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和服のお姉さん
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7月8日昼過ぎ
今、僕の前に和装の超絶美人が立っている。
白い肌が鮮やかな朱色の着物に映えて、ゾクッとするくらい色気っぽい。年は、二十代後半くらいかな。
「・・・こんにちは。僕、この家の留守番です」
庭先で、柿の木に供えるチョコを持ったまま立ちつくす僕に、お姉さんは艶やかな唇を開き、鈴の音のような声で「この家の方はお留守でございますか」と言った。
「お伺いしたいことがございます」
「は、はい。なんですか?」
何これ、逆ナン?家族の不在時に?
ドキドキしながら白い首筋をチラチラ見ていると、彼女は微笑んでこう訊いてきた。
「昭夫様は何処かへ行かれたのでしょうか?ここ半月ほど、お見かけいたしませんが」
祖父ちゃん?
彼女、誰?近所の人は祖父ちゃんが留守って知ってるけど。
「失礼ですが、祖父ちゃんのお知り合いですか?」
長い睫毛を伏せて頷く彼女の頬がふわっと染まった。
「はい。私、昭夫様をお慕いしている者でございます」
「お、お慕い??」
今、サラッと爆弾発言した?祖父ちゃんをお慕いしてるって、好きってこと?まさか祖父ちゃん浮気相手?
「え?あの・・・え?」
僕の頭の中はハテナでいっぱいになった。お姉さんはさらに紅潮した顔を恥ずかしそうに伏せた。
「ご安心くださいませ。私の片恋でございます」
安心しろって言われても、片想いならオッケーってなくない?祖母ちゃん知ってるのかな。
「昭夫様は・・・」
彼女は遠慮がちに僕の顔を見つめている。うわ、そういう健気な態度はズルい。ワケありかもしれないけど、美人のそんな仕草には逆らえないじゃん。
「祖父ちゃんは、先月末から怪我をして入院してます」
「お怪我を!」
今まで真っ赤だった頬がスッと青くなった。
「想い人の大事とは知らず、私としたことが情けない。在宅で養生できないほどの負傷では、たいそう苦しんでいらっしゃることでしょう」
「えっと、左足複雑骨折と全身打撲だけど元気ですよ。お名前教えてもらえれば、あなたが心配していたと伝えますど・・・祖母ちゃんに内緒で」
「そんな、遠慮いたします」
お姉さんは袖で顔を隠した。
「昭夫様は、幼い頃から私の事など気にもとめてくださりません。お側にいらっしゃっても素っ気なく、私もただ静かに見守り、こうして菓子をいただくだけで十分でございます」
「そうですか」
こんなキレイな女性にここまで好かれて何とも思ってなかったって、かなり鈍感じゃない?子供の頃からの仲って、なんて一途な想いだろう・・・
ん?今、なんか妙なこと言ってない?
「あの、祖父ちゃんの幼い頃からの知り合いって言いました?それと、お菓子って・・・」
「はい」
お姉さんはにっこりと笑った。
「私、そこの柿の木でございます」
「!?」
庭の向こうに見える苔に覆われた柿の老木と、和服美人とを交互に見つめた。
この田舎でいろいろな人外のモノと出会ったけど、これは意外すぎじゃない?母屋より二倍も背の高い老木の精霊が、こんな色っぽいお姉さんって!?
「貴方、昭夫様のお孫様でしょう?面影がございます」
「あ、たまに言われるけど、ピンとこないです。父さんには似てますが、その父さんは母親似だと思うし・・・」
「いいえ、昭夫様に似ていらっしゃいます。美しくて芯の強い眼差しをお持ちなところや、私を気味悪がらずに親切にしてくださることも、よく似ております」
「そ、そうかな」
僕は、興味津々で彼女を見ていた不躾な視線が急に恥ずかしくなった。
「私、秋香と申します。お見知りおきを」
「ぼ、僕は大希です。夏の間はずっとここにいます。何かあったら言ってくださいね」
「まぁ頼もしい。忘れられぬ一夏になりそうでございます。大希様」
彼女は、魅惑的な瞳で僕をじっと見て「昭夫様に似て愛らしいお方」と囁いた。
「!!」
ズキュンって胸を射抜かれるって、ホントにあるんだね。
ふふっと笑った彼女の口元から目が離せない。和服美人の流し目の破壊力ってハンパないね。
どうやら僕は、この柿の木に悩殺されてしまったようです。
今、僕の前に和装の超絶美人が立っている。
白い肌が鮮やかな朱色の着物に映えて、ゾクッとするくらい色気っぽい。年は、二十代後半くらいかな。
「・・・こんにちは。僕、この家の留守番です」
庭先で、柿の木に供えるチョコを持ったまま立ちつくす僕に、お姉さんは艶やかな唇を開き、鈴の音のような声で「この家の方はお留守でございますか」と言った。
「お伺いしたいことがございます」
「は、はい。なんですか?」
何これ、逆ナン?家族の不在時に?
