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普通のこと
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倉庫の床に、汗のあとが残っていた。
ぬめり、匂い、精液の乾いた跡。
それらすべてが、ふたりの男の肉の重なりを物語っていた。
「なあ?」
着替えながら、昭吾がぽつりと言った。
「漁で使ってた小屋、ひとつ空いてんだ。海っぺりで古いけど……よかったら、お前、来ねえか?」
秀昭はシャツの袖を止めた手を、静かに下ろした。
心臓の鼓動がひとつ、遅れて聞こえた気がした。
「……住めってことか?」
「通ってくるだけでもいい。飯食ったり、風呂入ったり、釣った魚をさばいたり……そういう、普通のこと……」
“普通のこと”。
それが、どれほど遠ざかっていたか。
男同士であるというだけで、愛も生活も、どこか切り離して考えていた。
性欲は満たされても、一緒にメシを食う“顔”の記憶は、なぜかない。
「……行ってみるか……」
そう答えた声は、自分でも驚くほど穏やかだった。
その週末、小屋に足を踏み入れた。
海のすぐそば。古びた木の床。灯油ストーブ。
干した網と釣り道具の並ぶ部屋には、かすかに干物の匂いが染み込んでいた。
だが、それすら心地よく感じた。
昭吾が持ってきた鍋とコンロで、
釣ってきたアジの干物を炙る。
「うめえな、これ。」
「みりんと塩だけだ。」
「腹にしみるわ。」
不思議だった。
ただの干物が、ここでは“誰かと一緒に食う味”になっていた。
「……こういうの、初めてかもな……」
秀昭が言うと、昭吾が箸を止めた。
「なにが?」
「腹が減って、誰かとメシ食って、うまいって言うのが……全部、揃ってんの……」
昭吾は何も言わず、
残った飯を茶碗によそって、味噌汁を注いだ。
ワカメと豆腐。だしは煮干し。
昭吾が作ったそれは、濃くもなく、薄くもない絶妙な味だった。
(ああ、俺……この味、毎日飲みたい)
心の中に、ぽつりとそう思った瞬間、
すべてが決まった気がした。
風呂は簡易のシャワーだけだった。
ふたりで交互に浴びているうち、
当然のように、そのまま濡れた体が重なった。
「背中……流してくれや……」
昭吾の声が、濡れた空気に混ざって響く。
秀昭は無言で、スポンジに石けんをつけて、
昭吾の分厚い背中を撫でた。
肩甲骨の盛り上がり、背脂の溜まり、尻へ続く溝のぬるりとした感触――
それらすべてが、たまらなく愛おしい。
「お返しに……俺のも、頼むわ……」
そう言ってタオルを渡すと、昭吾の手が背中を這った。
太った男の背を、太った男の手が撫でる。
どちらも年季の入った脂と、どこか湿った空気を纏っていた。
「風呂場で……やんのか?」
「やりてぇんだろ?」
「ん……ああ、もう、たまんねぇ……っ」
尻を撫でられ、唾液を垂らされ、指が入ってきたとき――
秀昭の喉から、低い声が漏れた。
「指じゃ……足りねえよ……入れてくれ、しょうご……っ」
昭吾は背後から、ぬるぬるのまま腰を密着させた。
重たい腹が尻にのしかかり、太いモノがぐっ、と肉を割って押し込まれる。
「ああっ、う……っ、うああ……っ」
風呂場の壁に手をつき、秀昭は全身を晒した。
太った背中が波打ち、乳首がこすれ、尻が肉で押し広げられていく。
「……こん中、あったけぇ……」
「しょうご、腹……ああ、来る、突き上げ、ああっ……!」
ぐちゅ、ぐちゅ、ぬるん、ぬちゅっ
とろけた石けんと、肉の擦れ合う音が混ざり合う。
昭吾は荒く鼻を鳴らしながら、
ゆっくりと、しかし深く腰を打ちつけた。
「もうイきてぇか?」
「やべぇ、止まんねえ、出る、出ちゃう……っ、あああッ!」
ビュッ、ビュッ、と精が壁に飛び、床に垂れた。
その間も、昭吾の腰は止まらず、尻奥でどくどくと熱が放たれた。
湯気の中、ふたりはしばらく動けなかった。
体も、心も、熱で蕩けきっていた。
「なあ、秀昭。」
「ん……?」
「お前の味噌汁も、飲んでみてえな……」
「……それ、プロポーズか?」
「そうかもな……」
ふたりは笑った。
中年太りで、汗っかきで、体毛も濃くて、
どこも“綺麗”とは言えないふたりが、
