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06. 花嫁の証:ユカ視点

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酷く良く眠れた気がした。
この頃は残業続きでよく眠れない日が続いていて身体が怠さを覚えていたけれど、身体が軽い。それに、頭もスッキリと冴えている。

「···、んー···、ん?」

ググッと伸びをして起き上がると、視界の隅に黒い壁がサラりと流れるように出来た。不思議に思いつつ無意識に触れた物は髪だったらしい···。

あれ?私の髪、こんなに長かったっけ?
一度疑問に思うと、次から次へと疑問が浮かんで来る。おかしい。まずここは何処?まるでロマンス小説に出てくる様なお城の一室を思わせる部屋の造りと豪華な家具達。今まで眠っていた寝台だってクイーンサイズで天蓋付きだ。有給を取って海外に来た覚えもなければ、飛行機に乗った覚えも無い。

そしてー···。
先程から気になっていた、鏡に映るのは···私、だよね?

長い絹糸の様に艶やかな長い黒髪。
腰から下はベッドに波打ち広がり、肌は雪の様に白く透明感に溢れ、私の目の色はコバルトブルーに変わっていた。

「嘘···でしょ」

私がぺたぺたと頬を触れば、鏡に映る私も同じ動きをする。驚愕に満ちた声だけは私の声その物だった。本当に意味がわからない。まさかのトリップ?いやいやそんな非現実的な事、夢小説じゃあるまいし···ね?

「何だ、え起きていたのか。ほぅ···だいぶ容姿が変わったな···」

「えっ、えと···、どちら様ですか···?」

私が頭を抱えて「う~、う~」唸っている最中に、イケメンが現れていた。

「覚えていないのか?」

綺麗なガーネット色の瞳と視線が合った。
印象は冷たさそうな、人を寄せ付けない雰囲気を持っているなぁ···と、呑気に考えていたけれど···。

「あの···何を···、···!!?」

「なら、思い出せ」

寝台の縁に腰をかけたと思いきや、私の顎に手を当て上を向かされたと感じた瞬間には唇が触れていた。何をするんだと抵抗しようと胸板を押して距離を取ろうとするけれど、腰に腕を回されて閉じ込められてしまった。

繰り返されるキスに、私の頭の中にイケメンとの熱情のあれこれが次々と流れ込んで来た、いや、思い出した。私、異世界に召喚されてこの人の花嫁になったんだと。

「んぅっ、え、エアデール···!!」

思い出したから離せと言わんばかりに無理やり唇を剥がして彼の名を呼んだ。

「思い出したか」

「···うん」

「まぁ寝惚けるのも無理は無い。ユカ、お前は約3日程眠っていたのだから」

「み、3日間!?何で、そんなに···」

「原因は俺にある。この間初めてお前を抱いた時に、どうやら精液と共に俺の魔力も大量に注ぎ込んでしまったらしくてな、ユカの身体と混じるまで···融合するまでユカは眠り続けたんだ。容姿が些か変わったのは、俺が受け渡した魔力による物だ。副作用な物だと思っていい」

私は聞いていて、恥ずかしくなって俯いた。
もうちょっとデリケートな言い回しは出来ない物かと、せめてオブラートに包んだ言い回しをして欲しかった。

「···わかった。え、でもそれじゃあ、これからも抱かれる度に私の身体が変化すると言う事?それに、えーと···エアデールはどうしてここに?」

「花嫁の様子を見にな。今の質問に関してだが、今後は抱かれても容姿が変わる事は無い。風邪をひいた時に、人間は菌に対する抗体が出来るだろう?それがユカのに出来て俺の魔力に対する抗体が出来たのだと考えればいいと言えば、何となく伝わるか?それにユカが目覚めたと言う事は、花嫁の証である痣がどこかに現れてい可能性がある。次いでに確認しようと思ってな」

「···なるほど。でも、痣はどこに出るとかは、決まっていないの?」

「あぁ、だから身体を隈無く見せて貰うと思ったが···見つけた。左足太ももの内側」

「···へ?」

先程キスをされて抵抗した際に乱れたのであろう、ネグリジェは捲り上がりピンク色の不思議な紋様が浮かんでいた。

脱がなくて済んだと胸を撫で下ろしたのだが、これはこれで微妙な心情である。


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