雨上がりの朝に

むちむちボディ

文字の大きさ
8 / 16

健太郎の家で

しおりを挟む
 「お前、適当に座ってろよ」

健太郎の家に上がると、そう言われたものの、寛はどうにも落ち着かない。

座布団に腰を下ろしながら、ちらりと部屋の中を見渡す。

銭湯で一緒にいる時間は長いが、こうしてプライベートな空間に二人きりでいるのは初めてだった。

テーブルにはすでにビールとつまみが並んでいる。
枝豆、冷奴、焼き鳥の缶詰が開けられ、気楽な酒の席らしい雰囲気が漂っていた。

 「ほら、飲めよ」

健太郎がプシュッと缶ビールを開けて寛に差し出す。

 「……ああ」

寛は缶を受け取ると、一口飲んだ。

冷たい液体が喉を滑り落ちる。

不思議と酒の味が違って感じた。

 「お前、なんだ緊張してんのか?」

健太郎がニヤリと笑いながら、寛の顔を覗き込む。

 「べ、別に」

 「嘘つけ。耳、真っ赤だぞ」

そう言われて、寛は無意識に耳を押さえた。

 「くそっ……」

 「ははっ、素直じゃねぇな」

健太郎は笑いながらビールをあおる。

寛はそんな健太郎の様子を横目で見ながら、少しずつ肩の力を抜いていった。

いつもと同じはずなのに、妙にドキドキしてしまう。

自分でも理由がわからなかった。

 「ほら、これもうまいぞ」

健太郎が串カツを手に取り、寛の口元に持ってくる。

 「えっ……」

 「ほら、食えって」

 「いや、自分で食えるし……」

 「遠慮すんなって」

健太郎は悪びれもせず、ぐいっと寛の口元に串カツを近づけた。

仕方なく、寛はそれをぱくりと口にする。

衣がサクサクで、ソースの味が口の中に広がる。

 「……うまいな」

 「だろ?」

健太郎が満足げに笑う。

そんな些細なやり取りすら、どこか特別なもののように感じられる。

酒が進むにつれ、寛の警戒心も徐々に解けていった。

 「なぁ、寛」

 「ん?」

 「お前ってさ、誰かと付き合ったことあんの?」

不意にそんなことを聞かれ、寛は思わずビールを吹きそうになった。

 「な、なんだよ急に……」

 「別に、ただの雑談だろ」

健太郎は悪気なく笑っているが、寛は妙に落ち着かない気分になった。

 「まぁ……昔、ちょっとだけな」

 「ふーん」

健太郎がビールを飲みながら、寛をじっと見つめる。

 「なんだよ、その目」

 「別に。ただ、寛がどんな奴と付き合ってたのか気になってな」

 「そんなん、大した話じゃねぇよ」

寛はそっけなく言いながらも、心臓の鼓動が速くなっているのを感じた。

健太郎は、ゆっくりと手を伸ばすと――
寛の指先に、軽く触れた。

 「……っ」

 「なぁ、寛」

健太郎の声が低く、静かに響く。

 「お前、俺に触られるの……嫌じゃねぇんだろ?」

熱を帯びた指先が、寛の手の甲をなぞる。

微かにくすぐったい感触が、肌を通じて伝わってくる。

 「な、何言ってんだよ……」

寛は慌てて手を引こうとしたが、健太郎の手がそれを逃さずに握った。

 「……顔、赤ぇぞ」

 「酒のせいだ!」

寛は必死に言い訳をするが、健太郎の目はどこか愉しげだった。

 「そうか?」

健太郎が、じわりと距離を詰めてくる。

 「お、おい、近いって……」

 「別にいいだろ。俺ら、男同士だしよ」

その言葉に、寛の喉がひくりと動いた。

(――男同士だから、何だってんだ)

 「寛」

健太郎の手が、そっと寛の頬に添えられる。

親指が、ゆっくりと唇の端をなぞる。

 「っ……」

 「お前さ……ほんと可愛いよな」

耳元で囁かれた言葉に、寛の全身が熱くなる。

 「もう、やめろって……」

 「やめねぇよ」

健太郎は、ゆっくりと顔を近づけ――

次の瞬間、寛の唇を奪った。

熱い、湿った感触。

ゆっくりと、深く、溶けるようなキス。

抵抗しようとする気持ちは、すぐに霧散した。

健太郎の舌が、そっと寛の唇を割って入り込む。

(……ダメだ)

なのに、身体は正直だった。

寛は、ゆっくりと目を閉じる。

そして――

二人の距離は、もう後戻りできないほどに近づいていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...