ただそばにいたくて、味噌汁を交わす生活を始めようとしていた。
ぬめり、匂い、精液の乾いた跡。
それらすべてが、ふたりの男の肉の重なりを物語っていた。
「なあ?」
着替えながら、昭吾がぽつりと言った。
「漁で使ってた小屋、ひとつ空いてんだ。海っぺりで古いけど……よかったら、お前、来ねえか?」
秀昭はシャツの袖を止めた手を、静かに下ろした。
心臓の鼓動がひとつ、遅れて聞こえた気がした。
「……住めってことか?」
「通ってくるだけでもいい。飯食ったり、風呂入ったり、釣った魚をさばいたり……そういう、普通のこと……」
“普通のこと”。
それが、どれほど遠ざかっていたか。
男同士であるというだけで、愛も生活も、どこか切り離して考えていた。
性欲は満たされても、一緒にメシを食う“顔”の記憶は、なぜかない。
「……行ってみるか……」
そう答えた声は、自分でも驚くほど穏やかだった。
その週末、小屋に足を踏み入れた。
海のすぐそば。古びた木の床。灯油ストーブ。
干した網と釣り道具の並ぶ部屋には、かすかに干物の匂いが染み込んでいた。
だが、それすら心地よく感じた。
昭吾が持ってきた鍋とコンロで、
釣ってきたアジの干物を炙る。
「うめえな、これ。」
「みりんと塩だけだ。」
「腹にしみるわ。」
不思議だった。
ただの干物が、ここでは“誰かと一緒に食う味”になっていた。
「……こういうの、初めてかもな……」
秀昭が言うと、昭吾が箸を止めた。
「なにが?」
「腹が減って、誰かとメシ食って、うまいって言うのが……全部、揃ってんの……」
昭吾は何も言わず、
残った飯を茶碗によそって、味噌汁を注いだ。
ワカメと豆腐。だしは煮干し。
昭吾が作ったそれは、濃くもなく、薄くもない絶妙な味だった。
(ああ、俺……この味、毎日飲みたい)
心の中に、ぽつりとそう思った瞬間、
すべてが決まった気がした。
風呂は簡易のシャワーだけだった。
ふたりで交互に浴びているうち、
当然のように、そのまま濡れた体が重なった。
「背中……流してくれや……」
昭吾の声が、濡れた空気に混ざって響く。
秀昭は無言で、スポンジに石けんをつけて、
昭吾の分厚い背中を撫でた。
肩甲骨の盛り上がり、背脂の溜まり、尻へ続く溝のぬるりとした感触――
それらすべてが、たまらなく愛おしい。
「お返しに……俺のも、頼むわ……」
そう言ってタオルを渡すと、昭吾の手が背中を這った。
太った男の背を、太った男の手が撫でる。
どちらも年季の入った脂と、どこか湿った空気を纏っていた。
「風呂場で……やんのか?」
「やりてぇんだろ?」
「ん……ああ、もう、たまんねぇ……っ」
尻を撫でられ、唾液を垂らされ、指が入ってきたとき――
秀昭の喉から、低い声が漏れた。
「指じゃ……足りねえよ……入れてくれ、しょうご……っ」
昭吾は背後から、ぬるぬるのまま腰を密着させた。
重たい腹が尻にのしかかり、太いモノがぐっ、と肉を割って押し込まれる。
「ああっ、う……っ、うああ……っ」
風呂場の壁に手をつき、秀昭は全身を晒した。
太った背中が波打ち、乳首がこすれ、尻が肉で押し広げられていく。
「……こん中、あったけぇ……」
「しょうご、腹……ああ、来る、突き上げ、ああっ……!」
ぐちゅ、ぐちゅ、ぬるん、ぬちゅっ
とろけた石けんと、肉の擦れ合う音が混ざり合う。
昭吾は荒く鼻を鳴らしながら、
ゆっくりと、しかし深く腰を打ちつけた。
「もうイきてぇか?」
「やべぇ、止まんねえ、出る、出ちゃう……っ、あああッ!」
ビュッ、ビュッ、と精が壁に飛び、床に垂れた。
その間も、昭吾の腰は止まらず、尻奥でどくどくと熱が放たれた。
湯気の中、ふたりはしばらく動けなかった。
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「ん……?」
「お前の味噌汁も、飲んでみてえな……」
「……それ、プロポーズか?」
「そうかもな……」
ふたりは笑った。
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ただそばにいたくて、味噌汁を交わす生活を始めようとしていた。
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