7 / 16
交わるぬくもり
しおりを挟む
翌日も、寛はいつものように銭湯へ向かった。
だが、湯に浸かっても、どうにも落ち着かない。
(……あいつ、今日は来るのか?)
そう思いながら、湯気の向こうをぼんやりと眺める。
そんな自分に気づき、思わず舌打ちした。
(まるで、ガキじゃねぇか)
これまで、誰かのことをこんなふうに待ったことなどなかった。
なのに、昨夜から健太郎の言葉がずっと頭の中に残っている。
「お前のペースでいいから、一緒にいてくれりゃ、それで十分だ」
あの穏やかな声が、耳にこびりついて離れない。
(……くそ、酒でも飲んで忘れるか)
そう思った瞬間――。
「おう、寛」
聞き慣れた低い声が響いた。
驚いて顔を上げると、健太郎が湯船の端からこちらを見ていた。
大きな体を湯に沈め、腕を縁にかけ、いつものように余裕の笑みを浮かべている。
「……来てたのか」
「そりゃな。俺にとっちゃ、ここは日課だからよ」
寛はわざとそっけなく返しながら、隣へと腰を沈めた。
湯の熱が体に絡みつくが、それ以上に健太郎の存在が気になって仕方ない。
ちらりと横目で見ると、健太郎はいつものように寛を見つめていた。
まるで、すべてお見通しだと言わんばかりの顔で。
「……な、なんだよ」
「いや、お前、昨日よりちょっと顔が赤いなと思ってよ」
「はぁ!? 風呂に入ってりゃ誰だって赤くなるだろ!」
「そうかぁ?」
くっと笑いながら、健太郎はゆっくりと湯に沈んだ。
肩まで湯に浸かると、わずかに上を向き、気持ちよさそうに目を細める。
その喉元が、どこか色っぽかった。
(……色っぽい? バカか俺は)
寛は慌てて目をそらし、無言で湯の中に指を沈める。
健太郎の肩が、かすかに触れる。
湯の熱と混ざって、じんわりとした温もりが肌に染み込んでくる。
――このまま、流されちまうんじゃねぇか。
そんな予感が、どこか心地よかった。
銭湯を出た後、二人は自然と並んで歩き出した。
「お前んち、今日も一人か?」
健太郎がふいに尋ねる。
「ああ……いつも通り、な」
「そっか」
健太郎は少しだけ考えるような仕草をしたあと、ポケットから鍵を取り出して見せた。
「……なら、今日はうちに来いよ」
「は?」
「まぁ、メシくらい作るぜ。お前、どうせインスタントばっか食ってんだろ?」
「……うるせぇ」
寛は顔をしかめたが、内心では動揺していた。
――健太郎の家に、行く?
それはつまり、そういうことなのか?
否応なしに意識してしまう。
だが、そんな寛の気持ちを知ってか知らずか、健太郎は何でもないことのように言った。
「飯食って、酒でも飲んで、寝ちまえばいいさ。気楽に来いよ」
その言葉に、寛は少しだけ息を吐いた。
(……あいつの言う通り、考えすぎかもしれねぇな)
「……じゃあ、行くか」
そう答えると、健太郎は満足そうに微笑んだ。
そして、二人は夜の街を並んで歩き始めた。
この先にある、見たことのない景色へと――。
だが、湯に浸かっても、どうにも落ち着かない。
(……あいつ、今日は来るのか?)
そう思いながら、湯気の向こうをぼんやりと眺める。
そんな自分に気づき、思わず舌打ちした。
(まるで、ガキじゃねぇか)
これまで、誰かのことをこんなふうに待ったことなどなかった。
なのに、昨夜から健太郎の言葉がずっと頭の中に残っている。
「お前のペースでいいから、一緒にいてくれりゃ、それで十分だ」
あの穏やかな声が、耳にこびりついて離れない。
(……くそ、酒でも飲んで忘れるか)
そう思った瞬間――。
「おう、寛」
聞き慣れた低い声が響いた。
驚いて顔を上げると、健太郎が湯船の端からこちらを見ていた。
大きな体を湯に沈め、腕を縁にかけ、いつものように余裕の笑みを浮かべている。
「……来てたのか」
「そりゃな。俺にとっちゃ、ここは日課だからよ」
寛はわざとそっけなく返しながら、隣へと腰を沈めた。
湯の熱が体に絡みつくが、それ以上に健太郎の存在が気になって仕方ない。
ちらりと横目で見ると、健太郎はいつものように寛を見つめていた。
まるで、すべてお見通しだと言わんばかりの顔で。
「……な、なんだよ」
「いや、お前、昨日よりちょっと顔が赤いなと思ってよ」
「はぁ!? 風呂に入ってりゃ誰だって赤くなるだろ!」
「そうかぁ?」
くっと笑いながら、健太郎はゆっくりと湯に沈んだ。
肩まで湯に浸かると、わずかに上を向き、気持ちよさそうに目を細める。
その喉元が、どこか色っぽかった。
(……色っぽい? バカか俺は)
寛は慌てて目をそらし、無言で湯の中に指を沈める。
健太郎の肩が、かすかに触れる。
湯の熱と混ざって、じんわりとした温もりが肌に染み込んでくる。
――このまま、流されちまうんじゃねぇか。
そんな予感が、どこか心地よかった。
銭湯を出た後、二人は自然と並んで歩き出した。
「お前んち、今日も一人か?」
健太郎がふいに尋ねる。
「ああ……いつも通り、な」
「そっか」
健太郎は少しだけ考えるような仕草をしたあと、ポケットから鍵を取り出して見せた。
「……なら、今日はうちに来いよ」
「は?」
「まぁ、メシくらい作るぜ。お前、どうせインスタントばっか食ってんだろ?」
「……うるせぇ」
寛は顔をしかめたが、内心では動揺していた。
――健太郎の家に、行く?
それはつまり、そういうことなのか?
否応なしに意識してしまう。
だが、そんな寛の気持ちを知ってか知らずか、健太郎は何でもないことのように言った。
「飯食って、酒でも飲んで、寝ちまえばいいさ。気楽に来いよ」
その言葉に、寛は少しだけ息を吐いた。
(……あいつの言う通り、考えすぎかもしれねぇな)
「……じゃあ、行くか」
そう答えると、健太郎は満足そうに微笑んだ。
そして、二人は夜の街を並んで歩き始めた。
この先にある、見たことのない景色へと――。
1
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる