して伝わってくる。
酒のせいか、風呂上がりのせいか、体の奥から熱がくすぶっている。
(なんなんだ……この感じは)
足元のアスファルトに目を落としながら、寛は無意識に唇を噛む。
そんな様子を察したのか、健太郎が口を開いた。
「寛、お前さ」
「……なんだよ」
「本当に、俺と暮らすの、嫌か?」
その問いに、寛の足が止まる。
「……」
健太郎も立ち止まり、寛の顔を覗き込んだ。
「嫌なら嫌って言えよ」
静かな声だった。
寛はごくりと喉を鳴らし、ゆっくりと健太郎を見上げた。
夜の街灯に照らされたその顔は、いつものように飄々とした笑みを浮かべているようで――
それでいて、どこか不安げにも見えた。
寛はふっと息を吐き、力なく笑う。
「……嫌じゃねぇよ」
「……」
「ただ、俺……こういうの、どうしていいかわかんねぇんだよ」
正直な気持ちだった。
ずっと一人で生きてきた。
誰かと深く関わることを避けてきた。
「……
「……ただ、俺……こういうの、どうしていいかわかんねぇんだよ」
寛の言葉に、健太郎はしばらく黙っていた。
その沈黙が妙に重く感じられて、寛は耐えられずに目をそらす。
だが、次の瞬間――。
「なんだ、そんなことか」
健太郎は急に吹き出し、ぽんと寛の背中を叩いた。
「いってぇな!」
「そんなに気張ることねぇよ、寛」
健太郎は笑っていたが、その目は優しかった。
「俺だって、お前と暮らしたらどうなるかなんて、正直わかんねぇさ」
「……お前でも?」
「当たり前だろ。だって、今まで誰かとこういう関係になったことねぇしな」
さらりと言ったその言葉に、寛は思わず息を呑んだ。
「……俺と同じってことか?」
「まぁ、そういうことだな」
健太郎は悪びれもせずに頷く。
「だからよ、別に特別なことしなくたっていいんだ。ゆっくりでいい。お前のペースでいいから、俺と一緒にいてくれりゃ、それで十分だ」
穏やかな声だった。
寛は不意に胸の奥が熱くなるのを感じた。
こんなふうに、誰かに寄り添われたことがあっただろうか。
ずっと一人で生きてきた自分にとって、「一緒にいてくれればいい」なんて言葉は、あまりにも優しすぎた。
「……」
言葉にならず、寛はただ頷いた。
それだけで、健太郎は満足そうに笑い、再び歩き出す。
今度は肩を組むのではなく、自然と並んで。
ぴったりと寄り添うほど近くもないが、離れるには惜しいくらいの距離。
その夜、寛は布団に入ってもなかなか眠れなかった。
(本当に、こいつと暮らすことになるのか……?)
そう考えると、妙に落ち着かなくなる。
今まで通り、銭湯で会って、飯を食って、飲んで、くだらない話をするだけなら、こんな気持ちにはならなかったはずなのに。
健太郎の大きな手の感触。
隣に並んだときのぬくもり。
そして――
「お前のペースでいいから、一緒にいてくれりゃ、それで十分だ」
と言った、あの優しい声。
そのすべてが、寛の頭の中でぐるぐると渦巻く。
(……バカみてぇだな)
苦笑しながら、寛は寝返りを打つ。
だが、熱を帯びた胸のざわめきは、なかなか消えてくれなかった。
――こうして肩を組まれるのは、別に初めてじゃない。
仕事帰りに飲んだ後、千鳥足で支え合いながら帰ったことも何度もある。
それなのに、今夜は違った。
健太郎の体温がじわじわと肌を通して伝わってくる。
酒のせいか、風呂上がりのせいか、体の奥から熱がくすぶっている。
(なんなんだ……この感じは)
足元のアスファルトに目を落としながら、寛は無意識に唇を噛む。
そんな様子を察したのか、健太郎が口を開いた。
「寛、お前さ」
「……なんだよ」
「本当に、俺と暮らすの、嫌か?」
その問いに、寛の足が止まる。
「……」
健太郎も立ち止まり、寛の顔を覗き込んだ。
「嫌なら嫌って言えよ」
静かな声だった。
寛はごくりと喉を鳴らし、ゆっくりと健太郎を見上げた。
夜の街灯に照らされたその顔は、いつものように飄々とした笑みを浮かべているようで――
それでいて、どこか不安げにも見えた。
寛はふっと息を吐き、力なく笑う。
「……嫌じゃねぇよ」
「……」
「ただ、俺……こういうの、どうしていいかわかんねぇんだよ」
正直な気持ちだった。
ずっと一人で生きてきた。
誰かと深く関わることを避けてきた。
「……
「……ただ、俺……こういうの、どうしていいかわかんねぇんだよ」
寛の言葉に、健太郎はしばらく黙っていた。
その沈黙が妙に重く感じられて、寛は耐えられずに目をそらす。
だが、次の瞬間――。
「なんだ、そんなことか」
健太郎は急に吹き出し、ぽんと寛の背中を叩いた。
「いってぇな!」
「そんなに気張ることねぇよ、寛」
健太郎は笑っていたが、その目は優しかった。
「俺だって、お前と暮らしたらどうなるかなんて、正直わかんねぇさ」
「……お前でも?」
「当たり前だろ。だって、今まで誰かとこういう関係になったことねぇしな」
さらりと言ったその言葉に、寛は思わず息を呑んだ。
「……俺と同じってことか?」
「まぁ、そういうことだな」
健太郎は悪びれもせずに頷く。
「だからよ、別に特別なことしなくたっていいんだ。ゆっくりでいい。お前のペースでいいから、俺と一緒にいてくれりゃ、それで十分だ」
穏やかな声だった。
寛は不意に胸の奥が熱くなるのを感じた。
こんなふうに、誰かに寄り添われたことがあっただろうか。
ずっと一人で生きてきた自分にとって、「一緒にいてくれればいい」なんて言葉は、あまりにも優しすぎた。
「……」
言葉にならず、寛はただ頷いた。
それだけで、健太郎は満足そうに笑い、再び歩き出す。
今度は肩を組むのではなく、自然と並んで。
ぴったりと寄り添うほど近くもないが、離れるには惜しいくらいの距離。
その夜、寛は布団に入ってもなかなか眠れなかった。
(本当に、こいつと暮らすことになるのか……?)
そう考えると、妙に落ち着かなくなる。
今まで通り、銭湯で会って、飯を食って、飲んで、くだらない話をするだけなら、こんな気持ちにはならなかったはずなのに。
健太郎の大きな手の感触。
隣に並んだときのぬくもり。
そして――
「お前のペースでいいから、一緒にいてくれりゃ、それで十分だ」
と言った、あの優しい声。
そのすべてが、寛の頭の中でぐるぐると渦巻く。
(……バカみてぇだな)
苦笑しながら、寛は寝返りを打つ。
だが、熱を帯びた胸のざわめきは、なかなか消えてくれなかった。
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