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06:殿下視点

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ブランシュがバルコニーから落ちて全身を打ち付けて昏睡状態に陥った、と陛下(父上)から聞いたのは、日も落ちた頃だった。

落ちた、と言うのは事故のせいにした見せかけで、王家との婚約破棄の為に自分から身を投げたのだろう。

確信はある。
登城する前にも、心底嫌がっていたらしい。
彼女なそんな状況に陥ったにも関わらず、冷静でいたのは私が非情な人間か、私の気持ちも彼女から離れて行ってしまっていたからなのか···。
とてつもなく最低なのは、確かだ。

月の光が白の中を照らす頃、私はブランシュの部屋に入った。一命は取り留めた物の、今では魔法の力で体を動かせないよう固定している。

全身打撲、複雑骨折に、頭を強く打ち付けて置いて、一命を取り留めるとは、恐ろしい強運の持ち主だ。

ベッドに横たわるブランシュの寝顔は、17歳の歳の割には幼く見える。

頬に触れれば柔らかく温かい。

(生きているんだな···)

幼少期に決められた政略結婚。
子供の頃は、一緒にいるだけで楽しかったのに、いつしか、ブランシュには一線を引かれていた。

それは、ブランシュの実家である公爵家の中でも同じだったと言う。

彼女がどうして身を投げたのか分からぬまま。

ブランシュが再び目を覚ます刻が訪れるのならば、例え拒否をされたとしても、きちんと話をしよう。

そう思った矢先。

ブランシュが目を覚ました。

ブランシュの侍女であるミーアは、ブランシュが倒れて以来、ずっと献身的に身を尽くして来た。
そんな彼女が泣きなが執務室に訪れ、「ブランシュ様が、目を覚ましました。殿下、どうかよろしくお願い致します」と、頭を下げたのだ。

駆け付けて見れば、真っ先に睨みつけられると思っていたのだが、ブランシュの心はここに在らずの様な、表情すらも他人かと言うような柔らかな物になっていた。

(···もしかして、記憶が)

取り乱してしまいそうな胸の内に気を取り直し、ブランシュの横たわるベッドの横へと立てば、オレンジ色のを丸くしてから、落ち着いた声色で私に言葉をかけてきた。

「殿下···」

気がつけば、無意識にブランシュの頬へと手を伸ばしていた。

が、次の瞬間には肩をビクつかせて拒否を示したのだ。やはり、と何処か分かっていたのに。

「すまない。驚かせたね」

スっと手を引き謝罪した。

「ぁ、その···ごめんなさい。少し、驚いてしまって」

困った様に微笑で謝罪をする彼女は、本当にブランシュなのだろうか。ミーアは?彼女の兄上は···侍医は···?

違和感を感じているのは、私だけなのだろうか。

だが、しかし···目が覚めてからのブランシュは表情をコロコロ変え、そんな表情もするのかと。

興味が湧いて、あれやこれやと手を出して見たくなったのは、彼女には胸の内に。

それから、「私は井上 ともえ」だとか、ここよりも遥かに科学が発展した世界に住んでいた事を伝えられ、拍子を抜かされたのは記憶にも新しい。

離縁を、と申し込まれたけれど、今まで見た事の無いブランシュが魅せる表情に惹かれて、手放したく無くなってしまった。

···どうやら、私は···。



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補足:メイドのミーアは、実はブランシュに公爵家の頃から使えている侍女です。
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