ドキドキしながら白い首筋をチラチラ見ていると、彼女は微笑んでこう訊いてきた。
「昭夫様は何処かへ行かれたのでしょうか?ここ半月ほど、お見かけいたしませんが」
祖父ちゃん?
彼女、誰?近所の人は祖父ちゃんが留守って知ってるけど。
「失礼ですが、祖父ちゃんのお知り合いですか?」
長い睫毛を伏せて頷く彼女の頬がふわっと染まった。
「はい。私、昭夫様をお慕いしている者でございます」
「お、お慕い??」
今、サラッと爆弾発言した?祖父ちゃんをお慕いしてるって、好きってこと?まさか祖父ちゃん浮気相手?
「え?あの・・・え?」
僕の頭の中はハテナでいっぱいになった。お姉さんはさらに紅潮した顔を恥ずかしそうに伏せた。
「ご安心くださいませ。私の片恋でございます」
安心しろって言われても、片想いならオッケーってなくない?祖母ちゃん知ってるのかな。
「昭夫様は・・・」
彼女は遠慮がちに僕の顔を見つめている。うわ、そういう健気な態度はズルい。ワケありかもしれないけど、美人のそんな仕草には逆らえないじゃん。
「祖父ちゃんは、先月末から怪我をして入院してます」
「お怪我を!」
今まで真っ赤だった頬がスッと青くなった。
「想い人の大事とは知らず、私としたことが情けない。在宅で養生できないほどの負傷では、たいそう苦しんでいらっしゃることでしょう」
「えっと、左足複雑骨折と全身打撲だけど元気ですよ。お名前教えてもらえれば、あなたが心配していたと伝えますど・・・祖母ちゃんに内緒で」
「そんな、遠慮いたします」
お姉さんは袖で顔を隠した。
「昭夫様は、幼い頃から私の事など気にもとめてくださりません。お側にいらっしゃっても素っ気なく、私もただ静かに見守り、こうして菓子をいただくだけで十分でございます」
「そうですか」
こんなキレイな女性にここまで好かれて何とも思ってなかったって、かなり鈍感じゃない?子供の頃からの仲って、なんて一途な想いだろう・・・
ん?今、なんか妙なこと言ってない?
「あの、祖父ちゃんの幼い頃からの知り合いって言いました?それと、お菓子って・・・」
「はい」
お姉さんはにっこりと笑った。
「私、そこの柿の木でございます」
「!?」
庭の向こうに見える苔に覆われた柿の老木と、和服美人とを交互に見つめた。
この田舎でいろいろな人外のモノと出会ったけど、これは意外すぎじゃない?母屋より二倍も背の高い老木の精霊が、こんな色っぽいお姉さんって!?
「貴方、昭夫様のお孫様でしょう?面影がございます」
「あ、たまに言われるけど、ピンとこないです。父さんには似てますが、その父さんは母親似だと思うし・・・」
「いいえ、昭夫様に似ていらっしゃいます。美しくて芯の強い眼差しをお持ちなところや、私を気味悪がらずに親切にしてくださることも、よく似ております」
「そ、そうかな」
僕は、興味津々で彼女を見ていた不躾な視線が急に恥ずかしくなった。
「私、秋香と申します。お見知りおきを」
「ぼ、僕は大希です。夏の間はずっとここにいます。何かあったら言ってくださいね」
「まぁ頼もしい。忘れられぬ一夏になりそうでございます。大希様」
彼女は、魅惑的な瞳で僕をじっと見て「昭夫様に似て愛らしいお方」と囁いた。
「!!」
ズキュンって胸を射抜かれるって、ホントにあるんだね。
ふふっと笑った彼女の口元から目が離せない。和服美人の流し目の破壊力ってハンパないね。
どうやら僕は、この柿の木に悩殺されてしまったようです。
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